UMA襲来を7日後に控え、NERVは、いや人類は新たな脅威に晒されていた。これまで味方だと思っていた存在、それが彼らに対して牙を剥いたの だ。
 まず最初に攻撃を受けたのは、各国の抱える軍事施設だった。NERVの準備にあわせ、各国もまたNERVに同調しようとしていた矢先のことだった。ただ し各国の受けた攻撃は、物理的な攻撃ではない。だがある意味、受けた攻撃はそれより悪いとも言えたかも知れない。すなわち攻撃は、各種兵器を管制するコン ピュータシステムに対して行われたのだ。言うまでも無く、近代兵器のすべてはコンピュータの完全な管制下に置かれている。その大元たるコンピュータが動作 をしなくなったら、使える兵器はすべて前近代的なものしか残されていないことになる。すべての照準システムが役に立たなくなるのだから、ミサイルと言った 兵器は無用の長物と成り果て、航空機による攻撃にしたところで、民間の管制システムまで影響を受けたためその機動性を失うことになってた。
 さらには基地のロジスティクスも役に立たず、さらには電子ロックの類はすべて誤動作をしているため、マニュアルによる運用も、簡単にはいかない状況に 陥っていた。
 そしてその混乱は、NERVにも波及していた。新生NERVの誇るエウロパ、エンタープライズ、昆論もまた、侵入者の前に防戦一方となってしまったの だ。どう考えても、これら有機スーパーコンピュータ3台を同時に相手にするなど正気の沙汰ではないのだが、こともあろうに侵入者は、その3台を相手にし て、一歩もひけを取らなかったのだ。
 それでも、NERVにはメインコンピュータシステムに頼らなくても運用できる武器が有った。それがフルスペックも含めたエヴァンゲリオンである。そして 各国の基地にしたところで、物理的損害を受けていない以上、マニュアルによる運用に推移するのは時間の問題と考えられていた。だがその点を見逃すような、 敵ではなかった。ことも有ろうに占拠されたコンピュータは、自分自身に対して照準を定めたのだ。それの意味するところはただ一つ、マニュアルによる攻撃の 封じ込めである。これによって各国の軍事力は事実上無効化された。そして人類に残された最後の兵器、エヴァンゲリオンもまた新たな危機を迎えていた。哨戒 のため出撃したスモールは、信じられない物を目の当たりにすることになった。まさにそれは、アスカの見た悪夢そのものであった。練度の低いパイロットで は、その脅威に対処する事は出来るはずはなかった。突如現れた紫色の鬼神は、瞬く間に哨戒に出ていた2体のスモールを撃破していた。























Neon Genesis Evangelion

Endless Waltz

-15th Episode-























 高揚した気分でATLに戻ったシェンだったが、その気持ちも何時までも続くものではなかった。それは彼自身が感じるユイリに対する後ろめたさと、 片付けなければならない多くの問題を抱えていたためである。その中でもオリュムポスの撃退は最優先の課題であった。何しろこの先、いくら彼の望んだように 進んでいこうとも、オリュムポスに負ければそれですべてが終わってしまうのだ。しかも、この問題に関してネルフが解決することが不可能なのである。
 そのため頭を冷やしたシェンは、朝一番でユイリを自室まで呼び寄せた。
「御用はなんでしょうか?シェン様」
 いつもとまったく変わらないユイリの様子は、それなりにシェンに罪悪感を感じさせる物だった。ユイリは何も知らないはずなのであり、自分に対して何かが 変わることなど有り得ないのは分かっているのだ。だがそれ故に、後ろめたさを感じてしまうものである。
「ああ、彼と話をしたい……」
 唐突なシェンの言葉にも、ユイリはまったく驚いた様子を見せなかった。その様子は、シェンがそうすることが分かっていたとも思えるものだった。
「彼もそう思っているようです。かしこまりました。しばらくお時間をいただけますでしょうか?部屋から着替えを持ってまいります」
「僕のを使ってくれて構わない……すまない、気が急くんだ」
「かしこまりました。では奥をお借りします」
 そう言って奥の部屋に消えていったユイリを見送り、シェンは小さく安堵のため息を吐いた。主従の関係にありながら、シェンはどうしてもユイリに対して気 後れするものを感じてしまうのだ。
「私が実の孫で無ければ、大爺様は彼女を選んでいた……」
 彼の祖父が、ユイリを彼の伴侶にしたいと考えていたことも知っていた。だが彼女の正体は、彼の祖父を落胆させた。ユイリ、いや碇シンジの辿った過去を告 白されたとき、彼の祖父は彼女の申し出を受け入れるほかは無かったのだ。せめて養子にでもと言う申し出も、ユイリはありがたいことだがと言って断ってい た。彼らにとって、ユイリが娼館に居たことなど、すでに問題ではなかったのだ。内紛を収めた手腕もそうなのだが、彼女の発するオーラは、自分の息子に勝る とも劣らないものだったからだ。
「龍家の今があるのは、すべて彼女のおかげなのだ……」
 そのことに対して恩義を感じてはいる。しかしユイリは、龍家に仕えるものとしてそれは当然のごとく振舞っていた。龍家に従うものの中にも、ユイリに対し て心酔しているものは多い。そんなユイリに対して、自由にさせすぎだと注進してくるものもいた。あまり大きな力を与えると、彼女が翻意を持ったとき大変な ことになると。だがシェンも、彼の祖父もまたそんな注進を笑い飛ばしていた。確かにユイリが反旗を翻したとき、彼らの民族は再び大きな混乱に陥ることにな る。だがそんなことはありえないことを彼らは知っていた。ユイリが決して表舞台に立とうとしないわけを。ユイリの心を知っているだけに、シェンは彼女に対 して遠慮をすることは無かった。だが、今のシェンはユイリに対して引け目を感じていた。それは、自分がユイリに対して裏切りにも似た行為をしていると言う 自覚に基づくものだった。今シェンはある意味は触れてはならないものに触れようとしていたのだ。
 だがシェンの感じていた不安、引け目も現れたシンジに聞かされた言葉によって完全に吹き飛んでいた。それほど彼にとって信じがたい言葉がシンジによって 語られていた。
「すまん、シンジ……もう一度言ってくれないか?」
 普段のシェンからは考えられないような唖然とした顔で、シェンはもう一度説明して欲しいとシンジに頼んでいた。柔らかな笑みを浮かべながら、シンジはそ れは聞き間違えでは無いのだと衝撃的な考えをシェンに伝えた。
「何度でも言うよ。シェン、僕は初号機を使って一時的に世界を征服する。君にはその協力をお願いしたい」
「ば、ばかな……何故、こんな時にそんなことを言うんだ。今はオリュムポスと戦うことを考えなくてはいけないときなんだぞ」
「君の言うことは正論だよ。もう一度言おう、たとえ初号機を持ってしても、今度来る敵には勝てはしない。考えても見てくれ。相手は人類を作り上げた、いわ ば神とも言える存在だ。そんな相手に、力で挑むことがどれだけ無謀なことかを」
 その説明は理解できた。だがそれでも何故シンジが世界を征服しなくてはならないのか、そこの繋がりはシェンの理解の範疇を越えていた。
「まってくれシンジ。君の言うことは理解できる。だがそれでも納得のいかないことが有るんだ。まず、どうして敵に勝てないと断言できる?使徒の言うことが 本当だと言う証拠は何処に有る。それに、もし彼らの言うことが確かだとして、それが何故世界征服に結びつくんだ。その短絡的な繋がりが、私には理解できな い」
 シェンの言葉を、シンジは静かに聞いていた。シェンが感じる疑問も当然のことなのである。世界を征服するという考えは、さすがに彼も持っていなかったの である。だが、彼の中のもう一人の人格、ユイリ・アンカがそうしろと彼に告げたのだ。その時彼女があげたいくつかの理由に、シンジはそうすることが正しい と理解させられた。
「まず、何故勝てないと言ったのか。僕としてはカヲル君の言葉を信じたわけだけど、ユイリはそれだけじゃない。シェン、君も初号機の力を垣間見たよね。あ の力が解放されたらどうなると思う?」
「……すまない、僕には想像が付かない」
「実は僕もそうなんだ。ただ一つ言えることは、地上のすべてを破壊し尽くすだけでは済まないと言うことさ。もし敵が同じような力を持っていたら……戦いの 果てに有る物は、結局無なんだよ。地上の生きとし生ける生物の死に果てた世界で、僕だけが残ったとしてそれは果たして勝利と言えるのかい?お互いが全力で 戦えば、もしかしたら地球が砕けるかもしれない。そんなになっての勝利など、意味のない物だと思わないかい?」
 シンジの言葉は、さしものシェンにも想像の付かない物だった。それもそうだろう、地球を破壊する力と言われても、おいそれと想像の付くものではない。
「……地球を破壊する力……そう言われても……」
「信じられ無いかい?」
 シンジに尋ねられ、シェンは素直に頷いた。
「セカンドインパクト……それを知っているね。それが初号機の元となったアダムの、ほんのわずかな力の解放から起こったとしたらどうだい?」
 う〜む、とシェンは唸ってしまった。彼自身、直接経験したわけではないが、セカンドインパクトの恐ろしさは、未だ全人類に刷り込まれていたのだ。
「まあ後から考えてくれないか。それから世界の征服だけど、これは確かに短絡的な行動だと僕も思っている。けれど、これは緊急避難でもある」
「……どういうことだ?」
「彼らが、オリュムポスに対して手を出さないのなら、別にそんなことをする必要は無いんだよ。でも、NERVを含め、誰もが一丸となって世界を襲う脅威に 対抗しようとするだろう」
「それがいけないことなのか?」
「ああ、無意味どころか有害でも有る。さっきも言ったとおり、絶対に勝てない相手なんだ。その恐ろしさは、先に襲来した奴で分かると思う。NERVどころ か人類の持っている武器では歯など立つものではない。それでも彼らは戦うことを止めないだろう」
「確かにそうだが、それでも君が世界を征服することとは結びつかないのではないか?」
「言ったとおり、これは緊急避難なんだ。これから説得して、無抵抗を徹底するにしても時間が足りないんだ。それにどうやって無抵抗を頼み込む?たとえ君の 名前を使ったところで、一笑に付されるのが関の山だろう?」
 これにはシェンも頷かないわけにはいかなかった。自分はシンジのことを信じているからこそ、話を聞こうとも思えるのだが、普通ならとても取り合える話で はあり得ないのだ。
「だが、君は碇シンジだ。君と初号機なら、世界を納得させることが出来るんじゃないか?」
 だがシェンの言葉に、シンジは寂しく笑いながら首を振った。
「一介のパイロットの言うことなど、誰も取り上げはしないよ。せいぜい臆病風に吹かれたとされるのが落ちだよ。もし僕の言葉に耳を傾けてくれる人がいたと しても、その人は多数派にはなれない。結局、人類は戦うことを選ぶことになる」
 確かにその認識は正しいものであるとシェンは思った。少なくとも彼らよりは事情を知っている自分をしてそうなのだ。であれば、何の事情も知らない者を納 得させるとしたら、どれだけの手間暇を掛けなければならないのか。それは残された一週間ではとても不可能な事だった。
「しかし…だ。世界征服がそんなに簡単に出来るのか?それこそ一週間じゃ無理な事じゃないか?」
 そのシェンの疑問ももっともなものなのである。本当に世界征服をしようものなら、無抵抗を説得するよりも多大な時間が掛かってしまう事は想像に難くな かった。だがシンジは、その問題は考えなくて良いとシェンに言いきった。すなわち自分は世界を征服しつづけなくても良いのだからと。
「どういう事だ?」
「目的が世界の征服じゃないからだよ。ほんのわずかな間、世界の軍事力を無効化出来れば良い。それはオリュムポスがやってきた時だけの事だからね」
 なるほどとシェンは膝を打った。確かに自分は世界征服と言う過激な言葉に紛らわされていたのだと。その目的が、軍事力の一時的な無効化であるのなら、方 法としてはいくつか考えられるのだ。
「なるほど、それで僕に協力して欲しいと言う事か。しかし、それだけじゃ足りないのじゃないか?エウロパ、エンタープライズ、崑崙、それぞれのスーパーコ ンピュータと世界各国の中枢コンピュータ。それを相手にするには、いささかMAGIじゃ力部足だぞ」
「それは分かっている。だからこそ君の助けが必要なんだ。それに3台のスーパーコンピュータを同時に落とす必要は無いんだ。しかもこちらはMAGIだけ じゃない。ある意味MAGIも及びもつかない生体コンピュータが協力してくれる」
「……それはどういうことだ?どこにそんな物凄いものが存在するんだ?」
「使徒だよ。使徒の中には、MAGIに情報戦を仕掛けて勝利したものが居るんだ。その力と赤木博士の力を借りれば、世界のコンピュータを抑えることは可能 だよ」
 なるほどと、シェンはシンジの作戦に納得がいった。確かに世界中のコンピュータを抑えてしまえば、軍事的に無効化したのと同じ意味を果たすことができ る。しかしそれでも解決しなくてはならない問題が残されているのをシェンは知っていた。
「確かにそれで世界中の99%は抑えられるだろう。けれど、残った1%、NERVはどうする。エヴァはエウロパのサポートなしで運用することができるんだ ぞ。エヴァが動き出したらどうするつもりなんだ?」
 そのシェンの疑問に、シンジは寂しそうに笑って見せた。その顔を見たとき、シェンには全てを理解することができた。
「まさかシンジ……君が……」
「そういうことだよ。これだけのことを仕出かすんだから、誰か悪役が必要なんだよ。さすがにそれを君に求めることはできないからね。出てきたエヴァは僕が つぶす。たとえそれがアスカの乗った弐号機で有ったとしてもね」
「どうして君たちが戦わなくてはいけないんだ。彼女だったら、君が話せば必ず分かってくれる。どうしてそうしないんだ?」
「そうするのが一番いいことだからね。全ての責任は僕一人がかぶらなくてはいけないんだ。人類を敵に回すのは、碇シンジ、この僕一人で良い」
 それはすなわち、自分に協力することで、彼女が汚名をかぶるのを防ぐと言う意味である。この試みが成功しようと失敗しようと、悪いのはすべて“碇シン ジ”であると。もちろんその背後にある思いを知らないシェンではなかった。
「なぜ彼女をのけ者にする。彼女は今も君を愛しているんだぞ。その気持ちをどうして理解してあげないんだ」
「シェン、君の口からその言葉を聞くとは意外だったよ。君はユイリに内緒にして、こっそりと点数稼ぎをしていたんじゃないのかい?」
 知られていないと思うほど能天気ではなかったが、こうして面と向かって指摘をされると決まりの悪いものである。シンジの指摘に、シェンはとっさの言葉に 詰まってしまった。
「僕はそれが悪いことだと言うつもりは無いよ。それはユイリも同じことさ。君は僕たちに束縛されずに自由にすればいい。アスカの事にしたって同じ事さ。君 がアスカの心を掴むことができるのなら、それはそれで喜ばしいことだと僕たちは思っている」
「なぜだ?君はアスカを愛しているんじゃないのか?」
「愛しているよ。でも、君も知っているとおり、それは僕だけの思いなんだ。僕は絶対に本当のアスカの思いを受け取ることは出来ない。そのことは君もよく 知っているだろう?」
「そんなことは無い。たとえ作られた思いだとしても、それは彼女の一部であることは確かだ。君は今のアスカを否定するのか?」
 シェンの剣幕に、シンジは小さくため息を吐いて見せた。
「シェン、冷静になってくれないか。確かに君の言う通り、僕の言っていることは今のアスカを否定することになる。でもそれが君にとって、どう言う不利益が あるんだ?君はアスカに心を惹かれ、そして妻にしたいと思っているんだろう。だったら敵わない相手を作り上げる必要は無いと思うんだがね」
「それは確かにそうなんだが……」
「アスカにとって、僕への思いなど余計なものなんだ。彼女は彼女自身の手で、自分の気持ちを見つけなくてはいけないんだ。それに僕は今度の戦いで、彼女に すべてを告げるつもりだ。そして、僕の存在を含めて、すべての忌まわしきものを処分する。これが僕の彼女に対する愛の証だとしたら、シェン、君は反対する のかい?」
「とにかく、僕は世界中の兵力を一時的に完全に無効化する。それだけが人類に残された道だと思っているからね。協力してくれるね?シェン・ロン」
 『ああまただ』、静かに話すシンジに対して、シェンはそう感じていた。決して激するでもなく、淡々と話してくるのだが、どうしても抗うことの出来ない迫 力がそこにはあった。だからシェンは、そんなシンジに協力を約束することしか出来なかった。




 そのころNERVドイツ本部は、パニックの中にいた。世界三箇所のNERVが同時に攻撃され、3台のスーパーコンピュータが防戦一方になっている だけではなく、哨戒に出たスモール2機が簡単に撃破されたのだ。しかもその敵と言うのが、とても信じられない相手だったのだ。
「なぜ、なぜシンジ君が……」
 スクリーンに映し出された悪夢に、葛城ミサトは呆然とそう言葉を繰り返した。少なくともUMAを撃破してくれる仲間だと信じていたのだ。それがこうして 自分たちに牙を向けてきたとなれば、その事実を信じられなくても仕方が無いことだろう。
 そしてもう一人、ミサトと同じように、いやそれ以上に現実を受け入れられなかったのがアスカだった。彼女はスクリーンに映し出された過去に、完全に状況 を忘れて飛び出そうとしていた。だがそれをマイケルとステファンの二人が許すはずが無かった。二人は生身で飛び出そうとするアスカを捕まえ、引きずるよう にして施設の中へ連れ戻した。
「放してよ。あたしはシンジのところに行くんだから!」
 そう言って暴れるアスカを、二人がかりで押さえつけながらステファンは怒鳴った。
「目を覚ませ、アスカ!やつは世界に牙を剥いたんだ。その証拠にやつはコンピュータにクラックを掛け、そして俺たちの仲間を破壊したんだぞ!!」
「違う、違う!シンジはそんなことをしない!!」
「しっかりしろ!アスカ、お前は俺たちのリーダーなんだぞ。何を取り乱しているんだ。お前が冷静になってくれなくては、俺たちは戦えない!違うか!!」
「……違う……シンジは……あたしを助けてくれた……」
 駄々っ子のように首を振るアスカに、二人は悲しい眼差しを向けた。アスカがここまで取り乱す理由、それが彼らには分かりすぎていたのだ。彼女は自覚して いないのだが、アスカが今でも誰よりもシンジを頼りにしているのは明らかなことだったのだ。それは先の戦いで、碇シンジが生きている可能性が出る前でもそ うだったのだ。アスカの心の中に作られた碇シンジ、その存在に対して無意識のうちにアスカは頼っていたのだ。そこに二人はアスカの精神の危うさを見た。
 そのとき、全エヴァの出撃命令が館内放送で告げられた。呆然としていたミサトが、職務に復帰したわけではない。総司令直々の命令発令だった。
「アスカ、お前に戦えとは言わない。だが、お前は見届ける義務がある。お前はFGのセカンドチルドレンであり、唯一残った碇シンジの仲間なんだ。お前はや つがやろうとしていることを見届け、そしてそれが間違っているのなら、止めてやら無くてはいけない責任がある。わかったなアスカ。俺たちがやつを止め る……おまえはその戦いを見ているんだ!!」
 マイケルはそう言い残すと、動こうとしないアスカを係員に任せステファンとともにスモールの格納庫へと急いだ。アスカには止めると言ったが、それが出来 る相手とは思えなかった。だがそれでも、アスカに現実を見せるためこの戦いを避けてとおることはできなかった。
「くそっ、やつは何を考えているんだ」
 単純な復讐など企てる玉ではない。こぶしで壁を殴りつけながら、ステファンは忌々しげにそう吐き捨てた。事情を知らない新人パイロットは、苛立ちを隠せ ない二人の姿に怯えていた。だが、彼らに時間は残されていなかった。初号機が地上施設を破壊しながら接近しているため、このままでは彼らは外に出ることも 出来なくなってしまうのだ。
「全員緊急出撃!エヴァンゲリオン初号機を止める。いいな!相手は化け物だ!!息の根を止めることだけ考えろ!!」
 アスカが出撃しないため、代理のリーダーとなったマイケルは全員にそう指示を飛ばした。得体の知れないUMAよりは組し易い相手とは言え、そのUMAを 葬ったのも初号機なのだ。本当に自分たちが通じるのか、彼らにはそれすらも分からなかった。それに、言葉には出ていないが、リーダーであるアスカがこの場 に居ないのが、さらに彼らの不安を煽っていた。
「アスカ……現実を見るんだ!やつは俺たちを殺しに来たんだぞ!!」
 エレベータで地上に現れた彼らは、そこで本当の鬼神の姿を見た。炎のように揺らめくフィールドを纏ったエヴァンゲリオン初号機は、文字通り紫の鬼の姿を していた。その体から発散される殺気は、経験をつんだパイロットであるステファンやマイケルすらしびれさせるものであった。
「くそっ、圧倒的じゃないか……」
 戦う前から圧倒される様に、マイケルは歯噛みをして悔しがった。これでどうしてUMAを倒すなどと言えたものか。出来ることなら逃げ出したいと思ったと き、ふとマイケルは思い至ることがあった。何故今まで自分達は逃げ出さなかったのか?
「だから碇シンジなのか……」
 UMAを前にして、逃げ出そうと言う気が起きなかったのは、弐号機の存在のおかげであることをマイケルは理解した。ならばアスカは何を頼りに勇気を振り 絞っていたのか?悔しい事だが、その存在の大きさを認めない訳にはいかなかった。未知の敵と戦っていくのに、頼りになる味方と言うのは必要なのである。ア スカにとって、自分達、いや自分は彼女を支えては居なかった。
「なのに、なぜ……」
 それほどのものを持っていながら、なぜ碇シンジはこうして人類を敵に回すのか。目の前では、仲間のスモールが初号機によって四散させられていた。先の UMA戦を乗り超えてきた手だれも、初号機の前ではなすすべも無かった。頼みの綱のロンギヌスの槍も、初号機に触れる事すら出来ず、連携した作戦もすべて 看破されことごとく打ち破られた。確認するまでも無く、戦場に残された戦力は自分とステファンの2機だけだった。
 マイケルはぎりりと歯を食いしばった。
「だが、このまま終わる訳にはいかない!」
 同じ思いだったのだろう、モニタごしにステファンと肯きあい、マイケルは新しい愛機を初号機へと突進させた。どのような作戦も通じないのなら、正面から ぶつかるしか方法は残されていない。
「お前なんかに、アスカをやらせるかぁ!!」
 叫び声とともに突進したマイケルが最後に見たのは、首を跳ね飛ばされた相棒の姿だった。







続く

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