カヲルが4号機で飛び立ってからしばらく、ネルフはその監視を続けた。
このような事態に用いるべきモノではないのだが、全世界に張り巡らされている使徒早期警戒網が、これに活用されていた。
飛行の補助にA.T.フィールドを使用しているためであろう、位置の特定は難しい作業ではなかった。
さらにネルフによる改修・修理を受けていたことが、シグナルの判別を容易にしていたのである。
「ねぇミサト、あたしたち何時までここにいなきゃいけないの?」
緊急招集されたチルドレンだったが、特に彼らにできることもなく、発令所の隅っこに固まっているだけであった。
初号機で追撃、ということも提案されたが、ろくなサポートも出来ない場所へ単独で送り出してしまうことは危険と判断され、即却下されている。
それでなくとも、これ以上の戦力分散は避けたいという思いがネルフにはあった。
「・・・そうねぇ」
アスカの不機嫌そうな視線を受け止めながら、ミサトはリツコを一瞥、そして上段のゲンドウにも一瞥をくれる。
「今のところはちゃんと監視もしているし、今日はもう大きな動きも無いでしょうから帰っていいわよ」
「ホント?」
「ええ、でも何かあったらすぐに連絡を入れるわ」
「やった、それじゃさっさと帰りましょう」
発令所なんて場所は、いても特に何か面白いことがあるわけでもない。
帰宅許可が出るとアスカはいの一番にその足をドアに向けた。
が、シンジとユイナだけはそれに続かず、逆にアスカたちの足をとめるような言葉を口にした。
「ミサトさん、僕らは本部に待機していてもいいですか?」
「え・・・そりゃあ構わないけど・・・」
「最低でもエヴァ一体は、すぐに動けるようにしておいた方がいいと思うんです」
「そうしたほうが確かに不測の事態にも対応出来るけど、いいの?今日退院したばかりでしょう?」
「大丈夫ですよ。それにアタシたちみんなに迷惑かけているから、このくらいはしないと」
ユイナはさも当たり前といった様子。
実際、疲労の色という点ではこの二人以外のチルドレンの方が遥かに濃い。
「そんなことしなくたって、どうせ何もおきないわよ」
「かもしれけどね、でも誰かがすぐ動ける場所にいるってだけでも少しは安心できるでしょう?」
「それはそうだけど・・・」
「だったらここはアタシたちに任せてよ。アスカたちにこれ以上何かやらせたら、それこそ倒れそうだもの」
「・・・任せていいのね?」
幾許かの不安が入り混じったレイの問い。
念を押し、確認しようとしている彼女の紅い瞳をシンジはまっすぐに見据えて頷く。
ユイナもほぼ同様に、軽く握った拳で任せろと自分の胸を叩いて見せた。
「そう・・・じゃあ行きましょう、アスカ。私達が今すべきことは体を休めて、疲労を体から抜くことだわ」
「綾波の言う通りやな。シンジ、ユイナ、お前らもなんも起こらんと思ったら、さっさと休むんやで」
「ん、わかってる」
「・・・ミサト、ホントに何かあったらすぐ呼んでよね」
ミサトが了解の意を表すのを確認し、アスカは小さなあくびを噛み締めながらドアをくぐる。
何だかんだ言いながらも、体が欲する休養をまだ満たしていないのは明らかであった。
ここのところの使徒戦は間隔が狭かった。
加えて、普段家事の大半を担っていたシンジとユイナが倒れ、慣れない事もしなければならなかったことが追い討ちをかけている。
本音は小学生が寝るような時間と言われようが、さっさと眠ってしまいたいのだ。
「あ、霧島さん」
「ほえ、私?なにか・・・?」
「悪いんだけどさ、食材は冷蔵庫に放り込んどいたから、明日のみんなの朝ごはん・・・任せちゃっていいかしら?」
「あ、それ僕からもお願いするよ」
何を言われるかと思って少し身構えてしまっていたマナは、肩透かしを食ったような気分になった。
だが、こんなときに朝食のことを考える二人のことがなんだか妙におかしくて、自然と笑みがこぼれていた。
「は〜い、任しちゃってちょうだい。まああなた達みたいにはいかないけど、アスカにやらせるよりはマシだもんね」
実際に子供らの中でシンジ達に次いで家事能力に長けているのはマナであり、実はその次がトウジだったりする。
ただしマナの場合は家事というよりもサバイバル技能と称する方が正しいだろうし、トウジもあくまで多少こなせるという話であって、熟達しているわけでもない。
アスカとレイに至っては手伝うことはあっても、残念ながら彼女ら主導で家事が行われることなどまずありえなかった。
そしてこういった事態にあっては、ネルフの幹部におさまっているユイもなかなか帰ることが出来ないので、やはり子供らだけでどうにかするしかなかった。
とは言え、一言多いマナの返事に思わず苦笑いする。
「・・・そんなこと言うのはこの口かなぁ?」
幼子に母親が言い聞かせるような優しい響きの声だった。
それだけならきっと、「なんだかお母さんって感じがする」と誰かがか評したかもしれない。
しかし現実にはその声の主のアスカは、晴れやかな表情で、マナの両の頬を思い切り抓りあげていたのである。
怒っていたほうが絵としてはまとまっているように見え、恐怖も薄らぐことであろう。
「悪いこと言うのはこの口かしら?ねぇ、マナちゃ〜ん?」
「あぅぅ・・・いふぁいでふ・・・あふかはん・・・」
かなり遠慮無しに抓られているようで、相当痛いのだろう。
目尻に涙をためながら、マナは目線で放してくれとアスカに懇願することを続けた。
満足してアスカが手を放した頃には、マナの頬は真っ赤に染まり、思い切りは叩かれたようになっていた。
反省すべきは軽率な一言であるわけだが、たった一言の失言の代償にしては少々高くついたようだ。
「フンッ、あたしだって料理くらい・・・だいたい、あたしの場合はやれないんじゃなくて、やらないだけよ」
「・・・まっ、今この場ではどうとでも言えるわよね」
「マナ・・・今なんか言った?」
「んーん、何も。それじゃ、二人ともまた明日ねぇ〜」
軽いステップで駆け出すマナをアスカは慌てて追いかける。
案外仲が良いのではないだろうかなどと思いながら、シンジとユイナは言い合いながら走る二人の背を見送っていた。
WING OF FORTUNE
第五拾四話 黒き衣
「さすがはネルフ・・・エヴァの整備に関しては年季が違うね」
翼を広げ、A.T.フィールドの助けを借りて飛ぶ4号機は、翼で飛翔しているとは思えぬほどの高速で海上を飛んでいた。
S2機関搭載型ゆえの驚異的な再生能力によって、ゼルエルとの戦闘によって欠落した片腕は完全に復元している。
装甲は同じ量産機である弐号機のものを流用し、ペイントしなおしたようだ。
そのため外見上はネルフに現れたときとほとんど差異はない。
あるとするならば、手にしていたはずのロンギヌスの槍(複製)がないことと、ネルフでの改修の結果取り付けられた両肩のウェポンラックだろう。
武装という面では間違いなく弱体化している。
現在4号機が装備しているのは、弐号機と同じカッターナイフタイプのプログナイフと肩のニードル発射機構ぐらいのものだ。
それらはエヴァの戦闘能力を数値化した場合、大してプラスにはならない代物である。
「・・・しかし、バルだけでなく施博士達ともまるで連絡を取れないとなると、いやな予感がするね」
シートに身を預け、口元に手を当てたまま一人ごちる。
エヴァ唯一の操縦機器であるレバーを全く触らずとも操作できてしまうのは、使徒ならではというところであろうか。
連絡が途絶えたのはカヲルが第三新東京市に到着し、その報告を行った後からだ。
バルもすぐそちらに向かう、そういった内容のやり取りがなされてから、音沙汰がない。
3号機の改修が思ったよりも手間取っているにしても、連絡が取れないことは、何かしらの不測の事態が起きたことをカヲルに確信させるには十分な材料だった。
しかしながら、初号機の戦線離脱などから街を離れるわけには行かず、結局行動を起こすことが出来たのはゼルエル戦後になってしまった。
(手遅れになっていなければ良いけれど・・・)
不吉なことだと思いながらも、つい脳裏には暗い影が過ぎる。
「ん・・・来たか!?」
巨大な何かに包み込まれるような感覚を覚え、視線を向けた雲の上に、明らかに4号機とは別にもう一つの影が落ちていた。
既に太陽は沈み、あるのは月明かりだけがだが、闇を壊す光の無い場所では案外その柔らかな光だけでもそれなりの視界を確保できるものだ。
エヴァのエントリープラグには映像の光度や明度を調整する機能が備わっているので、元々暗かろうが明るかろうが活動に支障をきたすことはまず無いが。
カヲルが見咎めた影の問題は、その形にあった。
(やはりエヴァシリーズ・・・だが一機だけ?)
何事か仲間の身に起こっていれば、これもまたカヲルの予測の範囲内の出来事であり、覚悟はしていた。
少々違和感を覚えながらもとりあえずレバーを握ると、4号機の進行方向を変更し、手近な雲の中に飛び込んでいく。
それほど意味の無い行為ではあるが、そのまま姿を晒しているよりは幾分マシである。
「さて・・・どう出る?」
雲の中で制止すると、4号機はウェポンラックからプログナイフを右手に、逆手にして持った。
カッターナイフ状の刃が低い振動音と共に淡く光を放ちだす。
心許ないが無いよりはましと言い聞かせ、周囲の気配、使徒の存在に気を配る。
(この感じは・・・まさか・・・・・・)
「悪いが、かくれんぼに付き合っている暇は無い」
「なっ!?」
頭上から襲い掛かってきた影に対し、一瞬遅れながらもナイフを持った右手を振り上げる。
どうにか直撃は避けたが、お互いが手にしている武器の質量差があまりにも大きすぎた。
巨大なブレードと接触したプログナイフは軌道修正には成功したものの刃を砕かれ、4号機の手から弾かれて落下していく。
痺れは操縦者のカヲルの右手にも伝わるが、それを気にしている暇もなかった。
いや、気にならなかったという方が正しいか。
直前に聞こえてきた声にほとんどの認識能力を奪われてしまい、今の一撃を喰らわなかったことは幸運に近い出来事だった。
「やれやれ、まいったね。そういうことかい」
「ああ、そういうことだ」
「・・・まぁ仕方が無いか」
「やるか・・・?」
「・・・いいや、三十六計逃げるにしかずと言うから・・・ね!」
言うや否や、目の前に立ちふさがった黒い影に蹴りを放ち、4号機を一気に地上に向かって飛ばした。
引力による自由落下も手伝い、4号機はこれまでに無いほど加速していく。
「・・・逃がすかよ」
黒い影は特に慌てた様子も無く手にしていたブレードを振りかぶると、高速で落下していく4号機に向かって投擲した。
落下中の4号機、その操縦をするカヲルは自分を遥かに上回る速度で迫ってくる物体に対し、舌打ちをしながら自身の壁を展開した。
無駄だとわかっていながらの行為。
4号機に到達するまでの刹那の間に、ブレードはその姿を二又の槍へと変じた。
槍は作り出された神聖なる心の壁を―――一瞬の停滞は見せたが―――紙切れのように易々と貫いていく。
そして海面すれすれで回避行動に移りかけていた4号機を巻き込んで、海上に大きな水柱を打ち立てた。
激しく波立った海面が落ち着くと、そこには銀色の装甲版が刺さった槍が浮かんでいた。
突き刺さった箇所は下地である赤が僅かにその色を覗かせている。
黒い影はそれを拾い上げると、鴉のような黒い翼を大きく広げ、波紋を残して空の彼方へと飛び去っていった。
海は元の穏やかな顔を取り戻し、月明かりは静かに夜の闇を包み込むばかり。
「消失した!?それ・・・マジなの?」
「ええ、日本海に出てから暫くは確かに信号はキャッチしていたんだけど、それが急に」
「A.T.フィールドは?」
「一応検知されているけど、4号機がA.T.フィールドによる結界を展開したということではないわ」
結界とは広域・大規模なA.T.フィールドを展開し、光波、粒子、電磁波とおよそあらゆる観測方法を受け付けなくなった状態のことをさす。
これをやられると人間側は有視界にて、直接相手を確認する他、まるっきり手が無くなる厄介な代物だ。
「・・・なんかちょっと引っかかるわね、4号機がってどういう意味?」
「そのままよ・・・これはMAGIも認めている事項だけど、消失する直前にエヴァの反応が一つ増えたの。そのエヴァが結界を形成したと見ているわ」
ビクッと一つミサトの肩が震える。
動揺を悟られまいと、それ以後は直立不動のまま、軽く見開いた瞳でリツコを見やる。
僅かに縦に振られた首がそれを肯定する。
「とにかく・・・今は司令たちと相談しましょう」
「そ、そうね・・・」
状況の変化を頭の中で把握しきれず、ミサトはそう答えるのがやっとだった。
そもそも時間の経過と状況の把握は、必ずしも比例するというものではない。
ネルフは4号機の消息を掴もうと躍起になっていたが、その成果はほとんど表れていないのがその際たる例であろう。
「赤木博士、4号機はやはり撃墜されたと考えるべきなのか?」
「・・・可能性としては否定できません。ですが仮にエヴァシリーズを投入したとしても、ダミープラグでは4号機相手には役不足であるように思われます」
「ならばゼーレが独自にチルドレンを選出していたというのか?」
「それもゼロではないでしょう」
チルドレンへの連絡はひとまず見送ったミサトやリツコといったネルフ幹部は会議室に集まっていた。
連絡がなされなかったのは主に、不確定な要素が多すぎるからであった。、
集まった面々は皆、リツコの口から現状の報告がなされると、一様に渋い顔をして口元を歪めた。
わかっていることはネルフを離脱した4号機が消息を断った、それだけでしかない。
それ以上のことは世界最高のコンピューターであるMAGIを駆使して情報の収集に当たっているにもかかわらず、何一つ入手できていないでいる。
MAGIを持ってしても情報が入らないとなると、予想される事項が幾つか頭の中には浮かんでくる。
が、やはり確たるものが無い。
「リツコ、本当に相手がエヴァシリーズだとしたら、情報は隠蔽されているって考えられるわよね?」
「そうね・・・あれは元々エヴァシリーズを改修したものらしいから、それを奪還しようとしていたところに、おあつらえ向きに一人で出てきてくれたって見ることも出来ると思うわ」
「だが赤城博士、今君が言ったばかりだろう?あの少年の乗る4号機を止めるのは、ダミーシステムでは困難だと」
「・・・はい」
「たとえチルドレンを独自に選出していたとしても、私はむしろ経験の浅いチルドレンの方が、彼を止められる可能性は低いと思うがね」
「仰るとおりです。ですが・・・たった一人だけいるのですよ、副指令。あの少年と同等以上に戦えて、この街にはいないエヴァの適格者が」
トーンの変わったリツコの声は、その場の空気をピィンと張り詰めたものに変えた。
該当する人物を真っ先に思い浮かべたのはミサト、そしてユイが同じように思い当たったらしく、目を丸くしてリツコを見返した。
一方発言したリツコは、その視線に耐えかね、唇を噛んで顔を伏せた。
自分がどんなに馬鹿げた推論を展開しているのかなど、重々承知している。
しかし、どうしてもその可能性を拭い去ることが出来ないのだ。
やがてゲンドウと冬月もその解答を導き出し、大きなリアクションを見せることは無かったものの小さく唸って言葉を失った。
「そんなことなどあるわけない、そう思いたいんです。私もそう思っていたい。ですが、実際に彼はここに現れていません。それにおそらくあの渚カヲルという少年は、異変を感じて詳細を確かめるために飛び立ったものと思われます。私から言えることは以上・・・・・・です」
4号機の消息が不明になってから半日が経過した。
依然、情報は何一つ得られぬまま、時間ばかりがその努力を嘲笑うかのように過ぎ去っていく。
ほとんど徹夜で本部に待機していたシンジたちも、気分のすぐれない朝を迎えることになった。
「うわぁ・・・ひっどい顔してるよ、二人とも」
弁当片手に様子を身に来たマナの第一声はこのようなものだった。
マナが訪れたとき、二人は人のいないレストルームの隅の方で、テーブルに肘をつき、向かい合って座っていた。
気のせいだと思いながらも、わざと目立たない場所に座っているように感じられてならなかった。
「一応サンドウィッチ作ってきたんだけど、食べる?」
やつれたと言うよりも、何か思いつめたような顔をしている二人に、近寄りがたいものを感じてか、マナは控えめに弁当の包みを差し出した。
「ありがとう、マナ。ホント助かるよ」
「お腹空いてたのよねぇ、ありがと」
思ったよりも柔らかい反応が返ってきて、内心ホッと一息つく。
「どういたしまして・・・って、あ、飲み物忘れちゃった。今から買ってくるね。何がいい?」
「じゃあお言葉に甘えて、アタシはコーヒー、できればブラックで」
「僕は紅茶かな」
「紅茶はともかく、ブラックコーヒーって・・・家でも飲んでたみたいだけどさ、それ朝っぱらから胃に悪いわよ」
「アハハッ、まあいいじゃない」
「それって絶対赤木博士の影響よね。あんまり飲みすぎて成長止まっても知らないから」
冗談めかして言いながら、小走りに自販機に向かう。
その気の使い方が、一晩中思案に暮れていた二人にとってとても心地よかった。
緊張がほぐれると今更といった感じに眠気が襲ってきて、どうにかそれに抗いながら、とろんとした目でマナの姿を見やる。
両手に持った紙コップからあがる湯気がゆらゆらと揺れていた。
「お待ちどうさま。食べたら少し寝た方が良いわよ。徹夜って思考力を鈍らせるだけだから」
「ご忠告どうも・・・・・・ハグ・・・ムグムグ・・・」
「ユイナ・・・食べながら喋るのはどうかと思うよ」
「それにサンドウィッチは逃げないしね」
二人のツッコミを受け、ユイナは一時サンドウィッチに伸ばした手を止めたが、すぐにそれを再開した。
とりあえず腹を満たすことが先決と判断したようである。
「ムグムグ・・・それで、アスカたちは?」
「まだのんびりグースカ寝てるわ。無理に起こすのもどうかと思って、朝ごはんは用意して出てきたってわけ」
「そっか、アスカたちもまだ疲れてるんだなぁ・・・」
「だからあなた達が倒れちゃうと困るのよね」
「マナ、色々気をつかってくれてありがとう。マナも疲れたろう?」
「いいのよ、私はこのくらいしか出来ないから。エヴァに乗って戦うことも出来ないし、かといってマヤさんみたいにMAGIの操作が出来るわけでもないからね」
軽く、笑いながらだったのだが、それでもマナの悔しさは二人にはよくわかった。
滲んでいる色が、望む望まないに関わらず、その胸の中にある強い思いを伝えてくるのだ。
それは嬉しくもあった。
気持ちは共に戦ってくれているのだということ。
それがわかるから。
『第三新東京市に接近する飛行物体をキャッチ。只今より警戒態勢に移行します』
「「「!!」」」
『繰り返します。第三新東京市に接近する飛行物体をキャッチ。只今より警戒態勢に移行します』
瞬間的に眠気は吹き飛んだ。
温くなりかけた紅茶とコーヒーをそれぞれ一気に飲み干し、紙コップを握りつぶしながら立ち上がる。
とりあえずは、まだ翼による感知はできていないことから、距離はある程度あるようだ。
「ごちそうさま、おいしかったよ」
「お腹も一杯になったし、ちょっと行ってくるわね」
「二人とも・・・こんなことしか言えないけど・・・気をつけて!」
「「うん!!」」
疲労など微塵も感じさせずに全速力でかけていく二人は、すぐにマナの視界から消えた。
残されたのはマナと空っぽになった弁当箱。
その空っぽが、マナの心をほんの少し満たしてくれていた。
「最悪・・・昨日日本海で感知されたエヴァの反応と同一のものなんですって?」
「問題は誰が乗っているかね・・・」
「なんにしても、洒落になんないわね」
ほとんど口論をしているような勢いで、言葉を投げ掛けながら発令所に駆け込んだのはリツコとミサトだった。
彼女らも部下等のすすめで仮眠なり休憩なりをとっていた所を、先程の放送で引っ張り出されたのである。
シンジ達に比べれば彼女らは同じ一晩の徹夜をしていながら、それほど酷い有様になってはいない。
彼女らもまた寝なかったのではなく、寝られなかったというのが正しいところだろうか。
そしてその一晩中、彼女達の心を悩ませた問題の解答が、今目の前にあった。
正面のモニターに大写しになっていたのは、マントのような大きな黒い衣を身にまとった漆黒のエヴァの姿だった。
機体やマントと同じ黒い翼を広げて飛翔する姿は、さながら死神を連想させた。
リツコがマヤを遮って作業をすると、発信されている識別信号は『EVA―03』という表示に変わる。
(―――ッ、だからリツコは昨日4号機を撃墜したエヴァのパイロットが・・・彼だって・・・!)
瞬間的に発令所内にどよめきが起こった。
無理もない。
使徒と交戦して自爆したはずの3号機が姿そのままに、この第三新東京市に向かってきているのだ。
(あの黒い翼が運んで来るのは希望か・・・それとも悪夢か・・・・・どっちかしらね)
エヴァの飛行速度から計算して、第三新東京市への到達時刻は10分後とMAGIが弾き出す。
ミサトはアスカたちを電話で呼び出しながら、リツコに椅子を譲っているマヤの姿を視界に入れていた。
なんと声をかけたら良いものか、非常に悩んだ。
そのリアクションがあまり大きくなかったことから、マヤも恐らくこのエヴァから発信されている信号が既にエヴァ3号機と同一、もしくは類似したものであることを知っていたと見るべきだろう。
敢えてリツコも声をかけていない、そんな雰囲気が感じられ、ミサトも声をかけるのさえはばかられてならなかった。
やがて黒いエヴァは第三新東京市の郊外に舞い降りた。
即時出撃可能であった初号機はすぐさま射出され、そのエヴァとまっすぐ向かい合う位置に移動していた。
マゴロク・E・ソード弐式を携え、戦闘に及ぶことも十分に考えた状態で、だ。
「・・・・・・聞こえる?こちらはネルフ技術部主任、赤木リツコよ。名前を・・・名乗ってもらえるかしら?」
ネルフを代表してマイクを握った手が、小刻みにカタカタと震えていた。
声もどこか怯えのようなものを感じさせる響きがあった。
どちらであって欲しいのだろう?
少なくとも・・・生きていたこと、それを素直に喜べる状況ではないことは間違いなかった。
「リツコか・・・久しぶりだな・・・こちらはバル=ベルフィールドだ」
待ち望んでいたはずの第一声は、鉛を吐き出したような、そんな重い響きがあった。
後書きのようなもの。
と、いうわけで・・・こんな展開になっちゃってます。
シリアスな(少し痛い?)展開になると後書きが書きづらいったら無いです。
そういうところは書き始め当初からなんら変わってませんね(^^;
あ、ちなみに今回の3号機がまとっているマントはほとんど趣味です。
弐号機が起動した際のあれを想像していただけると、図が思い浮かびやすいのではないでしょうか。
・・・これでロンギヌスの槍じゃなくて鎌だったら、3号機はまるっきり死神。
エヴァの中では初号機と並んで3号機はけっこう悪人面(笑)ですし。
関係の無い話ですけど、スパロボDC版では3号機は黒じゃなくて緑がかった感じの色をしてるんですよ。
これどうしてなんでしょうね?
やっぱり黒だと宙間戦闘時に見づらくなっちゃうからか・・・?
さて、ではまた次回にお会いしましょう。
感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板によろしかったらお願いします。
誤字脱字の指摘もあればお願いいたします。