アスカがテロリズムにあったことは、それこそ光の速度を超えネルフにもたらされた。緊急に開かれた対策会議だったが、あまりにも残された証拠が少 なく、犯行組織の割り出しも遅々として進まなかった。そのため、対策会議とは名ばかりの、責任追及にその場は終始してしまった。
















Neon Genesis Evangelion

Endless Waltz

-10th Episode-
















 偽装された救急車は、新成田から遠くない古びたビルに横付けされた。いかにも不似合いな光景なのだが、あいにくのことにその光景を見て、不審に感 じるような目撃者はこの場には存在しなかった。救急車の中から降り立った男たちは、手際よくストレッチャーを下ろすと、車を始末するために救急車を発進さ せた男以外はそのストレッチャーと一緒に、そのビルの中へと入っていった。彼らは、エレベータのないそのビルで、アスカの体を担いで地下の機械室へと入っ ていった。すでに持ち主が退去して久しいのだろう、機械室にはあるべく機械はなく、そのかわりに何かの祭祀に使われるのだろうか、この場に似つかわしくな いほど機械室は磨き上げられ、奇怪な文様がその中に描かれていた。男たちは、意外なほど丁重にアスカをその中に運び込んだ。そして手際よくアスカを裸にす ると、目隠し猿轡をした上で何かの液体をその体に塗りつけた。そしてその上でアスカの両手両足、そして首に鎖にくくりつけその体を壁にもたれかけさせた。 まるで生け贄となったアンドロメダのようなその姿は、見る者の劣情を大いに駆り立てるものであった。しかし幸運とも言うべきか、アスカを運び込んだ男たち は、その姿に劣情を催されることなく、満足した様子を見せてその部屋を出ていった。
 彼らにとってアスカは、生け贄以上の価値は存在しなかった。もっともこの後まで、アスカの貞操が守られると言う保証はどこにもない。輪姦された上で、腹 を切り裂かれないと言う保証はないのだ。いずれにせよ、アスカの命は、祠祭が到着するまでのわずかな時間しか残されていなかった。
 アスカに遅れること3時間、ヨーロッパを発った祠祭は供のものとともに関西に降り立った。そして用意された車に乗り、陸路を経て第二新東京市へと向かっ ていた。
 静けさを取り戻した地下室には、どこからか獣の鳴き声が聞こえてきた。その獰猛な鳴き声は、この先アスカに訪れる運命が楽しいものでない事を示してい た。
「む……」
 どれくらいの時間がたったのだろうか、小さなうめき声とともにアスカは目を覚ました。アスカはぼんやりとかすむ頭を振って、懸命にここにいたる記憶を辿 ろうとした。だが、どう頑張ってみても警官の格好をした男達に取り押さえられた後の記憶はでてこなかった。記憶をたどることをあきらめたアスカは、とりあ えず現状の把握を試みた。だが、両手につながれた鎖と、しっかりとなされた目隠しのせいで、アスカは視界を確保する事もできなかった。そのためアスカは、 残された聴覚で周りの様子を探ってみた。
 しかし、聞こえるものといったら、肉食獣のうなり声のようなものだけである。文明に付き物の、自動車の音すら聞こえてこないのだ。そのほかに聞こえるも のといえば、自分を戒める鎖がこすれる音だけなのである。アスカは状況を探るのをあきらめ、これから自分がどうするべきかへと考えを変えた。
 肌に触れる床の感触から、自分が裸で居るのは確かだろう。体に受ける感覚から、どうやら陵辱てはいないようだ。だからといって、そのこと自体何の救いに もなっていないことは明らかだった。
 今この状況下で、自分を拘束するなどと言う暴挙にでるとは考えにくいことである。それでも想像力を振り絞って、その理由を考えれば思いつく理由は二つだ けある。営利誘拐と、一部のカルト教団による誘拐である。いや、正確にはもう一つあったのだが、一個人の仕業でない以上、偏執的な犯行とは考えにくかっ た。
 営利誘拐ならいいのだが、とアスカは思っていた。必要なのは条件闘争のみで、彼らにとって自分の存在は生き延びていくために必要なのである。そのため、 どんなことがあってもこれ以上の危害は加えられないと想像ができるのだ。だが、カルト教団の場合は最悪である。もし彼らが、アスカの存在を、彼らの信じる 神の敵だと思っているのなら、この先自分にとって愉快ならざる出来事が待っているのが確定しているのだ。しかも、現状を考えるに、カルト教団の仕業という 線の方が濃厚なのだ。それは自分が裸にされていることと、からだから漂ってくる何かの薬品のような異臭がそれを示していた。それに加え、空港でのあまりに も異常な爆弾テロ。いよいよ年貢の納め時かと、アスカはあきらめの境地に達しかけていた。
『騒いだところで誰も来ない』
 辺りに人気はまったく感じられなかった。アスカは自分が冷静になっていくのを感じていた。いや、この場合恐怖に神経が麻痺したと言った方が正確なのかも しれない。
『自分はどうなるのか?』
 ネルフの救援を期待すべきなのだが、それが期待し得ない状況にあることをアスカは理解していた。日本に残されたネルフの組織はない。一番近い中国からで も、最低4時間はかかる距離に自分は居るのだ。おそらく自分をさらった奴らは、そんなに長く自分を生かしておくことは考えていないだろう。ならばネルフ中 国が動き出したときには、すでに手遅れになっている可能性の方が高いのだ。
 日本の警察機構もまた、当てにならないとアスカは理解していた。自分がここまで簡単に拉致された以上、彼らもまた大きな混乱の中に居るはずなのだ。たと え体制が立て直し可能だったとしても、彼らがここに迫る前に自分は殺されているだろうと言うのがアスカの考えだった。
『やはりここまでなのか?』
 アスカは、自分が死ぬことを恐ろしいと感じていなかった。元々死と隣り合わせの中に生きてきていたため、死に対する感性が麻痺していたのかもしれない。 そうやって自分を冷静に分析している姿に、アスカは心の中で苦笑を浮かべていた。可愛くない姿だと。
 簡単にあきらめるつもりなど、アスカの心には欠片もなかった。彼女の持っている使命からすれば、どんなことをしても生き延びなくてはならないのだ。たと え陵辱の限りを尽くされようとも、そのことで死を選んではいけない。手足をもがれようとも、この頭が残っていればエヴァに乗ることはできる。それがFGチ ルドレンとしてのアスカの務めだった。
 生き残ることへの覚悟を決めながら、そんなことを考えている自分が可愛くない女だとアスカは自嘲した。できればそんな目に遭いたくはないのだ。だからと いって、誰かが助けてくれるのか?そんな希望はどこにもないとアスカは思っていた。
「そう言えば……」
 覚悟を決めたとき、アスカは昔の出来事を思い出していた。
「あんたは、私があきらめそうになったとき、いつも助けに来てくれたわね……」
 思い出したのは最後の戦いだった。動かなくなった弐号機の中で、アスカは絶望に震えていた。
「悔しいはずだったのに、あんたなら許せたわ……」
 口には出せなかったが、どこかで自分は認めていたのかもしれない。だから自分が後れをとることも耐えられた。
「何でこんな時に思い出したんだろう……」
 目隠しの中では、青い瞳に大粒の涙が浮かんでいた。今更ながら、なくしてしまったものの大きさをアスカは思い知っていた。
「自分で壊したのに……」
 たとえ生きていたとしても、決して自分を助けに来てはくれないだろうとアスカは思っていた。それだけの理由が自分たち二人の間にはあるのだからと。
「でも……最後にあんたに会いたかった……」
「会って謝りたかった……」
「でも、やっぱりあたしは馬鹿だったわ……自分勝手なあたしが、あんたに会える訳がなかったのよ……」
「……時間が戻せるのなら……全部なかったことにしたい……」
「そしたら……恋人にはなれなくても、一緒に戦うことはできたわね……」
「壊したのは私……だからこれは私への罰なのね……」
 だが、アスカは知らなかった。誰も聞いていないはずのアスカの懺悔を聞いていた人物がそこにいたことを。




 アスカが監禁されているビルから少し離れたところに、林の一族は集結していた。そこで一人の老人が、とくとくとこの戦いの意味を説いていた。
「これは一族の誇りを賭けた戦いじゃ。儂は、無念にも散った息子の恨みを晴らさなくてはならん!」
 林天峰は、そう言って集結した一族の顔を見渡した。
「龍が栄華におぼれている中、儂らは必死で力を蓄えてきた。その力を今、解放する時が来た」
 老人の熱弁に、誰一人として異を唱えるものは居なかった。龍家を打倒することは、林一族の悲願でもあったのだ。
「今宵は満月じゃ。だがそれに油断してはならん。我が息子天将は満月の晩にユイリに討たれた!確かに今はユイリはおらん。しかしグロリアのみとは言え、決 して侮ってはならん。きゃつもまた、ユイリとともに技を極めておる。だからと言って、恐れることもない。我らが力を合わせれば、グロリアならば仕留めるこ とも容易かろう。いいか、ユイリが駆けつけてくるまでの時間が勝負じゃ。ユイリを一人にすれば我々の勝利じゃ。いいか、焦ってはならん。だが我々に残され た時間が少ないことを忘れてはいかん」
 老人は、自分の言葉が全員に行き渡るのを待った。そこには20人強の“人”が集まっていた。そのすべてが、これを最後の好機と捉えていた。
「メイホン、ユイリの動きはどうじゃ?」
「未だ研究所を出たという報告は上がっておりません」
「そうか、だが気をつけよ。あやつだけは儂らの想像を超えておる。いつ姿を現すかもしれん。警戒は万事怠りなくせねばならん」
 老人は、メイホンだけでなく、一族全員に言い聞かせるようにそう言った。
「だが、あやつは必ずシェンの元に姿を現す。いいか、心してかかれ。あやつがシェンの前に姿を現す前に、シェンを亡き者にする。いいな!」
 老人の言葉に、全員が静かに頷くことで意志を示した。
「お爺さま、セカンドチルドレンはどうなさいます?」
「あのお方は、人々の上に立つ大切なお人じゃ。デウスの手からは我らが助け出す。我々が表舞台に立つためにも、我々があのお方を助け出す必要があるの じゃ」
 世界の女神というアスカの位置づけは、彼らの目的に都合がよかった。すでにアスカがテロに遭ったことは、全世界に広がっている。そして彼女の安否は、世 界最大の関心事になっているのだ。日本の警察も、そしてネルフも解決し得なかったこのテロを解決したとなれば、林一族の存在を世間に知らしめるにはこれ以 上の機会はないのである。
「わかりました……ならば、この私がアスカ様の救出に向かいます」
「うむ、頼んだぞメイホン。儂らはシェンとグロリアを屠ろう!」
 だがその時、動きだそうとした林一族を、涼やかな女性の声がそれを押しとどめた。
「残念ながら、そう言うわけには行きませんの」
 突然掛けられたその言葉に、その場に居た全員は戦慄した。その声の持ち主こそ、彼らにとって忘れようにも忘れられない仇敵だったのだ。
「ユイリ・アンカぁっ!!なぜここにぃ!!」
 林天峰の叫びに、ユイリは氷の微笑を持って答えた。




 後手に回ったため、シェンはデウスのアジトを捕捉できないで居た。その手のものから、アジト発見の報告をシェンが手にしたのは、アスカが拉致され てから3時間の時間が経過した後だった。祠祭の到着までの時間を考えると、非常に危ういタイミングである。それでもシェンとグロリアは、何とか見張りの男 たちに気づかれず、アスカの監禁されている地下機械室へ潜り込んだ。
 そこでシェンは、鎖につながれたアスカを見つけた。鎖につながれながらも、アスカは取り乱す出もなく、静かに床に座っていた。その姿は、シェンに倒錯的 な美しさを感じさせるものだった。
「誰っ?」
 わずかな空気の動きに、アスカは誰かがそこに訪れたのを知った。足音を忍ばせ、気配を絶っていたことから自分をさらった組織のものではないだろうと目星 をつけていた。
「シェン・ロンです。あなたを助けに参りました」
 そう言ってシェンは、グロリアに目配せをした。油断なくあたりの気配を探っていたグロリアは、ゆっくりとアスカに近づくと手足を拘束していた鎖を切り裂 いた。そして壊れ物を扱うような丁寧さで、アスカの目隠しを解くとその場をシェンに譲った。
「もう心配いりません。あなたの安全は私が保証いたします。さあ、一刻も早くここを脱出しましょう」
 シェンはそう言ってアスカに近づくと、纏っていた上着をアスカに掛け、その体を抱き寄せた。その姿は、自分こそが彼女を守る存在だと誇示するようであっ た。
「ありがとうございます……」
「お礼なら、この先安全なところでお伺いします。さあ、この場は急ぎましょう!」
 シェンはそう言うと、グロリアの先導でデウスのアジトを抜け出した。




 ゆっくりと現れたユイリに、林一族は押さえきれない殺気でそれに答えた。
「さすがはユイリ、よくぞ我らの裏を掻いた。だが、それもここまで。デウスのアジトには5人の手練れが配してある。今宵は満月、グロリアと言えども容易く 退けられる手合いではないぞ」
 理はまだ自分たちにあると、天峰はそう言い放った。だが、その恫喝も、ユイリの眉一つ顰めさせることはなかった。それどころか、周りを20人の林一族に 囲まれると言う絶対的不利な状況の中、ユイリは何事もないかのように微笑んで見せた。そして、
「今なら無かったことにして差し上げます。このままおとなしくお引き取りなさい」
 とまで言ってのけた。だが林一族を思ってのユイリの言葉も、彼らの神経を逆なでする結果となった。馬鹿にされたと怒った一人が、背後からユイリに飛びか かった。その動きは常人では捉えられない素早さを持っていた。
 だがその男の攻撃は、ユイリに届くことはなかった。まるで幽霊でも相手をしているかのように、必殺の爪はユイリの体をすり抜けていた。
「無駄なこと……」
 攻撃が空を切り、体勢を崩した男をユイリは後ろから抱き留めた。そして耳元にふうっと息を吹きかけその体を解放した。それは、その気にだったら死んでい たと言う警告だった。それでも林一族は、ユイリに従おうとはしなかった。
「さすがはユイリ、一筋縄ではいかぬ女人よ。だが我らが何の策もなしに出向いたとでも思っているのか?今宵は満月、我らには我らしかできん方法がある!」
 天峰の言葉と同時に、ユイリの耳に何か空気が抜けるような音が聞こえてきた。それと同時に、全身から力が抜けていくのをユイリは感じていた。
「なるほど……神経ガスですか。考えましたね」
 全く動揺した様を見せないユイリに、さすがの天峰もいやな予感に囚われた。もしかして、ユイリにはまだ何か隠していることがあるのではないかという恐れ だった。だがそれは弱気とその恐れを振り切り、天峰は配下にユイリへの攻撃を開始させた。
 さすがに不死身をもって鳴る林一族は、神経ガスの中でも全く変わりの無い動きでユイリに襲いかかった。一方のユイリは、さすがに体の自由が利かないの か、一つ一つの攻撃をかわすのがやっとの状態だった。しかもそのかわし方も、神業のような身のこなしというより、何とか攻撃が当たらないようにと言うぎこ ちない動きだった。
「どうしたユイリ、足下がおぼつかなくなって居るぞ。我らの攻撃は無駄ではなかったのかぁ!」
 自分たちの優勢に気をよくし、天峰はユイリに向かってそう言い放った。
「引くおつもりは無いと言うことですか?」
 それでもユイリは、冷静さの仮面を捨てなかった。今まさに自分が陥っている危機すら、大したことの無いようなそのそぶりだった。
「たわけたことを申すでない!!勝利は我らの目前にあるのだ!!何故引く必要などあるか」
 そう言って天峰は、配下に合図した。それに答えるかのように、幾条もの鎖がユイリの体を襲った。そしてその何本かが、ユイリの両手両足に絡みついた。こ れで完全にユイリの自由は失われた格好となった。
「これでもまだ我らに引けと申すか!!」
 林一族、別名虎の一族と呼ばれるものたちは、超常なる力を発揮する。特にその力は満月の日には最大となると言われていた。今宵はその満月、人を遙かに越 えた力は、ユイリの体を身動きできないまでにがっちりと拘束していた。
 身動きのできないユイリに、勝ち誇った天峰は無造作に近づき、右手でユイリの形のいい顎をつかみ自分の方へとその顔を向けた。だが、そこに恐怖にゆがん だ女の顔があると思った天峰は、思わず我が目を疑った。さすがにこの状況ならば、ユイリとて恐怖にゆがんだ顔をしているだろうと天峰は思っていたのだ。そ れでなくとも苦痛にゆがんで居るぐらいはしているだろうと。だが、その天峰の考えは、全く表情を変えないユイリに裏切られたのだ。次の瞬間、天峰の頭は怒 りに染め上げられていた。
「おのれ!生意気な!!楽に殺してやろうかと思ったが、そうはいかないようだ。おまえがわめき苦しむ様を見るまでは我が心は晴れん!おいっ、お前たち、今 すぐこの女を犯せ!!」
 当主の言葉に、若い男たちは一瞬お互いの顔を見合わせた。そしてその中から、三人の男が自分がすると名乗り出た。そのうちの一人は、天峰の代わりにユイ リの前に立つと、その豊かな張りを見せる乳房を、スーツの上から鷲掴みにした。そしていっさいの手加減もなくその胸を服の上から揉み下し、力一杯ブラごと スーツを引き裂いた。暗がりにもはっきりとわかる、豊かな白い胸に、男は舌なめずりを一つしてその胸にしゃぶりついた。それを合図に残りの二人は、ユイリ の下半身にとりついた。鎖を引かせて、彼女のまたを開かせると秘所を覆っている白い布を、ストッキングごと切り裂いた。そして露わになった女陰と菊座に、 長い舌を進入させた。
「どうじゃ、ユイリっ!甚振られるのは。口惜しかろう!だがな、感謝せい!!死ぬ前に女の悦びを味あわせてやる」
 相手を完全に支配したとの想いは、天峰をして上機嫌にさせた。ここに来て初めて、ユイリが顔を歪めているのを見るのも心地よかった。そして天峰の目の前 でユイリは引き倒され、いきり立った男の剛直が無理やりその女陰の中にねじ込まれていった。
「くっ、はっ」
 このとき初めて、ユイリの口から苦痛をあらわす喘ぎが洩れ出た。剛直を突き入れた男は、蹂躙するように激しく注挿を繰り返した。残った二人の男のうち、 その一人は執拗に胸を舐めあげた。はっきりと大きくなった乳首を、執拗に甚振り、舐めたり甘噛みをしてユイリを責め立てた。そしてもう一人は、空気を求め て開かれたユイリの口に、己のいきり立った剛直を突き入れた。
 美しい獲物に襲い掛かる三人の姿は、それを見ていた女のメイホンにも劣情を催させるほどだった。そしてそれは老人である天峰も同じたった。
「ほほほう、これはこれは。儂にも春が戻ってきたようじゃ」
 そう言って天峰は、ユイリの中で果てた一人と代わって、何年ぶりかに張りを取り戻した、己の剛直をユイリにねじ入れた。
「おうおう、これはよい、これはよいぞ……」
 久しぶりに味わう熱さに、天峰は夢中になって腰を打ち付けた。これほど犯されても、まとわりつくような中に、このまま殺すのが天峰すら惜しく思えるほど のユイリだった。天峰は、熱いなる迸りをユイリの中に吐き出し、何年ぶりかの、いや生まれて初めて感じる満足を覚えていた。
「お前たちも遠慮することはない。これは稀代の名器じゃ。これを機会に味わっておけ。それにいいか、穴ならまだほかにもある。とことんしゃぶり尽くし、我 らをこの女に刻み込め!!」
 当主からの許しは出た。これで虎の手に落ちた雌鹿の運命は決まったようなものだった。持て余すほどの勢力にあふれた雄たちは、一匹の獲物を代わる代わる 犯していった。
 その一部始終を見ていたメイホンは、自分がかつて無いほど高ぶって居るのを我慢していた。それはここに自分に相応しい相手が居ないと言うこともあった が、もう一つ陵辱を受けているユイリが気に入らなかったのだ。目の前で一方的になぶられているにも関わらず、ユイリの美しさはいささかも損なわれていな かったのだ。しかも一族の男たちの目は、すべてユイリに囚われ、誰一人として自分の存在を気にもとめていないのだ。その女としてのプライドが、今のメイホ ンに淫らな行為をとらせることを留めさせていた。
「あいつの顔は、私が引き裂いてやる!」
 メイホンは暗い情念をユイリに向けていた。
 入れ替わり立ち替わりユイリを犯していた男たちの最後がユイリの中に性を放ち、その狂宴は一つの区切りを迎えた。男たち全員の顔には、極上の獲物を味 わった満足が浮かんでいた。なんとユイリは、20人もの男たちの陵辱にも、その体は耐えきったのだ。ある意味それは驚異的なことと言えた。最後の男がユイ リから離れたとき、彼女は相変わらず手足に巻き付いた鎖を引きずりながら立ち上がった。体の至る所に吸われた痣が残り、そして前後の穴からは白いものが滴 り落ちていた。そんな姿になりながらも、ユイリは毅然とした態度を崩していなかった。
「……まだ立てるのか……」
 ユイリのその姿は、林一族に小さくない動揺を与えた。何しろ今宵は満月である。こんな日に彼らは、ふつうは人間の女を相手にすることはないのだ。何しろ 底を知らぬ彼らの精力にふれたとき、人間の女性では耐えきれず壊れてしまうのが常だからである。それにも関わらず、目の前の女はそれに耐えきったのだ。こ んなはずは無いという思いが彼らの中で生まれても仕方のないことだった。
 しかし彼らを本当に驚かせたのは、立ち上がったユイリから告げられた言葉だった。
「お仲間の5人はどうなさりました?」
 そう言われて彼らは初めて気がついたのだ。時間はすでにずいぶんと経過している。デウスのアジトは、すべてことが済んでいてもおかしくない時間だったの だ。メイホンはあわてて通信機を取り出し、デウスのアジトに詰めている仲間を呼びだした。
「カイ、クイ、返事をしろ。そっちはどうなっているのだ!」
 だがメイホンがいくら叫んでも、通信機からは何の答えも返ってこなかった。メイホンはユイリに歩み寄ると、きっとその顔を睨み付けた。じゃらりと鎖が 引っ張られ、ユイリの体は張り付けられたようになった。その抵抗できないユイリの顔に、メイホンは平手打ちをした。
「答えなさい!仲間になにをした!!答えなさい!!」
 なにも答えないユイリに、メイホンはもう一度その頬を張ろうとした。だが、意外なほどに強い力でメイホンの右手は受け止められていた。
「なっ!」
 驚いたのはメイホンだけではない。人間の力に10倍する力で鎖を引いていたのだ。その戒めの中、ユイリは鎖を引いてメイホンの手を受け止めたことにな る。
「おいたが過ぎるわよ」
 ユイリの言葉に危険を感じた男たちが、メイホンからユイリを引き離そうと鎖を持つ手に力を込めたが、いくら引いても頑としてユイリは動かなかった。それ どころか、じりじりと鎖はユイリの方に引き寄せられていた。
「放せっ!!」
 頑と動かないユイリに、危険を感じたメイホンは渾身の力を込めてユイリを蹴り上げた。何度も言うが、今宵は満月である。その蹴りは、分厚い扉を蹴り抜く ほどの威力が込められていた。だが今度こそメイホンは、底知れぬ恐怖に囚われることになった。避けようもない距離から放たれた蹴りは、確かにユイリを捉え たはずなのである。だが、必殺のその蹴りは、ユイリに届くことなく何か見えないものによって直前で受け止められていた。
「私は何度も引くように申し上げました。振り上げた拳を収めるためには、何か代償が必要だと思ったので、私の体を差し出しました。しかし、それはあなた方 を増長させるだけのようでしたね。ならば、今度はあなた方を力で従えることにしましょう」
 なにをと叫ぼうとしたメイホンは、目の前の出来事に言葉を発することができなくなっていた。ある意味彼らにとっては馴染みの深い現象なのだが、それを目 の前の女が成し遂げたことが信じられなかったのだ。
「あ、あ、あああんたっ」
 恐怖に震えるメイホンの視線の先には、すでにユイリは居なかった。







続く

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