大きな力

心を覆い尽くす

破壊の衝動

 

目の前が何も

見えない

 

止めてくれ

この力を

僕を

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第弐拾七話 使徒対峙 

 

 

 

 

 

「バル、もう良いわよ!」

「オッケー!今から電力を供給する」

「お願いね。物理切断されているところがあるから完全というわけにはいかないだろうけど・・・」

「わかってるって・・・・・・チッあの馬鹿やりやがった!?」

「どうしたの?」

「・・・なんでもない。いくぞっ」

 

驚愕で目を見開くオペレーター達の目の前で、次々とジオフロントの機能が復帰していく。

完全なシェルターとしての機能を持つジオフロントは、やはり独立した発電システムを持っている。

それは都市一つを完全に運営させても足りるほどであるが、今それをたった一体のエヴァが担っているのだ。

あの体でそのようなエネルギーを生成出来るということは、まさに驚嘆に値することだろう。

一度実験をしてその力を目の当たりにしていたリツコとマヤでさえ、その光景は圧倒されそうだった。

 

「早いところあれと3号機を射出してくれ」

「使徒が来ているのね?」

「残念だが・・・それ以上に厄介な相手だ。いいか他のエヴァは出すな」

「ちょっと待って!それってもしかして・・・」

「・・・さぁ、早く!!」

「・・・わかったわ」

 

その厳しい声にリツコは並々ならぬ覚悟を見た気がした。

マヤはまさか、という顔をしたまま凍り付いている。

その最悪の事態について、彼女らはバルから心構えをしておいてくれと言われていたのだ。

 

「・・・あなただけで良いのね?」

「やってくれ」

 

リツコはインカムを手放して凛とした声で言い放つ。

 

「3号機発進準備!一分で出すわよ!」

 

その指示が飛ぶと、マヤを除いたオペレーターが揃って振り返った。

現在、この場ではリツコが最も権限を持った人間であることは間違いない。

しかしその権限というものはエヴァやマギの管理における権限であって、作戦指示を行うようなものではない。

そっちの権限は彼女の旧友である葛城ミサトが保持している。

そんな彼女がエヴァの発進を支持するなど、越権行為もいいところだ。

さらに操縦者である鈴原トウジも3号機には乗っていないのである。

この命令は事情のわからないものにとって理解し難かったものであることは間違いない。

 

「責任は私が全て負います。発進準備を!」

 

リツコの発した鋭い気迫に負け、作業は開始された。

3号機が発進すると、リツコは一度だけ地上の様子をモニターに写しだした。

ビルの狭間には黒い塊が転がっていた。

そしてすぐにカメラを切る。

 

「・・・バル・・頼むわよ・・・」

 

何も映らないモニターを睨むリツコの呟き声は何処か、哀願しているような響きがあった。

そしてマヤもこれから地上で行われる戦いを思い、不安に押しつぶされそうになりながらも、気丈に自分の作業に徹していた。

 


 

「どうしてよ、話が違うじゃないの!」

 

赤いプラグスーツに身を包んだ少女は苛立たしげに声をあげた。

ケイジに向かう途中のドアの幾つかが、手動でないと開かないようになっていたのだ。

バルからは電力的にはほぼ完全にカバーできると聞いていたアスカは、物理切断という可能性を失念してしまっていた。

そこには現状に対する焦りも手伝っている。

二人の少女にとって手動でドアを開けるのはかなりの重労働で、ケイジに向かうまでまだかなりの時間を要してしまいそうだった。

一刻を争うというときに、実に煩わしい限りだった。

 

「ねぇユイナどうなって・・・る・・・・ユイナ?」

 

同意、もしくは意見を求めた相手は、力無く項垂れて床に座り込んでいた。

その細いかいなに黒い瞳の優しげな少年のプラグスーツを抱き締めて。

顔は俯いていていよくわからなかったのだが、肩が小刻みに震えているように見える。

 

「ど、どうしたのよ?」

 

これまで見たことのない仲間の姿に、アスカは動揺を隠せない。

先程は暴れ、それもかなり驚きはしたのだが、こちらの方が遙かにらしくなかった。

いやな予感が足音もたてずに近づいてきているのを感じた。

 

「なんで・・・なんで泣いてるの?」

 

それは恐怖、悲しみ、絶望・・・様々な負の感情が滲んだ凄惨な泣き顔だった。

アスカはグッと喉が詰まるような息苦しさを覚える。

 

「ひぐっ・・・アスカぁ・・・・」

「ちょっと、落ち着きなさいよ!」

 

言葉はいつも通りでも口調はずっと柔らかだった。

それでも泣き止まないユイナを、アスカは膝をついてギュッと抱き締めた。

他に方法が浮かばなかった。

暴れてるなら先程のようにひっぱたいて黙らせる方法がとれるのだが、泣きじゃくられるとどうしたらいいのかわからないのだ。

唯一出来ることとして、抱き締めながら背中をポンポンと軽く叩き、もう片方の手で髪を撫でた。

少しそうしているとユイナの嗚咽は治まっていった。

 

「ねぇ・・・一体何がどうしたっていうの?あんたが泣くなんてらしくないわよ」

「・・・ひっく・・・つ、翼・・」

「翼?」

「翼が出ないの・・・シンジが・・・シンジがシンジでなくなっちゃうよぉ・・・」

「なにそれ・・・どういうことなのよ」

「わかるの・・・シンジの心が・・力に染まっていく・・・・力に支配されていく・・・もう止められないよぉ・・」

「なんですって・・・!?」

「やだよシンジ・・・いなくなっちゃやだよぉ・・・」

 

またも顔をグシャグシャにして泣き出すユイナ。

アスカの胸に顔を埋めて、迷子になった幼子のように泣きじゃくった。

 

「ユイナ・・・」

 

しばらくアスカは呆然となっていたが、いきなりユイナを引き剥がした。

そして真っ直ぐユイナと向かい合う。

泣きはらして赤くなった瞳を瞬きもせず見つめて言葉を放つ。

 

「ユイナ。あたしにはまだこの状況の重大さがよくわからない。でも、あたしたちが出来ることってあるでしょう?」

「ひっ・・・うう・・」

「泣いてちゃダメよ!」

「で、でも・・・アタシにはもう力なんてないもの・・・」

「さっきも言ったようにあたし達にはまだエヴァがある!なんにもしていないのに諦めるんじゃないわ!」

「・・・アスカ・・あなたはシンジと戦えるの?」

「戦うわけじゃないわ。助けるのよ。シンジはあたし達の大切な仲間でしょ?」

 

大きく目を見開く。

アスカは微笑んで頷く。

 

「いくわよ、ユイナ。まだやれることがあるんだもの」

 

ユイナはやや乱暴に涙を拭うとアスカと同じく微笑んで頷く。

 

「うん・・・・・・行こう、アスカ!」

 


 

「復旧した・・・?バルがやったのか」

「フン・・・奴らは暗視用の装備が仇になったようだな」

「みたいですね。一気にけりを付けましょう」

 

加持はなんとネルフ司令たる碇ゲンドウと共に戦っていた。

あのとき、激しい銃声は加持の背後から放たれた。

 

「伏せろ」

 

という威圧感のある声の直後に、だ。

加持はその声の主を確認することもしないで、すぐさま床にうつ伏せになった。

そうするとマシンガンらしき銃声と火花が辺りの静寂と闇を切り裂いたのだ。

音がやむと、目の前には三人ほどの屍が仰向けになって転がっていた。

 

「ふっ・・・無事か?」

「し、司令!?」

 

加持は差し出された手を取りながら、いささか間の抜けた顔になっていた。

それを見たゲンドウはいつものサングラスを外した顔で、ニヤリといつものゲンドウスマイルをした。

 

「どうしてここに?」

「話は後だ。そこの倒れているヤツの装備を拝借しろ。あと三人いる」

「は、はい」

 

それで加持は敵の装備をひっぺがし、サイレンサーのついたマシンガンと拳銃をそれぞれ手に取り立ち上がった。

 

「さて・・・いくぞ」

 

そして現在に至る。

 

 

 

 

二人は身を寄せていた物陰から同時に飛び出して発砲した。

そのうちの数発は敵の体を捉えて、打ち倒す。

 

「よし、あと一人だ」

「そうですね・・・・!?指令後ろ!!」

「何!?」

 

ゲンドウが振り返えると同時に火花が散った。

しかし目を開くとそこには光の壁が銃弾を遮るように存在していた。

また新たに銃声が轟き、ゲンドウに銃を向けていた男は何も言わぬ肉塊となって倒れ込む。

 

「大丈夫ですか、指令」

「レイ!?・・・・・・助かった。礼を言おう」

 

ゲンドウと敵の間に滑り込んできたレイは、A.Tフィールドによって銃弾を遮っていた。

それはほとんど間一髪で、滑り込んでいるレイはスライディングをした後のような格好になっていた。

よっぽど急いだらしく、額には汗が浮かび前髪が額に張り付いている。

 

「いえ・・それより早く・・・」

「ああ、わかっている。加持君、私はこれから南極に向かい、ロンギヌスの槍を回収に行く。君はそれに同行し、途中で抜ければいいだろう」

「すみません・・・」

「・・・礼にはおよばん。とにかく急ぐぞ。既にこいつらの処理は保安諜報部に指示してある」

「何事も予定通りってことですか?」

「フッ・・・問題ない」

 

少々皮肉混じりの加持にも、ゲンドウはいつもの科白、いつもの笑みで受け流す。

加持も苦笑に近い笑みを返していると、施設全体を小さな振動が包んだ。

 

「!?そ、そんな・・・」

 

その直後、レイは驚愕の表情でうわごとのように呟きだした。

さすがにゲンドウも心配になって怪訝そうな顔をする。

 

「どうしたレイ」

「使徒が来ていたんです・・・それが・・・今死にました・・」

「? エヴァが出撃したのではないのか?」

「それは・・・・」

 

(私の力では今の碇君を止められないかもしれない・・)

(ううん・・・それ以前に私は碇君と戦えるの?)

(わからない・・・)

(戦いたくない・・・)

 

覚悟は必要よ

 

(!! そうよ。私は覚悟しなければいけなかった。今がその時だわ)

 

「指令、私・・・零号機で出撃します」

「・・・好きなようにしろ。後悔だけはするな」

「はいっ!」

 

レイは返事をするとすぐにもと来た道を駆けだしていた。

 

「指令・・・恐らくいまレイが言っていた相手は・・・」

「シンジだろう?」

「!・・・気付いておられたんですか?」

 

驚く加持を後目にゲンドウはサングラスをかけ直して口元を吊り上げた。

気恥ずかしさから視線を誤魔化そうとしていたのだろうか。

 

「今のレイが逡巡する相手など簡単に想像がつく。それよりも我々は我々のやるべき事をやらねば。冬月をあまり待たせるわけにもいかんからな」

「・・・そうですね。急ぎましょう」

 

加持は少年達の無事を祈るほかない自分が恨めしく思えた。

己の無力さ。

強大な力の前ではなんの意味も持たぬ自分の信念。

拳を壁に叩きつけたくなる気分であったが、彼には彼にしかできない戦いがあると信じて闇の中を走った。

(せめてゼーレのことは任せてくれよ。それが俺に出来る戦いだ)

 


 

「マヤ、あれはまだ出せないのか?」

「ごめんなさい。まだ少し内部が混乱していて・・・搬入を急がせているけど・・・」

「しかたない・・・とにかく急いでくれ」

「わかったわ」

 

地上に上がったバルが見たものは体の至る所に風穴を開けられた、無惨なマトリエルの亡骸だった。

(ったく・・・おまえ弱すぎだぜ・・・マトリエル)

毒づきながらトウジを拾い上げてエントリープラグの中に導き入れる。

 

「どんな状況だ」

「ああ・・・シンジはあの使徒を羽根で貫いた後はずっとあそこに・・・」

 

トウジの示したビルの屋上で、碇シンジの姿をした力がこちらをジッと見下ろしていた。

目があっても全く感情の欠片さえも見られない視線が返ってくるだけ。

バルは身震いをした。

 

「あれが本当にシンジかよ」

 

軽口を叩こうにも芯から来る震えに本能は従順だった。

明らかに自分が萎縮していることがわかる。

それでもバルは自分を奮い立たせて、バルディエルとしての戦闘態勢を取り始めた。

 

「トウジ、初っ端から全開で行くぜ!」

「せやけど・・・」

「バカ野郎!話を聞いてなかったのか?!今アイツを止められなかったら、何もかも終わりなんだぞ!」

「・・・・・・・・・」

「迷うな!迷いは隙を生む。俺達はシンジを殺すためにやるんじゃない。俺達はシンジを止めるため、助けるために戦うんだ!!」

 

このときシンジの姿がいつの間にか消えていた。

 

「しまった!シンジは何処だ!?」

「・・・・・・・・・」

「上かっ!?」

 

咄嗟にバックステップをしてその場を飛び退く3号機。

後を追うように凶暴な光が降り注ぎ、アスファルトを剔り、更にその下の特殊装甲まで穴を開けていく。

それを見てバルは愕然とした。

 

 

「ユイナの翼まで取り込みやがったのか!」

 

 

その背には一対の翼があった。

シンジにはその半分しかないはずだった。

放たれる光の威力はエヴァサイズで発現させているときとほぼ遜色無い。

それどころか点の破壊力で考えれば、今の状態の方がもしかしたら上をいっているかもしれない。

 

如何に自己再生能力を備えた3号機といえど、完全に消失してしまった部位を再生させるのはそれなりに時間と力を必要とする。

壁をも貫くことは必至であるため、一撃たりともその光を身に受けるわけにはいかなかった。

そうでなくとも電力供給を平行して行っているのだ。

バルは全開と言っているが、実質的には幾分再生に回されるエネルギーが減退していることは厳然たる事実。

それだけに、戦闘におけるバルとトウジの意思統一が不可欠なのである。

 

「トウジ、腹をくくれ!このままじゃ俺達が先にやられちまう!」

「・・ッ!・・・クソッタレ、やったるわ!!」

 

バルディエルは咆吼する。

シンジの姿をしたそれはそれを冷ややかな眼差しで見ていた。

 


 

ケイジへと急ぐ三人の少女。

彼女らはそれぞれに決意を秘めて戦場に向かおうとしていた。

 

「アスカ・・・アタシは逃げていたのかもしれない。シンジが力を使うことに対しても何もせずにさ・・・でも、もう逃げない」

「それがわかったなら上等よ。どうでもいいけど、今上はどうなってるの?」

「・・・たぶん、バルと鈴原君がシンジと戦っていると思う」

「戦ってる・・・!?・・・そう・・・そうなの・・・」

 

アスカはその時やっとトウジがあの場に残ると言いだした理由がわかった。

(まったく・・・こんな迷惑かけるシンジもバカだけど、アイツも相当のバカよね)

 

「アスカ、ユイナ!」

「レイ!銃声の方はどうなったの!?」

 

息が乱れていながらも二人に並んで走るレイ。

 

「大丈夫。加持さんは無事だったわ」

「そう・・・じゃ、そっちは安心ね」

「それより碇君が・・・」

「やっぱりあなたは感じるのね・・・・・・覚悟は・・・出来た?」

「ええ。この世界の中で私に笑顔と涙を教えてくれた大切な人だもの。たとえ・・・本当はこの世界の人でないにしても・・・今の私たちにとっての碇君は彼だから」

 

珍しく饒舌になっているレイに、それを聞いていたアスカとユイナは目を丸くした。

そしてアスカはその中の一つの言葉の意味を深く反芻していた。

 

「?どうしたの」

「う、ううん。・・・でもそうなのよね・・・アイツはあたし達が本当に知っているアイツじゃない」

「けどそれは今問題とすることではないわ。少なくともここまで一緒に戦ってきた事は事実ですもの」

「わかってるって」

 

(わかってるけど・・・シンジだけが入れ替わっているならこの世界のシンジは何処にいるの?)

(あたし達が知っている・・・碇シンジは・・・)

(やめよう・・・レイの言う通り今考えることじゃないわね)

(今考えることはシンジを止めること。今のあたし達にとってのシンジはアイツなんだもの)

 

三人はそれから幾つかのドアを力ずくで排除して(レイのA.Tフィールドを使用)ケイジに向かった。

ケイジに近付くにつれ、次第に口数が少なくなっていく。

目に見えない緊張と不安の糸が何度もその足を絡め取ろうとしていたが、その全てを振り切って走っていた。

 


 

「な、なんやとぉ!?」

「チッ、やっぱそういうことかよ!」

 

二人が声をあげた原因、それは彼等の突進を止めたモノだった。

 

3号機で力ずくにでもシンジを取り押さえ、バルが一時的に浸食して意識を断つ。

これがバルディエルの考えていたことだ。

しかしその思惑は全てを遮るオレンジ色の光の壁によって妨げられた。

 

「この感じは・・・まさかホンマに・・・バルッ!」

 

トウジが見るとバルは苦虫を噛み潰したような顔でそれを肯定する。

 

「ただ暴走したんじゃねぇってことだ。・・・あいつは最強のヒト・・・真の第十八番目の使徒リリンだ」

「進化したんか・・・シンジは・・・」

「まだこの上があるかもしれないからな・・・やらせるわけにはいかんよ」

 

進化については大きく分けて二つの考え方がある。

進化はゆったりとした時の流れの中で行われたという考えと、ごく一部の突然変異によってもたらされたという考えだ。

いまのシンジはその後者の考え方に含まれるだろう。

群体の中で突出した力を持った存在が他を淘汰する。

それはつまりシンジがサードインパクトを起こすということに繋がる。

(ここでシンジを止められなかったら何もかも終わりだ)

 

「トウジ!なんとしてもやつを止める!」

「応!」

 


 

この後も戦いはバルディエル側が劣勢を強いられた。

翼の絶大なる攻撃力もそうだが、相手が生身の人間サイズだということが一番の問題だった。

あまりのサイズ差に、死角に入られてしまうことが多く、そこからの攻撃はほとんど目視することなく、殺気や気配を感じてかわしていた。

だがそれでもかわしきれるわけもなく、3号機の負った損傷は徐々に動きを阻害するほどのものになっていった。

再生能力も働いてはいたのだが、追いつかなくなっているというのが現状である。

徐々にジオフロントへの電力供給に回しているエネルギーさえも、自分の修復に回さなければならなくなってきた。

 

 

 

 

そんな中、両者の間に一旦距離が置かれて睨み合いになった。

バルディエル前方1000mほど。

エヴァの視点に立てば大した距離ではないそこに、翼に包まれるようにして碇シンジが静かに佇んでいる。

 

「ここまで来たら相手をしてやるってか?」

 

絶対的強者の余裕を感じるその姿。

3号機は今更小細工をすることもなく馬鹿正直に突進を開始する。

予想通りまだ300m程あるところでオレンジ色の光がそれを阻んだ。

だが、3号機は全てを遮る壁を押し返しながら、一歩、また一歩と距離を詰めていく。

踏ん張った足がアスファルトを剔り、気を抜けばすぐにでも吹き飛ばされそうになりながらも、3号機の歩みは決して止まらない。

 

バルとトウジはほぼ一体となって苦痛を噛みしめながらレバーを握っていた。

死をも恐れぬ精神が具現化したような、そんな姿がそこにあった。

そこにいるのはバルでもトウジでもなく、バルディエルという名の使徒だ。

 

 

 

 

ズシッ・・・

 

「なぁ・・・シンジ・・・」

 

ズシッ・・・

 

「おまえは全部忘れちまったのか・・・?」

 

ズシッ・・・

 

「答えろや・・・」

 

ズシッ・・・・

 

「泣いて・・・」

 

ズシッ・・・

 

「笑って」

 

ズシッ・・・

 

「怒ってよぉ・・・」

 

ズシッ・・・

 

「それが人間やろ?」

 

ズシッ・・・

 

「それがなんだよ・・・今のおまえはよ・・・」

 

ブンッ・・・・・・ガキィィィン

 

振り上げられた拳がA.Tフィールドを叩く。

拳に纏わせたフィールドと接触した瞬間に目も眩むような火花が散った。

 

「それやったらなんも変わっとらんやろ!!おまえがこれまで倒してきた使徒達と!!」

 

ブンッ・・・ガ・・・グシャァァ

 

損傷を負い、衝撃に絶えきれなくなった右の拳が血飛沫をあげて砕けた。

だが彼等は身を貫いた苦痛にも全く怯む様子を見せず、左の拳を突き出す。

 

 

「「ふざけるなっ!おまえは人間だろうがっ!!」」

 

 

バルディエルの突き出した拳は壁を貫いてシンジに迫った。

しかし・・・その拳が彼を掴もうと開くよりも先に限界を迎えた体は、遂に衝撃に負けて後方に吹き飛んでしまっていた。

 

 

バルディエルはビルに衝突し、幾つかのビルを薙ぎ倒したあと、寄り掛かって項垂れるような格好で停止した。

人間でいう背骨などの機能中枢をやられてしまい、身動きがとれなくなってしまった。

バルは再生に尽力したが重要な部分だけに、完全に再生するのには他の部位よりも更に時間がかかる。

更に一体化していたトウジもまた、体のほとんどが一時的に麻痺するという状況に陥っていた。

まさに満身創痍という形容が一番正しいだろう。

一時的なれど、バルディエルは戦闘不能状態に陥っていた。

 

「シ・・・ンジぃぃぃッ!」

 

それでもトウジは手を伸ばした。

体が動かず、もう届かないとわかっていても。

親友と呼べた少年を取り戻すために。

3号機の砕けた右腕がその思いに応えるように、ゆっくりと持ち上がっていく。

 

 

ヒュンッ・・・

 

 

次の瞬間、天に向かって伸ばされた黒い腕は一筋の閃光とによって真っ二つに切り裂かれた。

その衝撃に、遂に耐えきれず絶叫する。

 

「ぐ、があああぁぁぁぁッ!!」

 

次々と降り注ぐ光。

貫かれる体。

全身を包む苦痛と生温い血の感触

その度に遠のいていく意識。

 

だが次の瞬間、不意にその光の洗礼は勢いを弱めた。

 


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後書きみたいなもの

 

また引っぱってます。

ナハハハハハ・・・・・まるで某テレビ番組みたいだ。

ともあれまだ次回もこんな調子でバトルバトル・・・

相手が暴走シンジ(生身)だっていう時点で、「WING」はエヴァSSのなかでも異質なんじゃないでしょうか。

本編再構成タイプ(逆行?)の話でこんなバカかましているはシャンだけ・・・かもしれませんねぇ・・・

これはもはやエヴァじゃないかもれないと思う今日この頃。

 

「暴走天使」の方も次を書こうかと思っているのですが、あんまりこっちがシリアスなもんですから話の腰を折るのもやばいと思うため、こっちもしばらく封印です。

 

苦情・感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板にお願いします。

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