遊星Zから飛来する物体への初期迎撃は、そのすべてがネルフ北米支部に任された。支部長であるワッケインは、かねてより用意されていた計画に基づ き、迎撃のためのシャトルチームを招集した。人員は旧NASAから引き継いだアストロノーツ達とUS ARMYの空戦隊チーム。彼らを2機のシャトルに分 乗させ、地球から50万キロ離れた空間で、目標に対してN2爆雷攻撃を掛けるのが作戦の概要だった。その第一目標は目標の破壊、そしてそれが果たせなくて も、軌道を現在の衝突軌道から外側にずらすことを目指した。
 彼らは、ごく一部の関係者の見送りを受け、遙か遠くから襲来する目標へと向かった。そしてシャトルから切り放された攻撃艇は、予定どおり目標へのN2ミ サイルの発射に成功した。まばゆい閃光にその天体が包まれたとき、目的は達成されたかと誰もが思った。しかし、10を超えるN2爆雷の爆発、そして数億度 の高熱に包まれたにも関わらず、閃光の消えた後には質量・軌道ともまったく変化の無い飛行物体が存在した。その失敗に、再出撃の提案もなされたが、先の攻 撃を超える攻撃が出来ないこと、それに準備までの期間が長すぎ、飛行物体の迎撃に間にあわないことからその案は却下された。従って、次なる迎撃作戦はドイ ツ本部へと委譲されることとなった。















Neon Gensis Evangelion

Endless Waltz

- 3rd Episode -













 葛城ミサトは、集合した31人のパイロットを前に作戦行動の説明に入った。本作戦には中国、北米支部のパイロットも本部に集結させられていた。考 えられる最大の問題は、敵が上空から接近してくると言うことである。その保有している質量を考えると、何もしないで落ちてくるだけで人類は滅亡の危機に晒 されることになるのである。これに対してミサトは、複数体のスモールによって受け止めることを提案した。すでに上空での破壊が不可能となったための苦肉の 策でもある。とはいえ落ちてくる質量、そして過去のエヴァによる実績から当時とは比べ物にならない成功率が算出されていた。
 ミサトはパイロット全員をブリーフィングルームに集めて、作戦の概要を説明した。もっとも作戦自体、事前に彼らには通達されていた。そのため直接ミサと の口から語られたのは、単なる確認作業に過ぎないと言える。その場でミサトは、アスカのエヴァを中心としたフォーメーションを説明した。エヴァンゲリオン 弐号機を、エウロパで計算した落下確率のもっとも高い位置に配置し、それを中心に円形にスモールを配置する。そのことによって、半径100km以内の範囲 に敵が落下すれば、最低10機が間に合う計算になる。過去の成功を知っているだけに、パイロットを含めどこからも異論は上がってこなかった。
「作戦は3時間後に発動。皆の検討を祈ります。それからこれから1時間、各自に自由時間を与えます。干渉しませんから自由に使いなさい。但し作戦行動に支 障の出る行為は謹むように。では解散」
 ミサトの言葉を締めに、パイロット達は個々に散会した。全員の顔には、本番を迎える緊張感が漂っていた。
「ちょっとアスカ……」
 ミサトは、そう言ってアスカを呼び止めた。他のパイロットたちは、それを気にとめることなく三三五五に散らばっていった。
「どうしたのよ、ミサト」
 いつになく真剣なミサトに、アスカは茶化すことを控えた。
「おせっかいかもしれないけど、真面目な話。これからの一時間、思い残すことの無いように使いなさい」
「何よそれ……」
 それでも、これが最後のようなミサトの言い方は気にいらなかった。
「あなたにも分かっているでしょう。この作戦が極めて成功率が低いことぐらい。みんなの前では一度成功した作戦だからと言ったけど、そんなに単純なもので ないって」
「何を今更……そんなことが分からないような奴はここには居ないわよ」
「そりゃあね、だからこそこの時間を有効に使って欲しいのよ」
「何言ってるのよ。今回は事前に作戦提示が会ったのよ。考える時間なんて腐るほどあったわよ。ここに集結させられると分かったときに、みんな済ますことは 済ませておいたわ」
「あなたはどうなの……アスカ?本当にそれでいいの?」
 ミサトの言葉に、アスカは返事に詰まった。それがミサトに力を与えた。
「二人との間に何も変化が無かったじゃない。カードはアスカの方にあるのよ。どうするつもりなの」
「……私たちが失敗するとでも思っているの」
 アスカの言葉に、ミサトは首を横に振って答えた。
「そんなことを言っているんじゃないわ。でも、全員が生き残れるとは限らない。その時に後悔して欲しくないだけよ」
「後悔なんてしない。私たちは精一杯……うまくやってきた」
「……あなたがそう思っているのならいいわ。時間が惜しいから……行ってきなさい。でも私の言ったことも忘れないでね」
 ミサトはアスカの答えを待たずに、話はもう終わりだとその背中を押した。アスカは、『こんなときに波風を立てるな!』と抗議したい気持ちもあったが、そ の言葉を飲み込むことにした。そしてそのままミサトを残し、一人通路へと消えていった。
 ミサトは立ち止まって、アスカの消えた通路をじっと見つめていた。彼女自身、自分の胸に不安が大きく渦巻いていたのだ。なぜだろうか、希望がいくら探し ても見つからないのだ。これまで意図的に避けてきた課題に、ミサトはこの場に来てようやく正面から向き合った。
 今の部隊はよく訓練されている。しかし皮肉なことに、よく訓練されているからこそ彼らの力の限界も見えていた。戦力の計算ができるため、運用には大いに 役立つのだが、こういった未知の敵を相手にしたときそれは不安を増長させることにしかならなかった。敵が自分たちの予想を上回っていたらどうなるか。彼ら に対して、今以上の力を搾り出すことを要求するのは不可能なのだ。“エウロパ”は確かに高い成功確率を示していた。だが、不確定要素を大きく除外した結果 がそれなのである。もし落ちてくる敵が、第壱拾使徒よりも強いATフィールドを展開したら、間に合ったスモールが1機だけだったら……ミサトの考える不安 定要素を考慮したとき、作戦成功率は存在していなかった。
「マコト……恐いよ」
 彼女はここには居ない良人の名前をつぶやいた。それでも心の中に取り付いた恐怖を、彼女は抑えることができなかった。

 ミサトと別れた後、アスカは長い通路を腕を組みながら歩いていた。その秀麗な眉をひそめて歩いている姿は、彼女の機嫌が決して良く無いと言うこと を物語っている。しかも何かに心を占められているのだろうか、アスカを見つけたステファンから掛けられた声も効き逃していていた。
 そんなアスカに、ステファンは小さくため息を吐くと、そのまま後を追いかけてその肩を叩いた。少なくともこの先にアスカの目的地が有るとは思えないの だ。はっとアスカが気が付いた時、目の前にはkeep Outの看板が立てられていた。
「おい、アスカ……倉庫に何か用か」
「あ、ああ、ステファン……何」
 まだ現実に戻っていないのかと、ステファンはおおげさに天を仰いでみせた。
「何じゃないだろう。マイケルと二人で待っていたのにいつまでたっても来ないじゃないか。そこで二人で飲んでんだからすぐに来いよ」
「飲むってアンタ達……」
「お茶だよ。二人で勝負の方法を決めていたんだ。重要なことだ、アスカも聞いておけよ」
 そう言って、有無を言わさずに自分を引っ張っていくステファンに、アスカは心地よいものを感じていた。今は悩んでいる時では無いのだ。
 そう思ったアスカは、逆にステファンの手をとり酒保へと引っ張った。彼に感謝をしているのだが、それを素直に口に出来るアスカではなかった。
「はんっ、男二人でなにやってんだか。アンタ達二人ってひょっとして危ない関係なんじゃない」
「ちょっ、ちょっと待て。俺はいたってノーマルだぞ。なんなら今から証明したっていい」
「俺はって事はマイケルは違うのね」
「俺はマイケルじゃないからな」
「じゃあマイケルに確認しにいきましょう」
 そう言って自分の腕を引っ張っていくアスカに、ステファンは小さく微笑みを浮かべた。




「まったくお前らときたら……人の趣味をおかしな物にしやがって」
 もちろん、知らない間に同性愛者にされてしまっては、マイケルとしても面白い訳が無い。マイケルは、いわれのない濡れ衣を着せた二人にお茶をずずとすす りながら白い目を向けた。その前ではアスカが両手を合わせて謝っていた。もっとも手のひらに隠れたその顔は笑っていたのだが。
「…ごめんごめん、マイケルの趣味がステファンの訳はないわよね。マイケルはもっとなよっとしたのが好みなんだものね」
「だーっ、なんでそうなるんだ。俺の好みはアスカなんだ。ほら俺の瞳を見てくれ。君しか映っていないだろう」
 そう言って真剣な目をして顔を近づけたマイケルにアスカは小さく微笑むと、すっと触れるか触れないかぐらいの口付けをした。その瞬間の二人の顔は見物 だった。
 何が起こったのか理解できないで呆然としたマイケルと、目の前の出来事を信じたくないと自分の世界にこもったステファン。理由は違えど、どちらも呆然と 口を開き動きを止めていた。
 そんな二人の様子に『まったく』とアスカは微笑むと、今度はステファンの唇に同じように軽く口付けをした。
「ごめん、私に今出来るのはこれくらい……ごめん」
「「い、いや……その……」」
 真っ赤な顔をして、まったく同じ言葉を同じポーズで出す二人にアスカが吹き出した。
「…ほんとにアンタ達って……出来てんじゃないの」
「「そ、そんな訳はない」」
 再びそろってしまった言葉に、今度はステファンとマイケルも吹き出した。そのまま3人は短くない時間腹を抱えて笑い転げた。出撃の時間までは後いくばく もない。三人とも、肝心な話を後回しにしたことは分かっていた。だがそれも良いかと納得もしていた。今はまず生き残ることが第一なのだ。そのために出来る ことをしようと。
 馬鹿みたいに笑い転げていたアスカだったが、チラリと視界をかすめた時計にふとわれに帰った。残された時間は後わずかだ。腹を抱えていた二人もアスカの 表情に気が付くと、表情を引き締めた。
「ステファン、マイケル……この戦いが終わったら……5年前に何があったのか……本当のことを話すわ」
 アスカの言葉に二人は顔を見合わせた。聞きたい気もするが、それよりもアスカの様子が気になる。ステファンの視線にうなずくと、マイケルは言葉を選んで 口を開いた。
「アスカ……無理をすることはないよ。俺達は今の関係が結構気にいっているんだ。競争相手がこいつなら、競争も楽しいと思っている。アスカには時間が必要 なんだ。無理矢理時計の針を進めることはない」
「……でだ、アスカ」
 話を引き継いでステファンがアスカの顔を見た。その顔が赤く染まっているのは気のせいではないだろう。
「何?ステファン」
 その意味に察しが付いたのだろう、アスカの頬も上気していた。
「出撃前になんだけど……いや出撃前だからこそ……その、まあ、何というかだ」
 ステファンの脇腹を『早く言え』とマイケルがつついた。
「その、勝利の為にだな……俺達の女神の祝福が欲しいんだけど……だめかな」
 ふたりはちらりとアスカの顔を見た。アスカはその意味に気づくと更に顔を赤くしたが、飛びつくようにしてステファンとマイケルの唇に口付けをした。
「勝利の女神の口付けよ……この続きがしたかったら……必ず生き残るのよ!いいわね」
 アスカはそう言い残すと、赤い顔をした二人を残して、跳ねるようにして部屋を出ていった。出撃の時間は近い。
「勝負の方法……何にする」
 アスカの出ていったドアを見つめ、ステファンがぽつりと呟いた。
「アスカの笑顔を守った方……って言うのはどうだ」
「…キザだねぇ」
「反対か?」
「いや、それでいい……あんまり上手いことを言うんで文句が言いたかっただけだ」
「別に狙って言ったわけじゃない。今のアスカの顔を見て感じた正直な気持ちだよ」
「…そうだな」
 そう言うとふたりは深く溜息を吐いた。賭け以外のことが二人の心を占めていた。
「…サードチルドレンか」
「…ああ」
「…そいつが作った傷が癒えない限り」
「…そう言うことだ」
「…なんか、八つ裂きにしてやりたい気分だな」
「…死んだ人間をか」
「…それでもだ。アスカをあんなに苦しめ続けている」
「…そうだな」
 その時、自由時間の終わりを告げるブザーが鳴り響いた。その無機的な音色にステファンが文句を付けた。
「なんか、こう、もうちっと風情が無いものかね」
「即物的なお前がよく言うよ」
「いや、なんだ……やっぱりもうちょっと気分を高揚させる物が欲しいじゃないか」
「たとえば?」
「アスカの怒鳴り声!」
「アンタ達、いつまでもグズグズしてんじゃないわよ!ってか」
「そう、その通り!」
「違いない」
 ふたりはにやりと笑みを浮かべると、お互いの顔を見た。そして軽く右拳で、お互いの胸を突いた。
「行くぞ!」
「おう!」
 そのかけ声を残し、ふたりは愛機へと向かった。大切な物を守るための戦いへと……




 ネルフドイツ本部のメインオペレーティングルームは、前面に配置された巨大スクリーンを中心に、20人程度のオペレータが操作できる端末が配置さ れていた。交代制で普段は10人程度の人員が詰めているのだが、今は作戦行動中と言うこともあり、全ての席が埋まっていた。各オペレーター達は、目の前に モニタに映し出されるデータに目を走らせ、忙しく立ち回っていた。
「状況を報告しろ」
 一段高い位置に設置された指令席から、総司令ヘルマン・レンスは作戦部長であるミサトに命令した。
「現在敵性体は上空10万キロにまで到達。
 現在の移動速度は時速1000キロ、1時間程度で地上に達するものと思われます」
「配置は完了しているか」
「はいっ、すでに本部を中心にして半径30キロの布陣を引いています。これに関しては、エウロパの指示により時々刻々補正しておりますので体制は万全で す」
「そうか、後は彼らが戦果を挙げてくれるのを待つだけだな」
「はいっ」
 ミサトは総司令が敢えて“奇跡”の言葉を使わなかったことに気づいていた。例え1%を切っていても成功確率はあるのだ。それを奇跡の言葉で片づけたくな いと言う気持ちはミサトにもよく分かった。
 今のところ最大望遠でも大した映像を得ることはできない。そのため、ハッブル望遠鏡で捉えた映像を元に、エウロパが画像処理を行って模擬映像をスクリー ンに投影させていた。
「目標の移動加速度変化無し」
「目標表面に変化認められず」
 オペレータからは刻一刻と観測データの報告が上げられていた。
「全体西に1km移動」
「10番から15番、500m南に移動」
 エウロパから出される補正データを、オペレータ達は確認のため復唱した。
「目標大気圏に突入。突入角度補正入力、速度値補正!」
「補正完了、配置に変更無し」
「予測通りATフィールドの展開を確認。摩擦による質量の変化ありません」
「あと10秒で目視範囲に入ります。メイン映像範囲に入りました。映像出ます!」
 その言葉と同時に、メインスクリーンには赤い炎に包まれた球体の映像が投射された。だがその姿は、かつての第壱拾使徒とは異なり、はっきりとした形を示 していなかった。
「目標ATフィールドに変化……ATフィールドの強度が上昇していきます……」
 報告の通り、スクリーンに映し出された物体の周りを包む光が強くなっていった。そして爆発のようにその光を増したかと思った瞬間、信じられないことに物 体が何もなかったように消滅した。
「目標消滅!計算起動には何も存在しません!」
「爆発したの?」
「いえ、爆発による生成物質も存在しません。エウロパは回答を保留しています」
 ミサトはその報告に頭を抱えた。
「消滅前の予定落下時刻までは後何秒」
「60秒です!」
 その報告にミサトはマイクを握った。
「全員、状況は理解しているわね。こちらからの観測で目標は消滅したわ。でもこのまま消え去るはずは無いわ。各自センサーで周辺の異常を探って!必ず来る わよ!!」
 ATフィールドで覆われた敵が、そう簡単に消滅したりするはずが無い。ミサトはそう確信して、パイロット達に警戒の指示を出した。そしてミサトの言葉を 裏付けるかのように、その直後ネルフ本部は軽い地震に見舞われた。
「何、報告は!」
「分かりません。震度は2,震源は算出中!」
「アンスバッハからの通信途絶」
 周辺地区との連絡を取っていたオペレータから大声が上がった。
「ファイバーがやられたの」
「いえ、機器自体は正常の模様。人間の応答が無くなりました。今無人カメラから捉えた映像が入ります」
 メインスクリーンの中に切られたウインドウに、観測所の映像が映し出された。だがそこには、本来居るはずの所員の姿はどこにも見あたらなかった。
「そんな、ついさっきまで10人以上居たのに……」
 そんなオペレータの呟きを無視し、ミサトは大声を上げた。
「外部映像を出して、すぐに」
 オペレータは、慌ててメインスクリーンをアンスバッハの外部映像に切り替えた。8台あるカメラの映像が一つ一つのウインドウとしてスクリーンに投影され ていった。そしてその一つの画面に映し出された映像に、オペレーティングルームは大きなどよめきに包まれた。
「5番、映像切替」
 ミサトの指示でスクリーンいっぱいに映し出された外部映像、そこにはまさに人の姿をした物が映し出されていた。ただ問題は、背後にある建物と比べてもそ の大きさが尋常ではないことだった。そして何よりも風変わりだったのはその風貌だった。
 たとえてみれば、そう、ギリシャ彫刻と言えばよいのだろうか。肩からはローブを垂らし、頭には月桂冠でできたような冠を抱き、そして口元を被う立派な 髭。金色に輝く髪はまさしく神話の世界の人物のような印象を人々に与えた。
「…何の冗談なの」
 ミサトは苦々しく吐き捨てた。だが誰も、そのミサトの言葉に応えることはできなかった。誰もが皆、目の前に映し出された映像に理解が追いついていなかっ たのだ。
「神を気取って居るつもりか」
 ヘルマンの呟きもまた宙に消えていった。
「おい、アンスバッハのシェルターの様子はどうだ」
 我に返ったヘルマンの指示で、シェルターの監視データが呼び出された。だがシェルターのデータを確認したオペレータの顔は、一瞬のうちに血の気を失っ た。
「し、消滅しています。30カ所のシェルター全てに生命反応はありません」
「馬鹿な、あそこには10万もの人間が居たんだぞ」
「いえ、確かです。シェルター及び市内の監視カメラに人の姿はありません」
「…エヴァ部隊の展開は」
「ただいま展開中です。ただ敵の着陸を許した以上、作戦の変更が必要です」
「うむ、ミサト頼む」
 ミサトはマイクを取り直すと、展開している部隊に指示を出した。
「聞こえる、みんな。敵はすでにアンスバッハに現れたわ。これから作戦を変更して敵の殲滅作戦に移ります。1番から15番はロンギヌスの槍を持って。16 番から30番は3体1組で陽電子砲を使用。アスカ、あなたも槍を持って。出し惜しみはしないわよ!」
 了解!の声がスピーカから響いてきた。よく訓練された部隊は、一糸の乱れも見せず武器を持って展開していった。
「指令、有効射程に入ったらレールガンの使用許可を願います」
「許可する。存分にやりたまえ!」
 冷静でいなくてはならない司令も、明らかに熱くなっていた。だがそれも無理のないことだった。一瞬のうちに10万もの人々が消し去られたのだ。これで冷 静に居られるとしたら、どこか感覚が麻痺しているとしか言えなかった。
「奴を地上から消し去ってやれ!」
 指令の言葉にミサトは頷いた。敵の力は未知数である、だがそれでも戦わなくてはいけないのだ。6年前とは違う、今度は準備も万端、武器も遙かに強力に なっている。負けるはずはない、いや負けるわけには行かないのだ。
 そこにオペレータの一人から悲鳴のような報告が上がった。
「そ、そんな……目標から30kmの地点に新たな反応、パターン青です」
「すぐに映像を出して!」
 その瞬間映し出されたもう一つの物体。その姿はミサトにとって忘れることの出来ないものだった。
「ゼルエル……」
 以前と変わらぬ姿をした第壱拾四使徒が、ゆっくりと宙をもう一体の敵の方へと進んでいく。使徒の意図は不明である。お互い潰しあってくれればそれで良 し、さもなければ……ミサトの背中に冷たいものが走った。
「新たな反応検出、今度は二つです」
 絶叫と共にスクリーンに新たな映像が映し出された。そこには忘れもしない使徒の姿があった。
「ラミエル、それにアルミサエル……」
 そのあまりの出来事に、ミサトの感覚は麻痺し始めていた。もはやミサトは開き直るしか無かった。
「ゴジラ対キングギドラかしら」
 彼女は子供の頃に見た怪獣映画を思い出していた。それなら地球にいた使徒達はあの敵を倒してくれるのだけど……そんな淡い期待は抱かない方がいいと思い ながら。

 ドイツの地で、宇宙生命体、使徒、そしてエヴァンゲリオンの三つどもえの戦いが始まろうとしている今、遙か極東の地では巨大な力が目覚めていた。 身の内に真の主を迎えた紫の魔人は、秘めたる巨大な力を顕現させていた。その力は周辺の空間を歪ませ、粒子の崩壊も始まっていた。だがその恐るべき力も、 魔人が持つ力の一部でしかない。その魔人は背中に12枚の光翼を煌めかせると、音もなく闇の中へと消えていった。








続く

inserted by FC2 system