「シンジっ、ユイナっ!返事をして!!」

 

光から解放された初号機は、同時にその巨体を空中に固定していた翼を失い始め、重力に引かれながらも幾分勢いは緩めに落下を始めた。

それを見た弐号機のアスカはすぐさまポジトロンライフルを放り出し、その落下点に走る。

弐号機が両手を差し出して受け止めると、思ったよりもずっと衝撃は軽く、容易く腕の中に納まった。

発令所側からプラグの射出ができなかったため、アスカは強引にプラグを抜き取るという行動に出た。

 

「―――――――――っ!!」

 

ハッチを開けてプラグ内に飛び込んだところで、アスカは声を失って動きを止めた。

まず目に入ったのは、焦点の合っていない虚ろな目で宙を見つめているユイナ。

そしてもう一人の搭乗者であるシンジは、そのユイナを抱き上げて微動だにしていなかった。

アスカが飛び込んできた事にも、ユイナどころかシンジさえも一切の反応を見せようとしない。

 

「ユ・・・イナ、どう・・・したの?」

 

答えが返って来ても返ってこなくても、どちらも怖くて、うまく声が出なかった。

どうにか搾り出しはしたものの、その痛みがいやに鮮明で目の前の光景が現実であるという事をアスカに認識させた。

 

「いないんだ・・・ここにはもう・・・いないんだよ・・・」

 

抑揚の無いシンジの言葉にアスカは体から力が抜けていくのを止められず、ふらふらとした足取りで二三歩後退してペタンと地面に尻餅をついた。

天から降り注ぐ雨がまるで責めるように勢いを増す中、頬を流れる涙がただ熱かった。

 

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第五拾話 たとえそれが運命でも

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなっちゃうのかしら・・・・」

 

駆けつけた救護班に運ばれていくシンジとユイナを見送ったアスカは、自分の掌を見つめて呟いた。

精一杯やれるだけの事をしたはずだった。

予想外―――もっともアスカにとってはそうではなかったのだが―――の出来事にも、考えられる良いと思う選択肢を選んだつもりだった。

 

(なのに・・・何故?)

 

自問しつつ、見つめていた掌をぐっと握りこんで拳を作る。

何かに叩きつけたいと思ったとき、一番殴りつけてやりたいのは自分自身だと思い、また涙があふれた。

空を見上げると、相変わらず雨は止む様子も無く・・・むしろ雲は一層厚みを増して、ロンギヌスの槍によって穴を開けられたあともほとんどふさがりかけていた。

たとえ常夏の島国と化した日本と言えども、雨を浴び続ければプラグスーツを通してその冷たさが肌を突き刺し、体の芯が冷えてくる。

 

「アスカ・・・風邪を引くわ」

 

差し出された傘にほんの少しだけ視線をずらす。

レイは極力感情を殺そうとしているやや不自然な表情で、アスカの隣に立っていた。

傘を差し出した彼女自身もアスカに続いてシンジらの下に駆けつけたためだろう、随分と雨に濡れている。

アスカはレイと傘をそれぞれ一瞥した後、また空を見上げて傘を受け取るということはしなかった。

 

「ねぇレイ・・・結局誰かがああならなきゃいけなかったの・・・?」

「・・・・・・・・・」

「あんなの見せられるくらいなら・・・自分が・・・あたしが!!」

「アスカっ!」

 

珍しくレイが発した大きな声に、アスカはようやくまともにその赤い瞳を見つめた。

瞳に今にも零れ落ちそうな涙があることにも、そこでやっと気がついた。

 

「私はたとえあれがあなたでも、誰であっても見たくない。だから、だからそんなことは言わないで。・・・みんな生きているもの。まだ何も失ってなんかいないわ」

「レイ・・・・・・・・・ごめんなさい、そうよね。あなたの言うとおりだわ。あたし自分のことばっかで・・・全然周りが見えてない・・・ダメねこれじゃ」

「そんなことないわ。それに・・・友達とか仲間とか、そういうものでしょう?」

 

自分の発言に頬をほんの僅かだが赤く染めて、照れ臭そうにしながらレイはそっとはにかんでみせる。

アスカはレイにそっと感謝しながら「そうね」と頷きながら涙を拭い、傘を受け取って今できる精一杯の笑顔を浮かべた。

戦闘後、初めて柔らかい表情で見つめあい、さぁ本部に戻ろう、そう目で確認しあったときだった。

ほんの刹那だが、お互いの姿が光に包まれたかと思うと、直後に耳を劈くような爆音があたりに轟いた。

  

「キャッ!?」

「クッ―――な、なに!?」

 

突然轟いた爆音と閃光に思わず耳を押さえてうずくまった二人の頭上で、爆発の余波か、空を覆う厚い雲が切り裂かれている。

 

「いったい何が・・・!?」

 

耳鳴りが頭痛のように激しく鳴り響いているのに顔をしかめながら、顔をあげたアスカとレイは目の前に舞い降りたものに釘付けになった。

翼を広げて勢いを殺し、まるで重さを感じさせる事なく綿毛のように着地したのは銀色のエヴァ。

羽根を背に収納し、二人に降り注ぐ雨を遮るようにして跪いたエヴァはピタリと動きとめた。

呆然となっているのはアスカらばかりではなく、エヴァの回収作業に地上に上がっていたネルフスタッフも手を止めて、ハーフイジェクトされた銀色のエヴァのエントリープラグに注視した。

 

「あまり状況は思わしくないようだね・・・」

 

そんな中、姿を現した少年が最初に漏らした言葉は何処か悔しさの滲んだものだった。

 


 

「使徒アラエル殲滅を確認。物質的な被害は皆無であるものの、作戦中初号機パイロット両名共に精神汚染を受け一時戦線離脱。復帰できる見通しはついていない・・・か、とても楽観できる状況ではないわね」

 

クリップでまとめられた数枚の紙を手にしてそう言うと、向かいに渋い顔をして座っているバルに手渡した。

紙には印刷されているのはつい先程第三新東京市から入った暗号通信を、蒼い夜独自の方法で解読したものが印刷されている。

エヴァの修理・換装作業の合間、休憩がてらにネルフと合流を果たしたカヲルの報告書を読んでいたのだが、その内容はあまり好ましいものではなかった。

主には使徒迎撃戦の結果・・・ネルフによる使徒迎撃は事実上失敗していたことが記されていた。

零号機の放った槍は使徒の中心を見事に捉えたのだが、それで使途を殲滅した事にはならなかった。

つまりはコアを砕けなかったということだ。

それについては通信の発信元であるカヲルの見解が述べられており、曰く「自分の体の大部分を爆発させることで、レーダー網を撹乱させ、接近をごまかすことが目的だったのでは」ということだった。

そうしてネルフの緊張を解き、再度精神攻撃をを行おうとしたものの、飛来したカヲルの駆るエヴァによって使徒は殲滅されたわけである。

 

「・・・もう少しカヲルが早く着いてれば・・・・・・いや、そうじゃねぇ・・・クソっ!!」

 

悔しさをあらわにしたバルが紙を握り締めてクシャクシャにしてしまっていたが、智春は何を言うということもなかった。

慰める言葉など軽軽しくて口にはできない。

ならば自分に出来ることは何かと言えば、そんなもの考えるまでもないことだった。

自分に対して一つ頷くと、智春はスッと立ち上がりレストルームを出て行く。

 

「明日・・・明日までには絶対に仕上げて見せるわ」

「智春・・・・・・・・・」

「あなたは体を休めておいて。今私に出来ることは、あなたを戦場に送り出す事だけだから」

「・・・すまない。無理をさせちまうな」

「いいのよ、これが私の戦い方ですもの。そう・・・この戦いは負けられないのはみんな同じよ」

 

智春が去ると入れ替わりで加持がレストルームに入ってきた。

加持は100%信頼されているわけではないことを自覚しているので、特に重要な情報について話す場合においては席を自ら外すようにしていた。

持ち前の好奇心が疼くのも事実であるが、ここにおいてはバルの立場も考慮して多少は大人しくしているようである。

 

「施博士も大変そうだな。まだ働くのか」

「なぁ・・・リョウジ、難しいよな。みんな必死にやってるのに・・・必ずしも良い結果が出るってわけじゃないんだ」

「それはそうだろう。全てが上手くいくのだったら、誰も苦労はしないさ」

 

加持は席に腰を下ろし、肩をすくめる。

一見しただけであまり良いニュースではなかった事を悟り、できるだけ普段の軽い調子を保とうという努力が見られた。

人を観察する能力に長けているということはこういうときに役に立つものだ。

しばらくの間、バルが自分の中で考えに折り目を付けるまで、加持は黙って椅子に座っていた。

 

「・・・だよな。全てが上手くいくわけじゃない・・・だがそれでもやるしかないんだ」

「ああ、そういうほうがお前らしい。まっ、内容は知らないが、ネルフからの連絡があったってことは、これで俺もようやく自由にしてもらえるわけだな」

「うん?ここの暮らしは退屈か?」

 

明るい声に明るい声で応じる。

不安を拭い去ることができたわけではないが、必要以上に引きずらないことも大切なことだ。

 

「外に出られないのは少しな」

「ほぉ・・・・・・俺には結構楽しんでいるように見えるんだが、あれは気のせいか?苦情が俺のところに来ているぞ」

 

通路を歩いている女性に手を振ったところをジトーッと半眼で睨まれて、加持は一瞬引きつった表情になり、盛大に苦笑した。

自分は監視されている身だというのに、女性に声をかけて回り、その苦情問合せ先がバルになっていたということらしい。

ある意味でそれは加持が周囲を欺くための手法であるのかもしれない。

しかしバルから言わせれば間違いなく趣味の延長だった。

であるため、自分のところまで苦情が来なければ放っておいた可能性は高い。

この場で加持の身元保証をしているのがバルであるため、苦情が彼のもとに来るのは納得できなくもないが、身元が不確かな人物が、他人の身元を保証するというのは少々微妙な話である。

 

「どうでもいいが、これ以上苦情が来るなら、戻ったときにミサトに話すぞ」

「おいおい、それは勘弁してくれよ」

 

顔を見合わせて、どちらからというわけでもなく笑い声を上げる。

ひとしきり笑うとバルは申し訳無さそうな顔をして、やや声のトーンを落とした。

 

「真面目な話、ネルフと連絡がついた今、お前は先に第三に戻っていた方がいいかもしれない」

「どうしてだ?やっぱり俺がここにいると邪魔か?」

「いや・・・別にそういうわけじゃなくてだな。ただ、さっさとミサトのところに戻った方が、お前にとってもミサトにとってもいいんじゃないか・・・そう思うんだ」

「だが、俺のことを他の連中はまだ完全に信頼してはいないから、そう簡単に無罪放免ってこともできないと思うぞ。気長に待つさ」

「・・・それを確かめたいだけなら、わざわざ女性限定で声をかけるなよ」

「悪いね、軽いのは性分だ。当分直りそうもない。というかこれが俺の正常だよ」

「ったく・・・リョウジ、俺が言うのもなんだが、あんまり待ってると時期を逃すぜ」

「肝に銘じておくよ」

 

まともに受け止めたのかどうかも怪しい様子で、加持は今一度肩を竦めた。

向かいに座っているバルも、やれやれ、と肩を竦めて返した。

 


 

渚カヲルと強奪されたエヴァ量産型は、ネルフにとって導火線に火のついた爆弾と称しても言い過ぎではない存在であった。

ゼーレと敵対するという点では共通しているが、その行動が表面化しているかどうかという点で大きな違いがある。

ネルフは未だにゼーレの下部組織としての意味合いを多分に含んでおり、完全な決別には至っていない。

組織の運営に当たって、ゼーレのその強大な影響力が必要不可欠であるからだ。

そしてゼーレも使徒殲滅のためにネルフは必要なのである。

カヲルとエヴァの存在は、この微妙な状態にある二者の関係を分かつ、決定打となる可能性をはらんでいた。

ゼーレを脱した者を受け入れたとなれば当然の事だ。

その後に引き渡し要請なり、何かしらの指令が下されることは目に見えていた。

 

しかし、だ。

 

ネルフはあえて渚カヲルを正式にフィフスチルドレンとして受け入れて、何時爆発するとも思えぬものを自らの懐に抱きこんだ。

第一には、初号機の戦線離脱する可能性が高いことで大幅な戦力低下が見込まれる中、その補充として。

S2機関を搭載したエヴァ一機とそのパイロットなど、得ようと思って得られるような戦力ではない。

しかもケーブル式である零号機、弐号機よりも戦略の自由度が高く、その上翼まで有している。

もちろん、彼の素性を知る人間は警戒した。

葛城ミサトはその中でも特に強い警戒心を抱いた。

もし受け入れたとして、本部施設内部で暴れられる危険性も十分にある。

様々な危険の可能性を考慮したうえでもなお、ネルフはカヲルとエヴァを受け入れる事を決定したのは、ゼーレに対するあてつけの意味も多分に含まれていた。

これが第二の理由、決別のきっかけとなればいい、というものである。

一見、ネガティブとも取れるような考えが、この決定を下したネルフトップである碇ゲンドウに見え隠れしていたもの事実であった。

  

「それでは、これからよろしくお願いするよ」

 

カヲルはシンジとユイナを除いた子供らの前で、相変わらずの笑みを浮かべたまま軽く頭を下げた。

対するアスカらはあまり面白く無さそうにしている。

それというのもタイミング的に初号機が倒れた直後ということもあり、彼女らの頭の中で倒れた二人の代役であるというイメージが固定されてしまったためだった。

場の空気を十分に察した上で、カヲルはさらに口を開いた。

 

「ところでシンジ君と・・・赤木さんだったね、二人の容態はどうなんだい?」

「・・・あんたには関係ないじゃない」

 

不機嫌さを隠すつもりなどまるでなさそうに、アスカは突っ返すように言うと視線を逸らした。

レイと言葉を交わしたことで多少落ち着きを取り戻していたのが、シンジたち(特にユイナ)の容態が思わしくなかったことを受けて、再びささくれ立ってしまっていた。

そんなところへ得体の知れない人物がいきなり仲間になると言われても、快く歓迎することなどできるはずもない。

また初対面でありながら妙になれなれしいところも鼻について、好きになれない。

極端なことを言えば、アスカはどんな状況であってもこのカヲルという人物が苦手で、嫌悪を抱いたのかもしれなかった。

 

「冷たいね。僕も彼らのことは心配なんだ。僕がここにいながら、彼らに、そして君達にもしものことがあったら・・・・・・」

「あったら何よ」

「僕は彼に合わせる顔がない」

「彼・・・?」

「君達も良く知る“彼”さ。僕と同じ髪と瞳をした」

 

カヲルの言葉に、その場にいた者たちはパッと、その脳裏にたった一人の人物を思い浮かべた。

楽しそうに笑う、一人の人物の姿を。

直後、様子を窺っていた他の子供らが弾かれたようにカヲルに詰め寄った。

 

「バルが・・・バルがおるんか!?」

「本当にバルが!?」

「・・・彼が生きているという証拠は?」

「今回は少し事情があって一緒に来る事はできなかったけれど、あと数日・・・時間をもらえれば。証拠と言うほど示すものはないから、後は信じてもらうしかないね」

 

皆は驚きと喜びの入り混じった顔を見合わせている。

なんと言ったらいいのか、思いが上手く言葉にならず不恰好な笑顔を浮かべるばかりだった。

諦めていたわけではなかったものの、確たるものは何も無かったのである。

そこへもたらされた情報であるからして、それを容易に信じてしまうのもある意味仕方がないことであった。

 

「適当なこと言ってるんじゃないわよ。使徒を倒した事は認めるし、礼を言えと言うならいくらでも言ってやるわ。でもだからと言っていきなり現れたあんたの言葉を、簡単に鵜呑みにできるとでも思ってるわけ?」

 

そんな空気の中、ただ一人なおも言葉が刺々しいアスカに、詰め寄っていたレイ、トウジ、マナの三人は幾分の冷静さを取り戻して、ゆっくりとカヲルのそばを離れた。

そして二人の視線を遮る事がないほどまで距離をとると、口を噤んで見守る。

しかし、カヲルの微笑はアスカの言葉にも睨みにも、全く崩れなかった。

 

「違うよ。僕を信じてくれる必要はない。僕は自分に対する信頼はこれからの行動で得るつもりだからね。今は彼が来るってことを、彼のことを信じて欲しいんだ」

「・・・ずるい言い方するじゃない」

「そうだね。でも僕はこういう性格をしているんだ。残念ながらね」

 

刹那のことだったが、悪戯っぽく笑ったカヲルにアスカは「やっぱり気に入らない」と思い、鼻を鳴らして踵を返した。

皆が声をかけるべきか否か迷っていると、ドアを開けたところで立ち止まってチラリと微笑を浮かべているカヲルを見やって不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。

数秒そこで立ち止まり続けたアスカは不意に脱力して、二三度首を横に振った。

後ろから見ていると滑稽な絵に見えなくもない。

 

「ったく、信じてやるわよ。ただしあんたじゃなくて、バルのことをね。まぁ、前からあいつは帰ってくるって思ってたけどさ」

「フフッ、ありがとう。惣流・アスカ・ラングレーさん」

「鬱陶しいわねぇ・・・いちいちフルネームで呼ぶんじゃないわ」

「それじゃあ、惣流さん、でいいかな」

「・・・・・・・・・許容範囲ね。もしファーストネームで呼んでたら靴を投げてるとこよ」

「さすがにそのくらいは承知しているさ」

「フン・・・ミサト、あたしシンジたちのとこ行ってるから、何かあったら連絡ちょうだい。じゃね!」

 

今度こそ立ち止まらずにアスカは駆けて行く。

それを微笑見送ったカヲルは、周りでどうすれば良いか悩んで棒立ちになっている新しい仲間にもう一度軽く頭を下げるのだった。

 


 

リツコの個人的な研究室。

ここにに珍しくミサトが顔を出していた。

しかし入室してからミサトは一向に口を開かず、リツコが作業をしているのをただ黙って見ているだけという状態が続いていた。

 

「ミサト、あなた何時までそこにいるつもり?用があるんだったら早く言ったらどう?」

 

いい加減少し邪魔だと、溜息をつきながらリツコはミサトのほうへ椅子ごと向き直る。

数秒ほどミサトはそれでも黙っていたのだが、コクリと頷くと、ゆっくり口を開いた。

 

「・・・・・・じゃあ聞くけど、あの少年・・・信頼していいと思う?」

「・・・信頼できるかどうかは私からはなんとも言えないわ。あなたが一番わかっているでしょうけど、彼が使徒であるということは十中八九間違いないわね。なにより彼本人も認めているし・・・ただ、それよりも私個人としてはあのエヴァのほうに興味があるわ」

「エヴァに?ここにあるのと同じ物ではないの?」

 

首を傾げるミサトに向かい、リツコはいくつかの資料を提示してみせる。

そのどれもが専門的で、ミサトでなくともかなりの知識を有する者でななければ理解できないような代物だ。

ミサとは当然ながら眉をひそめるばかりで、その資料の意味するところがわからないでいる。

 

「量産型をベースにしながら、かなりのカスタマイズが施されているわ。素体そのものにはなかなか手を加えられたものではないけれど、プラグ周りはかなり参考になるところが多いのよ。簡略化しつつ、効率が良くなってる、あれはたいしたものよ。あのエヴァに手を加えた人物とは、是非とも会って話をしたいものだわ」

「へぇ・・・あんたにそこまで言わせるなんて、よっぽどの代物なのね」

「ええ、あの少年の操縦技量にもよるでしょうけど、一対一ではアスカたちには少し荷が重い相手かもしれないわね」

 

エヴァ単体の性能差はほとんどないのだから、基本的に操縦者の技量が勝負を分ける。

だが、バルの前例があることを考慮に入れるのならば、その戦闘能力はかなり高いものと推察できた。

加えてアンビリカルケーブルという行動制限が無い、S2機関搭載型であるという点も少なからず戦況に影響するだろう。

またこれほどにエヴァを改良できるという点から、何らかの組織が存在する事は間違いないとリツコは確信していた。

ネルフ、そしてエヴァの維持費及び戦闘後の修理費などは国が傾くほどの出費となる。

とても個人ではどうにかできるような額ではない。

技術力においてもネルフとほとんど遜色ないのだから、驚嘆したのも事実だった。

 

「ともかく、彼が私たちを騙すつもりならもっと上手い嘘をつくでしょうし、あの時アスカとレイを助ける必要もなかったわ」

「それが私たちを信頼させる術だという可能性も・・・」

「ないことはないわね。でも、もう少しすれば答えが出るわ」

「バルが来るか、それとも彼が他の使徒と本当に戦ってくれるか・・・」

「そんなに心配だったら、4号機に仕掛けでもしておこうかしら?」

 

リツコはさらっとそんな事を言いながら端末に向き直り、ミサトに背を向ける。

しばらくミサトは口元に手を当てて考え込むような仕草をしていたが、肩から力を抜くと苦笑いして顔を横に振った。

 

「・・・やめとくわ。さっきあの子、バルを信じてくれって言ったでしょう?なんかそれやっちゃうと、バルを信じてないってことになるような気がするし」

「私も同じ。甘いとは思うけど・・・信じるつもりよ」

「それにさ、使徒である彼に対して小細工したところで、通用しそうもない気がするしね」

「でしょうね。NN兵器でも固定しておけば話は別でしょうけど、それは仕掛けにならないわ」

「アハハハ、そりゃそうだわ。一目で爆弾背負ってますってわかっちゃうもの・・・・・・でも、使徒を信じる、か・・・ちょっと前からは信じられない事よね」

 

溜息混じりながらのミサトの笑う声を背に受けながら、白衣のポケットの中のハンドタオルをチラリと見やり、リツコも小さく苦笑した。

(ホント・・・ネルフもお人好しばかりになったものだわ)

(誰のせいかしら?)

 


 

「まいったね・・・あともう少し早く着いていれば、状況は変わっていたかもしれないのに・・・世界がまだ続いている事が唯一の救いか・・・」

 

ケイジに固定された銀色の装甲版を持つエヴァ。

識別信号はネルフのものにあわせて、【EVA−04】ということになっており、受け入れられた今では正式に欠番となった4号機の代わりに登録された。

カヲルは誰もいないケイジでそのエヴァを一人見上げていた。

普段常に浮かべている微笑さえも消し、酷く冷たい表情で立つ彼は、その外見さえも抜き身の刃のような雰囲気によって少年とはかけ離れた印象を見る者に与えた。

それが真に彼の使徒としての姿なのかもしれなかったが、それを見ている者はここには誰もいない。

 

「鍵はまだ失われていない・・・でも、このままではやはり世界は終わっててしまう。これはどうしようもないことなのかい?それが運命だと?」

 

カヲルは体を少し傾けて初号機を見やる。

 

「・・・・・・仮にそうだとしても、僕らはまだ諦めないよ・・・シンジ君・・・・・・」

 

微笑を取り戻すと、カヲルはケイジの出口に向かって歩き始めた。

途中立ち止まり、なにやら決意めいた表情で全てのエヴァを見回した。

 

「そのためにはなによりもまず、ゼルエルを倒さなければね・・・・・・これは僕の役目かな」

 

 


後書きのようなもの

 

割と前向きな皆様方、というお話。(本当にそうか?)

・・・それ以前にもうWINGの世界自体が、既に楽観&ご都合主義的なとこがありますな。

ともかく、かなりフラフラ動き回っていたカヲルが、よーやく合流しました。

でも主要メンバーが、五体満足の状態で揃うのはまだ少しかかります(汗

この初号機戦線離脱状態で、次回はついに最強使徒(と思われる)ゼルエルがご登場・・・するかも。

このゼルエルがらみは、バトルシーンがかなり長くなる予定。

二話ぐらい丸まるバトルシーンとか(^^;;

さすがにそこまではやらないと思いますけどね。(いや・・・やるかも)

ではまた次回。

 

 

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