通じているのかどうかいまいち不安ではあったが、シンジは通信回線を開くため、手元のスイッチを弄った。

 

「初号機はもう動けそうにないんで回収よろしくお願いします」

 

それだけ言うと、どうにかエントリープラグをイジェクトさせ、ユイナを抱きかかえて初号機を降りる。

改めて外から見ると、初号機の損傷はかなりのものだった。

装甲のほとんどが焦げるか剥げ落ちるかして、その下にあるエヴァの素体が剥き出しになっている部分も見られる。

 

つい先程感じた何かのために視線を空へと移すと、そこには小さな影が見えた。

しかしすぐに雲の向こうに消えてしまい、目で見ることは出来なくなってしまう。

シンジはもう追う気力も力も残っていなかったため、今はそれ以上は影について考えるのは止めにした。

 

しばらく耳を澄ましていると、遠くから車の走る音が近付いてくるのを感じた。

救護班の車だろうと判断したシンジは、薙ぎ倒された木にもたれ掛かるようにしてその場に座り込んだ。

相変わらずユイナはシンジの腕の中で意識を取り戻す気配はない。

みなは無事かと爆心地を見やり、三体のエヴァがお互いを支え合うようにして立っているのを確認すると、ようやく緊張を解く。

おそらく零号機と弐号機の電源が切れたため、3号機が支えているのだろう。

 

「ユイナ・・・もう少し我慢してね」

 

瞼を閉じたシンジは、それからすぐに静かに寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第参拾八話 接触

 

 

 

 

 

 

「初号機のパイロットの収容終わりました」

「それで、容態は?」

 

戦闘が終わり、司令席から下に降りてきたユイはモニターに映る素体が剥き出しになっている初号機を見据えながら、リツコに次の言葉を促した。

発令所の中は戦闘後の処理におわれているが、戦闘の真っ最中に比べれば落ち着きを取り戻しつつある。

取り敢えずは危機を乗り越えたことの安堵の色が、スタッフの誰からも感じられた。

 

「両名共に命に別状はないようですが・・・ユイナは少々入院が必要ですね」

「そう・・・でも良かったわ。二人とも無事で」

 

安堵の息と共に浮かべたやんわりとしたその微笑みは、司令席に座っていた人物とはまるで別人のそれであった。

ふとリツコは、状況に応じてある程度ユイの中の人格が使い分けられるているのではなかろうかと、漠然とながら考えた。

が、結局どれも碇ユイであることには変わるまいとそこで区切りをつけることにした。

それになにより本人も自覚しているかどうか怪しいところである。

 

「ええ、ですが初号機は早急に修理を行わないといけません。装甲の換装だけでも、丸一日以上かかりますし」

 

モニターに映った四体のエヴァの中でも、やはり初号機の損傷は目に見えて酷い。

本来鎧というよりも拘束具としての意味合いが強いエヴァの装甲であるが、パイロットにとっては衝撃を吸収するために必要であることは間違いないだろう。

どちらにしても素体が剥き出しの状態のままにしておくわけにはいかない。

これからの作業を思うと、リツコは少しばかり気が滅入った。

エヴァの管理をしている責任者である以上、その現場に立ち会う必要もあり、不具合が起きた場合にも対処せねばならないからである。

 

「まあ焦らなくても良いわ。さすがに昨日の今日で使徒が来るって事も無いでしょう」

「そうですが、念には念を入れませんと。早めに片付けておくに越したことはありませんし」

「あまり働きすぎないようにね。あとから私も行くわ」

 

正直、エヴァを作り出したユイの存在は心強い。

リツコが未だ把握しきれていないことも、ユイが知っているときがあるほどだ。

ことエヴァに関しては、まさに脱帽といったところである。

ただし、バイオコンピューター絡みになれば一日の長があるリツコの方が、技術的にも知識的にも上をいっている。

結果としてお互いの足りない部分を補いあうような状況が出来ていた。

 

「わかりました。では、先に作業を進めておきます」

 

リツコがにこやかに返答すると、ユイは満足げに頷いて足早に発令所を出ていく。

(やっぱり心配なのね・・・)

発令所にいた面々は親の愛情の一端を見た気がして、フッと頬の端が緩むのを感じた。

 

それからリツコはマヤを伴ってエヴァの修理作業に立ち会いうために発令所を後にし、ケイジへと降りた。

ケイジでは作業をすぐに始められるように整備班が走り回っていたが、今のネルフには必要最低限の人員のみしか残していない。

まだ少し準備をするにしても時間がかかりそうな様子である。

 

「先輩」

「なにかしら?」

「先にユイナちゃんのところに行ってあげてください。しばらくは私たちだけでも出来ますから」

「でも・・・」

「本当に大丈夫ですから。先輩だって心配なんでしょう?」

 

少しばかり逡巡するも、リツコはこの厚意に甘えることにした。

 

「・・・じゃあ、少しだけお願いね、マヤ」

「はいっ」

 

本人はおそらく気付いていないだろうが、幾分普段よりも早足になっているように思われる。

リツコを見送りそのことに気付いたマヤは、改めてその雰囲気が柔らかくなったことを実感して、暖かい気持ちになった。

以前のリツコも憧れの対象であったが、今は人間的魅力がグッと増したような気がしている。

詳しく何処がどうとか説明することは難しいけれども、こういうことは言葉で表現できることではないのかもしれない。

そこには一種の羨望もあったのだが、最近マナという妹的な存在ができて、リツコの気持ちをもう少し理解出来るのではないかと思っていた。

ふと手を止めて考える。

 

「マナちゃん・・・大丈夫かしら・・・?」

 

使徒が落下してくることがわかってから、一般市民と共に退避させた時のことを思い出すと、思わず吹き出してしまいそうになる。

ギャーギャー喚き散らし、最後まで残ると主張したマナであるが、なんせ彼女は子供とはいえ元戦自兵である。

同行した監察部の人間もたぶんこれまでで一番手を焼いたのではないだろうか。

まぁ・・・シンジとユイナ、そしてトウジもほとんど護衛の必要がないことを思えば、仕事の少なかった彼等に良い刺激となったかもしれないが。

 


 

病院に運び込まれたチルドレン達はそれぞれに精密検査を受けた。

一番怪我が酷かったのはユイナで、その次はシンジとトウジ、ほとんど怪我はなかったのがアスカとレイであった。

もっとも、ユイナ以外はごく軽傷ですんでおり、少々包帯を巻いた程度である。

ミサトは戦闘後にすぐそんな彼等の元に駆け付けてきた。

 

「みんなご苦労様」

「ホントよ、今回は色々と疲れたわ」

 

労いの言葉に対して、まずアスカがわざとらしく肩を竦めた。

それも戦いが終わった後の余裕からくるものであろうが、ややまだ固い。

今は、治療をほとんどしなかったアスカとレイ、そしてトウジと一緒にユイナの病室に向かっているところだ。

ミサトにしろ、子供らにしろ、一番重傷であるとされるユイナの様子を確認するまでは、完全に気を抜くことは出来ないでいた。

シンジはというと、意識を取り戻すとすぐにユイナの病室にすっ飛んでいったようだ。

 

 

「じゃあ、また来るね」

「うん。シンジも大人しくしていなさいよ」

「わかってるって」

 

全身包帯グルグル巻き・・・というほどでもないが、ベットの上のユイナに見送られてシンジは病室から出たきた。

そこでちょうどミサト等と鉢合わせになる。

 

「あ、ミサトさん」

「シンジ君、怪我は大丈夫なの?」

「僕の方はほとんど精神的な消耗ですから、少し休めば元通りになりますよ。ユイナもそれほど重傷ではないですし、心配ありません」

 

シンジの言葉にミサトはようやく肩の荷が幾分軽くなるのを感じた。

作戦立案者であるから責任もあって、かなりの負い目を感じていたことは事実である。

これでシンジとユイナにもしものことがあったら、周りがたとえ慰めの言葉をかけてくれたとしても、自分が許せなかっただろう。

実際、もう少し落ち着いて発令所に居れば彼等の容態はわかったはずのだが、ここに来てしまう辺りが実にミサトらしい。

それからミサトとアスカらはユイナを見舞ったあと、しばらくシンジ等と話していたが、仕事をすっぽかして来てしまったようなものであることを思い出すと慌てて発令所に戻っていった。

その背を見て子供らは笑い出したのだが、看護婦に白い目で見られしまってすごすごと病院を退散することにした。

 

 

「それにしても、ユイナのことはあんま心配せんでもよかったんとちゃうか?あないに元気なんやったら、今すぐでも退院できるやろ」

「バカ鈴原。無理してたにきまってるじゃない。そのくらいわかりなさいよね」

 

病室でカラカラと笑っていたユイナを思い出すと、怪我の割には元気そうだった印象がある。

今はまだユイがついているのだろうが、強がっていたというのも考えられないことではないので、トウジは少し言葉に詰まった。

(やっぱりデリカシーがないって言うか・・・)

アスカはこのジャージ少年の様子に、親友のこれからを思うとかなり不安を覚えたりするのだった。

 

「しばらくは安静にしている必要があるわ・・・手足は大丈夫だったけれど、肋骨三本にひびが入っていたそうよ」

「ユイナもわりと我慢しちゃうタイプだからね。それに・・・無茶もする」

「それはあんたが言えた事じゃないでしょうが」

 

スパンッとアスカに後頭部を軽く叩かれるシンジ。

頭にも包帯を巻いていたシンジは、怪我をしているって事を主張したが、アスカは鼻を鳴らして無視を決め込んだ。

トウジのことに呆れたあとだったため、余計に不機嫌になっていたようだ。

 

「ったく、いったいなぁ〜・・・」

 

文句をブツブツと言っていると、今度は両手で頬を挟まれて強制的に前を向かされた。

その先には角が出そうになっているアスカの顔がある。

 

「あんたねぇ・・・あたし達がどういう思いで空を見上げていたと思っているわけ?」

 

真っ直ぐと目を見ていたシンジは、それがアスカの真剣な思いであると悟り、表情を引き締めて見返した。

思考の切り替えを感じたのか、アスカは手を離し、少しだけ距離を取った。

 

「シンジ、あたし達はあんたのなに?仲間でしょう」

「そうだよ、大切な仲間だ」

 

意志のこもったハッキリとした調子で言い放つ。

 

「だったらもうちょっとでいいからさ、あたし達のこと信頼してくれない?守りたいっていう気持ちはみんな同じなんだから」

「頼りにはしているよ。みんなのことを軽んじているわけでもない。でも・・・・・・ゴメン・・・少し思うところがあってさ・・・」

「思うところ・・・?」

 

「うん・・・」と頷いたあと、シンジはそれきり黙り込んでしまった。

まるでその様子が聞いてくれるなと言っているように感じて、アスカは次の言葉を見つけることが出来なくなってしまう。

今の時点ではこれ以上話をしても続きそうにないと判断したトウジが、気まずい空気を漂わせ始めた二人の間に割って入った。

同性に関しては結構鋭かったりするらしい。

 

「なぁ、飯でも食いにいかんか?わし、腹減って死にそーなんや」

「私も。人は居ないけれど、ネルフの食堂なら何とかなるわ」

 

やや場違いでは無かろうかとも思えるトウジの提案に、以外にもレイが賛同した。

だがこれまで数時間に渡って待機を続けて、その上で戦闘に臨みんだのだから、空腹になっても無理はない。

アスカはまだ少しなにか言いたそうにしていたが、自分の体も空腹感を思い出したようで、情けない声をあげそうになったのを誤魔化すようにクルッと体の向きを変えた。

ほんの少し、「クゥ〜」というような音が聞こえたが、この時ばかりはトウジさえもそれを茶化すことはしなかった。

 

「ったく、仕方ないわね。シンジの奢りって話はユイナが退院してからとして、今は食堂でも行って腹ごしらえといきましょうか」

 

ズンズンと歩き始めたアスカの背中を見やるトウジはしてやったりの笑みを浮かべ、シンジにニッと歯を見せた。

レイも控えめだがはにかんで、俯き気味だったシンジの手を引く。

 

「ほら〜あんた達、さっさと行くわよ」

 

振り返ったアスカが少し大きめの声をあげ、それに促されるように三人は歩き出す。

 

「行きましょう、碇君」

「まっ、人間腹がへっとるとろくなことを考えんからな。腹もふくれりゃ、ちぃとは気が晴れるやろ」

「・・・ありがとう、綾波、トウジ」

 

二人はただ微笑んで、シンジの手を引くのだった。

 

「・・・でも、結局僕が作るんだよね?」

 

瞬間、微笑みが苦笑いに変わったのはご愛敬。

 


 

「こりゃまた酷い有様だな・・・」

 

使徒の攻撃によって倒壊した兵装・電源ビルの瓦礫の上にバルは腰をかけていた。

夕方ということもあり、茜色に染め上げられた世界の中で、風に揺れる彼に銀髪はとても映えて見える。

受け止めたときに負った傷は、まだは完全に修復されていないらしく、肌が露出している部分には亀裂が走っていた。

 

ひとまず戦いが終わってからシンジ達の無事を確認したバルは、改めて状況確認のために街に出てきたのだが、想像以上に酷い状態だった。

芦ノ湖の湖岸が広がってしまったことは別としても、街に落ちた数発がもたらした被害はこれまでの使徒戦の中でも最大であった。

すり鉢状の地形が街のど真ん中に出来上がっているのだから、住人達も戻ってきたときにはさぞ驚くことだろう。

街やエヴァの修繕費用は、如何にネルフが超法規的な組織とはいえ、一組織で抱える負担の枠を軽く飛び越えているのだ。

これがネルフが他の組織に煙たがれらる由縁でもある。

 

「イロウル、アラエル、アルミサエル、ゼルエル、タブリス・・・あと五つか。この街はもつかな?」

「いや、六つだよ。君も含めてね」

 

自問に対しての返答に、バルは眉を微かに動かすだけで身じろぎはしなかった。

 

「・・・お前に言われるまでもなく、わかってるさ・・・・・・タブリスッ!!」

 

振り向きざまにA.Tフィールドを叩きつける。

絶対領域に衝突した轟音と共に、コンクリートやら何やらがものすごい勢いで吹き飛んでいく。

 

「チィッ、外したか!」

 

舌打ちをし、崩れた瓦礫から視線を斜めになっている電柱に移した。

電柱の一番上には、彼と同じ銀髪を風に軽く揺らした学生服姿の少年が、紅い瞳を細めて薄く笑みを浮かべて腰を下ろしている。

歳格好から見て、シンジ等と同い年というところが妥当だ。

あくまで見た目は、だが。

 

「随分なご挨拶だねぇ、バルディエル」

 

軽く自分の肩の辺りにかぶった土埃を祓うような仕草を見せながら、張り詰めたこの場にそぐわない気の抜けた声が発せられた。

単純に容姿は美少年、と言ってもおそらく差し支えはないのだろう。

ただしその身から漂う雰囲気は儚さと、どこかしらの妖しさを伴っていて、十代前半の少年が発するような代物ではないことは認めざるを得ない。

 

「ハッ、お前にはこのくらいで十分なんだよ。それに俺は今、バル=ベルフィールドだ」

「フフッ・・・だったら、僕のことは渚カヲルって呼んでくれるかい、バル?」

 

刃のような気配を突き付けられながらも、実に飄々をしている。

それだけでも十分に得体の知れ無さを感じさせた。

 

「渚・・・ね、洒落のつもりかよ」

「さぁ、どうだろう?」

 

冷たく、鋭い笑みをかわす二人。

錯覚でもなんでもなく、実際に両者の間にはチリチリと光の粒が飛び散るのが見て取れる。

それは二人の心の壁が衝突している証だ。

 

「一体何をしに来やがった?サハクィエルの近くにいたのはお前だろう?」

「なんだ、やっぱりわかっていたのかい」

 

戯けたように肩を竦めると、カヲルはスッと腰を上げた。

だが、彼の足は空中に浮いたままで、電柱の高さと同じ場所で留まったままでいる。

 

「サハクィエルが消えたあとも、そこに何か居たからな・・・俺だけじゃない、多分シンジもお前のことを感じていただろう」

「だけど、彼は僕が何者であるかは知らないはずじゃないかな。断定は出来ないと思うよ」

「そりゃそうだ。あいつにお前のことを話すのは酷なことだ」

 

全ての使徒に関してミサトから聞き及んでいるバルは、渚カヲルと名乗った少年がとった道を知っていた。

戦ったのではなく、自分を殺させたということを。

そして気が付けば、何時かは己にも来るであろうその時を、カヲルの選択した道に投影していた。

それはやはり子供らに言えたことではなく、ネルフで出来た仲間にも相談できるようなことではない。

 

「・・・・・・なるほど、君は初めから僕と差し違えるつもりでいたわけかい。良い覚悟だね」

 

決然としたその様に、カヲルは納得したように軽く頷き、ようやく表情から笑みを消す。

臨戦態勢・・・ということなのだろうか。

言葉にはあまり反応を示さず、バルも静かにまだ完全には癒えていない拳を握り込んだ。

 

「もう一度聞く、何をしに来た。返答の次第によっては・・・」

「ここでやるかい?それは無理だね。サハクィエルとの戦いでかなり消耗しているその状態では、僕には勝てないよ。ましてや君のその体は、本体ではないんだから」

 

図星であった。

使徒のフィールド形成能力には多少の差があることは自覚している。

相対しているカヲル(タブリス)のそれがどの程度かはわからないが、指摘通りにかなり消耗していることは事実だった。

だからこそ自分の前に現れたのだと思うこともできたのであるが。

 

「・・・それでもやるのかい?」

 

返事のかわりに光が電柱を粉々に砕いた。

 

「やってみなければわからないさ・・・」

「そうかもしれない・・・でも・・・」

 

カヲルが目を伏せると同時に、ハッキリと常人にも目視することができる壁が二人の間を隔てた。

バルの発しているフィールドが徐々にだが、確実に押し込まれていく。

防御に全てのフィールドを集中しようとすると、姿をその場所に留めることが難しくなり、亀裂の入った部分から、徐々にLCLへと戻っていった。

四肢から流れ落ちたオレンジ色の液体が足下の瓦礫の中へと消える。

 

「クッ・・・」

「まだやるつもりかい?そんな木偶では僕と戦うことすら出来ないよ」

「木偶とはな・・・言ってくれる」

 

バルが不敵に笑いながら言うと、唐突に圧迫していた力が弱まった。

劣化した体を押さえながら不可解そうに見やるが、カヲルの表情に変化らしい変化は見受けられない。

 

「やる気になっているところ悪いけど、僕は初めから君と命のやり取りをするつもりはないんだ」

「ならば何故ここに来た?お前は何をしたいんだ?」

 

まるで全てを見透かすような、もしくは全てを諦めているような憂いを秘めた瞳は、ただじっと同類を見下ろしている。

バルは改めてやりにくさを感じていた。

元々言動に不可解なところが多いカヲルであったが、これまで以上に苦手な印象を受けている。

それはバル自身も人間体に近い状態にあることも原因ではあろうが、やはりカヲルが特殊すぎる事の方が重大であろう。

 

「目的を同じくする者を敵に回すほど僕も愚かではないってことさ」

「なっ!?」

 

カヲルの言葉に初めてバルの表情が大きく崩れ、動揺が現れた瞬間、足下にあった瓦礫が大きくはぜて粉塵が巻き上がった。

それによってあっという間に視界を奪われる。

バルは苛立たしげに手でそれを振り払いながら、遠ざかっていく気配に向かって叫んだ。

 

「待てぇっ!話はまだ終わっていない!!」

「僕は僕の戦いがあるんだ。そう・・・贖罪さ」

「贖罪?何の罪を贖うというんだ!?答えろタブリスッ!!」

 

答えはない。

気配も、そこにはもう存在していなかった。

 

「タブリィィィィィスッ!!」

 

粉塵が治まった頃には、人の営みの見あたらぬ廃墟にバルの絶叫だけが響き渡っていった。

 


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後書きのようなもの。

 

結構間が空きました・・・の割には短いですけど、目を瞑ってくださいな。

サハクィエル戦直後だっていうのにカヲルvsバルでした。

ほとんど今回はバルの空回りっていうところですが。

直情型(注:決してバルが頭が悪いというわけではない)と理論型いや理屈派か?ですから、仕方ありませんかな。

 

エヴァ第6巻を買ったはいいんですけど、ブックカバーもらえなかった・・・(T T)

しかも内容があれですから、バル&トウジ好きとしてはちょっちへこみました。

おかげでしばらく「WING」を書こうと思っても、なかなか上手くいかないままでしたよ・・・

それと関係ない話ですけども、イインチョが妙に可愛く、これはグゥ(笑)

 

感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板によろしかったらお願いします。

誤字脱字の指摘もあればお願いいたします。

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