「さよなら・・・か・・・」

「え?今、何か言った」

 

景色は形を歪めて流れていく。

茜色に染まった世界は銀髪を紅く染め、紅い瞳を更に深みのある色へと変貌させていた。

そのバルの口から、本当に小さな声が漏れたのを、ハンドルを握っていたマヤは上手く聞き取れなかった。

窓を開けていたため、そこから入ってくる風がたてる音が更にその声をかき消してしまっていた。

 

「・・・いや、何も」

 

マヤの問いに対して、バルは視線を景色に固定したまま、また小さな声で言う。

車内にはタイヤが地面を噛む音と、窓から吹き込む風の音が満ちていく。

沈黙が続く。

 

「・・・嘘つき」

「何か・・・言ったか?」

 

今度はバルがマヤの顔を見たが、マヤの横顔からはあまり感情を読み取ることが出来なかった。

 

「いえ、何も」

「そうか」

 

ただし・・・バルにはその呟きしっかりと聞こえていた。

後部座席に置いた荷物が揺れてたてるカタカタという音だけが、車内に響いていた。

 

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第四拾壱話 同時進行

 

 

 

 

 

 

学校の休校、ネルフ本部人員の大幅削減。

急速にシンジ達を取り囲んでいる環境が変わろうとしていた。

結局、第三新東京市にはほとんど人が戻ってこず、市街退去の命令を出すまでもなくなっていた。

最新鋭のゴーストタウン・・・

ある意味では廃墟になった街よりもずっと人の恐怖感を煽る環境であろう。

 

また、このおかげで第三に残っているシンジたちの行動範囲も極端に狭くなった。

ただでさえ市外への外出はほとんど出来ないでいたのに、それに追い討ちをかけるように外出する先がなくなってしまったのである。

大型店舗は完全に撤退しており、個人商店もどんどん数が減っている。

自宅と本部をエヴァのテストと訓練のために往復するだけの生活が、子供たちの日常となったのだった。

 

 

「ユイナぁ〜、あんた本当に退院して大丈夫なの?」

 

あんまり心配しているとは思えない間延びした声に、妙にいい姿勢をしているユイナはその場で回れ右をした。

そしてニパッと満面に笑みを浮かべる。

 

「大丈夫大丈夫。病院に居続けたらそれこそ暇すぎて死んじゃうわ」

「って、大して病院の外もかわりゃしないわよ」

「チッチッチッ、自分の足で動き回れるだけで結構違うものよ。それに病院では静かにしているしかないし」

 

ほんの短い時間であったが、本当に病院生活で退屈していたのであろう。

動きたいという欲求が形を持って全身から立ち上っているような、そんな印象すら受ける。

 

「それで、今日はみんなどうするの?」

「んーっと、確かシンジ以外は、エヴァで新兵器の実験がある言うとったで」

 

と言ったのはトウジ。

ユイナは眉をひそめて不可解そうに小首を傾げた。

 

「うん?どうしてシンジ以外なわけ?」

「はぁ〜・・・あんたたちがこの前の戦闘で、初号機を大破させたからに決まってるでしょうが」

「あっ・・・そういえばまだ修理にかかってなかったの?」

 

病院の中にいたユイナはそこら辺の事情を知らなかったようで、アスカの溜息たっぷりの科白に少しだけ笑顔を曇らせた。

実際、初号機は戦闘後に回収され、これ以上損傷が深まらないように応急処置を施してからあとは、半ば放置されていた。

このほどやっと修理に取りかかったところなのだが、詳しく損傷を調べてみればみるほど、気がそがれるような状態であったらしい。

今ちょうどリツコとユイが、ケイジで全ての装甲を取り外した包帯グルグル巻きミイラ状態の初号機を前に頭を抱えていることであろう。

 

「まだもまだ・・・今日からやっと本格的に修理開始だよ」

「え゛・・・」

「それだけ酷かったって事なんだけどね。残念だけど今使徒が来たら、僕ら出番無しだよ」

 

さも残念そうにシンジは肩を竦めた。

なにも戦いを望んでいるわけではないが、戦いを前にして何もできないなんて事は御免だった。

どんな結果になるにしても、自分自身出来る限りのことをやりたいと思い続けているのだが、その土俵にすら立てないのでは話にならない。

ただ壊したのが自分である以上、早く直してくれなどと催促できるはずもなかった。

 

「あらら・・・結構酷かったんだ初号機の損傷って」

「そういうこっちゃ」

「それでそっちの新兵器っていうのは?」

「・・・秘密・・・行ってみないとわからないの。少なくとも葛城三佐は教えてくれなかったわ」

「・・・何かさ、そういう話を聞くと、すっごく生き生きしている姉さんの姿が思い浮かぶのはアタシだけ?」

 

返答は肯定と苦笑とそれぞれだった。

 


 

「マヤの様子がおかしい?」

「ああ、おかしいって程じゃないんだけどな・・・何かお前だったら心当たりはないかなぁと・・・」

 

それまで初号機の修理スケジュールを確認していたリツコは、端末をひとまず閉じると周囲を見回した。

近くにいたユイに少し断りを入れると、二人はそろってケイジを出ていき、妥当なところでラウンジに向かった。

 

ラウンジは一応残ったスタッフのためにも営業しているが、新兵器実験と初号機修理のために大半の人が出払っているため、ほとんど人影はなかった。

だからこそリツコもここに来たのだ。

別に話そうと思えばそこらの自動販売機の横でも構わなかったのだが、少しリツコ自身が落ち着きたいと考えていたからでもあった。

 

「で・・・おかしいってどういうことかしら?」

 

向かい合って席に座り、リツコはテーブルに肘をついて手を組んで少し見上げるようにしてバルを見やる。

若干ながら好奇心らしきものがリツコの瞳の中にあるように思えたが、それは責められるものではない。

たとえば、これがリツコではなくミサトだったら、若干ではなく好奇心が前面に押し出されていてもおかしくないだろう。

 

「・・・嘘つき呼ばわりされた」

「はぁ?」

「いやまぁ・・・事実ってことは事実なんだがな」

 

実際にそれが嘘と言えるかどうかはわからないが、マヤに対して本音を見せていないということは自覚している。

偽っている部分があるというもの事実だろう。

リツコは小首をかしげながらもバルから詳しい事情を聞き出すと、更に眉をひそめた。

 

「あなた・・・話していないわよね?」

「ああ、話していない」

 

周囲にほとんど人はいないが、万が一を考慮して何をと言うことは敢えて口に出さずにいた。

その様はかなり怪しい。

 

「・・・あの娘、あれでいて結構勘が鋭いところあるから、何か感じているのかもしれないわ。あなた自分で気が付いていない?」

「? 何の話だ?」

「あなた最近、怖い顔していることが多いのよ。特に一人でいるときなんかはね」

 

口元に手を当て、バルは俯いたまま全身硬直したように身じろぎ一つしなくなった。

自分の顔を見るためには鏡が必要であることは当たり前だが、意識していないとき・・・

例えば思考に耽っている時などは、特に自分がどういった顔をしているのか解らないし、あまり気にも止めないモノであろう。

時折、周囲から怪訝そうに見られたりすることで、やっとその場にそぐわぬ表情をしていることに気付く程度だ。

そしてばつが悪くなったり誤魔化したりするものだろう。

 

「・・・そう・・・かもな」

 

しばらく考えたバルの答えは自信があまり無さそうだったが、肯定であった。

大きく溜息をつくと椅子の背もたれに身を預けて、苦々しい表情で何処ともなく視線を宙へ泳がせ始める。

 

「・・・もしくは、何処かで話が漏れたのかもしれないけれど、ミサトもシンジ君もそれほど口が軽いとは思えないからね」

 

リツコが若干の弁護の意を込めて言うと、バルも「わかっている」と頷いた。

 

「でも、これで良いのかもしれない」

「え・・・?」

「これはこれで良いのかもしれないと思わないか?このまま俺が嫌われていれば、すぐに忘れてくれるだろう?」

 

視線を正面のリツコに戻したとき、バルは穏やかな瞳で小さな微笑みを浮かべていた。

ギュッと胸を締め付けられるような、そんな酷く悲しい笑顔だった。

(まるで・・・涙を流さずに泣いているみたいだわ・・・)

静かな迫力を持ったその姿にリツコはかける言葉が思い浮かばず、バルが自分からその席を立つまでただジッとその顔を見つめていた。

 


 

初号機の修理が本格化し始めた一方で、零、弐、3号機の三体のエヴァがリニアラインに乗せる準備が進んでいた。

同時に幾つかのコンテナも運搬するようで、こちらはこちらで忙しそうに走り回っている人の姿が見受けられる。

既にエヴァに搭乗した三人は準備が整うまでの時間を待つしかなかった。

 

「新兵器なんて作っていたとは思わなかったわ」

「・・・確かに以前は無かったわ」

「まっ、なんにしても戦いが楽になるなら大歓迎だけど。戦いは無駄なく美しくってね」

 

残る使徒がどういったものかおぼろげながら知っているアスカにとっては、新兵器の追加は願ったりかなったりといったところだった。

これまでの戦いの中でいささか自分が力不足・・・正確に言うなれば、シンジとユイナ、そしてバルとトウジにおいていかれているような気がしていた。

シンジたちの特殊な力、違う方法ではあるものの初号機と3号機が有する飛行能力、そして3号機だけの特殊武装であるA.Tネット・・・

かつて「弐号機が世界で初めての実戦用エヴァンゲリオン」というようなことを言った記憶があったが、むしろ今では弐号機の方が戦力的に不十分であるように思えてならなかった。

もちろんそれはあくまでアスカや弐号機が劣っているわけではなく、初号機や3号機が特殊すぎるだけの話である。

 

「せやけど、せっかく作ったちゅうのにリツコさんは同行せぇへんって・・・なんでやろ?」

 

今回の新兵器の使用実験はリツコは参加せず、指揮にはミサト、データ収集の代理にはマヤが随伴することとなっていた。

ユイナではないが、リツコがそういった場所に立ち会わないというのはいささか拍子抜けな感じであった。

 

「リツコは初号機の修理の方が優先なんでしょ。だいたいエヴァが四機揃うのと、まだまともに使えるかわからない武器とどっちが使徒に対して有効かって言ったら、選ぶまでもないわよ」

 

アスカの言うことももっともだと、トウジは意識を別の方に向けた。

今回の実験は外部で行うということもあって、かなり準備が大がかりになっていた。

普通の武器であれば本部内でも実験できるのだが、内容が内容だけに実際にエヴァが装備して振り回す必要がある。

そのための外での実験なのだが、電源ビルは存在していないためその電源確保のための車両も用意せねばならず、ほとんど使徒戦並の準備をせねばならなかったのである。

 

「わしらが出たら、本部に人がおらんようなってしまう気がするんやけど」

「初号機の修理とマギの制御に人が残る程度じゃない?どうせ最近、人気がなくなってきてるんだから大した差じゃないでしょ」

「今日、私たちが実験中に本部に何事もなければいいけど・・・」

 

レイが呟いたその一言に黙り込む。

 

「・・・レイ、不吉なこと言わないでよ」

「・・・ごめんなさい」

「いや、でも・・・綾波の言うたこともあながち否定できひんとちゃう?」

「鈴原まで妙なこと言うんじゃないの!!そんときゃすぐに呼び戻されるわよ!」

 

アスカの苛立ち混じりの叫びを最後に再び会話が途切れ、三人の間になんとも気まずい空気が漂い始めた。

何時出てくるかわからない、何処から来るのかもわからない。

使徒の襲来はまさに神出鬼没を絵に描いたようなものであり、絶対にないと言いきれないところが三人の心に小さな影を落としていた。

いつもならばこんな事はないのだが。

 

「お〜い、なにしけた顔しているんだ?」

 

沈黙を破ったのは三機のエントリープラグ内のウィンドウに顔を映したバルだった。

今回は指揮車両に乗って移動するらしく、その後ろには黙々と作業を続けるマヤと他オペレーターの姿が見える。

三人はそれぞれ「別に」と何事もなかったかのように―――レイだけはもとより淡々としていて変化は無かったが―――簡単な返事を返した。

会話が向こう側に聞こえていたかどうかはあまり気にしていない様子だ。

そして三機のエヴァと三人の子供を乗せたリニアが動き始め、海岸方面に向けて移送されていった。

 


 

実験のためにエヴァ三機が出払った頃、人気のないトレーニングルームでは、一人汗を流すシンジがいた。

備え付けのベンチではその様子を横目で見ながら、談笑しているユイナとマナの姿がある。

初号機が修理中であるため、シンジとユイナは別に本部に来る必要はなかったのだが、時間を潰すのに適した施設があるのも本部であったため顔を出した次第である。

アミューズメント施設のようなものがあるわけではないが、職員のリラクゼーションのための施設は充実しているのだ。

 

「シンジって意外と筋肉ついてるのね」

 

会話が途切れたとき、なんとなくぼんやりとした口調でマナが言うと、ユイナもそれつられるようにシンジに注目した。

なるほど、確かに汗が浮かんでいる四肢は細いながらも幾分がっしりとした印象がある。

ユイナはふと自分の腕に視線を落としてシンジのそれと見比べてみた。

(・・・心も体も・・・どんどん逞しくなっていっているんだね・・・)

小さな発見に胸が少し熱くなり、自然と顔を綻ばせるユイナであったが覗き込んできているマナの視線に気付き、驚いて派手に仰け反った。

 

「な、なに?」

「んーーー、何かすごく可愛い顔してたから」

「ふぇ?」

 

そのマナの言葉がよく理解できず目が点になるユイナ。

その様子にクスクスとおかしそうにマナは笑い、不満そうにむくれたユイナをその場に残し立ち上がった。

 

「シンジー、どうせなら私と少し組み手でもやらない?」

「えっ・・・でも・・・」

「大丈夫、大丈夫。これでも一応訓練を受けた身だからさ。それとも女の子相手じゃ本気になれないかしら」

 

もう既にやる気満々のマナを前に、シンジは助けを求めるようにユイナの方を見た。

だがそのユイナは苦笑いを浮かべた上にお手上げといったジェスチャーで返してきたため、シンジは大きく肩を落とした。

その間にもマナは柔軟運動を始めて、もういつでもかかってこいと言わんばかりの様子である。

 

「さぁて、やりましょうか」

「・・・ハァ、お手柔らかに頼むよ」

 

なんだかんだで二人ともとりあえずトレーニング用の防具をつけ、一番広い場所で向き合う。

小気味良いテンポで二人の打撃が放たれて汗が飛び散る様を、ユイナはぼんやりと見つめていた。

怪我人であるユイナは大人しくしているほかない。

動けるものならば一緒に運動するのだが、まだ肋骨が完全にはくっついていないため、呼吸をするとまだ少し苦しかった。

なかなか怪我が治らないのは歯痒い。

だが反面これが体があり、今ここに生きているという証であるのだから、実は内心ではあまり悪い気がしていなかったりする。

(・・・でもやっぱり体を動かしたいわね)

(もう痛いのは勘弁だわ)

そしてまた苦笑い。

 


 

三対のエヴァは何事もなく実験会場となる海岸線の廃墟群に到着した。

先回りしていた技術班と合流し、すぐにアンビリカルケーブルを接続、実験が始まるまで待機となった。

海岸線に三対の巨人が跪いている様はなかなかに壮観である。

 

青・赤・黒と、並んだその足元では、データ収集のための準備で駆けずり回っている人々の姿が見える。

とはいえ、ほとんどこちらに来る前にリツコがほぼ整えているため、接続さえ済ませれば後は手を加える必要はほぼない。

予想される事態も、エヴァの起動実験に比べれば危険性はないに等しい。

だからこそ今回の実験をリツコはマヤに任せたのである。

 

「マヤちゃん、そっちの準備はどう?」

「あと一時間もあれば・・・どちらにしても今回の目的はデータ収集のみですからね。そんなに難しいことはありませんよ」

 

キーボードを叩きながら、マヤはミサトのほうを見て言う。

もう既にその指の動きはブラインドタッチという域を超え、ため息すら出てしまう鮮やかな手並みである。

 

「さすがリツコの弟子ね」

「私なんてまだまだですよ。先輩はもっと凄いんですから」

 

事実、リツコの方が数段早く作業をこなせるのだが、あれはもう神業であって、ある意味人間の所業ではない、とミサトは思っている。

それを目標として掲げているだけで大したものだとも。

また謙遜してはいるが、世間でマヤほどの能力の持ち主がいるかといったらば、それは否であろう。

ネルフ自体がいわゆるエリート集団であるが、マヤはその中でもリツコの弟子ということでまた頭一つ抜きん出ている部分がある。

潔癖な部分をもつ性格を考えれば、むしろネルフが向いていない部類の人間に入るだろう。

 

「それにしても・・・これこそまさにエヴァ専用の兵器ね・・・」

「はい・・・・・・A.Tフィールドの応用・・・バルがいなかったら、これほど容易にはいかなかったと思います」

「そうね。これまでのことも含めて彼の功績によるところは大きいわ。子供たちのことも・・・彼には本当に世話になりっぱなしだわ」

 

しみじみと、ミサトがその実感を噛み締めているとマヤの手がピタリと止まった。

ミサトが怪訝そうに覗き込む。

 

「どうしたの?何か問題でも起きたの?」

「・・・葛城さんはどう思います?今回の実験次第ではすぐに配備されることになるわけですけど・・・エヴァがまた強くなることを」

「・・・そうね・・・こうやって武装を強化していくことが正しいかどうかは別としても、ここにある戦力はもうすでに一国の戦力を大きく上回っている・・・3号機なら間違いなく単機でこの国を滅ぼせるわね」

「手に余る力・・・ですか」

「そういう意味では、この力が子供たちに委ねられていることは幸運なのかもしれないわ」

 

野心あるものに扱える力だとしたら・・・

そう考えると、ネルフが危険視されてもおかしくはないと思えてくるのはごく自然な思考であろう。

ミサトはマヤの顔を見ず、三機のエヴァ、その足元にある四つの人影が映るモニターを睨んだままだった。

 

 

 

「ソニックグレイブ改ねぇ・・・もうちょっとなんかいい名前とかなかったわけ?」

 

三機の中で弐号機だけは、武器を抱えるようにして跪いていた。

それは今回開発したソニックグレイブ改だが、旧来の代物と大して見た目が変わっているようには思えない。

唯一大きく違っている部分は刃に当たる部分が、少し肥大化していることであろう。

 

「名前で威力が変わるわけでもあるまい。それに開発はかなり駆け足だったんだ。間に合ってテストするだけの時間があることを幸運と思えよ」

 

新しく製造するのではなくて、元々あった武器の形状をそのまま流用しているあたりにそのあわただしさが感じられる。

夜な夜な3号機がこの開発・実験に付き合っていたのだが、何本駄目にしたか、参加していたバル自身も把握していないほどだ。

ネットに比べて操作に関して複雑な意識が必要ではないものの、他のエヴァでも使用できるようにするのに手間取ったのだった。

しかも実験というだけあって、本当に何処まで零号機や弐号機に使用できるか未知数といったところだ。

 

「そういえば、いきなりA.Tネットを使ったときは、ホンマにきつかったわ」

「それはあんたが軟弱だからじゃないの?」

「ほぉ・・・よぉ言うたな。せやったら、あとで泣き言言うても手ぇ抜かへんからな。覚悟しぃや」

「望むところよ!!」

 

「・・・結局あの二人・・・仲、良いのよね」

「だな。見ていて飽きん」

 

バルとレイは完全に傍観者に徹し、止める気はさらさらないようである。

ここまで毎度のこととなってくると、周囲にとっては完全にコミュニケーションの一環となっているらしい。

このような深刻でない言い合いが出来るのも、彼らの中にある程度余裕があるからだろう。

周りもほほえましく思う程度だ。

 

「でもバル・・・」

「ん・・・?」

「あなた、鈴原君が元になっているのよね?」

「・・・まぁ、たぶんな・・・」

「あれで?」

 

まだなにか小競り合いをしている二人を見て、バルは自信無さそうに首を二三横に振り項垂れた。

 

「やっぱり環境が人をつくるのね・・・」

「人・・・ね。そうかもしれないな」

 

レイとバルがそろって表情を緩めたときだった。

スピーカーからミサトの気の張った声が発せられエヴァへの搭乗を促し、A.Tフィールド応用兵器起動及び実働実験は始まった。

 

 

 

 

実験開始から数時間後の第三新東京市・ネルフ本部では初号機の修理が行われており、発令所にはほとんど人間の姿はなかった。

そんな中、ネルフという組織の心臓であるスーパーコンピューター・マギの内部で静かに、だが確実に異変は始まっていた。

 


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あとがきみたいなもの。

 

今回は少し短めのうえに前回の前置き的な要素を引きずってますね。

ううむ、いかん。 

無意識のうちに展開をスローにしようとしているかも。

そんな自分が少々姑息だなと思う今日この頃。

でもまあとりあえず、次回からシリアスゴーゴーです。

 

感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板によろしかったらお願いします。

誤字脱字の指摘もあればお願いいたします。

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