休養を申し渡されたチルドレンは何処に行くというわけでもなく、葛城家のリビングに集まってただぼんやりと時間をすごしていた。
何かをしようという活力も沸かないのだが、その時間は怠惰とは程遠い。
なにしろそこには一切の会話が無いのだ。
窓際ではシンジが窓の向こうにある空を見上げており、アスカとユイナは床に同じように仰向けに寝そべって天井を見つめている。
部屋の隅にはマナがクッションを抱きしめたまま微動だにしていなかったし、レイは本を読んでいるように見えたが、その本がさかさまだった。
その場にいるだけで息苦しさを覚えるほど、部屋の中は鉛のように空気が重かった。
口を開けばお互いにろくな言葉が出てこないことを既にわかっていたことだ。
皆が皆、あの時ああしていればとか、すぐに自分が悪いと言い出してきりがなかった。
それが結局口論へと発展してしまうのだが、それでも別々に時間をすごそうとしないでいたのは一人でいるのが怖かったからに他ならない。
使徒との戦いは命のやり取りであるということを、決して格好の良いものではないということを今回のことで思い知らされたのだ。
今こうして集まっている仲間も次の戦いではいなくなってしまうかもしれない。
そう思うと、一人でいることが出来なかった。
ただ一人この場に姿が無い少年がいた。
WING OF FORTUNE
第四拾五話 希望の形
「かぁー、いつまでも辛気臭い面しよって」
そんなふうに、あの一件から数日の時が流れたある日の夕方、トウジが皆が集まっている葛城家のリビングに姿を現した。
先日壁に打ちつけたときの傷だろう、まだ頭に包帯を巻いている。
トウジは全員をそれぞれ一瞥すると盛大にため息をついて肩を竦めた。
最初の言葉にも、そのあとのトウジのアクションにも、シンジたちはほとんど反応しなかった。
その様子にトウジはもう一つため息をつく。
「いつまでも沈んどってもなんもかわらへんで?」
「・・・なんであんたはそんなあっけらかんとしてられるのよ・・・」
目だけがトウジの方を睨みつけ、アスカが恨み言を言うかのように呟いた。
「ふん、それなら言うけどな。おまえらがこんなとこに閉じこもっとることをあいつが望んどるとでも思うんか?」
鼻を鳴らし吐き捨てるように言うその調子は、完全に挑発しているようにしか思えず、寝転がっていたアスカが弾かれたようにトウジヘ詰め寄った。
他の四人も怒りという負のベクトルの感情ではあるが、やっと感情らしいものを表に出してトウジを見やっている。
「怒ったんか?腹が立ったんなら、もうちっと何とかしたろ思わんのかおのれらは!」
「好き勝手言って!あんたはあの時何もしてなかったんじゃない!」
叫んでからアスカは自分の発言を激しく後悔した。
何も出来ないということで一番悔しい思いをしていたのは、3号機のパイロットであるトウジなのだということくらい容易に想像がつく。
こういうやり取りが続いてしまったからこそ、皆は出来るだけ黙っていたのだ。
トウジの額に巻かれた包帯が目に入ると、アスカはすぐに視線を自分の足元へと落とした。
「・・・せやな、わしは何もしとらん。ぼーっとまぬけ面晒して見とっただけや」
「・・・わ、悪かったわよ・・・その・・・」
「ええんや、それは事実やさかい」
トウジの自嘲的な調子の言葉に気まずい沈黙が訪れて、浮かび上がっていた怒りの感情も薄れていく。
誰も動かない時間はどれだけ続いたのかわからないが、沈黙を破ったのはトウジだった。
「なぁ、ちぃとでええからわしにつきおうてくれ・・・ずっと部屋んなかおるんは健康にも悪いしな」
ついてくるかどうかを確認することなくトウジは部屋を出て行った。
靴を履く気配、そしてドアの開閉する音が聞こえ、また静寂が五人の空間を満たす。
「・・・行こうか。トウジの言うとおり、少しぐらい外に出た方がいいよ」
やがてシンジがゆっくりと立ち上がり玄関に向かったのを初めに、アスカ、レイ、そしてマナを引き起こしたユイナと部屋を出た。
ジオフロント内の地底湖の畔にまるで隠されるようにしてそれはあった。
<BAL=BELLFIELD>
黒い杭のような墓標にはそれ以外はただの一文字も刻まれておらず、その文字を見落としてしまえば墓標ということにさえ気付かないかもしれないだろう。
「こんなところに連れてきてどうしようって言うのよ・・・こんなもの、形式的なものでしかないんでしょ」
ここにはチルドレンを含めた主要なネルフスタッフが最低でも一度は足を運んでいた。
墓標を前にしたときの思いはそれぞれだが、アスカの発した「形式的」という言葉がその全てを物語っている。
つまり、誰一人としてこれを事実として認めてはいなかった・・・いや認めようとはしてないかったのだ。
そのため、子供らは一度この場を訪れたときにこれを建ててしまった大人に怒声をぶつけ、逃げ出すように去っていた。
「・・・ああ、ここにあいつはおらん。ここにはな」
ここにはという部分を強調した、妙に引っかかる言い方だった。
この場にいた全ての人間がそう感じたことだろう。
意識的な発現であるためか、トウジは全員の反応を確かめるようにぐるっと見回すとニッと笑みを浮かべてみせた。
それから怪訝そうにしている皆を尻目に墓の前に立った。
「まったく・・・こないもん建ててしもたら、あいつ帰ってこられへんやろ?」
誰に言ったのかは定かでない、独白か、あるいはこの場にいる全員に向けて言った言葉なのかもしれない。
ただ、その言葉が意味するところは理解しかけていたようだった。
「す、鈴原君・・・それってどういう・・・」
「そのままです。こんなもんがあいつの居場所のわけがない。そやろ、みんな」
トウジが同意を求めるように振り替えると、皆は半ば唖然とした顔をしながらもどうにか頷くことができた。
この場にいる者たちにとってのバルの居場所は何処か?
そんなもの言うまでもない。
「せやったら、こんなもんはいらへんよ・・・なぁ!!」
一瞬の出来事だった。
トウジが見下ろしていたバルの墓が粉々に砕け散り、跡形もなくなってしまったのだ。
皆はその一瞬の出来事を確かに目撃していた。
墓を砕く、オレンジ色の光の壁が確かに生まれていたということを。
「い、今のはA.Tフィールド・・・?それじゃあ、バルはまだ・・・!」
「まっ、そういうこっちゃ。せやから、わしらがやらなあかんのは、あいつが何時帰って来てもええようにしとることや。何時までも情けない面しとると笑われるで」
いつもの調子に戻り、トウジがもう一度笑みを浮かべると、シンジたちの表情はパッと花が開くように明るくなったかと思うと一斉に歓喜の声をあがった。
マヤとマナがお互いに抱きしめあってむせび泣く姿も見られ、3号機自爆という事件から初めて負から正の方向へ感情が傾いた。
皆、誰かが強く否定してくれるその時を待っていたのかもしれない。
今まで、それをしたかったにもかかわらず、それの証拠となるようなものを持ち合わせていなかったために誰一人手を挙げることが出来なかったのだ。
ようやく笑顔が戻った仲間をトウジは満足げに見やりながら、ぎゅっと拳を握り込んでいた。
「バルが生きている?鈴原君が確かにそう言ったの?」
唐突に大きな声をあげたものだから、周囲の目がリツコに集中し、彼女の周りだけ作業が中断された。
慌てて声をひそめてみせたものの、リツコの雰囲気は明らかに変化していることを確認することができた。
「ちょっとマヤ、泣いてたらわからないわ・・・ええ、あとで少し話しましょう・・・じゃあ」
泣いてばかりのマヤではとんと要領を得ず、かろうじて聞き取れたのは「バルは生きている」の一言だけだった。
しかしそれだけで十分であったとも言える。
冷静な科学者としての思考はそれを否定していたが、自然と頬が緩んだ。
「今の電話は?」
「ああ、ユイさん、実は・・・」
「生きている・・・そう、生きているの」
「それを鵜呑みにするのはどうかと思いますが、ある意味では生きているといえるのではないでしょうか」
「・・・たとえ肉体は死すとも、魂は死なない」
ユイが静かに言うと、リツコも無言ながらに頷く。
綾波レイという前例が彼女らの頭の中に浮かび上がっていた。
二人ともこのような感情の薄いドライな考え方をすることに嫌悪している。
しかしながら組織にはそういった考え方が不可欠なのも確かだった。
「はたしてそれが使徒バルディエルなのか、私たちの知っているバル=ベルフィールドなのか・・・わからないところです」
「・・・なんにしても、これは応急処置ね」
「そうですね・・・でも、私も信じたい。信じたいんですよ・・・たとえそれが泡のように儚い希望だとしても・・・」
帰宅する途中、トウジは自宅によってとってくるものがあると言い、個人行動をとった。
そして(元)自宅には向かわず、近くの公園に直行し、ベンチを見つけるとすぐにそこへ寝転がってしまった。
震える手を顔の前までもってきて何度か握り込む仕草を繰り返す。
どうにも力が入らないのだが、それは手に止まらず、彼の全身を気だるさが包み込んでいた。
思わずため息が漏れてしまう。
「あかんのぉ・・・あの程度のフィールド展開でこのざまか」
自嘲気味に笑うと手を頭の後ろで組んで茜色から紫に染まり始めた空を見つめた。
と、その視界が一つの影によって遮られる。
「やっぱり、そういうことだったのね」
「・・・ユイナか」
そこに立っていたのはどこか寂しそうな、静かな表情を湛えたユイナだった。
トウジは一瞬だけ目を見開くような仕草で驚きを表したものの、すぐにフッとらしくない自嘲気味な笑みを浮かべた。
そして寝転んだ体勢から上半身を起こしてベンチに座りなおし、何も言わずユイナもその隣に腰をおろした。
「いつから気付いとった?」
俯き気味のトウジの言葉はほとんど溜息と一緒に吐き出された。
ただそれほど重いというものでもなく、幼子のちょっとした悪戯を咎めるときのような呆れ混じりのものによく似ていた。
隣に腰掛けたユイナは視線を一度としてトウジに向けずに、それでいて何処に固定するというわけでもなく宙を泳がせていた。
「気付いたって言うよりも、なんとなくそう感じたってだけ」
「さよか・・・他の連中は?」
「気付いてないと思う」
「ならええ・・・」
実際、先ほどのパフォーマンスはバルが生きている証というわけではなかったのだ。
その可能性はまったくの零ではないが、逆に何の確証もないこと。
あのA.Tフィールドは鈴原トウジの中に残っていた力をかき集めた代物であり、あれが限界だったというわけだ。
「どうしてあんなことしたの?あんなことしてもいつかはばれるわ」
「それはちゃうで、ユイナ。わしは信じとぉ・・・あいつはそう簡単にくたばったりせんってな。それにわし、アホやから・・・他に方法、思いつかれへんかったんや」
「でも・・・」
「お前が言いたいことわかる。中途半端に希望を抱かせることは残酷なことや・・・って言うんやろ?」
意外だという顔をするユイナに、トウジは自分らしくないことは自覚していると言わんばかりに苦笑した。
「・・・痛いわよ・・・」
「わかっとるけど、わしにはもうエヴァはない。おまえらと一緒に戦うこともできへんのや。せやからこれはわしなりの戦いなんやて・・・わしにしかできへん、わしがやらなあかん戦いなんや」
3号機を失ったトウジはチルドレンとしてネルフに籍を起き続けることを既に選択していた。
ユイやリツコ、ミサトらは彼の精神面も考慮した上で疎開を勧めたが、それは全て断っている。
当然ながら、それはバルの帰還を信じているからであり、それまでどんなに微力でも友人らの力になりたいという思いの現れだった。
だが先程の行為も含めて、ユイナには全てトウジの独り善がりであるような印象を受けてあまりいい気持ちがしていなかった。
いや、そもそも一人でやろうとしていることが気に入らなかったのだろう。
「仲間でしょ・・・そんな寂しいこと言わないでよ」
「・・・せやな。わし一人でやれることなんぞ、たかが知れとる」
ククッとくぐもった感じの笑みを漏らした彼の瞳に瞳に浮かんでいたのは、その笑みとは正反対の強い意志の光だった。
「でも、誰かが切り出さなあかんかったのも事実や」
(信じる・・・そういえばバルも前同じようなこと言ったわね・・・)
以前、信じることが力となると言ったバル。
このときユイナは今までベースが同じという割に印象が違っていた二人が初めて似ていると感じた。
「・・・強いね、鈴原君は」
視線を落とし、ベンチに座ったまま足下に転がっている小石をけ飛ばす。
なんとなく、おいて行かれていってしまっているようなそんな気がした。
もちろんそんなことはなく、ただそれぞれに自分のとるべき道をとっただけなのだということもわかっていたが。
「いいや、わしは強くなんかないで・・・強いふりをしとるだけや」
「けど、そのふりも貫くことが出来れば立派なあなたの強さよ。アタシはそう思う」
「・・・・・・おおきに。ホンマは誰かにこうして聞いてもらいたかったんやと思う。誰かに弱音を吐きたかったんや」
「フフッ・・・洞木さんがいない間は、アタシが期間限定で受け付けてあげるわよ」
小さな微笑みのあと、ユイナはいつもの笑顔を取り戻し、冗談めかした仕草を織り交ぜて両手を広げて見せた。
対してトウジは苦笑いをしながら調子を合わせるように「考えとくわ」と言った。
それからベンチから立ち上がると、ズボンのポケットに手を突っ込んで、その視線を空に向けた。
陽もほとんど沈み暗くなり始めた空には星がちりばめられ、赤と紫、深い青、そしてうっすらと黒のグラデーションがかかっているようだった。
「・・・この空の下の何処かに」
「ああ、あいつはおる・・・そして戻ってくるはずや、絶対に。それを信じるんや」
自分自身の言葉を噛みしめるように言うと、トウジはポケットに突っ込んでいた両手で何を思ったか、突然自分の頬を張った。
結構強く張ったようで、パシンッという聞く方も痛そうな音がしていた。
「ほな、そろそろ家に帰ろか」
この唐突な行動にユイナはしばし呆気にとられていたが、トウジの表情が普段のそれに戻ったことを知り、そして両頬に手のあとがついているのを見て、小さく破顔した。
「うん。みんなが心配するしね」
夕闇があたりを包み込んでいく街中を二人は家路に着いた。
途中、トウジがふらついてユイナが肩を貸すなどというシーンもあったが、先に戻ったメンバーと同じく、数日振りに和やかな雰囲気まとっていた。
「クスクス・・・」
「なんやぁ?なんぞ、おもろいことでもあったんか?」
「ううん、思い出してみるとさ、さっきのは鈴原君らしくなかったなぁって。なんだかキザっぽかったんだもの」
「・・・言うな。わしかてらしくなかったことぐらい自覚しとるわ」
赤面するトウジをユイナは楽しそうに目を細めて見やり、そして二人は声を合わせて笑い出した。
何かに包み込まれている感覚。
生ぬるい、それでいて心地よい・・・母の胎内にいるかのような、酷く落ち着く感覚。
(なんだこれは・・・?)
そんな問いを投げかけた意識の主の名を・・・バルディエル、そしてバル=ベルフィールドといった。
(何かに包まれている・・・)
(体が何かに・・・)
(・・・体?)
(体だって!?)
意識が徐々に明確になっていくにつれ、逆に困惑は深まっていく。
自分はエヴァンゲリオン3号機という体を手にいれ、アルミサエルと共に自爆したはず。
だが、確かにその意識には体を有することでしか得られないはずの感覚があったのだ。
「ここは・・・?」
こんなにも重たいものなのかと思いながら瞼を持ち上げると、そこはオレンジ色の液体が満ちた水槽のようなものの中であることがわかった。
全身を包んでいる奇妙な感覚はこの液体のためだろう。
LCLと呼ばれる、生命のスープ・・・
液体を遮っている分厚いガラスの向こう側に何人もの人間の顔が見える。
そのなかの一つにバルは確かに見覚えがあった。
「タブ・・・リス・・・か?」
声が聞こえたのか、それとも唇の僅かな動きでそれを悟ったのか、銀髪、赤い瞳をした少年は薄く微笑んだ。
それから水槽の外に引き上げられると、最初に“体が重い”と感じた。
重力に引かれているという感覚は勿論のこと、四肢が意思の伝達に対して反応が極めて鈍かったのである。
そのため水槽の外に出されてLCLを洗い落としたあとには、不本意ながらも点滴付きの車椅子などというものに乗せられる羽目になった。
ただ秒単位の時間が経つにつれてでも体が馴染んでいく感覚があり、彼本人としては自分の足で歩きたいという思いの方が強かったようであった。
この彼の姿は以前のバル=ベルフィールドとしての姿と同じように思えたが、顔つきは微妙に違っており、何より長く伸びた髪が後ろで束ねられていた点が大きく違う。
「・・・で、この状況をどう説明してくれるのかな、タブリス」
バルの乗る車椅子を押している同じ銀髪の少年・渚カヲルは妙に上機嫌らしく、これまでずっと鼻歌を歌っていた。
曲目は今更言うまでもなかろう。
「まぁそう焦らないでくれ。それと今の僕は渚カヲルだよ、バル=ベルフィールド」
「わかったよ、カヲル。それでここはいったい何処だ?」
「・・・・・・わかっていないじゃないか。やれやれ、せっかちだね君は」
「悪いな、どうもお前を相手にすると気が短くなるらしい。ついでにモーニングコールがお前だったっていうのも致命的だ」
わざわざ皮肉っぽく言ったのだが、カヲルはまるで堪えていないようで笑みをほんの僅かでも崩すことは無かった。
面白くないバルは溜息を一つ漏らし、車椅子の手すりに肘をついて口を少し尖らせた。
そしてカヲルにからんでもあまり意味がないと判断したバルは、意識を周囲に散らすと面白い事に気が付いた。
(似ているな・・・ネルフ本部と)
ただ漠然とだが、通路の印象が似通っているように思えたのだ。
もっとも、ネルフのような基地の類に属する施設の構造というのは病院などと同じように似通っていてもそれほど不思議ではないのだが。
顎に手を当てて考えていると、車椅子は一つのドアの前で止まった。
「ん・・・到着か」
「ああ、ここが会場だよ」
「会場?」
首を傾げ、見上げようとするがそれよりも先にドアが開き、それと同時にパンパンッと軽い破裂音が立て続けに鳴った。
状況が飲み込めず、バルは目を丸くした状態で硬直し、それから数秒間思考が停止した。
「ここはパーティー会場なんだよ。君の歓迎のためのね」
部屋の中は確かにパーティー会場のようにやや簡素ではあるが飾り付けがなされ、集まった人々が使用済みとなったクラッカーを片手に笑みを浮かべていた。
先程の破裂音の正体はそれだろう。
だんだんと思考力を取り戻していった頭脳で状況を判断していこうとするが、あまりに奇妙だった。
まず人種の統一がまったくなされていないのだ。
ネルフ本部のスタッフは基本的に日本人だけで構成されており、他のネルフにおいてもそれは同じだろう。
それと年齢がかなり上下に開いているのも印象的だった。
「初めまして、バル=ベルフィールド」
一番手前にいた東洋人らしき黒髪でショートカットの女性が握手を求めて手を差し出してくる。
ややたどたどしい感じのする日本語で、彼女が日本人ではなさそうだということを示していた。
今は柔和な笑みを浮かべているためそれほどでもないが、切れ長の目が何処か理知的な雰囲気を漂わせており、一見すると少々近寄りがたい印象を受けた。
「あ、ああ・・・初めまして」
「えっと・・・英語はわかる?悪いけど、私日本語はあまり得意じゃないの」
取り敢えず、知識としての英語であるのならばバルにも問題はない。
ただそれを日常的に使用して生活していたわけではないので、スムーズな会話が成立するかということとは話が別だが。
「なんとか・・・理解は出来る」
「ならあとは慣れることね。ここでは基本的に英語が公用語だから。会話に関しては習うより慣れろよ。大丈夫、話が理解できるならすぐに話すことも出来るようになるわ」
やや強引な物言いに聞こえないでもなかったが、どうしても会話を成立させなければならない必要性が出てきた場合、意外になんとかなってしまうものである。
それこそ理解できるのであればそれを操るにはやはり慣れるしかない。
女性は興味深げにバルの顔を見つめ、対するバルは怪訝そうにその顔を見つめ返していた。
相手の視線が真っ正面からぶつけられているというのに、まるで動じる様子が見られないのはある意味大したものであろう。
「・・・ふぅん、カヲルとはやっぱり印象が違うわね」
「お前達は・・・いったい・・・・・・?」
「端的に言えば私たちは仲間ね。同じ目的を達するために集まった仲間。そうそう、遅くなったけど私は施智春というの。あなたには是非とも赤木リツコ博士のことを聞かせてもらいたいわ。同じ科学者としてとても興味があるの」
赤木リツコの名が目の前の女性の口から出たことにバルは大きく反応した。
彼の反応はどうやら智春が期待していたものであったらしく、いたずらを成功した子供のような無邪気な笑顔になった。
(状況はよくわからないが、どうやら悪意は無さそうだな・・・カヲルよりはいくらかましか)
その様に完全に毒気を抜かれてしまったバルは、一つ大きな深呼吸すると軽く頭を下げつつ言った。
「・・・・・・バル=ベルフィールドだ。よろしく頼む」
拍手が巻き起こる中で、顔を上げたバルは自分はこれからどうなるのだろうか、そして第三新東京市がどうなっているのか・・・そんなことを考えていた。
あとがきみたいなもの
さて、今回はトウジ&バルキャラが主役でした。
ちょっとトウジが格好良すぎかな(というか、これから先少し格好良い役柄が続く予定)・・・なんて思いましたが、まあ良し。
どうせ元々トウジ好きな人間ですから。
これからしばらくの間、第三にいるシンジ達と、この謎の組織?にいるバルとカヲルの話をそれぞれ進めるという形になります。
バルとカヲルの方は「TYPE B・B」にしてもよかったんですけど、一応同時期の話なのでそのまま本編として通すことにしました。
バラバラにすると時系列がわかり辛くなりそうですし。
次はバル達のサイドの話となります。
では。
感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板によろしかったらお願いします。
誤字脱字の指摘もあればお願いいたします。