セカンドチルドレンを狙ったテロは、当然のごとく司令の責任問題にまで発展した。曰く、この重大な時期に不用意な許可を出したと言うことに対して である。だが一部UN委員から上がった追求の手も、その勢いを増すことは無くすぐに沈静化した。その背景には、この重要な時期に内部抗争をすべきで無いと 言う正論があったのも確かだが、一部裏からの圧力が掛けられたとの噂もまことしやかに囁かれもした。
 だが関係者にとって重要だったのは、個人の責任問題などと言う矮小な問題では当然無かった。全人類の命運を掛けた戦いを前に、戦いの女神の精神状態こそ 問題にされるべきなのだ。特に葛城ミサトにとって、今回の訪日はある意味での賭けだったのである。アスカの心に重くのしかかっている問題。それを晴らすに は、アスカ自身の直接の行動が必要だったのである。だがその賭けも、デウスと言うカルト教団の横槍で意味をなさなくなってしまった。こうなると次の戦いが 終わるまで、アスカが基地を離れることなど許可の出ようも無いことである。ミサトが重ね重ね、横槍を入れたデウスを恨めしく感じてしまうのは仕方の無いこ とだった。

















Neon Genesis Evangelion

Endless Waltz

-13th Episode-

















 アスカの帰りの旅は、行き以上の物々しい警戒の中行われた。それはネルフの管理する空港まで引き継がれ、ネルフの主立った重鎮の見守る中、専用機 からアスカはドイツの地に降り立った。強行日程をこなしたアスカは、出迎えに出たミサトを驚かせるほど元気だった。
「なぁ〜に、しけた顔してんのよ!」
 そう言って、要領を得ない顔をしたミサトを、アスカはけらけらと笑い飛ばした。そしてさらに要領を得ない顔をした一人を捕まえて、聞きたいことがあると その場から連れ去ろうとした。だが、そのアスカの試みは、その光景を目ざとく見つけたステファンによって阻止されることとなった。そして、自分にも聞かせ てくれるんだろうと目を輝かせているミサトとともに、アスカ達一行は総司令への報告もそこそこに作戦部長室へとしけこんだ。
「別にマイケルに愛を語ろうって訳じゃないのよ」
 アスカは前置きを一つして、マイケルに話を聞きたいと言ったわけを語りだした。
「ただちょっとシェンのことを教えて欲しかっただけなのよ」
 だから大げさにしたくなかったのだと、アスカは少しばつの悪げにそう続けた。しかし、次にアスカの口から出た言葉は、少なくとも二人の男達にとっては爆 弾そのものだった。
「あたしね、シェンに求婚されたの」
 予想外にうれしそうに語るアスカに、ステファンとマイケルはシェンにしてやられたと錯覚した。当面のライバルは自分達だけだと思っていたのが、彼らに とって最大の誤算だった。
「で、どうしたの?」
 爆弾の威力に言葉を失った男達に代わって、ミサトがその顛末について言及した。
「どうしたのって?別にそれ以上のことは何も無いわよ。別に返事を急がないって向こうも言っていたしね」
「ふ〜ん、それでシェンのことが知りたいって言うわけね?」
 アスカの表情に何かを感じたのか、ミサトは少し嫌らしい笑みを浮かべて合いの手を入れた。
「向こうは私のことをよく知っているようだしね。癪じゃない、こっちが何も知らないなんて」
「でも、それだったらエウロパの情報を覗けばいいじゃない。どうしてマイケルから聞こうと思ったの?」
「美辞麗句で固められた公式情報なんて興味ないわよ。私が知りたいのは、真偽の程も分からないような噂話も含めた話よ。風聞伝聞何でもいいわ。紙に書かれ た履歴書じゃ分からない情報が欲しいの」
 未だに呆然としている男達は気づいていないが、ミサトはここに至ってアスカの意図を正確に理解した。アスカの興味は、シェンそのものではなく、彼、もし くは彼の一族が辿ってきた道の中にシンジとの接点が無いかと言うことだった。しかし、それを悟ったミサトはそのことをおくびにも出さず、固まってしまった 情けない男達に追い討ちを掛けた。
「それを調べてどうしようって言うの?」
「もち、これから夫になるかもしれない男が変な趣味を持って居たら困るじゃない。そのための確認よ」
 ミサトの意図に気づいたアスカも、調子を合わせるように脅しを掛けていた。男達は気づいていないが、二人の肩は小刻みに揺れていた。だが可哀想な男ども はそれに気が付かなかった。
「でもアスカ、それって完全な玉の輿よ。彼って見た目も良いし、絶対に損はないと思うわよ」
 いささか悪乗りをしている事は分かっているが、あえてミサトはそう続けた。特にその事に深い意味は存在していなかった。しゅんとしている男を見るのが楽 しいとしたら、それは悪趣味にしか過ぎないのである。
「そうねぇ、彼ったら私の事を護ってくれるって言ってくれたしぃ」
 アスカ自身も悪乗りである事は分かっていた。だから顔にははっきりと冗談ですと書いてあった。もっともこうべを垂れた男達にはそれを伺知る事は出来な かったのだが。
「まったく、自分に自信の無い男とは違うわよねぇ〜」
 そこまでいわれる筋あいは無いと、ステファンとマイケルは抗議の一言でも言おうと顔を上げた。そしてようやく自分達がからかわれていたのだと気が付い た。
「ばばばば……」
「ようやく気が付いた?でもシェンに求婚されたのは本当よ。お互いに答えを保留したのも本当」
「きききききき……」
「でもね、その前に私には整理をつけなくちゃいけない気持ちが有るの。それを置いては誰とも結婚するつもりなんか無いわ」
「なななななななな……」
「いい加減落ち着いたらどう?今までと大して変わった訳じゃないでしょう?」
「そ、それはそうだけど……」
 本当に面白い二人ね……それがミサトの正直な感想だった。アスカの前では、とてもこの二人が基地中の女性職員に声を掛けて回っているとは思えないほど だった。
「結局シンジには会えなかった……でも、私自身は収穫があったと思ったわ」
「シェンのこと?」
 ミサトの言葉に、アスカは首を振った。
「それはおまけ、別に大切なことじゃないわ。大切なのは、ようやく私自身の気持ちに向かい合えたこと……」
「アスカの気持ち?」
「そう、私の気持ちよ……」
 ミサトの確認に、アスカは頷いて見せた。大切なのは自分の気持ちだと。
「6年前…何があったのか話してなかったわよね?退屈な話だけど聞いてくれる?」
 軽く切り出されたその言葉の重さに、全員黙って頷いた。




 ちょっと待ってね、そう言ってミサトはインターホンに向かって何かの指示を出した。それにあわせて何かが回転する低い振動が彼女の執務室に響いて きた。それが防諜装置の作動音と知るアスカは、別にそこまですることは無いのにと心の中で呟いていた。
「まあ雰囲気作りの一つだと思って。これでたいていの出歯亀は聞き耳を立てることはできないわ」
 おそらく新しいおもちゃを使ってみたかったのだろう。そこにいた全員は、ミサトの行動をそう理解した。
「あまり構えられると話し難いんだけどねぇ」
 三人のあまりにも真剣な表情に、照れたようにアスカはそう前置きして話し出した。
「加持さんの策略で、私たちはミサトのマンションで同居するようになったわ。はっきり言って、そのときの私はシンジなんかどうでもいいと思っていた。使徒 を3体殲滅したといっても、それは私が居なかったときのこと。私が参戦したからには、メインは私だと思っていたしね。それにとりあえず賄いがつくのだから それはそれで便利かと思っていたわ。ヒカリ、私のジュニアハイでの親友なんだけど、少なくとも嫌いな相手とは一緒に住めないわよね?なんて聞いてきたけ ど、それが別に好きということにはならないと思っていたわ。マイケルもステファンも分かると思うけど、身の回りに召使って居たでしょ?普通の日本人には他 人が家の中に居る感覚は分からないらしいけど、私にとっては別に珍しいことじゃなかったわ。私にとってシンジの存在なんてその程度のものだった」
 アスカのその言葉に、ミサトははっきりといって驚いた。少なくとも異性に対する意識ぐらいは持っていたのかと想像していたのだ。
「ミサトが驚くのも無理は無いわ。私もそれは少し異常だと思っている。でもね、悪い意味で私はチルドレンだったのよ。それまで私にはプライバシーなんても のは存在しなかった。私の周りには常に誰かがいて、私の都合なんかお構いなしに私の領分を侵食してきたわ。そんな中に居て生きていくには、他人に対して無 関心になるしかないじゃない。そうでもしないとすぐにノイローゼになってしまうわ」
「最初は見かけどおりのトロイ男だと思っていたわ。それなりに便利な奴と言うところも有ったしね。まあ傍に置いておいてもいいかなとは思える奴だったわ。 それにある程度手なずけておけば、私の立場上有利だとも思っていたしね。でも何時までもそうは行かなかった……あいつはいつのまにかシンクロ率で私を追い 越すようになった。そうなったらあいつは私の引き立て役ではなくなってしまう。もともとあいつはどういう関係だろうと司令の息子、そしてもう一人のパイ ロットは司令のお気に入り。どうしても私は実力を見せ付けない限り立場が弱くなってしまう。だから私は焦ったわ。でも、結局結果はついてこなかった。それ どころかその焦りは、シンクロ率の低下と言う最悪の結果しかもたらさなかった」
 そこでアスカは一呼吸起き、黙って聞いているマイケルとステファンを見た。
「最後には私はエヴァを動かすことも出来なくなった。そんな私に誰も声なんか掛けてくれなかった。口にされるのが怖くて、自虐的に自分自身を用済みだと喚 き立てもした。そして私はシンジの視線も怖くなった。いつのまにか見下していた相手よりも自分のほうが下になってしまった。そのことを私は受け入れること は出来なかった。だから私は逃げ出したわ……」
「その後は坂道を転げ落ちるようだったわ。廃墟になった第三新東京市をさまよっていたと思ったら、気がついたらネルフのベッドの上に居たわ。結局他人に迷 惑を掛けただけで、何の役にも立たなかった。誰も私のことを必要だとも言ってくれなかったし、私が居なくても使徒は倒されていったわ。その頃何があったの かなんて誰も教えてくれなかった。私はただ病院のベッドで寝ているだけの存在だったの。その後はみんなが知っているゼーレとネルフの戦いがあった。もてる 戦力のすべてを投入してゼーレはネルフを陥落させようとした。その戦いでも鍵となったのはシンジだったわ。最強の戦力である初号機パイロット、その無効化 は戦いの帰趨を決めるから当然ともいえるけどね。その戦いの中、私は再びエヴァに乗せられたわ。事情を知らなかった私は、やっぱり最後に頼りにされるのは 自分だと喜んだわ。そして弐号機も私の言うことを聞いて動いてくれた。電源は壊されたけど、量産機なんかに負けるとは思わなかった。そして実際にすべての 量産機を破壊したと思ったわ。でも、それは早計だった。倒したはずの量産機は自己修復をして復活してきた。そう何度壊してもね。向こうはS2機関を持って いて、活動時間の限界は無かった。それに引き換え弐号機はアンビリカルケーブルが切れて、3分の命……プラグの中が赤く染まり、活動限界が訪れたとき、私 は自分が死ぬときが来たと覚悟をしたわ。まだ生きていたモニタは、ロンギヌスの槍を手にした量産機の姿を映し出していた。でも、それ以上におぞましかった のは、まるで肉食獣のように量産機が牙を剥き出しにしたこと。このとき、私はどうやって自分が死ぬのか知ったわ。生きたまま食らい尽くされる。その時私は 叫んでいたわ。シンジ助けてって。笑っちゃうわよね、それまで嫌っていた男に最後にすがるなんて」
 自虐的な笑みを浮かべたアスカに、二人の男は何も言うことは出来なかった。誰にでもある闇の部分とは言え、自分達の想像から大きく離れていたのだ。
「まあ後は知ってのとおり、初号機は現れたわ。だからと言って状況が好転するわけではなかった。そうでしょ?結局戦力比は1対9のままだったし、相手は相 変わらず自己再生を繰り返してくるのよ。しかも極めつけは、シンジは重傷を負っていたわ」
「怪我をしていたのか……?」
「そりゃそうよ。ゼーレからも戦自からも真っ先に命を狙われたのよ。生きて初号機にたどり着いたのが不思議なくらいよ。そしてそんな体でもシンジは初号機 に乗ったわ。乗ること自体が、自分の命を縮める行為だと知りながらね」
 マイケルとステファンは、命を縮める行為とは敵と戦うこととだと考えていた。だが、それは続くアスカの言葉によって否定された。
「LCLは液体よ?そんな中に血を流しながら入ったら、間違いなく出血多量で失血死するわよ。でもあいつはそんなことに構わずに出撃してきたわ。私はただ の無知だと思っていたの」
 液体中に在っては血は凝固しない。すなわちそれは、傷口からひたすら血が流れつづけることを意味しているのだ。確かにそんな状態でエヴァに乗るのは、無 謀か無知かの二通りでしかありえなかった。
「でもね、あいつは私を背中でかばいながら『間に合った』って言ったのよ。それで分かったの、あいつは全部知った上で無茶をしたんだって。貧血で真っ青に なりながら、よかったといって微笑んでくるのよ。どうしてそんな真似ができるの?そのときの私には分からなかったわ」
「結局戦いは初号機が勝ったわ。でもその戦いはすさまじいものだった。量産機の再生にも限界があったとは言え、そこまでの道のりは厳しいなんてものじゃな かった。初号機の方も量産機の攻撃で、いたるところから血が噴出していたわ。そしてそれは高いシンクロ率を示すパイロットにもフィードバックされていた。 流れる血でLCLを真っ赤に変えながら、それでもシンジは戦った。後少し、もう少し量産機が死ぬのが遅かったらシンジのほうが死んでいたわ。私に出来たこ とは、その戦いを黙って見ていることだけだった」
「それでアスカは、碇シンジのことを好きになったのか……?」
 あまりの戦いのすさまじさに、ステファンはそう呟いていた。それが彼にとって納得のいく理由でもあった。だが、アスカの言葉はステファンの想像を裏切っ ていた。
「違うわ……完全に違うとは言い切れないけど。好きとか嫌いとか言ったそんな純粋なものじゃないの」
 どう言うことだという視線に、アスカは言葉を続けた。
「好きとか嫌いとか、そんな事は関係無かったのよ。私はシンジを誰にも渡す訳にはいかなかったの。分かるでしょう?世界に残されたエヴァは2体。そのパイ ロットがあたしとシンジよ。しかも弐号機の価値なんて、初号機に比べれば大した事は無いのは分かっていた。だからあたしがあたしであるためには、どうして もシンジを手に入れる必要があったのよ。どんな事をしても、シンジを私の元に縛り付ける。戦いが終わった後は、どうしたらシンジを縛り付ける方法だけを考 えていたわ」
 その時のアスカが浮かべた笑みに、その場に居た三人は背筋の凍る思いを感じた。付き合いの長かったミサトですら、アスカがそんな暗い情念を持っていたと は想像もしていなかったのだ。
「だからネルフが私とシンジを一緒に住まわせたのは、私にとって好都合だったわ。戦後処理でミサトは帰ってこなかったから、私のする事を邪魔するものは誰 も居なかった。私はゆっくりとシンジを料理すれば良かったのよ」
 その言葉の奥に潜む剣呑さに、男達二人は自分達の知らない女の怖さを教えられた。
「でもね、実際にはそんな大した事はしなかったのよ。今思い出すと、恥ずかしくなるようなことをしていたわね。たとえばシンジに料理を習ったり、一緒に掃 除をしたり。家事をいっしょにすることから始めたわ。出来るだけ可愛い女に見られようとしたのよ。滑稽でしょ?あたしの本質なんて、シンジはとっくに知っ ていたのにね。でも、私は必死だった。必死であいつの気を引こうとしたのよ。でも皮肉よね、そうすればそうするほどシンジは私から離れていったのよ。あた しはなりふりを構っていられなかった。心がだめなら、シンジを体で縛りつけようと思ったわ。夜中にシンジのベッドに潜り込んだり。バスタオル一枚でシンジ に抱きついたり。でも、あいつはそこまでしても何にもしてこなかった……あたしがそこまでしたのによ。ほんと馬鹿よね、今ならどうしてシンジが何もしな かったのか分かるのにね。はっきり言ってそのときのあたしは普通じゃなかったわ。多分目も血走っていたと思う。そんなぎらぎらとしたあたしが、料理を手 伝ったり、誘ったりして見ても引いてしまうのが普通だわ。でも、そのときのあたしにはそれがわからなかった。だから何もしてこないシンジにじれて、最悪の 行動を取ってしまったの」
 ごくりと、マイケルがつばを飲み込む音が響いた。
「シンジからこないのなら、無理やり引き寄せればいいのよ。シンジの心の中にあたしが居ないのなら、無理やり入っていけばいい。そう考えた私は、シンジを 犯すことにしたわ。買い物から帰ってくるのを息を潜めて待って、キッチンに入ったところを後ろから襲い掛かったの。気絶したシンジをベッドに運ぶとき、私 はこれから起こることに興奮したわ。ようやくシンジが私のものになる。誰にも渡すものかってね。問題があるとすれば、女と違って、男はその気にならないと 出来ないと言うことだったわ。でもそれも薬も出回っていたから、たいした障害じゃなかった。やめろと叫ぶシンジを無視して、私は自分の中にシンジのものを 突っ込んだの。初めてだったから血が出たのだけれど、それも私には都合がよかった。私は大事なものをあげたんだと、シンジに迫るのに好都合だったから。そ れからはひたすらシンジを犯しつづけたの。女性用の道具を使って、シンジの後ろも犯したわ。シンジの泣き声もうめき声も、私には心地よかった。それはシン ジの中に私が刻み込まれていく印だったから。どれぐらいそうしつづけたのか分からない……さすがに疲れたみたいで私はそのまま眠ってしまったわ。洋服のほ うは下着に至るまでシンジの手の届かないところに隠したし、ベッドにはしっかりと縛り付けてあったから油断したのよ。でも気が付いたときにはシンジは居な くなっていた」
「シンジが誰かに助けを求めに行ったと考えたとき、あたしは血の気が引く思いがしたわ。だってそうでしょ?こんなことがばれたら、私はシンジから引き離さ れてしまう。シンジと私の価値を比べたら、誰もが迷わずシンジを選ぶわ。そうなったら私はお払い箱よ。もうあたしはあたしで居られなくなってしまう。私 は、何時私を捕まえに来るのかと思って震えていたのよ。でも、それもまた違ったわ。シンジは誰にも助けを求めずに、死を選んだ。シンジが自殺をしたと聞い たとき、私は胸のつかえが降りたのを感じたわよ。そして同時に、これで自分の価値が高まったと喜んだわ。だってシンジが居なくなれば、稼動可能なエヴァは 弐号機だけなのよ。だったらそのエヴァを動かすことの出来る私の価値も当然高くなってくるじゃない。私は単純にそのことに喜んでいたわ」
「でもね、そんなものは単なる錯覚だったのよ。確かに私は大切にされたわ。大切にされたけど、私はぜんぜん満たされなかった。それどころか、胸の中に穴が あいて、それがだんだん大きくなっていったわ。でも私は、その意味を考えることを放棄したわ。そうすると自分を壊してしまいそうな気がしていたから。それ に、丁度その頃UMAの来襲が予測されたじゃない。だから私は、それに没頭することで胸の中にあいた穴を心の奥底に押し込んだの」
 そして現在に至ると、アスカは昔話をそこで終えた。アスカの話は、幸せな家庭に育ったマイケルとステファンには想像の出来ない世界だった。そのため二人 は、なんと言って声を掛ければいいのか、その言葉を見つけられなかった。
「でもアスカは、今回のことで自分の気持ちに向き合ったのよね……」
 かろうじてミサトは、そのことを口にした。
「そうよ、ミサト……私は自分のためにも、この気持ちをはっきりとさせないといけないの」
 未だ深い情念の晴れない表情をしたアスカに、ミサトは一抹の危惧を抱いていた。その伝えるべき感情は、単なる好き嫌いを超えたものであることは想像がで きた。だが、それが何であるのかは、さすがにミサトでも想像することが出来なかった。
「……それは私たちにも聞かせてくれるの?」
 ミサトの問いかけに、アスカはゆっくりと首を横に振った。
「これは私とシンジの間の問題なの。そして私の気持ちを聞くのもシンジだけ。これだけは、たとえ私の夫になる人にも教えることはできないわ」
 そうきっぱりと言い切るアスカに、ミサトはそれ以上聞き出すことは出来ないことを知った。












続く

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