重慶大学の誇る俊英達、彼らはシェンの誘いにより旧第三新東京市へと集結した。そして不足と思われるスタッフは、シェンの代理人としてユイリが勧 誘していった。その中には信じられないような顔ぶれが含まれていた。














Neon Gensis Evangelion

Endless Waltz

- 5th Episode -












 決断を下してからのシェンの行動は迅速だった。天体物理学のイワノフ・ツィンメルマンを始めとして、心理学のダレン・エドワーズ、機械工学のキ ム・ヨンスン、生体工学のジョン……グロリア・ヤンを日本に送り込むと、要となる人材をスカウトするためユイリ・アンカを使者として送った。その第一の目 標は、今では野に下った赤木リツコである。
 彼女自身望んで野に下ったわけではない。Eプロジェクト責任者として、その倫理的責任のため放逐されたのである。そのため彼女は自由の身という訳ではな く、常に監視を引き連れた生活を強いられていた。そして今は、彼女の能力からすると閑職としか言い様の無い、地方大学に押し込まれていた。しかし彼女自身 今の境遇を気に入ってもいた。それは少なくとも今の生活は平穏で、非人道的な行為に心を麻痺させる必要がないためである。
 そんな彼女の元にユイリは訪れた。
「シェン・ロン……何か昔見たアニメに有ったような名前ね」
 リツコは手渡された名刺を弄びながらそう言い放った。もちろん彼女とてその名前を知らないわけではない。天才ハッカー・シェン。コンピュータセキュリ ティの専門家にして暗号論の博士号を20歳にして取得した天才でもある。そんな人物の代理人が自分に何の用だろうかとリツコは訝った。
「すみません、そう言った話はよく判らないんです」
 全く表情を変えず、ユイリはリツコの冗談に受け答えた。その顔の作り、そして全く表情を変えない所など、リツコはかつての綾波レイを思い出すようで気分 が悪かった。
「気にしないで、勝手に呟いただけだから。それで、その代理人さんが私に何の御用なの?こんな地方のしがない大学で教鞭を取っている私に」
 リツコの言葉には、半分自嘲の響きが含まれていた。この生活が気に入っているとは言え、彼女の好奇心を満たしうるものではないこともまた確かなのだ。
「我が主人が、ご高名な赤木博士に是非ATLに参加していただきたいとのことです。シェン様は、赤木様のような方が、このようなところで埋もれていらっ しゃることに心をお痛めでございます」
「このような所ね……お誘いはありがたいのだけど、それは無理ね。私だって好んでここに居るわけではないわ。UNに飼い殺しにされているのよ。それぐらい はご存知だと思ったのだけど?」
 多少の皮肉が籠もったリツコの言葉も、ユイリは全く表情を動かすことはなかった。
「それは存じ上げております。ですが、それは赤木様のお心次第だと主人はもうしておりました。いかがでしょう、赤木様は新しい環境に移りたいとはお思いに なりませんか?」
「思わないわけではないわよ。でもね、ここの生活もそれなりに気に入ってはいるのよ。何しろここしばらく感じたことの無かった心の平穏がここには有るか ら……それに、どう考えてもあなたの誘いは胡散臭いのよ」
 そう言ってリツコはユイリを睨み付けた。聡明な彼女は、この時期、自分に声が掛かる理由を推察していた。そしてその手がかりとなるのが、新しく研究所が 開かれる場所であった。『旧第三新東京市』、6年前の大惨事から中心地区は未だに立ち入り禁止となっている地区である。そんな地区に、わざわざホームグラ ウンドを離れて研究所を開き、さらに旧ネルフ関係者を招聘する。これを見て、何の疑念を抱かない方がおかしいのだ。だがそんなリツコの指摘も、ユイリの形 のいい眉一つ動かすことが無かった。
「胡散臭いと仰いますか?ですが、私どもは赤木様に隠し事をしようとは思っておりません。ですがよろしいのでしょうか?本当の理由をお聞きになりました ら、喩えお断りになられてもこれまで通りとはいきませんが?」
「つまらない恫喝ね。底が知れると言うものよ?」
「ではお話しします。我が主人シェン・ロンは来る遊星Zからの侵略に対し、ネルフとは独立に迎撃のご用意をなされています。そのため赤木博士のご助力を頂 きたいと言うことです」
「なっ……」
 有る程度予想はしていたことだが、ユイリの口から出た言葉にリツコは一瞬言葉を失った。簡単に迎撃と言うが、それが如何に難しいことなのか、経験者のリ ツコにはよく分かっていた。
「何の冗談なの。それに……」
 そう言ってリツコは入り口の方に視線を飛ばした。いくらか緩くなっているとは言え、常時監視下に置かれている身分なのだ。その自分の元でこのような話を すれば、すぐにでも黒服達が飛び込んでくることになる。だがリツコの心配を余所に、ユイリは平然と言葉を続けた。
「ご心配なく。私の訪問中は、彼らは真実が見えないようにしてあります。ですからここで何を話しても、UNがあなた様を追求することはございません。それ から我が主人は至って真剣でございます。赤木様のご助力を頂ければ、敵の迎撃が可能だと考えております」
「どうするつもりなの……」
 と言いつつ、リツコには彼女たちが何をしようとしているのか分かっていた。第三新東京市、赤木リツコ、使徒に類する敵の迎撃と来れば導き出される答えは 一つである。第三新東京市の地下、ジオフロントに眠るエヴァンゲリオン初号機、それが彼女たちの目的に違いないと。
「不可能よ!!それに、敵の迎撃はネルフに任せておけばいいわ。1体のエヴァンゲリオンに30体のスモールエヴァンゲリオン。コピーとは言え、ロンギヌス の槍も有るわ。もし初号機が動いたとしても、彼ら以上のことは出来ないわ!!」
「本当にそうお思いですか?」
 いささか激したリツコに、氷のように冷たいユイリの言葉が突き刺さった。
「エヴァンゲリオン弐号機、その性能は全盛期の半分も出ていないと聞いております。それに数で稼ぐスモールでは、その性能ダウンを補えない。それは赤木博 士なら良くご存知のはずです」
「ならばあなた達に何が出来るというの?仮に初号機が動いたとしても、まともな性能は望めないわ。それぐらい分かっているでしょう」
 リツコがそう言ったとき、ユイリは一通の親書をリツコに手渡した。
「何なの?これは?」
「シェン様から、赤木博士へのお手紙です。私もその中身は存じ上げません。ただ、赤木博士が迎撃の可能性を否定なされたらお見せするようにとだけ申しつ かってきました」
 ユイリの言葉に、リツコはその中身を見ていいものか迷った。それを開けてしまえば、絶対に自分は逃れられなくなる。そんな予感がリツコにはあった。
「是非赤木博士にお見せするようにと……」
 ユイリの視線に、リツコは渋々とその手紙を開いた。そしてたった一行書かれていた言葉に、リツコは手紙を取り落としそうになるほどの恐怖に襲われた。
「そんな、まさか……あり得ないわ……だって、彼は……」
「ご協力頂けますか?」
 初めて微笑んだユイリに、青ざめたリツコはただ頷くことしかできなかった。




 その後のスタッフ集めは順調に進んだ。それはリツコが率先して勧誘に動いたためである。新生ネルフに参加しなかった伊吹マヤ、青葉シゲルは現在の 境遇に不満を持っていたため、二つ返事でリツコの誘いを受けた。同じく新生ネルフに参加していなかった冬月コウゾウは、年齢を理由に参加を渋っていたのだ が、やはり赤木リツコの強い説得に、しぶしぶ参加を受け入れた。
 こうしてたった一週間で、シェンの興した『ATL(Advanced Technology Laboratory)』は活動を始 めた。
 彼らの作業自体は非常に順調に進んでいった。まず手始めに行われたのはリモートからのMAGIの再起動だった。赤木リツコによるMAGIの再起動は、拍 子抜けするほどあっさりと完了した。もちろんMAGI自体厳重な監視下に置かれているわけである。そのための隠蔽工作はシェンが担当した。シェンはリツコ と協力して、ハッキングの逆手順で外部からは、まるでMAGIが休眠して居るかのようなプロセスを作成した。そのため、定期的にMAGIに対して行われる 監視も、MAGIが起動しているとは知ることが出来ないようになっていた。それに加え、シェンは旧ネルフ本部の監視系に進入していくつかのウィルスを送り 込んだ。その目的は、自分たちの作業の隠蔽である。特に初号機の監視系には常時ダミーのデータを送り続けるようにしたため、たとえケージから初号機が居な くなっても、リモートからはそれを確認することはできないようになっていた。
 次に彼らが行ったのはジオフロント、ネルフ本部への進入路の確保である。これが冬月元副司令が招聘された理由である。碇ゲンドウと冬月しか知らない通路 情報の提供である。これですべての入り口を固めているUNに気兼ねすることなく、初号機のケージまでたどり着くことが出来るようになった。
「しかしこれが見えていないなんて、大したものだな」
 青葉シゲルは、封印解除の進んでいく初号機を見上げながらそう呟いた。傍らのモニタには、何の代わりもなくひっそりとたたずんでいる初号機の姿が映し出 されていた。
「本気で初号機を動かすつもりなのか?」
 それが赤木リツコを除く、旧ネルフ出身者の気持ちだった。誰よりも彼らが、初号機こそ乗り手を選ぶ機体だと知っていたのだ。リツコの働きかけで、このプ ロジェクトには参加したが、未だに初号機が動くとは信じられないのだ。すでに碇シンジは鬼籍には入っているのだから。




 かつて第三新東京市と呼ばれた街の郊外にATLは位置していた。広い敷地に2階建ての白い建物、大きなエントランスホールに、大きな窓。そして全 面に芝が張られ、所々に花壇が作られた敷地もあって、研究所は非常に開放的な雰囲気を醸し出していた。知らない物が見れば、リゾートホテルにしか見えない だろう。そしてその敷地の一角にはオープンテラスのカフェテリアが設置されており、そこで優雅にお茶を飲んでいる姿を見ると、とても陰で旧ネルフの資産を かすめ取ろうとしているとは想像が付かないだろう。
 そのカフェテラスでシェンはグロリア、ツィムと優雅にお茶などしていた。
「グロリア、初号機の生体機能はどうなってる」
「う〜ん、赤木博士の言うとおりだとすると問題がないんだけどね。新陳代謝と言うのかな、少し細胞の発生するエネルギーが大きくなってきているのよ」
「……どういうこと?」
「ほら、人間でも寝ているときより起きているときの方が新陳代謝が激しいじゃない。それに近いことは近いんだけど、初号機はまだ外部障害物を除去している だけなのよ。活動が活発になるなんて信じられないわ」
 ああ、それなら、とシェンは頷いた。
「多分初号機自身、目覚めの時が来たことに気が付いたんだろう。それと空から接近してくる奴らのこともね」
「ふ〜ん、やっぱりそう言うことって分かるんだ」
「まあね、初号機には人の意志が込められているからね。もっともそのためには、人柱が必要だったのだ」
 人柱と言う言葉に、グロリアとツィムは明らかに驚いた顔を見せた。エヴァが動くのに人柱が要るなどとは初耳だったのだ。
「おい、シェン。なにか?エヴァって奴は全部誰かが人柱になっているのか」
 ツィムは量産されているスモールを思い浮かべていた。あの多くの機体を動かすために、それと同じ数以上の人間が犠牲になっているのかと。
「答えはイエスでありノーでもある。僕の知る限り初号機、弐号機、参号機はそうだということだ。でもスモールは違っている。仕様書を見る限り、そのあたり はディジタル的に処理しているらしい。それがスモールの性能の上がらない原因のひとつじゃないかな」
 ツィムはシェンの答えにほっとした表情を浮かべていた。そしてはっと驚いた顔をした。
「おい、弐号機って……じゃあ弐号機にも人柱が居るのか」
「ああ、惣流キョウコ・ツェッペリン。惣流アスカ・ラングレーの母親だよ」
 予想はできたことだが、あまりの事実にツィムは右手で顔を覆った。
「なんてこった。ネルフっていうのはそんなに酷い組織なのか」
「そういうことだ」
「そのことをアスカちゃんは知っているのか?」
「知らないはずはない……」
「何とも酷い話だな……」
「そういうことだ」
 しかぁし、っとツィムは椅子に座り直し、シェンの瞳を正面から見つめた。その表情は真剣そのものであった。
「聞きたいことが有るんだ」
「なんだよツィム、あらたまって」
「なぜサードチルドレンはネルフに協力しない。なぜアスカちゃんを助けてやらない。一緒に戦ってきた仲間だろう」
 当然といえば当然なツィムの疑問。しかし意外なことに答えを口にしたのはグロリアの方だった。
「その彼女が原因だとしたらどうする?」
 どういうことだ。という顔でツィムはグロリアの顔を見た。
「ジョン!」
「シェン、その呼び方はいやだと言ったでしょ」
「だけどグロリア……」
「いいじゃない。こういったことはちゃんと教えてあげないとね。だってツィムはセカンドチルドレンの大ファンなのよ。サードチルドレンは、その彼女を自分 の手で殺したいんでしょう。そのためにネルフに参加しないでここに居るんじゃない。ツィムにはちゃんと理由を説明しておいた方がいいわ」
 殺すと言う言葉にツィムは過激に反応した。グロリアとツィムの反応に少し苦笑いを浮かべながら、シェンは滅多に見せない氷の表情を作り出していた。
「落ち着くんだな、二人とも」
 シェンの作り出した空気に、二人は凍りついた。これが全中華人民の頂点に立とうという男、シェン・ロンの持つ迫力だった。
「僕は彼を信用する。僕達は長い時間どうするべきかを話し合った。その話し合いによって導き出された結論だ。そこに、彼の私怨は入っていない」
 私怨の存在をシェンは否定しなかった。だがそれが理由でないと言われて、簡単には納得がいかないのも確かだった。特に事情を知らないツィムは、シェンの 説明では得心がいかなかった。
「だが……なぜだ……ネルフに協力した方が有利じゃないのか?こんな所でこそこそしているのより、ずっと効率的じゃないか」
「どうしてツィムは、ネルフに協力した方が良いと考えるんだい?その根拠は?」
「少なくともこんな犯罪者のようなまねはしなくて済む。それに物資の面でも不自由はしないはずだ。第一武器はどうする?確かに初号機は残されていたのかも 知れん。だが武器はすべて撤去されていたはずだ。それはどうするんだ」
 シェンの指摘に、ツィムは思いつくままネルフに協力した方が良い理由を上げた。それは子供でも思いつくような理由だが、簡単なだけに否定しにくいもので も有った。
「ツィム、君の指摘は常識的に正しい。だがいくつもの点で、常識を忘れて考えてみる必要がある。まず武器の問題だが、彼の言う所によると、それはすでに解 決されているとの事だ。それに彼の言う事によると、ネルフで用意する武器が通用するのなら、別に彼が参戦しなくてもネルフは勝利するという事だ。次に物資 の面だが、これはロン家のバックアップだけで済む程度しか必要とされない。初号機が動かせれば、後は何も要らないそうだ」
「それにしたって、ネルフで戦った方が有利なのは変わらないだろう?私怨は入っていないとシェンも言ったじゃないか?」
 少なくとも自分達の命に関わる事である。ツィムも簡単には引き下がらなかった。
「確かに僕は“私怨”は入っていないと言った。だからと言って、感情的な物が無いとは言っていない。一番の原因は、彼の感情にある」
「憎んでいる……と言う事か?」
 確かに噂話で語られている内容からは、サードチルドレンがネルフ、そしてセカンドチルドレンを憎んでいてもおかしくはなかった。だがシェンはそのツィム の考えを一言の元に否定した。
「違うよツィム、彼はセカンドチルドレンを愛しているんだ」
「そんなはずはないわ!だってシンジはっ!!」
 だがそう言ったシェンの言葉は、グロリアにとって受け入れがたいものだった。
「セカンドチルドレンを憎んでいる……かい?」
「そうよ、彼はそいつのせいで地獄を見たのよ。許せるはずがないじゃない!!」
「グロリアは彼に聞いたのかい?セカンドチルドレンを憎んでいると」
「ならシンジは、セカンドチルドレンを愛していると言ったの!?」
 それはグロリア自身が、シンジの言葉を聞いていないと言う証拠だった。
「ああ、はっきりと聞いたよ。愛しているとね。だから一緒に戦うわけにはいかないとも」
「そんなはずはない!!そんなはずは……」
 激昂するグロリアに、どこまでも冷静なシェン。話についていけないツィムは、二人のやり取りを聞いているしかなかった。だがそれでもサードチルドレンと セカンドチルドレン、二人の間に囁かれている噂が、実は根も葉もないことではないことは窺い知ることができた。そしてサードチルドレンとグロリア、その二 人がどこかで繋がっていることもまた分かった。だがツィムには分からなかった。愛しているのなら、どうして傍に居ないのか。どうして一緒に戦って助けてあ げないのか。だがその答えは、グロリアの取り乱しようを考えると、とてもこの場で聞けるものではないとツィムは理解した。




「シンクロシステム……誰よりも理解しているのは我々だと思ったのだが……」
 自嘲気味に呟く冬月に、青葉は醒めた視線を向けていた。彼とてネルフに在籍していたのだ。初号機が“なぜ”碇シンジとシンクロするのか、それを知らない はずがなかった。だがその碇シンジは鬼籍に入っているのだ。それにも関わらず初号機は起動している。冬月がぼやくのは仕方がないことだった。彼らは、一人 の女性が初号機に乗り込んでいくのを目の当たりにしていたのだから。
「しかしここまでしてもネルフに察知されないとは……」
 初号機が起動したのもそうだが、ここまで好き勝手にできるシェンに、冬月も青葉もそら恐ろしさを感じていた。たった一人の天才の存在が、人類の英知を集 めたネルフの監視網を意味のないものに変えてしまったのだ。それに携わってきたものとして、畏れを抱かないわけにはいかなかった。
「ネルフが悪いわけじゃないわ。彼の技術がネルフを上回っているだけのことよ。それにネルフに油断があるのも確かね」
 実際初号機の起動に先がけて、シェンはネットの世界に潜り込んだ。そしてアメリカのエンタープライズ、ドイツのエウロパ中国の昆論を初め、ATフィール ドを監視する機能を持つすべてのシステムに干渉を行った。その結果、初号機の活動は、検出こそされ認知されないものとなっていた。
「でも先輩、初号機が動いても武器が無くちゃ戦えないんじゃないですか」
 伊吹マヤがどうしても解けない疑問を口にした。確かに旧ネルフには初号機は封印されていたが、武器などはすべて撤去されていた。これだけは新たに製作す るとしても一筋縄では行かないのだ。
「必要ないって……」
 あっさりと言いきるリツコにマヤは驚いたような視線を向けた。
「シェンが言っていたわ。人が作り出した武器で倒せるものなら、初号機は必要ないって。少なくともアスカが居る限り、通常兵器でできる限界まではやるって ね。だからこそ、初号機は通常兵器を持たないの。初号機には初号機専用の武器が有ると言っていたわ」
「何なんですか?それ」
「オリジナルロンギヌスの槍よ。回収可能らしいわね」
 其処まで出来るのか、というのが全員の抱いた感想だった。しかしどうやって?と言う質問にはリツコは答えなかった。だがその答えはその夜のうちにもたら された。起動した初号機が月に向かって咆哮したとき、それに答えるように光の矢が月から放たれたのだった。


 運命の日、一人の女性が初号機に乗り込んだ。初号機の手には長大な槍が禍々しい姿を示していた。時間は深夜、敵の襲来に合わせて、初号機は拘束さ れていたケイジを飛び立った。背中には輝く12枚の羽。初号機は槍を一振りすると、周りの闇よりさらに深い闇を作り出し、自らの体をその中に隠した。
「君は何を望むんだい?」
 初号機の消え去った空間に向かって、シェンは問いを投げかけた。
「僕は、それに答える用意があるんだよ……それが僕と君との盟約だからね……」









続く

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