戦いの中、すでに地上は焦土と化していた。地上に有る影は二つ、一つは白いローブを纏った人型の巨人。そしてもう一つは、全身を仲間の血で真っ赤 に染めた赤いエヴァンゲリオンだった。エヴァンゲリオン弐号機は、手に持ったロンギヌスの槍を振りかぶり、敵からの攻撃を避けながらその人型にと殺到し た。すでに槍の切っ先は欠け落ち、ロンギヌスの槍もただの鈍器と化していた。その鈍器を力任せに敵に叩きつけ、すぐさま弐号機は敵から距離をとった。その 攻撃自体、何度繰り返したのか覚えていない。だが何度繰り返しても、敵にダメージを与えているようには見られなかった。
 そして、もう一度弐号機が攻撃を仕掛けようとしたとき、それまで動きを見せなかった敵が新たな動きを動きを見せた。いや、新たな動きというのは正確では ない。敵の様子が変貌を始めたのだ。全身に細かい亀裂が走り、ボロボロと壁がこぼれるようにその表面がはがれ落ちていった。そしてすべての表皮がはがれ落 ちたとき、そこに現れたのは信じたくない姿だった。
「……初号機……」
 アスカは、目の前の初号機を呆然と見ていることしかできなかった。何故敵が初号機の姿をとったのか、それとももともと初号機が敵だったのか……
「シンジ……なの……?」
 アスカの声が聞こえたのだろうか?その時初号機はニィと嫌らしい笑いを浮かべた。


















Neon Genesis Evangelion

Endless Waltz

-8th Episode-

















 深夜2時、パイロット達はその日の訓練に疲れ、深い眠りの中にいた。だがその中でただ一人、くたくたになるまで体を痛めつけたのにも関わらず、ア スカは毎晩訪れる悪夢のため眠れない夜を過ごしていた。彼女はシーツを跳ね上げると、手のひらで額に浮かんでいた脂汗を拭った。
「最低……」
 その呟きは夢の内容を言っているのだろうか、それともそんな夢を見た自分の精神状態を指しているのか。アスカはベッドから起き上がると、流れ出してし まった水分を補給するために備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。そしてそれを一息に飲み干すと、空になったペットボトルをごみ箱に放り 投げた。カランという音が、静まり返った夜の部屋の中に響き渡ったが、すぐにそれも静寂に取って代わられた。
 アスカは、その場で着ているものを脱ぎ捨て、体にまとわりつく不快感を消すため、シャワールームへと消えていった。


 現在のネルフにとって、戦力の再整備は最大の懸案である。集められたパイロット達は、短期間での戦力化のため急遽作られたプログラムでの訓練が課 せられていた。そのプログラムは、いかに俊英を集めたとは言えかなり厳しい物であった。だがそのおかげで、パイロットの方は少なくとも形になりつつあっ た。
 そしてもう一つの問題。それは敵と戦う武器の問題があった。何しろ切り札と思っていた槍もレールガンもまったく役に立たなかったのだ。今の状態でエヴァ を敵前に送り出すのは、それこそ自殺行為に等しいのだ。そのため葛城ミサトは、新人パイロットの育成に忙しい時間を割いて足しげく技術部へと通っていた。
「1ヶ月と言う時間で用意できるのはここまでです。しかもほとんどはぶっつけ本番、動作テストもしないままの投入になります」
 ミサトとアスカを前に、技術部長リカルド・ホーネストはエウロパのディスプレーを指さした。そこには新たな三つの兵器がリスとアップされていた。
「第一は“槍”に局地戦用のN2爆弾を仕込みました。槍自身、敵に効果が無いのは前回確認されています。ただ敵に付き刺さったのもこれもまた事実です。 従って今回は付き刺さった後、爆散させてしまうことを考えています」
「そして次が衛星軌道からの光学兵器です。“インドラ”のエネルギーパックを改良しました。地上からのエネルギー供給で、30億kwの出力で0.5秒間照 射できます。これは過去“ヤシマ作戦”で使用されたエネルギーの20倍に相当します。照射された中心での温度は1億度を超えます」
「最後は生物兵器になります。前回の敵の残骸から、腐敗が起こることは確認できました。その腐敗物から採取したバクテリアを培養した物です。これもまた槍 に仕込んで敵の体内に打ち込みます」
 ホーネスト博士の説明は、それなりの満足をミサトに与えた。万全とは言えないが、少なくとも徒手空拳でエヴァを敵前に放り出す真似だけは避けられそうな のである。後は運用上の幾つかの問題を解決するだけである。
「“インドラ”の発射間隔はどうなっているの」
「エネルギー供給の方法にネックがあります。現在、原子力衛星、太陽電池等を打ち上げていますが、地上からの供給がメインとなります。従ってフルパワーで の発射には30分の充電が必要になります」
「“インドラ”自身は保つんでしょうね」
「それは何とも。計算上は10発以上の発射に耐えられるのですが。何しろこのような大出力での発射の実績はありませんから。出たところ勝負と言うことにな ります」
「地上ではなく、宇宙空間に向けての発射は可能なの?」
「収束ミラーの調整で可能になりますが……」
「宇宙での射程距離は?」
「大気による吸収がありませんので、理論上はほぼ無限になります。ただ照準精度を考えた場合、使い物になるのは100万キロといったところでしょうか」
「十分よ、それで……じゃあ、“インドラ”は第一次迎撃に使用します。敵を宇宙空間でプラズマにしてやるわ。次に防御の方だけど、どうなっているの」
「残念ながら実にお寒い物と申し上げざるおえません。何しろATフィールドを超える方法が思いつかないのです。敵の正体不明の攻撃、その破壊力は想像を絶 しています。こればっかりは“避けて”もらうしか方法が無いのが実状です。それから雷撃に関しても同様です。こちらはATフィールドが有効ですので、それ で凌いでくださいとしか申し上げられません」
 ホーネストの言葉に、ミサトは小さくため息を吐いた。何しろ新人パイロットのシンクロ率、ATフィールド強度は、未だに戦死したパイロット達の域まで達 していないのだ。そんな人間に、「避けろ」「ATフィールドで凌げ」などと言うことは、死ねと言っているのと同義でしかない。
「避雷針みたいな物は役に立たないの?」
「その役目を果たすだけの物をスモールに持たせると、運動性を損なう結果になります。それでもかまわないのなら、設置は出来ますが……」
 いかがなものでしょうと言うホーネストに、ミサトは小さく首を振ってその考えを否定して見せた。エヴァの俊敏性だけが敵に勝る部分であり、それを失って の戦いは無謀でしかない。
「どこかに雷撃対策の構造物を作ることは出来ないかしら」
 敵がどこに現れるのかわからない以上、無駄な質問であることは承知していた。しかし、新しいパイロット達を無駄死にさせないためにも、なにかの手を模索 する責任がミサトにはあった。
「可動式の物は作れますが、誰かが運ぶ必要があります。狙い打ちにされる危険を考慮すると厳しいですね」
 前に現れた敵と対するだけでも、防御は八方塞がりである。そうなると新しい武器に期待することとなるのだが、これも効果のほどがはっきりとしない。次も “誰かが”助けてくれるとは限らないのだ。いや、助けてくれるとしても、それがいつでも間に合うとは限らない。実際前回の戦いでも、多くの犠牲を出してい るのだ。
「複数体のエヴァのATフィールドの共振による効果は?」
 ミサトの横で黙って聞いていたアスカが初めて口を開いた。
「マイナスから2倍と言ったところですね。ちゃんと同調できれば倍の効果はあります。そうでなければ、逆にフィールドを弱める結果になります」
 その回答に、ミサトはこれ以上彼の時間を使うことの意味を失った。
「分かったわ、防御の方は何とか考えるわ。だから博士は攻撃のほうを考えてちょうだい」
 二人はそう言って技術部のホーネストのもとを辞した。
 問題は山積である。しかし嘆いてみたところで時をさかのぼれる訳ではない。ミサトは2体1組を基本隊形として残りの訓練に当てることとした。それが、現 在取りうる最善の策であるのだ。
 ミサトは技術部からの長い通路を歩きながら、隣に居るアスカの顔色を窺った。日本から帰って以来、次第に彼女が生気を失っているのだ。作戦を預かるもの として、武器や守りと同等以上に、パイロットの精神状態を最善に保つ必要があった。そして何より、アスカはミサトにとって数少ない大切な“家族”なのだ。 ミサトは、少し話があると、アスカを彼女の執務室に引きずり込んだ。




 ミサトはアスカを招きいれると、インカムに向かってコーヒーを2杯持ってくるように言った。そして、自分の机の前の椅子にアスカを座らせると、自 分は机の端に腰を掛けアスカに向かい合った。
「アスカ……眠れないの」
 明らかに疲れの見えるアスカに、ミサトはその事情をたずねた。
「眠れない訳じゃないのよ……ただちょっとね」
「そんな疲れた顔をして……冷たい言い方だけど、あなただけの問題じゃないの。ねぇ、またあの頃の事を思い出したの」
 アスカはそのミサトの質問を首を振って否定した。
「違うわ……完全に違うとは言いにくいけど、夢を見るのよ……」
「夢……どんな?」
 ミサトは、アスカが昔を思い出して、その悪夢にうなされているのかと思った。
「この前の敵と戦っているのよ。味方は全部やられて、私の攻撃は何をやっても通じない……でも、私は繰り返し繰り返し役に立たない攻撃を繰り返すのよ。そ して何度か攻撃を繰り返すと、敵の姿が変わるのよ……外側にまとっていた殻を脱ぎ捨てて、新しい姿に、私たちのよく知っている姿へと」
「……初号機と言うわけ?」
 アスカは頷いた。
「そう、最後には初号機になるの……そこで私の夢はおしまい。その先を見る前に、決まって目を覚ますの」
「毎晩その夢を見るの?」
「少しずつ内容は変わるけどね、大体は似たようなものよ」
「何時から?」
「この前敵を撃退してから……もっともはじめは初号機は出てこなかったけどね。初号機が出てくるようになったのは、日本に行ってから……」
 ふうっと、ミサトは深いため息を吐いた。あの極限状態に置かれたのだ、アスカが心の中で今度の敵を恐れる理由はミサトにも理解できた。だがその敵が初号 機の姿をとるということは、アスカの中に初号機、いやシンジを恐れる気持ちがあることになる。
 ミサトはこれを機会に、シンジが失踪したとき、二人に何が有ったのかをアスカに問いただすことにした。もしかしたら、それが事態を好転させるのに役に立 つかもしれないと考えたのだ。
「ねえ、今更だけど……あの時、シンジ君と何があったの?」
 ミサトの言葉に、アスカはビクリと震えた。
「辛いことだとは分かっているわ。でも、今の悪夢の原因がそこにあるのなら、話してしまった方が楽になるかもしれないわよ?もっとも無理強いはできないけ どね」
 そう言ったミサトの言葉を、アスカはしばらく黙って反芻していた。アスカの疲れた顔には、はっきりとした迷いの表情が浮かんでいた。
「アスカ……あなたシンジ君と寝たわね……それも強姦同然で」
「……違うっ、シンジはそんなことをしていない……違うのよ……」
「分かってる、シンジ君はそんな子じゃなかった……だから、襲ったのはあなた。そう言うことでしょ?」
 そのときアスカの顔色は、はっきりと青く変わっていた。そのことを思い出すこと自体、アスカにとって恐怖そのものなのだろう。
「それぐらいのことは、シンジ君が居なくなってからの証拠を付き合わせれば推測はついたわ。でもそれはアスカが悪いわけじゃない……ううん、アスカがまっ たく悪くないとは言っていないわよ。でも、アスカは同時に被害者でもあったのよ」
「被害者……?」
「そう、被害者……あの頃、二人の扱いに困った私たちは、安易に一緒に置いておくことを選択したわ。あなた達がいわゆる男と女の関係になるのも考慮の内 だった。少なくともそうしておけば、あなた達二人は安定していると思ったからよ……でも現実は違った。あなたはシンジ君を襲い、そのせいでシンジ君は失踪 した。それは私たち大人が、安易な選択をしたことが原因よ。少なくとも、あなたはそれを理由にすることは出来る」
「でも、実際にシンジを襲ったのは私よ。シンジが抵抗できないのをいいことに、手足を縛って、薬まで使った……許してくれと言うシンジを何回も殴ったわ。 それでも私に責任が無いと言うの?」
「ええ、それでもあなたには責任は無いと言えるわ。もちろんシンジ君が悪いなんて言うつもりは無いわ。彼は本当に被害者だから。でもね、あなたの心をそこ まで追い込んだ責任、それはやはり私たちにあるのよ」
 ミサトは正面からアスカの瞳を見据えてそう言い切った。
「あなたがシンジ君に対して、罪悪感を抱くのは止めないわ。でもすべての罪が、自分にあるとは思わないで。それだけ心の中に留めておいてくれればいいわ」
 そんなことでアスカの心が晴れるわけは無いことをミサトは一番理解していた。それどころか、この責任を他人に押し付けることをアスカが拒絶するだろうと いうことも。それでも幾度か繰り返して、アスカだけが責任を負うわけでは無いと刷り込む必要が彼女にはあった。
「……でも、私が責任を他人に押し付けたら……やっぱりそれは私の罪なのよ。あの時、私にはたくさんの選択肢が有った……でも、その中で最悪のものを選ん だのはやっぱり私なの……ねえ、ミサト……シンジが生きているというのなら、やっぱり私は憎まれているのよね……シンジは私を殺したいと思っているのか なぁ……」
「……アスカ……アスカはシンジ君をどう思っているの……彼が生きているとしたら?」
 ミサトの問いかけに、アスカは答えに詰まった。シンジが生きてきると考えることは、彼女にとって喜びでありまた恐怖であったのだ。
「……よく分からない……たぶんうれしいんだと思う……でも……」
「でも……?でも、怖い?」
 アスカはミサトに頷いて見せた。
「あなたの感じている恐怖は何?シンジ君がアスカを恨んでいるということ?殺したいほどに?」
 もう一度アスカは頷いた。
「でも、殺されるからって言うのが怖いわけじゃないの。なんて言うか……その……」
 実のところ、アスカの中ではまだ感情の整理がついていなかった。恐怖を感じると言ったが、それもまた漠然とした恐怖であり、未だ明確な形となって現れて いるわけではなかった。その証拠に、夢の中に出てくる初号機は、まだ弐号機に対して何の行動も起こしていなかった。
「……ただ……怖いの……」
 ミサトもその気持ちが分からないわけではなかった。ミサト自身、シンジの生存に対して手放しで喜んでいるわけではなかった。彼が生きていることに対して 異存があるわけではない。それでも何かしらの恐怖をミサト自身も感じているのは確かだった。
「……分かったわ……でも、私たちはその問題だけにかまけているわけにもいかないの。はっきり言って、今までのあなたでは勝てない相手よ。それなのに、こ んな状態じゃ……」
「……分かってる……でも、どうしようもないのよ……」
 そう言って顔を伏せたアスカに、ミサトは見えないようにため息を吐いた。そして引出しの中から、急遽用意した封筒を取り出した。
「アスカ……私にしてあげられるのはこれぐらい……あまり時間はあげられないけど、納得のいくようにしていらっしゃい」
「ミサト……これって……」
「反対意見の方が多かったんだけどね、司令の鶴の一声で許可が下りたわ。でも、沢山の護衛が着いていくのは我慢してほしいの。会えるのか、それどころか本 当にシンジ君が生きているのか分からないわ。でも、決着をつけてきなさい……何よりもあなたの心に……」
「ありがとう……ミサト……」
 アスカはミサトの心遣いがうれしかった。ここしばらくの精神状態に、自分でも何とかしなくてはと思っていたのだが、今この状況において自分から言い出す ことは出来なかったのだ。
「……お礼を言われることじゃないわ……私は、作戦部長として必要な措置を取っただけだから……それに、私がもっとしっかりしていたらこんなことにはなら なかったのだから」
「そんな……ことは無いわよ……ミサトには感謝しているわよ」
 そのときアスカが浮かべた笑みに、ミサトは胸が痞える思いがした。平素の強気なしぐさに隠されているのだが、本当は傷つきやすく繊細な少女だったのだ。 今更ながらミサトは、そのことを思い知らされた。
「……礼は良いわ。それよりも私たちに残された時間も短いの。だからあなたはこの機会を利用して、心の整理をつけてきなさい。出来たら帰ってきたときに は、アスカの素敵な笑顔を見せて欲しいわね」
 そう言ってミサトは、早くしろとアスカを急き立てた。




 昼下がりの抜けるような青空の下、シェンは一人でテラスに出て白ビールを飲んでいた。冷えたビールのグラスのほかはテーブルには何も無く、左手に 持った手紙を少し難しい顔をして眺めていた。
 そこに一人の女性が、片手にレモネードの入ったグラスを持ってゆっくりと近づいてきた。
「珍しいわね、シェンが私を呼び出すなんて?」
 探るような笑みを浮かべて近寄ってきたのはグロリアだった。彼女は、シェンの向かい側の席に座ると、両手でブリッジを作りその上にあごをちょこんと乗せ て上目遣いでシェンの顔を見た。そんなグロリアに向かって、シェンは生返事を返していた。
「自分から呼びつけておいてそれは無いんじゃない?」
 少し怒ったそぶりを見せては居るが、その目が笑っているので本気でないのだろう。だがその声で、ようやくシェンは視線を手紙からグロリアに向けた。
「悪かったね、少し考え事をしていたんでね」
 一応の謝罪に、「まあ良いけど…」と言ってグロリアは怒りの矛先を収めることにした。
「それにしてもユイリが居ないなんて珍しいわね。ユイリが鬱陶しくなった?」
「まさか……彼女は赤木博士の手伝いをしているよ」
「ふ〜ん。で、わざわざユイリが居ないときに私を呼び出したのは何故?」
 まるで浮気を窘められているような気がして、少しシェンは居心地の悪さを感じていた。
「ああ、大爺様の所から面白い報告が来たのでね。それをグロリアにも教えておこうかと思ったんだ?」
「ユイリじゃなくて、私に?」
「ああ、そうだよ」
 そう言ってグロリアは少し怪訝そうな顔をして見せた。今までのシェンならば、大爺様からの報告は、真っ先にユイリに見せていたはずなのだ。それが今回に 限って、ユイリには見せていないと言う。その理由にグロリアは心当たりが思い浮かばなかった。
「興味あるわね……大爺様はなんて言って来たの?」
「セカンドチルドレンが、また日本に来るそうだ」
 その話を聞いて、なるほどとグロリアは納得した。シェンは今回の件を、ユイリ抜きで進めようとしているのだと。
「それで私に何をしろと言うの?殺すってわけじゃないわよね??」
「ああ、もちろんだ。グロリアには彼女を守ってもらいたい。報告によると、狂信者達も動いていると言うしね。ネルフだけじゃ荷が重いだろう」
「そう言う事ね……分かったわ。動いている奴らのデータを頂戴。それから……」
 そこで言葉を区切ってグロリアはシェンの瞳を見つめた。
「これはユイリには内緒でするのよね?」
「そうしてくれるとありがたい」
 ほんの少しだけグロリアは考えるそぶりをして見せた。とは言え、実際に何かを考えたわけではなく、ただふりをして見せただけだった。
「良いわ、その代わりユイリはできるだけ赤木博士の所に縛り付けておいて?あの娘は勘が鋭すぎるから、ちょっとしたところから気づかれるわよ」
「了解した。そう手配するよ」
「じゃあ、私は準備があるから……」
 そこまで話し、グロリアは空になったグラスを持って立ち上がった。そしてシェンの居るテーブルから数歩離れたところで、おもむろにグロリアは振り返っ た。
「そうそうシェン、一つだけ忠告しておくわ」
「なんだい?」
「嫉妬はためにならないわよ!」
 すべてを見透かしたグロリアの言葉に、シェンはとっさの答えに詰まった。










続く

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