月明かりの中、空に浮かぶ影があった。

その背には対を失った肩翼。

淡い光を受けて白銀のそれは幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 

「残っている使徒はサハクィエル、イロウル、アラエルに、アルミサエル、ゼルエル・・・それとタブリス・・・あと六つ、あと六つでアタシの役目は終わりか」

 

体の力を抜き、まるで水の中に浮いているかのように漂っている少女は、指折り数えていた。

役目。

それが終われば自分は・・・とそこ迄考えてちょっとした違和感を覚えた。

初めてと言うわけではなく、これまで慌ただしくて、この事について考える時間があまりなかったのだ。

 

「アタシの力・・・ううん、シンジの力はやっぱり不自然よね・・・」

 

確かにシンジは力を攻撃力という方向にのみ特化させた使い方をしている。

自分自身もある程度似たような力の使い方をしていたのだから、それが肥大化したものだと認識していた。

少なくとも今までは。

しかし、あまりに強すぎる。

 

 

その時、同じようなことを別の場所で考えているシンジがいた。

こちらはベットの上に寝転がってぼんやりと天井を見据えており、当然ながらその考える視点も少しばかり空の上の彼女とは違っていた。

 

「力か・・・」

 

あまり使いたくはないけれど、使わねばならない状況になればその躊躇をすることはない。

その反面、また同じことを繰り返してしまうのではないかという恐れが存在しているのも事実である。

右手を顔の前に持ってきて二度、三度握ったり開いたりを繰り返す。

そして最後にグッと力を込めて握り込んだ。

 

「何かおかしいよな・・・最初の碇シンジは普通の人間だったのに、何で僕はこんな力を持っているんだろう?」

 

これまでの戦いは、必ずしも力を使わなければ勝てなかったわけでもないのだろう。

少なくとも一番最初の碇シンジは力を持たなかったにもかかわらず、最後まで戦いきったはずだ。

その結果がサードインパクトであることは別問題として、これ程の大きな力はなくとも戦えるのではないか。

そういった考えが芽生えたということもあったからこそ、出来る限り使わないという結論に至ったのである。

だがまだ他にも疑問は多い。

 

「どうして僕はユイナよりも大きな力が使えるんだ?これじゃあ、まるで・・・・・・・・・まるで?」

 

唐突に閃いた考えに、自分自身驚いて跳ね起きる。

 

「・・・まさか・・・そういうことなのか?それじゃあユイナは・・・」

 

 

これは碇シンジが意識を取り戻した数日後のことである。

 

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第参拾五話 考えても仕方ない

 

 

 

 

 

 

「次ぎ・・・行きましょう」

「お、お願いだから、ちょっと休ませてよぉ」

「なによ、だらしないわねぇ。あんた男でしょう」

 

二人の少女に引っ張られるシンジは、やや足下がおぼつかないといった感じで、少々情けないものがある。

ただでさえ、彼の腕を引っ張っている少女・アスカとレイはその容姿から注目されるというのに、これではさらし者に近い。

またその後ろには別に集団が形成されていた。

それもかなり目を引く人物ばかりで、周りの人間は一様に足を止めてその集団を見やるのだった。

 

「まるで遠足の引率してるみたいな気分だな」

 

集団の中で一番背が高いバルが嘆息すると、その隣にいたマヤがおかしそうに声を漏らした。

二人とも、見た目の年齢に合った私服姿で、これはこれで珍しいと言えば珍しい。

 

「クスクス・・・あなたは教師でしょう?」

「・・・ったく、休日くらいのんびりさせてくれよ」

 

少しばかり皮肉っぽいセリフにバルは少しだけ顔を歪め、自分の回りにいる子供らを改めて見回した。

自分とマヤの間でニコニコしているマナ、少し後ろで別世界を形成しているトウジとヒカリ、物珍しそうにキョロキョロしているユイナ。

この目立って仕方ない一行は休日の人で込み合う・・・という程でもないが、ともかく遊園地に来ていた。

修学旅行に行けず、今度は文化祭も中止になってしまった子供達に対し、ミサトを始めとした面々の計らいによるものだ。

もちろんガードの人間はついてきているし、有事の際には直ぐさま戻らねばならいが、それでも羽を伸ばす機会には違いなかった。

こんな状況下で運営している遊園地も大したものだが・・・。

 


 

少しばかり時間は遡り・・・

通常勤務状態、それも夕刻を過ぎた発令所は静かなもので、仕事らしい仕事をしているものは見られなかった。

その中で、リツコやマヤはバルとともにエヴァの装備の開発状況などを検討したあとで、コーヒーを飲みながらくつろいでいた。

しかし穏やかな雰囲気でありながらが、その実、話題となっていたのは特に先日の使徒もどきのことだったりする。

これまでのミサトの記憶の中にもなく、ユイナやバルも知らないとあっては全く正体が掴めていないということになる。

事実そうなのだが、この事は明らかに時の流れに異変が起きていることの証明となった。

これに比べればまだバルがネルフ側に、人間側にいることの方が納得できることだ。

 

「あなたが倒したあれを解析した結果、構成は使徒と同一だったわ」

「同一・・・ってことは、あいつも同類なのか。なんだかピンとこないな」

「科学者として確証のないことを言うのは気が進まないけれど、時間の流れに補正がかかったのかもしれないわね」

「・・・補正か、なるほど・・・・・・だがそれも失敗したことになるな」

「ええ、あなたは補正さえもはね除けてしまった・・・」

「俺だけの力じゃないさ・・・」

 

納得顔の二人に挟まれ、マヤだけはちょっと困惑気味の様子。

 

「あ、あの〜、それってどういうことですか?」

「・・・簡単に例を挙げるなら、そうね、ここに河があるとしましょう、いいわね?」

「はい」

「河の流れは一定ではないわ。激しくなったり緩やかになったり、時には幾筋かに別れたり・・・でも結局最後に行き着く場所は同じよね?」

「海・・・ですか?」

「そう。これを時間の流れに置き換えると、たとえどんな道を選んだとしても、結果的に辿り着く未来の形はおおよそ同じということになるわ」

「先輩それって!?」

 

驚いて声をあげ、席を立ち上がる。

リツコは手でそれを制し、再び座るように促した。

 

「焦らないの。だから言ったでしょう?その補正さえもはね除けてしまったって」

「あっ・・・」

 

早とちりをしたことに気づき赤くなって俯くマヤ。

二人は一度顔を見合わせ、そして吹き出してしまう。

赤い顔をあげマヤは抗議しようとしたが、絶妙なタイミングでバルが声を出すものだからそれは空振りになってしまった。

 

「まぁ、そういう仮定をすればって話だけどな」

「あくまで仮定の話で、何の根拠もないわ。第一これを証明するためには、全く同じ条件の世界から派生した平行世界を見なければならないから、今の科学力では絶対に実証することは不可能ね」

 

一応、シンジとユイナという二人が平行世界の存在を裏付けているのだが、干渉したりすることが出来るわけではない。

二人が証言しても、それが実証には繋がらないのである。

恐らく、これから当分の間も仮定、推測の域を出ないのだろう。

技術革新が何時起こるか判らないので、何とも言えないことではあるが。

 

「まぁた小難しい話をしているのね。あんたたちの脳味噌がどうなってるのか知りたいわ」

「・・・俺の脳なら3号機をCTスキャンにでもかけてくれ」

「・・・冗談よ冗談。真面目に切り返さないでくれる?」

 

一瞬、CTスキャンの台に乗せられている3号機を想像してしまい、ミサトは思い切り苦笑いをした。

かなりいけてない図である。

 

「ミサト、仕事は終わったの?」

「おかげさまで。けどやっぱり、まだ戦自の方はゴタゴタしているみたいね。仕方ないとは思うけど」

「でしょうね。秘密兵器は大破、基地には使徒もどきが現れる・・・・・・改めて体制の立て直しを迫られたとしても無理はないわね」

 

現状の戦略自衛隊の戦力では使徒に対抗することは出来ない。

先日の一件は改めてそれを強く印象づけたと言っていい。

もっともそれで軍隊の存在自体がどうこうなるわけでもないわけで、ネルフとしても取り敢えず協力体制が持続できるようなので、それ以上はあまり興味がないというのが本音だった。

 

「で、ミサトは何をしにここに来たわけ?」

「あら、リツコのコーヒーを飲みにって理由じゃあ不服かしら?」

 

マグカップにコーヒーを注ぎながら、冗談めかして言ってみる。

その様子にリツコは「それだけなら良いのだけどね」と肩を竦めていた。

 

「ほら、あの子達に休日をプレゼントしようかと思って」

「休日・・・?」

「修学旅行は行けなかったし、今度は文化祭も中止になっちゃったでしょう?だから一日くらいパーッと遊ぶ時間があってもいいんじゃないかなって」

 

反応を窺うように、ミサトは三人の顔を上目遣いに見回した。

バルは「まあいいんじゃないの?」といった具合。

その隣りのマヤは目が合うと笑顔で頷き、リツコはカップに口を付けながら目を伏せて同意の意を表している。

 

「それで、どうしようっていうの?」

「みんなに遊園地でも行って思い切り羽根を伸ばしてきてもらうつもり」

「遊園地ねぇ・・・べたなところだが、変に気を遣われるよりもいいか。ユイさんや、ゲンドウのおっさんには許可はもらったのか?」

「ちゃんと話は通してあるわ。そこら辺はぬかり無しよ」

「はっ、さすが作戦本部長殿」

「それじゃ、あの子達の付き添い頼んだわよ」

「へ?・・・俺が?」

 


 

先日のやり取りを思い出して、バルは俄に不機嫌になりつつあった。

子供らと何かするのは嫌ではなく、押しつけられたという印象がその原因となっているだけだ。

 

「まったく・・・言い出したなら、自分も来いっての」

「バル、せっかくマヤさんも一緒に来てくれてるんだからそれはないんじゃないの?」

 

ぼやいたバルに対し、敏感に反応したのはマナだ。

 

「なんでそこで、お前が俺の敵に回るんだよ」

「私マヤさんの味方だもん」

 

言いながら、マヤの腕にしがみつくマナ。

マヤも可愛い妹が出来たと受け取っているのか、終始笑みを絶やすことがない。

何やら耳打ちをしている様子も所々で見られたので、案外気が合うのだろう。

 

「わかったわかった。わかったから睨まないでくれよ」

 

マナに負けて折れたとき、なんとなくシンジの心境が分かったような気がしたのは多分嘘では無かろう。

 

 

ともあれ、この休日指令に一番羽根を伸ばしていたのはアスカとレイだった。

そして哀れ巻き込まれたのはシンジである。

 

「ほれ、飲むか?」

「アハハハ・・・ハハ・・・つ、疲れた」

 

しばらくしてようやく解放されたシンジは、カフェで椅子に座って項垂れていた。

かなりお疲れの様子で、トウジの差し出したジュースを受け取りながら、やつれた笑顔を持ち上げるので精一杯だった。

だがシンジがダウンすると女子グループは別の場所に行って来ると言って、元気良く人混みの中に消えていった。

ガードはついているだろうから、シンジ達も女子だけの行動に対してさほど心配はしていなかった。

元々ユイナが一緒にいればガード自体も必要としないのだろうが、ガードしている方もそれが仕事なのだから仕方がない。

随伴のバルも時間を決めてあとは自由にしろと言うだけで、特に止めるということはしてないかった。

 

「なんであんなに元気なのかな・・・」

「ほんまやな。女ちゅうのはつくづく理解できんわ」

「あら、鈴原君、そんなこと言ってていいのかしら?洞木さんに聞かれたら困るんじゃないの」

「うえ・・・ま、マヤさんかんにんしてくださいよ」

 

隣のテーブルからの鋭い突っ込みに、トウジは顔を赤くしたり青くしたりして情けのない抗議の声をあげた。

そんなことを言っていたと、この場にいない彼女らの耳に届いたら何をされるかわかったものではない。

「おなごに手は出さん」というのがモットーであるトウジは、そうなったら耐えるしかないのだ。

それはかなりストレスの溜まることである。

見方を変えると既に尻に敷かれているのではという疑惑が浮上してくるが、触れないことにしておこう。

 

「なぁ・・・シンジ、マヤさん妙に機嫌がええと思わんか?」

「そうだね・・・ずっとニコニコしてるし・・・もしかして僕らも邪魔者なのかな?」

「・・・かもしれへんな」

 

隣のテーブルではバルとマヤ、そしてマナが和気藹々と談笑している光景がある。

そこには一種、特異な雰囲気があり、シンジやトウジは割って入りがたいものと感じていた。

マナがあの一件以来、バルを頼るようになったのは自然と思われたが、この三人の組み合わせは少しばかり意外と言えばそうだった。

(まるで・・・家族みたいだな・・・)

シンジは口に出さないながらも、意識の中で呟いた。

見た目や、年齢といったことは考慮の対象外にして、純粋に纏っている空気がそんな感慨を抱かせた。

 

「・・・少し歩いてくるよ」

「さよか、わしはもう少し休んどるわ」

「うん、また後で」

 

 

席を立ち、周りの喧騒とは無関係にぶらりと歩くシンジ。

(・・・まだこれだけの人がいるんだから、なんだか凄いよな)

行き交う人を見やり、奇妙に感心してしまう。

戦いの最前線にいる自分にしてみれば、これが嬉しくもあり、危機管理が足りていないんじゃないのかと思った。

そんなことを考えていると、何時しか見晴らしの良い場所に立ち、マンウォッチングをしていた。

これはこれで楽しい。

ただ単に外見がというのではなく、その人間の纏っている雰囲気というものが個々に違って見えたのだ。

まるでこれまで背負ってきた人生が滲みだしているかのような、そんな雰囲気が。

そうなったのはユイナから得た力によるのだろうという結論にシンジは至り、そしてそれはほぼ正鵠を射ていた。

しかし雰囲気が違うとわかるだけで、それが何とまでは理解が至らないのは、やはり力が攻撃に突出しているが故なのかもしれない。

 

「どうしたのシンジ、こんなところで」

 

半ば虚ろな思考に沈みかけていたシンジの意識は、その声によって引き上げられた。

 

「クスクス・・・そんな顔して。そんなに驚いたの?」

 

口元に手を当て、悪戯っぽい表情で赤木ユイナはそこに立っていた。

シンジはいかにも自分の顔が間抜けなものだったのだろうと、少々照れたように頭を掻く。

その時になってやっと気が付いたのだが、どのくらい時間が経ったかは定かでないものの、もう夕日が傾き始めていた。

 

「あれ・・・僕、どのくらいこうしていたんだ?」

「さぁ?でも時間になってもシンジが来ないから、みんなで探していたのよ」

「そうなんだ、ゴメン・・・」

 

反射的にシンジが口にしたフレーズにまたユイナは小さく笑う。

情けないことかもしれないが、この「ゴメン」というセリフは、シンジらしさの現れの一つだろう。

以前と違って様々な経験をすることにより、思いを込めた言葉になりつつあったが、それを聞いたユイナは嬉しさが沸き上がってくるのを感じていた。

シンジの考え方などが良い方向に変わっていっていることは間違いでは無い。

しかし、らしさが消えてしまうのは、看過してはおけないことだった。

もっともそうだからとしても、何が出来るというわけでもなかったのだが。

 

「なんだか安心した」

「うん?」

「シンジがシンジで。アタシちょっぴり安心した」

 

はにかむユイナ。

 

「・・・最近の僕はらしくなかった?」

 

シンジは少し俯き加減になりながら、夕日に目を向けた。

ユイナは不快にさせてしまったのかと思い、慌てて両手を振りながら、弁解する。

 

「そういうわけじゃないわ。あなたが強くなろうとしていることは、評価されるべきことだと思うし、今必要なことだと思う」

「強く・・・」

「もちろんそれは精神的にってことよ」

 

背を向けたままシンジの首が縦に振られる。

それから一つ息を吐く気配がしたあと、シンジは言葉を紡いだ。

 

「全部終わったらどうなるのかな?」

「どうって・・・戻るはずでしょう、元の世界に」

「その時この記憶は持ち帰ることは出来るのかって話さ」

「それは・・・・・・どうなんだろう・・・」

 

さすがにそこまではユイナもわからなかった。

記憶を持っているが故に、それからの生活に支障を来す可能性も考えられないわけではない。

ならばそれは不要なものと言えるかもしれない。

 

「少なくとも、僕よりも前の碇シンジは持ち帰っていないと思うんだ」

 

シンジに同意し、頷く。

今のシンジの場合は、それがきっかけなのだから覚えていなくてはならないというだけだだろう。

この世界から元に戻る際に、崩壊をもたらした記憶など持ち帰っても何の益もないはずだ。

 

「僕は忘れたくないな。みんなのこと・・・僕がこうしてここにいたってこと・・・それにユイナのことも」

「シンジ・・・」

 

それから沈黙が訪れた。

ユイナはいくらか逡巡したが、その隣りに立つと横目でシンジの顔を覗いた。

 

「どうしたの?」

「・・・・・・考えたんだ。この力は何のためにあるんだろうって」

「何のため・・・」

 

全てのものに運命があるのならば、途中で得た力にも何かしらの意味、目的があるのではないだろうかと考えるのは至極当然だ。

これまでは力に振り回されたり、周り他のチルドレンがいたりして、あまり深く考える余裕も時間もなかった。

特にシンジが意識を取り戻してからは、ユイの事、マナや戦自、使徒もどきと次々と事件が重なっていたので無理もないかもしれない。

ようやく落ち着いてきたところで、先送りしていたものに取りかかることが出来るようになったというわけだ。

 

「あたしも似たようなことを考えたわ。でも、よくわからないままよ」

「僕は・・・「あーっ、いたぁっ!!あんた達、探したわよ!!」

 

この時シンジは自分の言葉が遠くからの声に遮られたことに、何故かホッとしたような顔をしていた。

それはちょうどユイナが声の方向を向いたため、目に入ることはなかった。

更にそのことに安堵するシンジがいたのだが、やはりそれには誰も気付く者はいなかった。

 

「あ、アスカだわ。行きましょう、話はまたいつでも出来るし」

「・・・うん。そうだね」

 


 

「あんた達、あのときいったい何話していたの」

「ん〜、まぁ大したことじゃないわ」

「怪しいわねぇ、白状しなさいよ」

「だぁかぁらぁ、本当に大したことじゃないんだって」

「大したことないんだったらいいでしょう?さっさと話しちゃった方が楽になるわよ」

「楽にって・・・アタシは犯罪者じゃないわ」

 

夕食時を迎えた葛城家のリビングには、子供達の姿しかなかった。

ミサトは休日出勤で端からこの日は家にいなかったのだが、マヤと共に一旦本部に向かったバルもまだ戻ってきていない。

その後、電話が入り、その日は結局子供らだけでの夕食となったのだった。

 

「ねぇマナ、あんたは何か言わないわけ?」

「私は良いの。今日は楽しかったから」

 

満面に幸せそうな笑みを浮かべるマナ。

見ている方も穏やかな気分になってしまうそうだ。

 

「・・・あんた、バルに乗り換えたの?」

「何処をどうしたらそういう事になるわけ?私はただ、純粋に楽しかったって言ってるんじゃない」

「でも実際、あんた達の関係って微妙じゃない?教師と生徒、それで家族って言ってるなんてさ」

「いいじゃなーい。バルもマヤさんも優しくしてくれるんだし。それとも羨ましいの?」

 

(チャ、チャンスだわっ)

この隙にユイナは逃亡を図ろうとしていたが、マナと口論が白熱しているハズのアスカに首根っこを掴まれて失敗に終わった。

 

「逃がさないわよ、ユイナ。こっちの決着が付いたらキリキリ白状してもらうからね」

「ひぃっ・・・だからアタシは犯人じゃないってばぁ〜」

 

ニヤリと笑ったアスカに邪気を感じたユイナは、乾いた笑いを浮かべながらとにかく藻掻いた。

しかし思いの外アスカの握力が強かったく、またそれまで傍観していたレイに羽交い締めにされてしまい、逃げることは不可能だった。

 

このときキッチンには少女らのやり取りをBGMにして、料理に勤しむシンジがいたりする。

本日はいつもよりは人数が少ないので、手伝いはいらないと一人でこなしていた。

包丁の刻むリズムも心地よく、手慣れた様子で作業をこなす彼の様子からは、台所の守護者たる貫禄を身に付け始めているように思える。

(ほんと・・・賑やかで良いな)

元の世界では一人で食事をとることが多かったことを思うと、今が嘘のように思えてしまう。

時折、戻りたくないと思ってしまうほどに、この空間は居心地が良い。

(でも・・・ここは僕がいるべき世界じゃない・・・か)

一瞬、自嘲めいた感情が沸き上がってきたが、すぐに軽く頭を振ってそれを追いだし、再び手を動かした。

 

「みんなー出来たよー、夕飯にしよう」

 

「ほ、ほら、夕飯だって」

「誤魔化そうたってそうはいかないんだから・・・ってレイ!何処行くのよ!」

「ダメ・・・碇君が呼んでる」

「私もお腹空いちゃった。頑張ってね、アスカ」

「待ちなさい、あんた達ぃーーー!!」

 

賑やかなリビングに向かって呼びかけをし、返ってくる声にフッと目を細める。

(まぁ・・・考えてばかりいても仕方のない事ってあるよね)

 


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後書きみたいなもの。

 

やっとこさ本編再開です。

どうやって再開しようか悩みましたが、まぁ読んでいただいたとおり。

冒頭部分は時間的に「TYPE B・B」の前になるわけですけど、そういった考えるシーンがなかったりするのはやっぱりバルが主役だったから。

つーかぶっちゃけると後付だからなんですがね(汗)

 

これから先は、シンジとユイナがどうしても中心になっていくんだろうなぁ。←無責任

アスカとレイの見せ場も作らなきゃいけないのに。

ちなみに「WING」の初期も初期、別のタイトルで話を書いていたときは、ほぼ100%シンジだけで戦っていました。

それはそれで完結しているのですが、そんな話が元なので、構成し直しても二人の出番が少ないんですよね・・・

ともかく練り直さなきゃいけませんな。

 

感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板にお願いします。

誤字脱字の指摘もあればお願いいたします。

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