「何であたしが出ちゃいけないのよ!!」

 

衛生軌道上に現れた使徒に対して、ネルフの対応は早かった。

零号機によるロンギヌスの槍の投擲。

先制攻撃で一気に殲滅する作戦を取ったのである。

他のエヴァは初号機が万が一のために地上で待機、弐号機はケイジにて待機という指令が下された。

これに一番食って掛かったのは誰であろう、待機を命じられた弐号機パイロットのアスカだった。

 

「アスカ、これは命令よ。あなたはケイジで待機」

「どうしてよ!!;」

「・・・あなたがもしもまたあんな姿になったら、私は耐えられないわ」

 

ミサトの声のトーンが変わった。

それは作戦本部長長としてのものではなく、保護者としての、そして一人の年長者としてのものだった。

視線を逸らし俯いて、アスカはキュッと下唇を噛んだ。

一撃で決めさえすれば危険も何もないはずであるが、ミサトの言うとおりに“もしも”という可能性も否定できないのが実情だ。

(違う、そうじゃないの、そうじゃないのよ!)

だがアスカは別の方向で漠然とした不安を感じていた。

その不安をそのままに、戦いのときは近づいていく。

 

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第四拾九話 力の行方

 

 

 

 

 

 

一旦ドグマに降りてロンギヌスの槍を手にし戻ってきた零号機は、使徒との距離がまだ少し離れすぎているという事から待機に入った。

町から外れた、サハクィエルの一部が落下する事で生じたクレーターの近くには、同じく待機中の初号機の姿が見える。

エヴァの頭上に広がる空は厚い雲に覆われ、昼間だというのに周囲は薄暗く、人の気配のしない町の憂鬱な雰囲気に拍車をかけていた。

 

「嫌な天気・・・気分が滅入るわ」

 

空を見上げながら空と同じく浮かない顔で、ユイナはいつもの後部シートに身を預けている。

それから弐号機に乗ってから俯いたまま微動だにしていないアスカに目を向けて、何か声をかけようかと思ったが、今はそっとしておくべきだろうと思い直してウィンドウを閉じた。

アスカが心を覗かれる事を極端に嫌っている事は承知であるが、シンジにしろユイナにしろ、その思いが強いと何らかの形で心の動きを感じてしまう。

さすがに映像越しでは察する事はできないが、エヴァに乗る前のブリーフィングでは、すぐ近くでそれを感じていた。

(なんだったのかしら・・・あれは)

 

「ねぇ、シンジはどう思う?」

「どう思うって、アスカの事?」

「ええ、なんか、あれはみんなが思っているのとはちょっと違う気がする」

「悩み、もしくは違和感かな?滲んでくる色が見えるだけの僕にはよくわからないけど・・・」

「・・・直接精神に干渉されるのは、一度経験したから耐性が作られるような代物じゃないから、今回の布陣は妥当って言えば妥当なんだろうけどね」

 

妥当、その言葉とは裏腹にシンジ、ユイナ共に表情が硬い。

 

「わかってるわよね?本当に危険なのはアタシたちの方だってこと」

「・・・まぁ、薄々」

「羽根にしろ翼にしろ、あれはシンジの攻撃意識が元になって発動する。いわば心を剥き出しにしているようなものだわ。心に干渉するタイプの攻撃を仕掛けてくる相手から見ればいいカモよ」 

「だとしても、もしものときはやるしかないよ。そのために僕らはここにいるんだしさ」

 

心配しても仕方がないとばかりに微笑んでそう締めくくると、シンジはレイの乗る零号機を見やった。

零号機は槍を抱えて膝をつき、次の命令を待っている。

 

「で、あれがロンギヌスの槍なんだよね?そのままじゃ扱い辛そうだな」 

「けどA.T.フィールドをほぼ無条件に無効化できるんだから、おそらく対使徒用最強の武器でしょ」

「それを言ったら二式や改だって十分使えると思うんだけど」

「あれを使ってたら、防御のためにフィールドを展開できなくなっちゃうの忘れた?」

「あ、そっか・・・」

 

A.T.フィールド応用兵器の欠点はここに集約されている。

その点、ロンギヌスの槍ならば、自分のフィールドは防御のみに集中する事が出来るのだから、使い勝手はこちらの方が良いと言えた。

逆に応用兵器の利点は、使用者によってではあるが、フィールドの集束の仕方次第ではロンギヌスの槍を上回る威力を発揮する事が可能であるという点だろう。

つまりはロンギヌスの槍の破壊も可能かもしれないということだ。

納得顔のシンジの後ろ、ユイナは手元で操作をすると、零号機との通信回線を開いた。

 

「レイ、こんな事しか言えないけど頑張ってね」

「ええ・・・出来る限りあなた達に出番が回らないようにするわ」

「そんなに気負わなくていいって。あとがあるから安心だ・・・そう思ってくれればいいんだから」

「ユイナの言うとおりだよ、綾波。綾波は君の全力を、僕らは僕らに出来る事をするから」

「・・・わかったわ」

 

「お話はそこまでよ。レイ、シンジ君、ユイナ、作戦開始するわ。準備は良い?」

 

会話に割り込むような形でミサトの声が聞こえ、名を呼ばれた三人はそれぞれに頷いて了解の意を表した。

目標となる使徒は相変わらず衛星軌道上に存在し、未だに何の動きも見せていない。

これまでの戦闘の経緯から、最も避けたかったのは先手を打たれることだったのだが、これには内心ミサトらは一足早い安堵を感じていた。

先手を取り、相手の能力などお構い無しに一撃で粉砕する。

実現できればこれほど単純で、強力な戦法は無いだろう。

論ずるうえでは非常に容易だが、実際に行動として起こす場合はかなり困難であるのは間違いない。

 

 

 

「零号機、投擲体勢へ」

「目標を確認」

「誤差修正、照準良し」

「カウントダウン・・・・・・」

 

発令所に飛び交う報告、言葉にレイはレバーを握る手に力を込めた。

カウントダウンが開始されるのに合わせて、大きく槍を振りかぶる。

 

「え・・・?」

 

しかしカウントダウンを始めてすぐに、MAGIからもたらされていた目標座標が消失してしまい、零号機も停止した。

サポート無しでは遥か彼方に存在する敵に槍を投げて命中させる事など、ほぼ不可能だ。

レイは困惑した表情でウィンドウに映っているシンジとユイナに視線を投げるが、やはりシンジたちも首を捻るばかりだった。

全ての動きが困惑によってからめとられた中で、呪縛を解き放つように声を張り上げたのはアスカだった。

 

「A.T.フィールドの結界よ!このままじゃ使徒の位置を見失うわ!!」

 

心に引っかかっていたのはこれだったと認識したアスカは、悔しそうに下唇を噛んだ。

(あたしのばかっ・・・肝心なときに役に立たないじゃないの!)

戦闘前に心に引っかかり、その存在を主張し続けていた不安の正体、それがA.T.フィールドによる結界の形成。

お互いの間にある空間は今までの使徒戦の中で最も広く、通常の攻撃ではまるでダメージを与えられない。

だからこそネルフは、距離をおいても効力を発する事が出来る唯一の武器、ロンギヌスの槍を投入したのだ。

しかし、相手の位置がわからなければロンギヌスの槍とて、その威力を発揮することなどできはしない。

 

「レイっ、止まっちゃダメ!そのまま投げてっ!!」

「で、でも・・・」

「そうやって動きを止めている間にも、使徒は移動しているのよ!」

 

アスカの言葉に押され、再度零号機は槍を構える。

だが、サポート無しでは何処に向かって投げればいいのかわからなかった。

先程まで与えられていたデータに基づいて投げれば、まだ当たる可能性はかなり高い。

それはわかっているのだが緊張と突発的な事態によって生じた戸惑いが、レイと発令所スタッフから普段の判断力を奪っていた。

 

「ダメ・・・わからない・・・っ」

「自信をもって!今やらなきゃ・・・!」

 

断片的な記憶が閃光のように頭を駆け抜け、自分の心に入り込まれたときの嫌悪感が皮肉なほど鮮やかに蘇った。

(あんな思いを・・・あんな思いをするのはあたしだけで十分よ!)

確たる証拠があったわけではなかったが、繰り返す世界の中でこの使徒に敗北を喫した事もあったと、アスカは確信していた。

A.T.フィールドによる結界という答えが、オペレーターの報告を待たずして導き出されたのもそのためだ。

もしも記憶が完全であったのならば、それは予知能力に等しい。

しかしながらアスカの記憶は断片的過ぎて、そういったことに利用できるようなものではなかった。

肝心なときに役に立たず後悔ばかりを感じさせるものなど歯痒いばかりで、アスカはむしろ知らぬ方がましだと感じられてならなかった。

 

「お願い、レイ!!」

「・・・ごめんなさい、できないわ・・・」

 

アスカの叫びも虚しく、使徒は完全にその姿を自らの心の壁によって覆い隠してしまった。

厚く敷き詰められた曇天が僅かな希望であった目視さえも不可能にしている。

槍を持つ手に力が失せた零号機は、呆然と立ち尽くし空を見上げた。

ぽつぽつと空がその姿を哀れむように涙を流し始め、すぐに激しく降り注いで立ち尽くす二体の巨人に降り注いだ。

 

「・・・目標は?」

「完全に見失いました。かなり広大なA.T.フィールドが形成されており、目標の動きはまるでモニターできません」

「クッ・・・槍は一本しかないって言うのに。これじゃ数撃ちゃ当たるってわけにもいかないか・・」

 

(どうする?)

全ての人々の頭の中に同じ言葉が浮かび上がり、不安げな視線を戦闘時の責任者であるミサトに向ける。

視線を向けられたミサトでさえも、同じ言葉を自問して即座の判断を下せない状況にあったのだから、その視線には苦虫を噛み潰したような顔をして見せるだけだった。

不安を抱かせてはならない事はわかっていながら、苛立ちと不安でいっぱいになった心からはどうしても感情が滲んでしまう。

この闇に放り出されたような状況で、シンジとユイナが乗る初号機が誰よりも早く行動を起こした。

 

「ユイナっ!」

「わかってる!こうなったらやるしかないわ」

「ま、待ちなさいシンジ、ユイナちゃん!」

 

慌てた様子でユイが発した制止を聞き届ける様子も無く、無数の羽根を撒き散らしながら初号機は白銀に輝く翼を大きく広げた。

ふわっとその場で僅かに浮き上がったかと思うと、すさまじい速度で上空へと飛び去る。

曇天を切り裂き、以前サハクィエルを迎撃するために飛んだ高度まで来ると、そこでようやく初号機は停止し、頭上に輝く光の塊に向けて両手をかざした。

まだ使徒が星々とは違う輝きを放っているのが最大望遠でも微かな点となって見えるだけだが、それだけでも二人が行う攻撃には十分に事足りた。

気配がわかればそこを狙えばいいのだ。

初号機の周囲を何枚もの羽根が舞い、光となってかざした手の前に集束していく。

しかしその光が放つよりも先に、二人は別の光を目にした。

 

「なんだあの色!?」

「あれが使徒の・・・?」

 

光が目に映ると同時に強烈な悪寒を感じ、二人は思わずレバーから手を離して自分の肩を抱いた。

咄嗟の行動によって生じたその僅かな時間に、初号機の姿は押し寄せた光の波に飲み込まれていき、途端に異様な動きを始めた。

糸が絡まり、上手く動くことができなくなったマリオネットのように。

意思とは無関係にあらぬ方向へ曲がろうとする四肢が悲鳴をあげる。

 

「これ・・・!?」

「まずい!シンジ・・・・・・さがらないと!」

 

その攻撃から初号機は逃れようとするが、逆に一層強い光が包み込んでいく。

普段の初号機の操作感覚とはかけ離れて体が重い。

水の中で溺れもがいているかのように、まるで思ったとおりの動きができなかった。

 

「クッ・・・なんだ、入ってくる?・・・う・・・ううっ・・・ああああっ!!」

「いや・・・いや!!来ないでぇぇぇ!」

 

二人の絶叫に合わせるように翼が大きく広がり、抵抗の意思をそのまま表すかのように、無数の羽根が上空に向かって放たれた。

だが、その全てがたいした距離もいかないうちに、空気に溶け込むように霧散してしまう。

初号機の放った光が、使徒の放つ光に全て飲み込まれていた。

全くもって効果のあがらない攻撃は徐々に勢いを弱め、完全に途絶えてしまうと頭を抱えるようにして再び悶え始めた。

 

 

「初号機パイロット、精神汚染Yに突入!危険です!!」

「クッ・・・弐号機出撃、ポジトロンライフルで初号機を援護!リツコ、使徒の攻撃から位置を特定できる!?」

「や、やれない事はないと思うわ」

「よし、零号機はもう一度投擲体制を取って!」

 

ミサトの指示が飛び、スタッフは止めていた手を再び動かし始め、その中でアスカの乗る弐号機が地上に射出された。

ポジトロンライフルが使徒に対して有効ではない事はわかっているが、展開されるフィールドから使徒の位置を特定するという意味合いが含まれていた。

むしろこちらが主たる理由であり、アスカもその意図を十分に察している。

 

「シンジ、ユイナっ・・・お願い、間に合って!」

 

悔しさと焦りでグッと奥歯を噛み締めながら、弐号機はポジトロンライフルを天に向ける。

初号機が浮いている場所を避け、何度も何度もトリガーを引いた。

その度に目標のA.T.フィールドが展開されて、アスカの攻撃は無効化されてしまうが、発生しているフィールドの範囲から使徒の位置の特定には十分に役目を果たした。

 

「レイっ!」

「ええっ!!」

 

強く大地を踏みしめて今度こそとばかりに零号機は槍を投げた。

空を覆う雲を切り裂き、槍は一直線に使徒めがけて飛んでいく。

 


 

使徒が放った光に包まれた僕は、気がつくと何故か中学の制服を着て列車の座席に腰掛けていた。

肩に寄りかかるものを感じて視線を向けると、そこには同じく制服を着たユイナが眠りこけていた。

どうしようかと思ったのだが、この状況を一人で把握するのも無理そうなので、ユイナの肩を揺さぶった。

 

「ユイナ・・・ユイナ・・・起きてよ」

「ん・・・んん・・・あ、あれ・・・?ここ何処?」

「それは僕が聞きたいよ」

 

寝ぼけ眼のユイナがきょろきょろとしている。

おそらく列車の中であることはわかるのだが、かなり古めかしい印象のある内装だ。

しかも外の光景は向かい側の窓に夕日だと思われる光があるだけで、他には何もない。

 

「!!」

 

僕は思わず声をあげそうになった。

ついさっきまで、誰もいなかったはずの向かい側の席に二人の人物が腰をかけてこちらを見ていたのだ。

後ろから差し込んでくる光でよく見えなかった顔が、ニッと同時に笑った気がした。

 

「ぼ、僕!?」

「アタシ!?」

 

席に座っていたのはユイナだった。

服装も、背格好もまったく同じの、まるで車両の真ん中に大きな鏡を置いたかのような印象を受けた。

だがそうではないことはこちらと向こうが別々の動きをしているのだから、既に証明されている。

実に奇妙な気分だ。

鏡と向き合っているときに、鏡の中の自分がいきなり動き出したらどう思うか?

気味悪がるに決まっている。

そう考えて見ると、驚きはしたもののこんな事を考えるだけの余裕がある僕は、随分と非現実的な出来事に慣れてしまったらしいことに気が付いた。

内心少々苦笑いしていると、同じように驚いていたユイナがやがて冷静さを取り戻してそっと耳打ちしてきた。

 

「・・・アタシたち同じ精神世界に引きずり込まれたんだわ」

「同じ精神世界?」

「アタシとシンジの精神は一部翼で繋がれたままだから・・・」

「つまりこれはまだ使徒の攻撃の最中ってこと?」

 

先程の寝ぼけ顔は完全に失せ、神妙な面持ちでコクリとユイナは頷く。

ならば目の前にいるのは使徒なのだろうか。

だが僕らがこうして目覚める前に何かしらの行動を起こしていないのは、少々解せないものがあった。

もしかすると既に実際の世界では何か起こっているのかもしれないが。

 

「・・・ねぇ、聞いていいかい?」

 

色々思案をめぐらせていると、向かいに座っていたが口元に笑みを浮かべたまま、やんわりとした口調で僕に問い掛けてきた。

口調こそ穏やかだったが、僕はほぼ直感的に嫌悪感を覚え、表情を引き締めて身構えたあとの顔を見つめた。

 

「君はこう考えているよね?もし自分が持っている力がもっと強かったら、みんなを危険な目に合わせなくてもすむって」

「・・・・・・!!」

 

その言葉に目を見開いてを見る。

 

「何を驚いているんだい?だって僕は君なんだよ。君の考えている事なら、手にとるようにわかる」

「なにが・・・言いたいんだ」

「あれ?言わなくてもわかると思うんだけど」

 

クスクスと声を漏らすも、あまり感情の動きが見られない

きっと僕は苦虫を噛み潰したような、それでいて酷く険しい顔をしているに違いない。

隣にいるユイナは今まではほとんど見たこともない、少し怯えたような光が滲んでいる視線を、僕に向けていた。

正直なところ、ユイナにそんな目で見られるのは悲しかった。

だが、今はそれよりも目の前のが喋りだす事を、どうあっても止めなければならなかった。

彼が本当に僕だというのならば。

 

「クスクスクス・・・」

 

僕が睨みつけていると、今度はの隣にいるユイナが俯き加減に肩を揺らし始めた。

それはとてもユイナがするような笑い方ではなく、卑屈で、自虐的な感じのするくぐもった笑い方だった。

 

「大丈夫よ、シンジ。“アタシ”もわかっているんですもの、ねぇ?」

「わかっている・・・だって?」

「そうでしょ、ユイナ。“アタシ”はその可能性に気づきながら、それを見ようとはしないで・・・現状に甘えている。そりゃそうよね、甘えていれば気持ちいいもの」

 

大きくユイナの体が震え、ギュッと僕の制服の袖を掴んできた。

僕が見ると、ユイナは顔が真っ青になって、けっして寒くはないはずなのだが、まるで凍えているかのようにカタカタと小刻みに震えていた。

 

「その甘えが多くの危機を生んでいる・・・」

「・・・・・・違う・・・」

「違う?何も違わないわ。アタシはあなただもの。あなたが何を考えて、あなたが何を考えないようにしているのか・・・あなたにとってのタブーとは何なのか、アタシに隠せると思っているのかしら?」

 

ユイナの物言いに、ユイナは微かな声で抵抗しながら僕の腕に半ば縋りつくようにして腕を絡めてきた。

しかしユイナは言葉を止めるどころか、さらに辛辣な調子で投げつけてくる。

 

「そうやって何時まで縋るつもりなの?自分が危険に晒しているっていうのに、何時まで守ってもらおうとするの?随分と都合がいいのね」

 

彼女が何を言っているのか、本当に不本意なことながら僕はいくらか理解できてしまっていた。

だからこそ、なのだろうか。

今にも泣きそうになっているユイナと目が合ったとき、僕は何も言えなかった。

大丈夫の一言も、ユイナの不安を否定する事も、何も・・・言えなかったんだ。

 

そんな自分が心底嫌になった。

 

押し黙ってしまった僕から視線を外したユイナは、向かい側のユイナに震える声で問うた。

 

「甘えてはダメなの・・・?」

「甘えてばかりで生きていけるとでも?」

「アタシは・・・ここにいちゃいけないの?」

「・・・自分が知っている事よ、それは」 

「・・・ハハッ・・・・・・アハハハハハ・・・・・・そっか・・・アタシは邪魔だったんだわ・・・」

 

絡めていた腕を解き席を立ち上がると、ユイナは泣き笑いをしているような顔で僕を見ながらふらふらとした足取りで、後ずさりし始めた。

車両の中にはそれほど動き回れるスペースはないというのに、立てばまだ手が届くというのに、僕にはもうユイナが遠くに行ってしまったように感じられた。

掴まえなければ、という指令が頭から体に伝わるその刹那の時間さえももどかしく思いながら立ち上がる。

何時の間にかユイナの姿は霧のようにこの車両の中から消えていたが、そんなことはもうどうでも良かった。

 

「違う!!そうじゃない!!僕の方こそ君に助けてもらってばっかりだ!お互い様だよ!」

「シンジ、力はあなたのもとに・・・やっぱりそれがあるべき姿なのよ」

「なに言ってるんだよ!まだこれからじゃないか、まだ終わってないじゃないか!!それが答えだって決まったわけじゃない!!」

「・・・・・・・・・ごめんなさい・・・アタシ・・・アタシ・・・わかんない、わかんないのよぉ・・・・・・」

「不安は誰にだってある!さぁ、一緒に行こう・・・ね?」

 

僕は祈るような気持ちで手を差し出した。

だけどユイナは首を横に振ると、寂しそうに目に涙を一杯に溜めながらにっこりと笑って・・・

 

「待って、待ってよ、ユイナァァァァァァ!!」

 

 


後書きのようなもの

 

なんかバルといい、ユイナといい、最近オリキャラいじめしていますね・・・(汗

こういう次回に引っ張る形で終わると、後書きも書きづらいっす・・・(自業自得だってば)

ちなみにこれからシリアス要素がかなり濃い回が多くなると思います。

終盤だから仕方ないんですけど、なんというか・・・自分はほのぼののんびりな話は書けなくなってしまったかも。

いや、そういうのを書いていたかというと少々疑問ではありますが。

で、新しいネタを考えても必ず戦闘シーンがあるし・・・う〜ん、まぁ「WING」書いている間は良しとしますか。

ではまた次回。

 

 

感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板によろしかったらお願いします。

誤字脱字の指摘もあればお願いいたします。

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