連載の第1弾として,Windowsの開発者や管理者に役立つウェブ・サイト「Sysinternals.com」[1]を紹介しよう。このサイトでは,Sys-internalsという名前が示す通り,Windowsのシステム内部に踏み込んだ情報やツールが公開されている。
Sysinternalsはどんなコンテンツがあるのだろうか。例えば,(1)DOSで起動してNTFSのドライブを参照できる「NTFS
for DOS」。(2)標準のデフラグでは断片化を解消できないpagefile.sysやレジストリハイブなどのファイルもデフラグできる「PageDefrag」。(3)個々のファイルを指定してデフラグできる「contig」。(4)障害で起動できなくなったWindowsのファイル・システムにアクセスしファイルを救出する「NTRecover」――など,こういったツールが無償で公開されている。これらのユーティリティの多くは,実行ファイルだけでなくソース・コードも公開されている。
Sysinternalsのコンテンツは,Windows NT/2000/XPとWindows
95/98/Me,そしてLinuxの3系統に大きく分類されている。Systeinternalsの情報やツールは,デバイス・レベルのアクセスが前提となるものも多いため,OS自体の作りに合わせて,それぞれ別の枠組みでコードや情報が整理されている。もちろん,Windows
NT/2000/XPとWindows 95/98/Meがメイン・コンテンツである。それぞれ,Utilities,Source,Informationのカテゴリにさらに分類されている。
Windowsが主体のサイトにLinuxのカテゴリがあるのは,ちょっとびっくりするところだが,今のところ「Filemon」というファイル・アクセスを監視するためのツールだけが公開されている。カーネル・レベルのプログラミングの知識に加えて,米Borlandの開発ツール「Kylix」という援軍があってこそ,というところかもしれない。従って,Filemonの実行にはKylyxのランタイム・ライブラリが必要になる。42個のファイル・システムに関するシステム・コールをフックして,リアルタイムにファイルへのアクセスをモニター表示してくれるツールだが,これはWindows版をLinuxに応用したもので,ちょっと余興に作ってみたものなのかもしれない。
二人の運営者はファイル・システム“オタク”
Sysinternalsを運営しているのは,Mark Russinovich(マーク・ルシノビッチ)氏とBryce
Cogswell(ブライス・コスウェル)氏。二人とも米カーネギーメロン大学で博士号を取得しているだけでなく,Windowsのシステムを知り尽くした人のみ可能な実践的かつ高度なプログラミングができる実力を持つ。
特に,マーク・ルシノビッチ氏は,Windows XPのソースを直接参照せず,Windows
XPのソース・ツリーを作ってしまうほどで[2],まさにハッカーの部類に属する人である。David
A. Solomon氏との共著「Inside Microsoft Windows 2000 Third
Edition」[3]などを見ても,その知識の深さを推し量ることができるだろう。また,「Windows
& .NET Magazine」への寄稿については,Our
Publication[4]のページに見られるように,やはりかなり深いレベルの話題になっている。日経Windowsプロなどでも翻訳記事が扱われることがあるので,読まれた方はそのレベルの高さが分かるだろう。Sysinternals
at Microsoft[5]のリンクにあるように,Microsoftの公式サイトにもSysinternalsのツール類が登場している。例えば,「DLL
Hellの終焉(えん)」では,名前だけではあるがListDLLs,HandleEx,DLLViewが上げられている[6]。
Sysinternalsの商用サイト版「Winternals」
Sysinternalsの始まりは,米国の開発者向け雑誌として有名な「Dr.
Dobbs Journal」誌への寄稿である。Dr. Dobbs Journalに載せた記事のサンプル・プログラムなどをまとめたサイトとして,www.sysinternals.comが1996年11月に作られ,Windows
NTのコミュニティで広く知られるようになる。特に,システム復旧のためのツールの類は評判が高く,また,多くのリクエストもあったため,これを商用ソフトとして作成して販売するようになる。このために設立されたのが米Winternals
Software LP社[7]である。1998年になるとベンチャー・ビジネスの経験が豊富なEdwin
Brasch氏がWinternalsに加わり,会社としてもWindowsハッカーによるガレージ・カンパニー的なものからベンチャー企業として発展し始める。今やその顧客リストにならぶ会社や組織の数は,5万を超えるということだ。
つまり,Sysinternalsが無償でユーティリティやソース・コード,あるいは様々なプログラミングに関する情報を提供しているサイトであり,そこで公開されたものを,さらに有用な商用ツールとして再構成して販売しているのがWinternalsである。例えば,NTFS
for DOSのようなツールは,Sysinternalsでは読み込みだけが可能なツールとして制限があるが,Winternalsでは「ERD
Commander」や「NTFSDOS Professional」という名前で書き込みも可能なツールとして販売している。ちなみにWinternalsのソフトウエアは,日本ではエージーテックのサイトで販売されている。[8]パスワードを忘れたときに,アクセスできるようにするLocksmithは有料版しかない。Windows
Server 2003に対応しているかどうかは,未確認である。
役立つツール
ここで,Utilitiesにあるツールを眺めてみることにしよう。まず,有名なところでは,既に述べた障害からの復旧に使えるNTFS
for DOS,そして「NTFS for Windows 98」や「NTRecover」が挙げられる。NTFS
for DOSは,DOSのフロッピ・ディスクから起動して,NTFSのファイル・システムにアクセスできるので,いざというときに役立つかもしれない。通常は,Windows
Server標準の回復コンソールをインストールしておけば用が足りるだろう。また,Windows
98とのデュアル・ブートにしている場合には,NTFS
for Windows 98をインストールしておけば,Windows 98からNTFSのファイルを参照できるので便利かもしれない。その他,障害復旧のツールとしては,NTRecoverがある。Windowsがブートできなくなってしまったときに,シリアル・ケーブルで接続した別のコンピュータからファイルを参照できるので,重要なファイルを待避するために使用できる。
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