エヴァLC  


ふぁ〜すといんたーみっしょん

『お見舞い』

 


 その朝、二年A組の教室は、いつもと違う様相を呈していた。
「おいおい」
 となりのB組の担任、加持リョウジがドアを開けて顔を出した。
「もうちょっと静かにしてくれんか? うるさくてこっちが授業にならん」
 それにこたえたのはこの教室の主、葛城ミサトである。
「ごめんねー加持くん。今日、ちょっち委員長の子が休んじゃっててね」
「それだけでここまでうるさくなるのか? しょーがないクラスだな」
「わるかったわねえ。あんただって去年のクラスじゃ似たよーなもんだったじゃないの」
「はて?」
「ごまかさないの!」
「へいへい、わかったよ。じゃ、我慢してやるからあした昼飯おごりな」
 そう言いのこして加持は身をひるがえした。
「誰が!」
 そのガラス越しの後ろ姿に、ミサトは普段の整った顔立ちからは想像もできないような『アカンベ』をかます。偶然間近でそれを見てしまった女子生徒が凍りついた。
 が、次の瞬間、ミサトの表情はもう元に戻っている。
「しかし、困ったもんねぇ。洞木さんがいないと、こうも収拾つかないとは」
「あの、ミサト先生…」
 さきほど見てはならないものを見てしまった生徒が、恐る恐るミサトに質問した。
「ヒカリちゃん、なんでお休みしてるんです?」
「んー、なんか風邪で熱出しちゃったみたい。まあ、自分で電話してきたくらいだから、そんなに心配しなくてもいいと思うけど」
「でも、あのコ去年皆勤賞だったし、ちょっとやそっとの風邪くらいじゃ休んだりしないないコなんですよ」
「…そーなの?」
 これでも担任の教師だというのだから片腹痛い。この調子でいったいどこまで生徒のことを理解しているのやら。
 そして、少し離れた場所でその話を小耳に挟んだのは、転校からもう数カ月が経ち、いまではすっかりクラスに溶け込んだ綾波レイであった。
「ねえねえ、ヒカリちゃん風邪でお休みなんだって。今日ガッコ終わったらさ、お見舞いに行かない?」
 その言葉に、なにかひらめいたような顔をしたのは、惣流アスカ・ラングレー。その蒼みがかった瞳を、隣でくっちゃべっている三人組に向けた。
「おい、三バカトリオ」
「だからその呼び方やめえっちゅーに!」
 十把一からげの、しかも不名誉な呼ばれ方に真っ先に反抗したのは、そのリーダー格であるジャージ男、鈴原トウジであった。
 さらにいきりたつトウジを抑え、その向かいに座っていた気の弱そうな少年が聞き返した。
「なに? アスカ」
「あんたたち、いつもヒカリに迷惑かけてんだから、こういうときはまっさきにお見舞いに行かなくちゃねぇ?」
「じょ、じょーだん言わんといてくれ。だれがあないな口うるさい女のところへ…」
「なに言ってんの! あんたが一番世話焼かせてんでしょーが!」
 トウジはさらになにか言おうとしたが、今度は窓際に座っていたメガネをかけた少年、相田ケンスケに止められた。
「まーまー、いいじゃないか。いまだってトウジ、『今日放課後ヒマやなぁ』って言ってたじゃない」
「それとこれとは…」
 口の中でなにかブツブツ言っていたが、トウジはすぐに顔を上げた。
「ええわい! 行ったろーやないか。いいんちょの鬼のカクラン、じっくり拝ませてもらうわ」
 洞木ヒカリは、男子の大半からは『委員長』と呼ばれている。
 それよりも、この少年が「鬼の霍乱」という難しい言葉を知っていたのはちょっとした驚異だ。
「あんたねぇ…」
 トウジの憎まれ口に、アスカは文句を言おうとしたが、シンジがそれをさえぎった。
「いいじゃないかアスカ。ほら、トウジはああいう性格だからさ」
 こう耳打ちしたシンジの言葉に一瞬アスカは納得したかに見えたが、すぐにハッとなりシンジのほうに向き直った。
「あんた、いつからあたしにそんな偉そうな口がきけるようになったわけぇ!?」
「ご、ごめんアスカ。そんなつもりじゃ…」
「なにすぐあやまってんのよ! あんたそれでもオトコ?」
「そんな…」
「もういいわ。とにかく、授業が終わったら教室に残ってよ。いいわね?」
 アスカは、返事も聞かずに女子たちの輪に戻ってしまった。

 ちなみに、これらはすべて授業中の出来事である。
 普段生徒を注意することに慣れていないせいせいか、そのタイミングを逸してしまったミサトは、がっくりとうなだれた。
「洞木さん…、早く帰ってきてぇ…」


「ねえアスカ」
「なによ」
 先頭を行くアスカをシンジが呼び止めた。
「やっぱりおかしいんじゃない? 風邪のお見舞いにバラの花束なんて…」
「うるさいわねぇ。いーじゃないの、お金のほとんどは『今日用事があるからダメなんだ、ごめんねシンジ君。かわりに花代を渡しておくよ』ってカヲルがくれたんだから」
 アスカが、そのキザな少年のしぐさをまねした。わりとよく似ている。
「でも、かなり目立ってるよこれ…三十本はあるんじゃない?」
 トウジが持つことを強固に拒否したために、アスカの命令でその花束はシンジが抱えていたのだが、道行く人ほとんどの視線を集めていた。
「それでいーのよ。文句あるんだったら帰ってもいいわよ」
 しかし返事は別の方向から返ってきた。
「ほな、おいとまさせていただきます」
「あんたはダメ!」
「なんでシンジは良くてわしはだめなんじゃ!?」
「どーしてもよ!」
「まぁまぁ」
 間にレイが割って入る。
「アスカも鈴原君もそう興奮しないで。二人でバラの花束以上に人目引いてるわよ」
 その言葉に二人は辺りを見回すと、静かになった。
「…シンジ、ちょっと来なさい」
「なんだよアスカ」
「いいから! …みんなは先行ってて。すぐに追いつくから」
「わかった。じゃ、行きましょ」
 あっけに取られている他の二人を押すようにして、レイは再び歩き始めた。
 アスカは、裏路地のような所にシンジを引っ張っていくと、腰に手を当てた仁王立ちの態勢でシンジの逃げ場をふさいだ。
「シーンージー」
「は、はい?」
「あんたは! 人の邪魔ばっかりしてないで、少しは協力したらどうなの?」
「協力するって、…なんのこと?」
「あんたバカァ? 鈴原のことに決まってるじゃないの」
「トウジがどうかしたの?」
 アスカはコケそうになった。
「ここまでニブいとは…。もういいわ。これからシンジはあたしの言うとおりにすること。文句も言わない。つぎ邪魔したら即刻ハッ倒すからね!」
 シンジの消極的な瞳にいくつものクエスチョンマークが浮かんだが、それでも物分かりの良すぎる少年は、こうこたえる。
「なんだかよくわかんないけど、わかったよ」
「よし。じゃ、ちょっと耳貸しなさい」

「ここが委員長の家かぁ」
 このケンスケの声には、特に感慨はないようだった。なにしろ、ヒカリの家は絵に描いたような『ふつーの家』だったからだ。
 二階建て一軒家、築二十年くらいか。偶然にもその場にいた全員がマンション住まいだったが、近い将来首都になるとはいえ、このくらいの家はいくらでもある。
「シンジ、靴のヒモがほどけてるわよ」
 ふいに、アスカがシンジに指摘した。
「あ、ほんとだ。…トウジ、結び直したいからちょっとこれ持っててくれない?」
 少しぎこちないセリフと共に、シンジはトウジに花束を渡した。これは、アスカにそうしろと言われていた行動だった。
「しゃーないなぁ。早よせえよ」
 トウジは、アスカの思惑どおり花束を受け取った。
 アスカがレイに目配せをした。うなずくレイ。
 ひとつ咳払いをすると、アスカはインターホンに手を伸ばした。
 ぴんぽーん  その音がなり終わるか終わらないかの内に、二人は行動を開始した。
 アスカはケンスケの、レイはシンジの腕を取り、
「相田、ちょっと来なさい」
「碇君、ちょっとお願い」
 シンジとケンスケは言葉を挟むヒマも無く、それぞれ別の方向に女の子に引っ張って行かれる。あとに残ったのは左右に首を巡らせうろたえるトウジだけだった。
「お、おい、おまえら、どこ行く…」
 そのとき、トウジの目の前のインターホンから、女性の声がした。
『はい、どなたですか?』
「あ、あの、いいんちょ、あ、いや、洞木…ほらき、なんやったっけ…、あ、ヒカリさんのクラスメイトの者ですが、その、お見舞いに…」
『あ、ヒカリの? どうぞ、あがってください』
 困惑いっぱいのトウジの言葉だったが、なんとか相手に意図は伝わったらしい。
 トウジは、あたりを見回したが、すでに四人は視界から消えていた。
「あいつら…、いったいなんのつもりや」
 このままここからいなくなるわけにもいかず、しかたなくトウジは一人で洞木家の門をくぐった。
 ドアを開けたのは、ヒカリより少し年上のショートカットの女性だった。
「どうぞ…うわぁ、すごいわね、バラの花束?」
「い、いえ、これにはいろいろと事情がありまして…」
 すっかり気が動転しているトウジは、話す言葉が標準語になっている。
「ふーん、なんだかわかんないけど、あがって。あの子さっきまで起きてたから、まだ寝てないと思うわ。…あ、あたしはあの子のお姉さんのコダマ。けっこう似てるでしょ?」
「はあ。それじゃ、お邪魔します」
 花束を抱えたまま、トウジは苦労して靴を脱いだ。
「どうぞ。あの子の部屋は二階よ」
「はあ」
 言われるままにトウジは、コダマについて階段を昇っていった。
「ヒカリー、起きてるー?」
 昇りながらコダマはヒカリに声をかけた。
「んー、起きてるよー」
 トウジには『いいんちょー』として、コダマには妹として聞きなれているヒカリの声が返ってくる。トウジは、意味もなく緊張していた。
「クラスメイトの子がお見舞いに来てくれてるわよ。入ってもいいかしら?」
「え…ちょっと待って」
 フスマ越しに返ってきた言葉から待つこと数秒。
「いいわよ。入ってもらって」
 その声を聞くと、コダマはトウジの肩をぽんとたたいて階下に降りていってしまった。
「それじゃ、ごゆっくり」
 「そないなコト言われたかて…」という表情を顔に浮かべたまま、トウジはしばらくオロオロしていた。
「どうしたの? 入っていいわよ」
 ふたたびフスマの向こうから声がした。
 トウジは意を決し、ひとつ咳払いをしてフスマに手をかけた。
「ほな、失礼するで」
「え?!」
 断りと同時にフスマを開けて入ってきたトウジを見て、ヒカリは目をまんまるにした。
「わ、割と元気そうやな」
 ぎこちない笑みを顔に張りつけたトウジを、ヒカリはじっと見ている。
「す…ずはら?」
「おう」
 そう言ったきりふたりとも言葉を無くしていたが、しばらくしてヒカリは、自分の姿がパジャマであることに気がついた。
「きゃ…」
 あわててベッドにもぐりこむヒカリ。しかしトウジには、その行動があまりよく理解できなかったらしい。
「どしたんや? いいんちょ」
「〜〜〜っ」
「顔赤いで。どこぞ悪いんちゃうか…って、風邪やったな。ボケたわ。ははは」
 トウジもヒカリも、いつもの調子ではなかった。
 「気まずい」
 ふたりの間に流れる空気が、そう語っている。
「す、鈴原…」
「な、なんや?」
「その花束…すごい派手ね。あんまりお見舞い向きじゃないような気がするけど」
 ヒカリは、なんとかいつもの雰囲気に戻そうと、憎まれ口を聞こうとしているらしい。
「ん? ああ、そうやな。わしもそう思う」
 しかし、トウジの方が素直に認めてしまったので、その会話はそこで途切れてしまった。それはそうだろう。この花束はトウジが選んだわけではないのだから、文句を言われても怒るすじあいはない。
「来てもらってこんなこと聞くのもなんだけど、…なんで鈴原があたしのお見舞いになんか来たの?」
「ああ、それが、…さっきまでな、惣流たちも一緒やったんや。けどな、なんや、わしだけ残して逃げてしまいよったんや。わけわからんでほんま」
「あ…、そうなんだ」
 ヒカリの言葉には、納得と落胆が入り混じっていた。
「じゃあ、ここまでアスカちゃんたちに無理やり連れてこられたのね」
「いや、きっかけはたしかにあいつらやけど、ここまで来たんはわしの意志じゃ」
「そ、そう」
 今度は、ヒカリの言葉からうれしさの雫がこぼれた。
 敏感な、いや、普通の感覚の持ち主なら、ここでヒカリの気持ちに気づいてもおかしくはない。だがここにいるのは、クラスの中でも特に鈍感な三バカトリオの、さらに随一の鈍感男、鈴原トウジであった。
「なんや、わしがいいんちょの見舞いに来たらあかんかったか?」
 ヒカリの気持ちなどまったく気づくそぶりもない。
「いくらやりおーとっても、いいんちょも女やしな。病気のときくらい一時休戦じゃ。ええやろ?」
 この言葉にも、ヒカリは恋する乙女らしい実に素直な反応をした。
「なに言ってんのよ、バカ」
 そう言ってヒカリはトウジに背を向けた。その理由も、トウジはろくに認識してはいない。それどころか、
「わしも嫌われたのぉ。そんじゃ、そろそろおいとまするわ。病人のところであんまり長居するのもなんやし」
「ぇ…」
 「もう?」という言葉をかろうじて飲み込んだ。ヒカリの瞳は、熱のせいだけではなく、潤んでいる。
「花は、お姉さんに渡しとくで。あ、これはわしらの共同出資やから。…といっても、大半はカヲルが出したんやけどな」
「う、うん…」
「しかし、今日はほんまにおとなしいな、いいんちょ。なんや張り合いないで。まぁ、病気なんやからしゃーないけど」
 そう言われたヒカリの心境は複雑だった。
「あら? もう帰るの?」
 コダマが、ふたたび顔を出した。
「せっかくお茶持ってきたのに」
「はあ、えろう気ぃ使わせてしもてすんません」
「いいのよそんなこと。ヒカリの友達で男の子がうちに来たのは始めてですもんね」
「お、お姉ちゃん、なに言い出すのよ」
「あーら、ほんとのことでしょ?」
「…しらないっ」
 このようなやりとりが目の前で展開されたにもかかわらず、トウジはいまだ何も気づかずにいた。ここまでくるとわざとそんな素振りを取っているかのように思えてくるが、彼は真実鈍感なのであった。
「それじゃ、わしほんまに…」
「そぉお? 残念ね…。ヒカリが元気だったら洞木家自慢の家庭料理を食べていってもらうのに。あ、でもここに来た理由自体が、『ヒカリが病気だから』だったっけ。んー、あたしもノゾミも料理は苦手だからなぁ」
「あれ? いつもいいんちょが料理してるんですか?」
「委員長?」
「あ、ヒカリ…さんのことです」
 トウジは、今日この日までヒカリのことを『いいんちょ』以外の名前で呼んだことがないのに気づいた。ヒカリのことを『洞木』と呼ぶのも『ヒカリ』と呼ぶのも違和感を感じるのだ。
「ええ、そうよ。うちは父も母もいま海外でね、女三人でうちをきりもりしてるの。とは言っても、料理をはじめ家事一般はだいたいヒカリに任せちゃってるけどね」
「へえ、そうやったんですか…」
 トウジはそこで、視線をヒカリのほうにやった。いつもとちがう、軽い尊敬のまなざしだった。
 ヒカリは、少し恥ずかしそうにうつむいた。
「わしの家でも、親があまり家におれへんのです。せやから、わしと妹でいろいろやってるんですけど、わしはこのとおりガサツやし、妹はまだ小学三年生。けっこう苦労してますわ」
「へえ、そうなんだ」
 今度は、ヒカリが意外そうにトウジを見た。
「ほかのことはともかく、料理がまた苦労するんですわ。せやから、出来合いのモンで済ませてしまうこともようあります」
「そういえば鈴原って、お昼いつも購買のパンだね」
 日ごろ思っていたことを、ヒカリは口に出した。
「ああ。さすがに弁当までは作っとるヒマがないねん。朝もわりと忙しいしな」
「じゃ、じゃあさ、鈴原のお弁当、あたしが作ってあげようか?」
 ヒカリにしてみれば、勢いとはいえこの提案は相当の勇気を必要とした。告白にも等しいのだから。
「ほ、ほら、いつも三人分つくってるとさ、材料とか余っちゃうんだ。三人分も四人分も手間はそんなに変わんないしさ…」
 あとのフォローをこうやって一所懸命にいれるあたりが、ヒカリらしい。
 そしてそれに対するトウジの答えは、意外なほどあっさりしたものだった。
「それは…、願ってもないことやけど。ほんまにええんか?」
「…うんっ」
 ヒカリは、病気などどこかに行ってしまったかのように、力強くうなずいた。
 しかし、トウジのほうは、病気のこともしっかり心にとどめている。
「ま、その前に風邪をしっかり治してもらわんとな。ゆっくり養生せえや」
「そうそう。しっかり治したらさ、」
 しばらくふたりに無視されていた観のあるコダマが、さらに提案を付け加えた。
「鈴原君、いっぺんうちに晩ごはん食べに来なさいよ。妹さんも連れてさ。たまにはラクしてちゃんとしたものを食べるのもいいでしょ? それに、お弁当なんかじゃなくて、ちゃんとしたヒカリの料理を食べてもらいたいしね。姉のあたしが言うのもなんだけど、ヒカリの料理ってほんとにおいしいから」
「やだ、お姉ちゃん…」
「あら、ヒカリ、なにか不都合?」
「べつに、そんなことないけど…」
「鈴原君も、いい?」
「ほな、お言葉に甘えさせていただいて、近いうちにお邪魔します。ハルミも喜ぶと思いますわ」


『…ってね、お姉ちゃんたらさぁ』
 その日のうちに、ヒカリはアスカに電話で事のてんまつを伝えた。
「そう、よかったじゃない」
『でもアスカ、鈴原をひとりでうちに来させるように仕向けたでしょ。ちょっとやりすぎよ。鈴原が帰ったあとお姉ちゃんに散々からかわれたんだから』
「アハハ、ごっめーん。でも結果オーライでしょ? あの朴念仁は、これから毎日ヒカリのつくったお弁当食べるわけだし、それに今度、『夕食にご招待』なんでしょ?」
『きゃー、言わないで言わないで! あたしどうしようか今からドキドキしてるんだから!』
「まったく、あのバカも幸せもんよね。はっきり言ってあいつなんかにヒカリはもったいないわ」
『それ以上言ったら、アスカでも怒るわよ』
「はいはい。しっかし、それにしてもあいつのどこがいいワケぇ?」
『え? えーっとぉ、やさしいとこ…かな』
 アスカには、受話器の向こうで頬を赤らめるヒカリの姿が容易に想像できた。
「…うーん。優しい、かあ。あたしにはわかんないわ」
『いいのよ、それで。わかっちゃったら、アスカも鈴原のことを好きになっちゃうもん』
「じょーだん! だれがあいつなんかに」
『あ、ひどーい』
「アハハ…」
 少女たちの夜はふけていく。


 ──そして、数週間後のこと。






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