「倒す・・・倒すんだ・・・」

 

やや前傾姿勢で得物に飛び掛るタイミングを計るように、膝を使って全身を軽く上下させている初号機。

顎部の拘束具を引き千切り自由になったその口からは、荒々しい息と共に唸り声が漏れる。

禍々しい光を発する碧色の瞳は、それまで弐号機を圧倒していた使徒を捉えていた。 

そして大きな咆哮。

天蓋にぶつかり反響し、ジオフロント内に地響きが起きたような錯覚をさせた。

 

「行くぞ・・・初号機!!」

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第五拾弐話 ヒト一人にできること

 

 

 

 

 

 

二、三歩でトップスピードに乗った初号機は、ゼルエルの腕と交錯する直前に跳躍した。

超低空で走った勢いをそのまま乗せて一直線に、それも腕が戻るよりも早く、強烈な跳び蹴りを放つ。

発生した壁などものともせずに文字通り粉砕して、ゼルエルを数百mほど吹き飛ばした。

 

「ちょ、ちょっと、いきなり出てきて大丈夫なの!?」

「・・・・・・・・・倒すんだ・・・証明するんだ・・・ユイナを・・・・・・取り戻すんだ!!」

「シンジ・・・?あんた・・・」

 

シンジが決して自分に向けて叫んだのではないことは、その調子からすぐ察した。

自らを切り刻むような悲痛な叫び。

キリリ・・・と、アスカは心が軋む音が聞いた気がした。

止めなければならない。

戦わせてはいけない。

湧き上がってくる衝動は不安と共に大きくなる。

 

「待って、シン・・・!!」

 

アスカはモニターに映る初号機に向かい、思わず引き止めようとして手を伸ばしていた。

直後、初号機が回避したゼルエルの腕が弐号機の鼻先を掠めていく。

慌ててレバーを握りなおしてバックステップを踏むが、腕が追撃してくる様子は無かった。

こちらに興味が無くなったのか、それともこちらの相手をするほどの余裕が無くなったのか。

回答は辺りに響いた鈍い音と共にもたらされた。

 

音を発した元は初号機の拳、それがゼルエルの顔らしき部分にめり込み、完全に陥没させていた。

仰向けに倒れたゼルエルに馬乗りになり、血に染まったその拳を何度も何度も振り上げては叩きつける。

この行為が繰り返される度に肉が潰れる音が響き渡り、辺りには血飛沫が撒き散らされていく。

延々と続くと思われたその行為の最中、半分以上潰れた顔から初号機に向けて光線を放たれた。

しかし誰もが直撃したと思うタイミングの一撃だったにもかかわらず、初号機はそれさえも予期していたといわんばかりにあっさりと飛び退いて回避してみせた。

そして距離ができると初号機は四つん這いになって、威嚇するように吠える。

 

アスカもレイもこの戦いに手を出すことも忘れて、ほとんど立ち尽くしていた。

初号機の戦いぶりに圧倒されたのも事実。

しかしそれ以上に介入すれば敵とみなされるという、認めたくない確信を抱いていたからであった。

そして、そうなった場合に勝てないであろうということも。

 


 

「これは・・・初号機のシンクロ率が上昇しています!」

「上昇!?ありえないわ!」

 

言葉を失っていた発令所に響いたマヤの報告に、一番に我に返ったミサトは驚きで声をあげた。

身を乗り出すように、モニターを半ば睨むようにして見据える。

そこへ発令所に戻ってきたリツコも加わり、最早理論地を越えて上昇し続けるシンクロ率が指し示す未来に表情を青くした。

 

「シンクロ率200%突破!まだ上昇していきます!!」

 

その先にあるものはネルフ幹部には容易に想像できた。

しかし想像することが出来ていながらも、それを阻止するための手立てが無い。

 

「リツコ、どうにかならないの!?」

「さっきからやってるけど・・・向こうから信号がカットされているのよ。初号機の意思か、シンジ君の意思かはわからないけれど・・・」

 

大人たちにとっては、ただ無力さを噛み締めるだけの時間が続く。

 


 

打開策を考える時間さえも与えられるなく、ゼルエルと初号機は睨みあった状態から再び動き出した。

地面から這い上がってくるかのように迫るゼルエルの腕。

対する初号機は必要最低限の動きで回避すると、戻ろうとする腕を脇に抱えて、己の腕に絡めた。

もう一方も回避すると、同じように腕に絡めてまるで綱引きのような状態になる。

力が均衡し張り詰めた状態から、やがてズルズルと地面を抉りながら引き摺られ始めたのは初号機。

次に瞬間には初号機は自らゼルエルに向かって走り出していた。

両者の間にある距離は、人のサイズに直せば20mほどだろうか。

突然の綱引き状態から解放されたことで崩れた体勢を、ゼルエルに立て直させる時間を与えるほど長い距離ではない。

苦し紛れに光線を放つも初号機には掠りもせず、布のような腕を巻きつけたまま跳躍して背後に着地する。

そして改めて腕を掴みなおすと、背負い投げのような要領で使徒の巨体を投げ飛ばした。

背面で投げているので、当然地面には体の前面から叩きつけられることになる。

そこへ初号機はさらに右腕を振り上げると、A.T.フィールドで叩き潰すといったふうに追い討ちをかけた。

うつ伏せに倒れたままのゼルエルは回避することも、自分のフィールドを形成して防御することもできずに、その直撃を受けた。

 

再び鈍く、そして小さく爆ぜるような音がして、辺りに血の雨が降り注ぐ。

生暖かく、生臭い雨の中で咆える獣が一匹。

自らの勝利を宣言するように一際大きく、長く。

凍りついたように動けない零号機、そして弐号機。

ようやく息をついた初号機は、ややぎこちない感じのする動きでゆっくりと二機の方を見やる。

 

「「―――――――――っ!」」

 

思わず二機は身構えた。

その瞳が獲物を狙う光をたたえたままだったからだ。

初号機がググッと腰を沈めるのを見て、さらに身を強張らせる。

((来るっ!?)

だがその予想に反して、初号機は風だけを残して凄まじい勢いで二機の間をすり抜けていった。

 

「え・・・?」

「どうして・・・?」

 

呆気にとられた2人が振り返って見たのは、何時の間にか現れていた4号機に飛び掛っている初号機だった。

同時に二人の頭には、何故という疑問が浮かび上がる。

それまでその場にいた零号機と弐号機を無視して、現れた4号機に攻撃を仕掛ける理由は何か?

しかし、その疑問を解明するために考えている暇など無いことはすぐにわかった。

4号機は残った右手にもう一つのフィールド応用兵器であるマゴロク・E・ソード弐式を握っていたが、片腕では初号機をさばききれてはいなかったのだ。

それから何秒もしないうちに剣を弾き飛ばされてしまい、4号機は首を締め上げられて吊り上げられる格好になる。

 

「ぐっ・・・!このっ!?」

「やれやれ・・・・だね、完全に僕らが標的のようだ。鈴原君、このまま絞められてはかなわないよ?」

「言われんでも、わかっとる・・・!!」

 

残った右腕を、自分の首を締め上げている腕めがけて思い切り振り下ろすと、僅かに腕から力が抜けて地面に足がついた。

 

「目ぇ覚まさんか、シンジっ!!」

 

息をつく間も無く、強烈な右の上段回し蹴りが初号機の即頭部を捉える。

壁を作ることのできない間合いでの一撃に、グラリと初号機の体が揺れて完全に腕が離れた。

 

「もういっちょ!!」

 

一撃目の回転力を殺さずに左の後ろ回し蹴りを叩き込む。

  

「!?―――チィ!」

 

蹴り足が戻るとすぐに4号機は初号機との距離をとって、弾き飛ばされた弐式を拾い上げた。

そしてすぐさま刃を形成して構えを取る。

 

「思った以上に反応がいい・・・二発目はガードされたね」

「ああ、しかもおまけつきや」

 

どこか緊張感が無く、呆れたように呟く二人の乗る4号機の胸には、鋭い何かに斬りつけられたような跡がついていた。

先のゼルエルの攻撃によって表面がかなり溶解、変形しているため、その部分だけ綺麗に傷が入っているのでやたらに目立つ。

傷の奥を覗き込んで見れば、そこにはうっすらと傷が入った硬質の物体が顔を覗かせていた。

エヴァ、そして使徒の急所とも言うべきコアである。

 

「う〜ん、あと半歩踏み込みが深かったら完璧にえぐられていたねぇ」

「なぁ・・・頼むからその緊張感の無い調子で、耳元で喋らんといてくれるか?なんかやる気萎えるわ」

「それはすまなかったね。じゃあ、これから君のお手並み拝見といこうか。でも気をつけて、片腕がない分、バランスがとり辛くなっているはずだから」

「ああ、わかっとる。実際、今の蹴り・・・正直言うと、バランスが崩れたから、あいつの反撃をまともに食らわんですんだんやからな」

「ハァ・・・やっぱりそうだったのかい」

「・・・せやから、耳元で溜息をつくな。本気で萎える」

「重ね重ねすまないね、さぁ来るよ・・・君ならどうする?今の初号機は完全にシンジ君を取り込んでいる。僕達には彼女のような器用な真似はできないよ」

「彼女・・・?ああ、ユイナのことかいな。そんなん、わしらにできる事なんぞ決まっとる」

 

ジリジリと初号機と4号機が互いに自分の間合い計るその姿には、パイロットの軽口とは裏腹に息苦しくなるような緊張感に満ちていた。

本来一人で乗るべき4号機であるが、不思議と思考にノイズは検知されてはいない。

このとき発令所のモニターでは、エントリープラグの中でレバーを握るフォースチルドレンの顔つきが普段と変わっているのを確認することが出来た。

しかも彼の瞳と髪が同乗者と同じ色に変色していたというのに、その不自然さがほとんど感じられず、ある種の頼もしさを感じていた者もいたようである。

 

「ちょ、ちょっとちょっと!あんた達だけで話を進めないでよ。一体どうして4号機に鈴原が乗ってるの!?」

「それに初号機が4号機だけを狙う理由がわからないわ」

 

突然始まったエヴァ同士の戦いにおいていかれた格好になった二人は、戦闘中に問い掛けることの危険性さえも忘れて、思わず声をかけていた。

なんにせよ、このまま蚊帳の外というわけにはいかない。

目の前の状況を理解しきれないとは言え、指をくわえてみているだけなどもってのほかである。

 

「狙われる理由か・・・・・・簡単なことだよ。僕も鈴原君の中にあるバルの欠片も、どちらも初号機によって殲滅された使徒だからさ」

 

横目でちらりと二人の映るモニターを見やり、誰に向けてかカヲルはうっすら笑みを浮かべる。

ダミープラグを使用した初号機に殴殺された3号機ことバルディエル。

最後の使徒として、自ら初号機の、シンジの手で殺されることを望んだ渚カヲル。

その二人が外観は変わったとは言え、ネルフを襲ったエヴァシリーズに乗っているのだ。

本能の塊と化した初号機が、4号機を敵であると判断するのには十分すぎる材料が揃っていたわけである。

  

「おい、惣流!綾波!こっちは片腕が無いんやで、さっさと手伝わんか」

「でもあんた・・・どうしたらいいのよ、どうしたらシンジを元に・・・・・・」

「惣流さん、残念だけど、今僕らに出来ることは初号機を止めることだけだよ。それ以上のことをやろうとしても、僕たちの手には余る・・・救うとか、そんなふうに考えないことだ」

「なら・・・具体的に何をすればいいの?」

 

暴走している初号機を止めた経験などあるはずも無い。

だが回答はアスカとレイが面食らうほどに、ごくごく単純であった。

 

「初号機がわしらには勝てへん思うまで叩きのめす、それだけや」

 

言葉が言い切られるかどうかの辺りで、正眼に構えていた弐式の刃がひときわ強く光り輝いた。

光が落ち着くと同時に、爆音をたてて4号機の左右の地面が大きくえぐれる。

 

「鈴原君、上だ!!」

「おう!」

 

巻き上がった粉塵に視界を奪われるが、怯むことなく衝撃で崩れた態勢を立て直して頭上に迫った初号機に向かい刃を振るった。

再び刃が初号機の発したフィールドと干渉しあって強烈な光を発する。

フィールドの出力そのものではトウジの方が下回っているが、武器を持ち、刃という形に凝縮していることでどうにか渡り合うことを可能にしていた。

それよりも注意しなければならなかったのは相手との距離が零になった状態、拳の届く距離の近接戦闘だ。

片腕がない状態では、超至近距離の格闘戦におけるイニシアチブは圧倒的に初号機にある。

ただしそれは一対一においてであり、味方がいる場合はその限りではない。

 

「レイ、惣流さん、というわけで手伝ってもらえないかい?正直、僕らだけでは時間を稼ぐので精一杯なんだ」

「・・・アスカ・・・」

「わかったわよ・・・やってやるわよ!」

 

ネルフに所属しているエヴァ同士の戦闘が本格的に始まったとき、発令所では言葉を発しているものはほとんどいなかった。

つい先ほどまで使徒迎撃戦を行っていたことはもう頭の片隅にさえ存在しておらず、呆然と巨人たちの繰り広げる激しい戦いを見やっている。

状況は使徒戦と変わらず三対一。

皮肉にも、使徒を倒した初号機がそのまま使徒のポジションに収まる形となっている。

さらに三体のエヴァが取った戦法もまた、基本的には対ゼルエルと同じだった。

複雑多彩な連携は相応の訓練を経ることによって初めて身に付くものだ。

ネルフに合流したばかりのカヲルや、3号機を失って以降そういった訓練の機会がほとんど無かったトウジにそれを求めることは不可能である。

作戦を変えなかったのは、アスカとレイがそのことを承知していたからであろう。

しかし、そのままでは決め手に欠けていたのも事実だった。

 

「惣流さん、タイミングが遅れている!」

「わかってるわよ、このっ―――バカシンジッ!!いいかげんにしなさいよ!」

 

4号機がひきつけ、弐号機が斬りかかれば、その隙を埋めるため零号機がカバーに入る。

逆に零号機が仕掛ければ、弐号機がフォローする。

これを繰り返し続けている間、エヴァが大きな損害を受けることも無かったが、逆に状況が大きく変化することも無かった。

しかもこのまま続ければ、連戦で蓄積されてきている疲労が、アスカらの動きを阻害するようになるのは確実である。

一方、まるで動きの鈍る様子の無い初号機は、獲物が弱るのを待っているかのように時間の経過と共に自分から攻撃を仕掛けてくる回数が少なくなっていた。

そのことに苛立てば、ただでさえ疲労で危うくなりかけている連携に支障を来たしかねない。

いや、既にアスカとレイの動きには疲労による乱れが現れ始めていた。

 

「困ったね、このままではそのうち手詰まりになってしまうよ」

「わぁっとるわ。あいつ戦い方が巧くなっとるしな」

「時間が経てば経つほど私たちが不利になるわ。何か・・・考えなければ・・・」 

「・・・・・・ねぇ、あたしに一つ考えがあるけど・・・乗る?」

 

このときアスカが皆に提示した策は、それほど複雑なものではなかった。

むしろ単純だったと言うべきだろう。

戦力が低下する一方であったことを考えれば、それまで行っていたコンビネーションアタック以上に神経を使う戦いをすることは不可能に近かったのである。

 

「それじゃ、レイ、鈴原・・・行くわよ!」

 

合図と共に4号機は初号機に向かってダッシュ、零号機と弐号機は散会した。

 

「いっくでぇぇぇぇぇっ!」

 

4号機は少し手前で地面に向かってフィールドを叩きつけてあたり粉塵を巻き上げ視界を奪うと、初号機の正面から少し軸をずらして渾身の一撃を放つ。

それまでの攻撃が、どこか本気ではなかったことを示すような鋭い一撃である。

初号機は粉塵を切り裂いて襲い掛かってきた一撃に対し、瞬時に反応して左手一本で受け止めてみせた。

単に手を出したというだけであれば、A.T.フィールドを凝縮した全てを絶つ刃を受け止めることなどかなうはずもない。

受け止めたその掌には器用にフィールドが集められており、それが4号機の攻撃の威力と完全に拮抗していたのである。

 

「へっ・・・受け止められることくらい、予想済みやで!」

「そう、まだ終わりじゃないわよ!」

 

初号機の空いている手が拳をつくるよりも先に、今度は右手側の粉塵の中からソニックグレイブ改が振り下ろされた。

左手は掴んでいた刃を解放して4号機ごと払いのけ、右手は弐号機の攻撃を受け止めるために動く。

再び自由を得た左手が次の零号機の攻撃を待っていた。

その姿を見たアスカとトウジはニヤリと同じ笑みを浮かべる。

((かかった!))

そして突然勢いよく前に倒れた初号機の動きを封じるため、その背にのしかかっていった。

粉塵がすっかり治まったそこには、三機のエヴァに手足を押さえられた初号機が地面にうつ伏せになっていた。

 

「ナイスタイミングよ、レイ」

「私は滑り込んだだけ・・・今までの攻撃が生かされたのよ」

 

三機のエヴァに押さえ込まれていてはさすがの初号機も身動きが取れないようだったが、それでも暴れようとしていることには変わりはなかった。

少しでも気を抜けば、弾き飛ばされかねない力の強さである。

この機会を逃すまいと、三人(+一人)は必至に押さえ込んでいた。

 

ここまでレイはアスカとほぼ同じタイミングで、それも必ず生じた隙をカバーする形での攻撃を繰り返した。

初号機はそれに対応する動きというものを、戦っている最中に既に確立していた。

そのためパターンからはずれ、突如粉塵の中から足元に現れた零号機に対して反応が遅れた。

零号機はスライディングの要領で初号機のすぐ横を滑りぬけると同時に、その腕で弐号機の攻撃を受け止め踏ん張っていた足をかっさらった。

結果、初号機は前面から勢いよく地面に突っ伏すことになったのである。

 

「なぁシンジ・・・聞こえとるか?」

 

押さえ込んでからも抵抗を止めようとしない初号機に、シンジにいつしか語りかけていた。

どうか届いてくれと、強く願いながら。

 

「いや、聞こえとるんやろ?これ以上お前が一人で無茶する必要なんてあらへん。もう終わりにしよや・・・お前言うたよな?力を使わずに勝って証明するって・・・それはちゃうと思うで。その力はお前だけのもんでも、ユイナだけのもんでもない。お前たち二人のもんやて、わしは思う。それ無理に否定することなんてないんやで・・・シンジ」

「・・・碇君、あなたがユイナのことを心配しているのはわかるわ。でも心配なのはみんな同じ。そして私たちはあなたのことも大切に思っているの。忘れないで・・・あなたは一人ではないのだから」

「シンジ、そんなにあたしたちは頼りない?人間なんて弱いものよ。あたしも、あんたもみんな。だから、もう少し頼ってよ。何て言うかその・・・あたしもあんたやユイナのこと、もうちょっと頼るから・・・さ」

 

(・・・君は幸せだね、こんなに思われているなんて・・・)

一人一人が思い思いの言葉を口にしていると、それまでもがいていた初号機が抵抗を止めていることに気付く。

(いったい何を見ている・・・?)

皆が語りかけている中で、カヲルは動きを止めた初号機の視線が向いている方向に目をやった。

巨人達の戦場にぽつんと小さな人影が二つ。

 

「あれは・・・・・・っ!」

 

何処にまだそれだけの力が、と思わせるほどの力で三体のエヴァを振り解いて立ち上がった初号機は、ゆっくりとその視線を固定した方向へと歩き出した。

追いかけて再び取り押さえようとした零号機と弐号機の前にスッと一本の腕が現れて行く手を遮り、同時にカヲルの静かな声が喉元まで来ていた二人の言葉を押し止めた。

 

「僕らに出来るのはここまでだ。ここからは当事者の問題だよ。あとは・・・彼らを信じよう」

 

視界の中で徐々に遠ざかっていくその背中からは、それまで発せられていた荒々しさはすっかり消えている。

喉元に白刃を突きつけられたような緊迫感はもう感じられない。

しかし、それでもまだ初号機のエントリープラグ内には生命反応は感知されていなかった。

チルドレンが、そしてネルフの面々が息を呑んで見守る中、歩みを止めた初号機は静かに膝をつく。

見下ろした先には何かを掴もうと必至に手を伸ばすユイナと、それを支えるマナが立っていた。

  


 

「ここで・・・いいの?」

 

この街に残っている子供の中で、唯一戦いに参加することが出来ない自分。

心の中ではそのことを歯痒く思いながらすごしてきていたため、余計に自分が何か力になりたいと思うようになったのは当然の流れと言える。

全開の使徒戦以降、自分の意思らしきものを見せていなかったユイナが何かを求めているのだ。

傍から見れば無謀ととれる行動も、マナにとっては自分の居場所を確かにするために必要であった。

少々大げさなのかもしれないが、本人は大真面目である。

初号機を前にして割合平然としていられたのは、恐怖という感覚が麻痺してしまったと言うよりも、何も出来ないことで居場所がなくなることが怖かったのであろう。

 

「あぅ・・・」

「下がってて・・・・・・・・か」

 

言葉になっていない声、目線だけで何を言っているのか、言いたいのか、不思議とそれがわかってしまう。

時として言葉は必要なくなるものなのだな、と思いながら了解を表すため首を縦に振る。

それからユイナの頬を一度撫でると、初号機を見上げたままゆっくり後ろに下がっていった。

その途中、距離をおいて立ち止まっている三機のエヴァの姿に気づき、微笑を浮かべた。

(結局、あの二人ってどっちが欠けてもダメなのかもしれないわね・・・)

ここから先は二人が解決しなければならない。

奇しくもチルドレンたちと同じ思いを抱いて、またこれ以上何も出来ないことをまだ少し歯痒く思いながらマナはまた一歩と距離を離していった。

 


 

一人、跪く巨人・エヴァ初号機の前に残されたユイナはその両手を持ち上げた。

 

「かえ・・・し・・・て・・・・・・」

 

もどかしそうに、声を絞り出し。

 

「おねが・・・い・・・・・し・・・ん・・・じ・・かえし・・・・て・・・・・・」

 

両手を目一杯伸ばして。

 

「おね・・がい・・・」

  

 


あとがきのようなもの

 

次回は久しぶりに(?)少し穏やかな感じになる・・・と思います。

ここ二〜三話は慌ただしい展開でしたので、ちょっとクッションを置くという感じですか。

でも個人的には、エヴァ同士の戦闘は書いていて結構楽しいです。

人型同士だと戦いの幅も広がりますし、A.T.フィールドは色々と便利ですしね。

読んで下さっている方には、少々鬱陶しい文になってしまっているかもしれませんが(爆

では、よろしければまた次回お付き合いください。

  

感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板によろしかったらお願いします。

誤字脱字の指摘もあればお願いいたします。

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