LAS Production Presents

 

 

 

Soryu Asuka Langley

 

in

 

 

 

starring

Shinji Ikari

 

and

Rei Ayanami

as Misty Girl

 

 

Written by JUN

 


 

Act.2

R E I  

 

-  Chapter 3  -

 

 

 

 

 

 

 浜茶屋の閉店時間が来た。

 まだまだ明るいので泳いでいる人間は結構いるのだが、時間的に開けていても儲けにならない。

 それに今日は肝試しの準備があるので、片付けは早い。

 アスカたちは民宿の方に戻って、肝試し用の服装に着替えて来るそうだ。

 さすがに水着で夜に出歩くわけにはいかないからだ。

 かといって浴衣ではあるまいし、蚊に食われないようにパンツルックだろう。

「いいか、この肝試しが成功したら、次は花火大会だ」

「おっ!ええのう、そりゃあ絶対に成功ささんと」

「そうだね。本当に楽しみだね」

 シンジは二人に調子をあわせたつもりで発言した。

 ところが返ってきたのは、冷たい視線だった。

「おい、シンジちょっと違うぞ、お前」

「せや、ワシらはイベントを成功させたいと言っとるんや。楽しみやとは言うてへん」

「えっ…、でも、トウジは楽しみじゃないの?」

 トウジはたじろいだ。

 確かにヒカリと二人きりの肝試しは楽しみで仕方がない。

 ただ、それを表情や言葉に出すのはトウジの気性としてはできかねる。

「た、た、楽しみやなんて、あ、あ、あらへんわい」

「言葉が思い切りつまってるぜ、トウジ」

「そ、そ、そんなことあらへんで」

「お前も素直になれよ、トウジ。うかうかしてると夏が終わってしまうぞ」

「せ、せやけど…」

「馬鹿だな、好きなら早く告白してしまえよ。きっと大丈夫だぜ」

 実はもう告白済みであることは、二人に秘密にしてある。

 しかも、OKを貰っていることなど、恥ずかしくて言えるわけがない。

「お、おう…、すまんの」

 とりあえず頷いてはおいたものの、ケンスケの友情には感謝するトウジであった。

 もっともその友情は、“みんなラブラブにしてマナを孤独にして俺とくっつくように仕向ける”大作戦に立脚していた。

 トウジがのんびりしていては計画に差し支える。

 だからケンスケはトウジの背中を押しているわけだ。

 シンジはそんな二人のやり取りを見て、男同士の友情もいいもんだと思った。

 彼が考えているような、単純な友情ではなかったが。

 もっともシンジだって、二人との友情とアスカの愛のどちらかを選べと言われれば、躊躇いなくアスカを選んでいることだろう。

 そんな3人の少年が待ち望んでいる少女たちは今……。

 

「ちょっと、マナ、そんなホットパンツ穿くの?」

「ん、変かな?」

「だって、蚊に刺されちゃうよ。そんなに剥き出しにしちゃうと」

「はん!きっと馬鹿シンジに見せつけて、悩殺しようだなんて思ってんでしょ」

 大正解である。

「そういうアスカもど〜してワンピースなのよ。そんなの全然肝試し向きじゃないじゃない」

「そうよ。枝とかに裾を引っ掛けちゃうわよ」

「そんなの大丈夫よ!」

「どこから来るのかなぁ、その過剰な自信は。碇君が可哀相。きっとアスカに振り回されるに決まってるわ」

 それも正解である。

「でも、ヒカリの方は完全武装しすぎじゃない。そんなに着たら汗かいちゃうよ」

 マナはアスカに切りつけた刀でヒカリにも襲いかかった。

「そうそう、そんなのあの関西弁に嫌われちゃうわよ」

 今度はアスカがマナと手を組んだ。

 女性という種族はよくわからない。

「えっ!そうかな?」

 ヒカリが少しうろたえる。

「そりゃそうよ。あんなジャージ男でもね」

 ヒカリは言葉が出てこなかった。

 確かにジャージは浜茶屋で働くために着ていたのだと思っていた。

 その夜、宿直の浜茶屋でもジャージだった。

 まあ、パジャマの代わりにしているのだろうと思った。

 昨日、夜にこっそり会ったときもジャージだった。

 さすがに3枚とも違うデザインだけに、ヒカリにも察知できた。

 単にジャージが好きなのだと。

 もしかして、都会でデートする時も、あの人はジャージなのだろうか?

 そんな先の心配までしてしまうヒカリであった。

 顔を赤らめて黙り込んだヒカリを見て、マナは次の攻撃目標をアスカに定めた。

「そうそう、キスしたら気をつけないとね」

 アスカは自分の顔をにやにやして見るマナを睨みつけた。

「何よ」

「キスした後、ちゃんとうがいをしないと唇が腫れちゃうんだよ」

 マナはアスカを騙せると確信していた。

 さっきアスカがシンジと間接キスをした後、何もしていないことも確認済みだ。

 晩生のアスカなら、こんな馬鹿げた話でも信じそうである。

 マナはアスカの顔を覗き込んだ。

 アスカの顔がわずかに歪んだ。

 くっくっく、たまには勝たせてもらわないとね。

 マナが勝利の瞬間を今まさに味わおうとした時である。

「う、嘘…」

 余にも悲惨な声に振り向くと、ヒカリが唇を押えて立ちすくんでいた。

「そ、そんなの嘘でしょ?キスした後にうがいしないといけないなんて、私…私、聞いたこともないわ」

 モロバレである。

「ヒカリ…、あなたもうキスしちゃったの?まだ会って3日もたってないじゃない!」

「ど、どうしてわかったの?」

 類は友を呼んだようだ。

 この3人は揃いも揃ってへっぽこである。

 エスカレーター式女子学園では時々このようなへっぽこを産出する。

「し、仕方ないんじゃない…の。そ、そんなことだってあるわよ」

 アスカはヒカリをかばった。

 当然であろう。

 彼女はディープキスまで経験しているのだから。

 かばいながらも、アスカは不安だった。

 

 あの後…。

 シンジに舌を入れられて口の中を蹂躙された後…。

 泣きながら民宿へ走って帰ったときのことである。

 口の中に残る、シンジの舌の感触。

 胸がどきどきして、頬が熱い。

 ああ、気持ちが悪い。

 アスカは自動販売機の灯りを見つけた。

 腕を組んで何を選ぶか熟考するアスカ。

 コーヒー……味が濃すぎて何かいや。

 コーラ……炭酸で口の中がいっぱいになるからいや。

 ジュース……甘すぎていや。

 紅茶……ストレートがないから、甘いのばかりでいや。

 お茶……刺激はないけど…やっぱり味が…。

 結局、アスカはミネラルウォーターを選んだ。

 何故それを選んだのか、アスカ自身よくわかってなかった。

 いつもなら味がほとんどしないミネラルウォーターなど飲むアスカではない。

 ディープキスにショックを受けたものの、無意識にシンジの感触を消したくないと思っていたのだ。

 だから、一番味が薄い飲み物を選んだ。

 そして、ミネラルウォーターを含んで口の中でころがした。

 まるでシンジの舌のように動く液体。

 アスカは…、そのまま飲み込んだ。

 うがいをしようなどとは一瞬も考えなかった。

 しかも、2回その行為を繰り返した後、アスカは近くの花壇の朝顔に残りを優しく振りまいた。

 明日も綺麗な花を見せてね…と囁きながら。

 

「どうしたの、アスカ?ぼけぼけになってるよ」

「へ?」

 想い出に浸っていたアスカは現実に引き戻された。

 そもそもマナがキスしたらうがいをしないと唇が腫れると言い出したからだった。

 あんなに派手なキスをしたのに、アスカはうがいをしなかった。

 どんな唇になってしまうというのだ?

 せっかくの柔らかな想い出が、強迫観念となってアスカに襲い掛かった。

「マ、マナの嘘吐き。ほ、ほら、ヒカリの唇は腫れてないじゃない」

 アスカの必死の発言に、胸を撫で下ろすヒカリ。

 うん、さっきリップ塗ったときに確認したもの。

 今日の肝試しに備えて丹念にリップを塗っていた彼女である。

 マナは作戦を続行した。

 こいつら相手ならまだまだ楽しめる。

「あら、知らなかった?あれは2日後に腫れるのよ」

「ええっ!」

 唇を押える二人。

 マナは不適に笑った。

「間接キスの方は少しは腫れも少ないかなぁ。

 ヒカリは明日になったらタラコ唇になってるかもねぇ」

「そ、そんな…私、そんなに長い間してない」

「ふ〜ん、それはよかったわね」

 マナは嘘の上塗りをした。

 それがアスカに対して必殺的な効果を与えることを知らずに。

「もしディープキスなんかしていたら、取り返しがつかないところだったわよ。

 そんなことをしたら唇どころかホッペまでパンパンに膨れてしまうところよ」

 アスカは咄嗟にその頬を押えようとしてしまった。

 もし、そんなことをしたら、さしものへっぽこマナでも気が付くに決まってる。

 その時、救いの天使が現れたのだ。

 金髪で…黒い眉毛をした天使が。

「ちょっといいかしら?それは科学的には認められていないわ」

 ふすまを開けてずかずかと入ってきたリツコは、平机に座った。

「嘘を吐くならもっと巧い嘘を吐きなさい。

 もし本当ならこの海辺はタラコ唇の女性だらけになってるところよ。

 若しくはうがい用の自動販売機が5mおきに設置されているでしょうね」

 アスカは心の中でパンと手を叩いた。

 その通りだ。危ない危ない。このアスカ様ともあろうものが、マナごときに騙されるところだった。

「えっと…どなたですか?」

 部屋の真ん中で机に座り込んでいる見知らぬ女性にマナはおずおずと声をかけた。

 ヒカリも一歩…いや、三歩は退いている。

「あら?いやねぇ。どうして紹介してくれないの?アスカ」

 そんな暇がどこにあった?

 しかし、助けてもらったアスカは素直にリツコのことを二人に紹介した。

 とりあえずアスカの知人だとわかったので、ヒカリは二歩進んだ。

 まだもう一歩分は警戒しているようだ。

「で、何の用よ?」

「あら?言ってなかった?」

「言ってない」

「貴女のシンジ君を貰える?」

 

 部屋の時間が止まった。

 

『貴女のって、何よ。碇君はアスカの所有物じゃないわよ。それにどうしてあんな年増に碇君を取られないといけないのよ』

『この人。なんだか怖い。でもアスカっていつの間に碇君を完全に手に入れたの?』

『くわっ!リツコってシンジみたいなのが好みなわけ?信じらんない!いくつ離れてると思ってんのよ!』

『少し言葉を端折り過ぎたかしら?貴女の子分のシンジ君を貸して貰える?だったんだけど…、まあいいわ。意味はわかるでしょ』

 

 沈黙してしまったアスカにリツコは首を捻った。

 強情な子ね。

 仕方がないわ。こうなれば…。

 

「ただでとは言わないわ。貴女の水着代。チャラでいいから」

 

 ブチン!

 

 ヒカリにはその音が確かに聞こえた。

 

「いい加減にしてよっ!

 ど〜してあんな水着とシンジを交換しないといけないのよっ!

 シンジがいくら馬鹿シンジでも、シンジはあんな安物じゃないわっ!」

 

「あら?そうかしら。私はかなり奮発したつもりだけど?」

 

 民宿中に響きそうなアスカの怒鳴り声に、リツコはさらりと返した。

 そして、その内容にアスカは激怒した。

 数秒後には、平然と机に座り続けるリツコの前で、両足を届けとばかりにバタバタさせるアスカ、

 その彼女の両脇で必死に押えようとしがみついているマナとヒカリの姿があった。

 いわゆる“松の廊下”状態である。

 さすがにマナも目の前で乱闘は見たくない。

 必死にアスカの身体を押えた。

 口から火、目から怪光線を出しそうな勢いで、アスカはリツコに罵声を浴びせ続ける。

 そんな荒れ狂う彼女を目の前にして、リツコは相変わらず平然としていた。

 アスカが何を怒っているのか、全く理解できないのだ。

「お願い。少し黙ってくれる?何を言ってるのか理解できないわ」

 無意識に、火に油を注ぐ女。

 リツコはニコリともせずにアスカに言った。

 アスカはさらに暴れた。

 リツコは大きな溜息をついた。

「仕方がないわね。出直すわ」

 すっと立ち上がると、振り返らずにスタスタと廊下に出て行くリツコ。

「出直すって、二度と来るなぁっ!」

 アスカはその後しばらく暴れつづけた。

 その結果……。

 3人とも汗びっしょりになったので、もう一度お風呂に入り、別の服を着る羽目になった。

 マナのホットパンツも、ヒカリの完全装備も、そしてアスカのワンピースも計画倒れとなった。

 結局、Tシャツにジーパンというお揃いの格好になってしまったのだ。

 

 待ち合わせの時間は午後8時。

 予定では2時間くらいでお開きにして、シンジは一人寂しく浜茶屋の宿直に向かう予定だ。

 アスカがまだお泊りをする気であることをシンジは知らない。

 

「で、行き先はどこなのよ?」

「あ、えっと…僕は知らないんだ」

 頭を掻くシンジを見て、アスカはどうしてコイツはこんなにぼけぼけなんだろうと思った。

 こんなのだから、親分の私がしっかりしてないといけないんじゃない。

「じゃ、説明するからこっちに来て」

 民宿の駐車場にケンスケは即席の地図を書いた。

「この民宿から北東に伸びる道…、あれだ」

 ケンスケは実際の道を指差した。

 他の道よりも少し細めであり、入り口に“この先行き止まり”の看板が立っている。

「あの道をずっと進むと小さな神社がある。そこが第1チェックポイントだ。

 さっきそこの狛犬の足元にビー玉を置いてきた。それをとってくる。いいね」

 頷く一同。

 流石はサバイバルで慣れているケンスケだ。

 見た目よりも指示や説明が巧い。

「その神社からさらに道を進む。少し上り坂になってるから。

 登り切ったところに大きなくすのきがある。

 その根元に折鶴が置いてある。それも取ってくる」

 なんだかあまり怖そうじゃない。

 ヒカリが何となく安心しかけた時、ケンスケがその様子を見てにやりと笑った。

「そして、次が本日のメインイベントだ。

 くすのきから右に曲がると、何故か突然アスファルトの道に出る。

 その道はこの町からは車で入ることができないんだ。

 この町と隣町の間から分かれてる道なんだけど、今はほとんど使う者がいない」

 ケンスケはそこで言葉を切った。

 女子チームはごくりと唾を飲み込んだ。

「ど、どうして使わない道なのよ」

 少しつまりながら、アスカが質問する。

「それは、その道の先には建物が一軒しかないからなんだ。

 火事で半分焼け落ちた別荘がたった一軒あるだけなんだ」

 ヒカリは言葉を失った。

 それは怖い。

 そして、ケンスケの説明はさらに恐怖感を増す効果があった。

 2年前の年末にその別荘は火事に見舞われた。

 そしてそこからそこを利用していた家族の焼死体が発見されたのだという。

「そ、そ、そんなところに行くの?」

 マナの悲鳴にケンスケは心の中でバンザイをした。

 やったぜ、本当は焼死体なんかなかったんだけど、これで演出効果はバッチリだ。

 半ば焼き落ちた洋館を見て思いついた話だったが、上手くすると上手くするかも。

 俺たちは3番目だから、真っ暗になってるはずだし、大進展って可能性も…。

 先走る妄想は大抵成就しない。

 ケンスケはせっかくの17年間の経験をしっかり忘れている。

 

 1番目はトウジとヒカリ。

 出発する時は二人の間には30cmほどの間隔が開いていた。

 ケンスケは望遠カメラを構えた。

「おいおい、だんだん距離が近づいていくぞ」

「こんなに薄暗くて見えるの?」

「ああ、レンズがいいからな。カールツァイスだぜ」

「何、それ?」

 マナが疑問を口にした。

「はぁ…、アンタそんなの世界の一般常識じゃない。ドイツの誇る、世界一のレンズよ!」

「あ、アスカ、ドイツのことくわしいもんね」

「あったり前じゃない」

 シンジに誉められるとアスカは嬉しくなってしまう。

 ついつい、にやついてしまう。

「あ!あいつら見えてないと思って、手を繋いだぞ!」

「嘘!見せて、見せて!」

「あ、い、いいぜ。ほら」

 ケンスケはカメラのファインダーをマナが覗けるようにレンズを支えた。

 マナは好奇心のために敬遠していたケンスケに接近してしまった。

 アスカはというと、そのマナの様子もヒカリの恋路も全く視野に入ってなかった。

 彼女の心はすでに第2グループの出発に飛んでいる。

 わくわくどきどきそわそわ……。

 楽しみで仕方がない。

 そ〜だっ!シンジに腕を組ませてやろう!

 きっと、真っ赤になってどぎまぎするわよ。

 面白そう!……早く、時間にならないかな?

 そのシンジもわくわくどきどきそわそわしていた。

 アスカと二人きりで肝試し。

 弱気で臆病者なシンジだったが、今回は真っ暗な夜の道も怖くはない。

 アスカにいいところを見せないと嫌われてしまう。

 がんばらければ!と勢い込むシンジだった。

 

 さて、第1グループのトウジとヒカリである。

 出発早々に手を繋いで、正直肝試しなどはどうでもいいという雰囲気である。

 だが、そこは根が真面目なヒカリだ。

 きちんと第1、第2のチェックポイントを通過し、いよいよ問題の焼け落ちた洋館。

 さすがに薄い闇の中に見える廃墟のような洋館は途方もなく不気味である。

 ヒカリは思わずぎゅっと手を握り締めた。

「だ、大丈夫。わしがついてます。何が出てきてもヒカリさんのことは絶対に守りぬきます」

 ヒカリはトウジを見つめた。

 そして、二人は何度目かのキスを…。

 だが、それは最後まで遂行されることはなかった。

 悲鳴を上げるヒカリを抱えるようにして一目散に走るトウジ。

 二人の顔は真っ青だった。

 

 その頃、アスカとシンジの第2グループが出発した。

「いいなぁ…碇君とペアーで」

 二人の背中を見送るマナがぽつりと言った。

 ケンスケは望遠レンズの中の二人が寄り添っているのを見た。

 が、賢明にもそれをマナには教えなかったのだ。

 あまり刺激しすぎると怒って帰ってしまったりしかねない。

 それよりも出発までの30分をどう過ごすか、何を話すかで頭の中は一杯だった。

 がんばれ、俺!

 隣で立っているマナの横顔をちらりと見て、ケンスケは自分を奮い立たせていた。

 

 アスカとシンジが寄り添って歩いていたのは、

 もちろんアスカがシンジを引き寄せたのである。

 その上で、シンジの腕にすがりついたのだ。

「あ、あ、あ、歩きにくいの?」

 やっとのことで上ずった声を出せたシンジ。

 アスカは懐中電灯の光が届かないことをいいことに、ニンマリと笑み崩れた。

 くっくっく。思ったとおり、舞い上がってるじゃないの。

 でも、あれよね。夜とはいえ夏だからくっついて歩くと暑いわねぇ。

 ホント、暑くて胸はどきどきするし、頬は熱くなっちゃうし、困ったもんよ。

 親分アスカはまだわかってない。

 恋心と友達の感情を完全に履き違えている、困り者のアスカである。

「あ、そうだ」

「な、何?」

「アンタ、リツコにモーションかけた?」

「はい?」

 この暑いのにくっついて歩く二人は第1ポイントのビー玉をゲットして、くすのきの方へ向かっていた。

「だから、リツコに好きだとか言った?」

「そ、そんなの言ってないよ!」

「じゃ、アイツににっこり笑ったりしなかった?」

「してないよ、多分…」

「そっか…」

 アスカは思った。

 シンジの笑顔ってけっこう綺麗だから、あんな年増でも勘違いしちゃうかもしれないもんね。

 ホント、シンジが欲しいだなんて、とんでもないこと言い出すわよ、あの金髪黒眉毛。

 これはさっさと水着代を払ってしまって、関係を清算しないといけないわね。

「あ、あの…リツコさんがどうしたの?」

「うっさいわね。アンタは私だけ見てたらいいの」

「えっ!」

「何、すっとんきょうな声出してんのよ。私、何か変なこと言った?」

 言えない。

 アスカが自分だけを見ていろって言ったことを。

 そんなことを言えば、きっと誤解するなと殴られるに違いない。

 シンジは黙っていようと決めた。

「ま、とにかくそういうことよ。リツコとは絶対に顔を合わさないこと。約束しなさい」

「で、でも…」

「何よ。それともアンタ、あんな大年増が好みなわけぇ?」

「な、何でそうなるんだよ」

「そういえば、ミサトにもふらふらっとなったしねぇ」

「そ、それは…」

 嘘がつけないシンジである。

「ほ〜ら、やっぱりそうなんだ。お姉さん好きなんだ、馬鹿シンジは。や〜ねぇ、ホントに」

「ち、違うよ」

「じゃ、どうなのよ」

「何がだよ」

「ミサトとキスしたり、抱きしめられたりして、気持ちよかったんでしょ!」

「え、あの…」

「はっきり言いなさいよ」

「ち、違うよ。そんなことないよ…はは…」

「嘘吐き」

 アスカは速攻で反応した。

 そして、シンジをぐいっと引き寄せた。

 胸倉を掴まれ、至近距離でアスカに睨まれるシンジ。

 憤怒の表情だが、目が笑っていることにシンジは気付いていない。

 ただ、怒っていてもアスカって綺麗だということを少し考えていただけだった。

「ホントのこと言いなさいよ」

「お、怒らない?」

「あああっ!ってことは、気持ちよかったんだぁっ!」

 アスカはシンジの首を左手で抱え込んだ。

「うわっ!」

「この!このっ!馬鹿シンジの分際でっ!生意気だぞ!」

「ゆ、許してよ」

「許さない!」

 

 まるで小学生のようにじゃれあっているようにしか見えない二人。

 そんな二人を暗闇の中から見ている赤い瞳があった。

 木立の中で、黒い服を着て立っている蒼い髪の娘。

 哀しげな眼で、アスカとシンジを見やっている。

 彼女は呟いた。

「いいわね。幸せそうで…」

 そう言葉を残して、彼女は暗闇に溶け込んでいったのだった。

 

 

 

 

TO BE CONTINUED

 

 


<あとがき>

 レイ編その3です。

 レイがやっと出てきました。といっても、最後の数行だけですが。

 これだけははっきり言っておきましょう。このレイは………………ということなんです。

 次回は、まだ肝試しが続きます。二人はまだ第2チェックポイントに到達していませんから。

 

2003.09.12  ジュン

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