翼を背負った二体の巨人が対面したのは見渡す限りの白き雲海の上だった。

白い雲が地上と空とを隔て、別の世界を形成してるかのような感慨を抱かせた。

 

「シンジ、ユイナ・・・」

 

ボディと同じ黒の翼を広げた3号機の肩の上に、弱弱しいながらも微笑みを浮かべている銀髪の青年の姿があった。

体は半透明で、後ろにある黒い装甲板の色形が透けて見えている。

今にも消えてしまいそうな、儚さと脆さが同居した姿にシンジとユイナはぐっと喉が詰まるのを感じた。

LCLは確かに循環されているはずなのに、酷く息苦しい。

 

「よくもまぁ・・・そんなぼろぼろの初号機でここまで来たものだ」

「早まった真似はしないでよ。まだ何か手があるかもしれない。ううん、きっとあるさ!」

「もういいんだよ・・・俺は・・・」

「もういいなんてことあるか!まだ・・・まだ手があるはずだ!!バルを放ってなんか行けないよ!」

「そうよ、諦めちゃダメ!あなたがいなくなったら、悲しむ人がいるのよ!!」

 

バルは泣き出しそうに顔をくしゃくしゃにしたが、決して涙はこぼれなかった。

 

「見ろよ・・・俺は泣くこともできない・・・」

 

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第四拾四話 勝利の代償

 

 

 

 

 

 

自分たちにできることをと考えたときに、シンジとユイナの頭の中には天秤が浮かんだ。

第三新東京市とそこにいる人々、そしてバル。

冷静な、感情を極力排除した機械的な思考を持ってすれば、ここは街に向かうべきなのであろう。

だが、喩え綺麗事と言われようと、そこまで二人は割り切って考えられるような頭を二人は持ち合わせてはいなかった。

 

「傲慢だ・・・それはな」

 

バルは静かに言った。

どちらも助けたい。

どちらも失いたくないと言うシンジ達に、静かな声で。

 

「傲慢でもかまわないさ!僕は君を助けたい!!」

「わかれよシンジ・・・選ばなければならないときは来るものだ。そしてそれが今だ」

「嫌だって言ってるだろう!!」

「・・・・・・ユイナ、お前も同じか?」

「ええ・・・・・・だって、だってあなたは死んで楽になろうとしているだけじゃないの!?お願いだから生きて!死に急ぐようなことはしないで!!」

「やれやれ、仕方ないな・・・今回だけは俺が選んでやるよ」

 

自分のために必死になってくれていることが嬉しくないわけがない。

いや、バルにとって奇妙ではあるが、この瞬間己の存在を確かに認めてもらえたような・・・そんな感慨を抱いてさえいた。

そんな思いから苦笑しつつも、バルが手をかざすと、それに応じる形でスゥッと初号機の周囲を薄い光が包み込んだ。

 

「こ、これは・・・A.Tネット!?」

「やめて、バル!!アタシ達はまだ何も!!」

「行けよ・・・俺の心の欠片達・・・」

 

かざした手で何かを押すような仕草をすると、初号機を包み込んできた光の球体がある方向に向けて移動を始める。

球体が移動する速度は徐々に増していき、あっと言う間に二機はお互いの姿を捉えることが出来ないようになってしまった。

初号機は球体の内壁を殴り続けた。

普段であれば中和できないはずがなかったのに、どんなにそれをしようとしても、初号機にはA.Tネットで構築された球体を打ち破ることは出来なかった。

それはバルの意志の強さ故か、それとも二人の心が揺れているためか・・・

 

シンジとユイナは喚き散らしていた。

自分でも何を言ったのか解らないほどに、滅茶苦茶に。

もしかしたらそれは言葉にすらなっていなかったのかもしれない。

心の叫びをそのままに吐き出した、悲しみと怒りの入り交じった胸を切り刻むような声だった。

だが、それは聞き届けられることはなかった。

 


 

「・・・守れよ、街を。今それを出来るのは、お前達だけだ」

 

強く、強く自分自身を抱き締める3号機。

 

「そりゃあ、俺だって生きていたい。あそこには俺を受け入れてくれた空間があった。俺が生きていていい世界を提供してくれた。だから・・・だからこそ・・・自分自身が許せないんだよ・・・」

 

アスカが何もしなかったとしたら、自分は首を絞めるのをやめていただろうか?

答えは否だろう。

おそらく首の骨がへし折れるまで締め上げ続けたはずだ。

そんなことを確信できてしまうことがたまらなく悔しかった。

そして不意に一人の女性の顔が頭に浮かび、バルは自虐的に笑う。

 

「嘘つきか・・・本当にそうだよな・・・俺は自分の気持ちにも嘘ついて・・・これ以上悩むのが辛いから、簡単に死ぬこと選んで・・・弱虫なんだよな、結局俺も」

 

笑みを消したバルは、スッとその場から消えて3号機と完全に一つとなる。

(・・・だがまずい・・・自爆しようにもこれ以上コアに負荷がかからない・・・)

最終手段として自分に寄生しているアルミサエルもろともに自爆するつもりであったのだが、コアも侵食されかけ、そこを守ることが精一杯で自壊させるほどの力が足りていなかった。

このままでは体が乗っ取られることは必至だが、それは必ず回避せねばならない事態であった。

これ以上、自分の体で何かされるのは我慢ならないことだ。

たとえそれが逃げであると言われようとも、己の存在が再び大切な人たちの敵になることに比べれば、迷うことなどはない。

 

「この場合・・・お前に頼るしかないのかな・・・」

 

ポツリともらした呟きに合わせるように、白い雲海の中から巨大な影が姿を現した。

銀色の体。

3号機とよく似たシルエット。

大きく広げた翼と身長とよりもやや長いのではないかと思われる諸刃のブレードを手にしたそれは、紛れもなくエヴァンゲリオンだった。

 

「やっぱりいたんだな・・・タブリス。おまえのことだから、何処かで見ているんじゃないかとは思ってたよ。この状況だからな・・・警戒網をかいくぐるのも難しくはなかっただろう?」

「・・・・・・・・・」

「・・・頼みがある。俺の今の状態じゃあ自爆さえもままならないんだ。だがあとほんの少し、圧力をかけるか打撃を与えるかしてくれればそれも出来る。それをやってくれないか?」

「・・・・・・・・・」

 

声による返答はなかったが、無言のままで相対した銀色のエヴァは飾り気のない諸刃のブレードを構えた。

この動作が返答と理解した3号機は、己を抱き締めていた手を大きく広げてコアが存在している胸を晒す。

距離を詰めた銀色のエヴはがブレードを思い切り振りかぶり、3号機の左肩から胸、腰にかけて袈裟懸けに一気に振り下ろした。

風を切る音と鈍い音が重なる。

 

「へへ・・・殺してくれてありがとうか・・・サンダルフォン・・・お前は俺にそう言ったんだったよな・・・・・・少し・・・わかるぜ・・・・・・」

 

直後、ズルッと滑るようにして切断面から3号機の体がズレ、その次の瞬間閃光と化した。

銀色のエヴァはその爆発をA.Tフィールドでやり過ごした後、翼をはためかせてその場を離脱していった。

左手に小さな何かを握りしめて。

 


 

「あと1分で迎撃可能範囲にミサイルが到達します!」

 

報告を受けて皆目配せをし、再び頷く。

司令であるゲンドウの指示が飛び、第三新東京市にある全ての兵装ビルがミサイル迎撃に向けて稼動を始めた。

兵装ビルから迎撃のために次々と発射されるミサイル。

そしてしばらくして空に複数の太陽が姿を現した。

街の少し手前で迎撃されたそれは、周囲の山をいくらか削ったようだったが、まだ街の中心部にはそれほどの被害は出ていない。

 

「やったか!?」

「いえ、まだです!!南エリア、迎撃に失敗、あと二発来ます!」

 

この報告に全員がほぼ同時に舌打ちをする。

飛来してきているミサイルが正面の大型モニターに映し出されると、一瞬、発令所が痛みある沈黙に包み込まれた。

 

「弾幕張って!!被害を出来る限り押さえるのよ!!」

 

ユイが指示を飛ばしたときだった。

モニターに映っていたミサイルの弾頭部分が降り注いだ光によって消失した。

そして弾頭を失ったミサイルは迎撃のために放たれた対空ミサイルによって爆発、四散する。

 

「・・・今のは・・・初号機?」

 

見覚えのある光にやや呆然となりながらリツコが呟き、初号機へと繋がる回線を開いた。

映し出されたエントリープラグの中では、予想通りシンジとユイナがいたのだが、二人とも俯いたままで顔を上げようとはしなかった。

歓声をあげたい気持ちであった発令所の面々も、二人が纏った重苦しい気配を前にしてはそれもはばかられた。

そして再び苦痛混じりの静寂が漂い始めたのだった。

 


 

遙か上空で炸裂した目も眩むような閃光から、誰もが目を離すことは出来なかった。

その光が何を意味するのかなど、実際には報告を受けまでもないことであったろう。

それは命の煌めき。

 

「3号機・・・反応完全にロスト・・・使徒の反応も消失・・・しました・・・」

 

モニターを食い入るように見つめていたオペレーターの一人が、重苦しい空気の中で喉を切り裂くような思いをしながらようやくそれだけの言葉を紡いだ。

どれだけ残酷な言葉なのかはわかっていたが、誰かが言わねばならないことだ。

いったいどれだけの時間、沈黙が続いただろうか?

数秒、数分・・・はっきりと認識できはしなかったが、その場に居続けることは明らかに苦痛を伴った。

 

「返事をして!!バル、お願いだから返事をして!!」

 

やがて、呆然とした焦点の合わない瞳に涙を溜めたマヤがもう繋がっていないマイクに向けて叫び始めると、その苦痛は更に増した。

返ってくるのはノイズ混じりの音だけ。

それでもマヤは呼びかけをやめようとはせず、周囲の誰もが止めることは出来なかった。

 

「お願い・・・返事をしてぇ・・・・・・ねぇ・・・バル・・・嘘でしょう?冗談だって言って・・・・・・ねぇ?・・・うぅ・・・・・・バルぅ・・・」

 

遂に言葉にならなくなったマヤの肩を、ミサトが軽く叩いた。

まるで壊れ物を扱うかのように。

 

「・・・マヤちゃん」

「・・・嘘ですよね・・・・・・何かの冗談ですよね・・・・・・こんなの・・・こんなの現実のはずがないもの・・・」

「マヤちゃん!」

 

つい大きな声をあげてしまった事を、激しく後悔しながらミサトは本部との連絡が取れるまで待機するように指示を出し、指揮車両を出た。

 

 

 

居たたまれなくなって指揮車両から出たミサトは、自然と空を見上げていた。

爆発の衝撃で空に漂っていた雲のほとんどが千切れ飛び、真っ青な空が広がっている。

何も、そう・・・まるで何事もなかったかのように。

無性に腹立たしく思え、悪態の一つでもつきたくなるが、襲いくる喪失感からその気力さえも萎えてしまった。

 

「バル・・・あなたはこれで良かったの?こんな・・・胸に空いた穴をどうすればいいっていうのよ・・・」

 

ふと視線を投げると膝をついた零号機の足元ではレイとトウジの肩を借りたアスカ、そして茫然自失となって座り込んでいるマナが、同じように空を見上げたまま微動だにしていなかった。

その頬に光の粒が流れ落ちているのを見ると、再び居たたまれない気持ちになりキュッと唇を噛むのだった。

 


 

戦闘処理が終わった後、葛城ミサト三佐、伊吹マヤ二尉をはじめとした大半のスタッフ、そしてチルドレンに臨時休養が言い渡された。

受けたショックを癒すには短すぎるほんの数日間であるが、むしろそんな精神状態で仕事をされるよりかは休んでいてくれた方が、組織の運営上も障害が少なかった。

 

エヴァを回収したケイジでは、赤木リツコと碇ユイの指示の元に黙々と今回の戦闘で損傷を負った三体のエヴァの修理作業が行われていた。

片隅には回収された3号機の黒い装甲板が積み上げられている。

全身を覆っていた特殊装甲は爆発時の衝撃のため、そのほとんどが原形を止めてさえいなかった。

爆発の中心である3号機のコアは、結局ほんの一欠片の回収もかなわなかった。

街、及びエヴァにそれなりの被害は受けたものの、二つの使徒戦を乗り越えたのだから本来ならばもう少し浮かれていてもいいはずだっただろう。

しかしながらその勝利の余韻と安堵、それらを全て打ち消して零にしてしまうほどの衝撃を3号機の消滅という事態はもたらしていた。

 

「子供たち、まるで外に出ようとしていないの・・・このまま閉じこもりっきりになる可能性もあるわ」

「こんな言い方したくは無いんですが・・・仕方ありませんよ、それぐらいのことがあったんですから」

「でも、彼がそれを望むかしら」

「望まないでしょうね。逆に自分を踏みつけていけとでも言いそうです。残される方のことをまるで考えない・・・本当に自分勝手な人だわ」

 

そう言ってリツコは目を細めて寂しそうに微笑む。

いずれこうなるであろうことが、まったくもって予想できなかったというわけでもない。

しかしながらたとえ予想していたとしても、胸に穴が空く虚しさに耐えられるかどうかということとはまた別の問題である。

予想していた打撃が実際の痛みが下回るということも、まず滅多に無いことだ。

リツコも今、胸にぽっかりと空いた穴にいいようも無い虚しさと寂しさの風が吹き抜けていくのを感じていた。

それほどにバル=ベルフィールドという存在が大きくなっていたのだという事実と共に。

 

「・・・本当に自爆するしか手はなかったのかしら?」

「対策は考えていましたが、3号機と完全に同化されてしまった場合はハッキリ言ってお手上げでした・・・バルは私たち以上にそれを知っていたんでしょう」

「まさかワザと使徒をその身に受けたと?」

「いえ・・・それはないと思います。ソニックグレイブ改であれば、十分にその効果は期待できたはずですから。そのために開発していた節もありますし」

 

実際、リツコもレイの自爆によって倒した使徒をどう倒すかということにかなり心を砕いていた。

最悪の場合には3号機以外のエヴァに意図的に寄生させて、エヴァの体をもった使徒を倒すという方法さえも考えた。

結果的にそれらを活用する間もなく事が済んでしまったわけだが、それが悔しくてならなかった。

わかっていながら何もできなかったのだ。

悔しさの程は現場に立ち会っていなかったリツコも、当事者であったミサト達と何ら変わるものではない。

 

「何もかもタイミングが悪かった。今回はそういう結論になってしまうわね」

「もし初号機の修理が完璧であったなら、もし使徒が別々に来ていれば、それを言い出したらきりがないですけど、せめて使徒の同時侵攻さえなかったら、こんな結果にはならなかったのではないのか・・・そう思えてならないんです」

 

たら、れば、そういった仮定の言葉を並べることは科学者としてはらしくない発言である。

だがリツコもユイも科学者である以前に、感情ある人間という生物なのだ。

人格移植 OSであるマギでさえも人のジレンマを残してあるというのに、生きているリツコ達が理詰めで納得できるはずもなかった。

これがまだやり直すことの出来ることならば、「次は」という発言もできるだろうが、代償を祓ってしまった今、それはできない。

 

「それとマヤちゃん・・・・・・仕事しているけど大丈夫なの?」

「休んでいていいと言ってるんですけどね・・・」

 

作業の手を止めて二人が視線を向けた先には修理がすんだ各部から、そのチェックを行っているマヤの姿がある。

淡々と作業こなすその様は、一見しただけでは普段とさほど変わらないようにも思えた。

しかし、一番近い距離にいたリツコにはそれが虚勢であるということを誰よりもよく知っていた。

 

「無理にでも休ませた方がいいわよ。このままじゃ倒れるのは目に見えているわ」

「仕事をしていた方が気が紛れるらしいんです・・・私もそれがわかるだけに止めることもできなくて・・・」

「そう・・・でもそれとこれとは話が別よ。酷な言い方をするけど、肝心なときに倒れられては困るの」

 

言われるまでもなく、リツコもそのことを危惧している。

もちろんマヤの体のことを心配していることが第一であるが、有事の際にミスを犯されることも回避しなければならないことだ。

マヤとて、ネルフの中でもさらに優秀な部類に入る一握りのスタッフの内の一人なのだから。

また得がたい人材であるという点についてはチルドレンにも言えることだろう。

鬱ぎ込んでしまっては、精神的な要素が大きく作用するエヴァとのシンクロに差し支える可能性もある。

それでなくとも3号機を失い、戦力の大幅な低下を余儀なくされている状態であるのだから、事態はかなり深刻であると言えた。

あくまでドライな考え方が何時でも自分の思考の片隅に存在し続けていることが、リツコは時々恨めしくなるのだった。

それは泣きたいときに素直に泣けないようなものだ。

 

「とりあえずもう一度話しておきます」

 

本当にとりあえず、リツコもそう言う他なかった。

 


 

「碇・・・委員会の方はどうだった?」

「慌てていましたね、かなり。使徒に侵入されたことを問い質すよりも、使徒が二体同時に出現したことに動揺していたようです」

 

司令執務室は相変わらずだだっ広い空間にポツンと机があり、ゲンドウがいつものポーズをとっていた。

 

「たしかに文書の記述には無い出来事ではあるな」

「今回のことはイレギュラーというレベルの話ではありませんから」

 

本部施設への使徒の侵入をゆるしたということで、その責任追及のために開かれた会議であったのだが、ゲンドウはこれを逆手に取った。

ゼーレがこの事態をどう考えているのか、またエヴァシリーズに関連した情報を探る機会に利用したのである。

案の定、予定されたシナリオから大きく外れた出来事に冷静さを欠いており、老人たちの弱さをゲンドウの前に露呈した結果となった。

基本的にシナリオを沿うことしか考えていないため、その思考は極めて柔軟性に乏しいのだ。

今までは一応現場のゲンドウたちがその柔軟剤の役目を果たしていたが、もう既に多少立場が悪くなることは覚悟している彼等にその意志はない。

無論、表向きには外部の軍事施設が使徒に制圧されたという形で説明されており、マギが先にハッキングされたという事実は消去されている。

情報操作は碇ゲンドウの十八番であるのだから、そこらにぬかりはない。

 

「しかし3号機の損失は大きいぞ」

「戦力的な問題よりも、精神的な問題の方が重要です。彼は子供らに近すぎた」

「ああ・・・我々も彼に頼っていた部分があることは否めないな」

 

相も変わらず渋い顔で冬月は視線を宙へと投げる。

 

「エヴァシリーズの行方もつかめず、それに伴い多くの人員も行方知れず・・・慌てていても、おいそれと腹の内は明かしてはくれぬか」

「だが所詮人の口に戸などたてられませんよ。どこかに綻びがあるはずです」

「我々に出来るのはこういうことだけだな・・・」

「・・・・・・それぞれに役割があり、戦いの場がある。そういうことですよ」

 


 

巨大な水槽がある。

少なくとも人が入ってゆうゆう両手足を伸ばすことが出来るほどの広さをもっているだろうか。

そしてそれはLCLと呼ばれるオレンジ色の液体に満たされていた。

この水槽の前では服装もバラバラの人間が、かなり乱雑な配線がなされた機材の間を慌ただしく行き来している。

やがて作業が終わったのか、全員が水槽の前に集まり、その中に浮かんでいるものに注目した。

 

「やれることはやったな。あとは彼本人の意志次第か・・・まぁ、彼に見捨てられても仕方ないのかもしれないがな人間は」

 

一人の男が紫煙を吐きながら、皮肉げに言うと周りの人間は軽い笑みをもらした。

 

「なんにしても私たちの初仕事にして、最大の仕事ですからね。一応充実してましたよ」

「神は己に似せて人をつくりたもうた・・・・・・・・・で、その俺達人は己に似せて天使をつくってる・・・・・・こりゃ天罰ものだ」

「本当、これって禁断の領域よ。もし天国があっても、私たちには地獄行きのチケットが用意されていることは受け合いね」

 

今度は一様に苦笑いらしき表情を浮かべる。

目の前の水槽の中には銀髪の青年が浮かんでいた。

それこそ彼等の罪の形。

それこそ彼等の希望の形。

 

「悪いね・・・僕のわがままに付き合ってもらって」

 

不意に聞こえてきた少年の声、しかし妙に落ち着いた声。

それに一同は振り返り、皆同じように首を軽く横に振った。

 

 


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あとがきみたいなもの。

 

一応、意図的にシンジ達がどうなっているのか出さずに、その周囲に焦点当ててるんですけど・・・どうでしょう?

シンジ達へのフォローは次回に予定してます。

フォローと言えば最後のが誰かってのは・・・言うまでもないですね?

 

ちなみにサンダルフォンが云々〜ってあたりは、実際には科白は出てきてません。

だいたいそんなシーンがあったこと自体を覚えている人がいるかどうかも怪しいですし・・・

自分もここまで引っ張ることになろうとは思ってませんでしたから。

それではまた次回。

 

感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板によろしかったらお願いします。

誤字脱字の指摘もあればお願いいたします。

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