『心拍数。精神グラフともに若干の乱れ。サードチルドレン精神的に動揺している模様』


その時、シンジは心の中でひたすらこう叫んでいた。


「トウジとケンスケが出てくるの、忘れてたあぁぁぁあぁぁぁぁーーー!!」














WANDERING CHILD 第参話














「すまんな、転校生。ワシは、お前を殴らんといかん、殴っとかな気ぃすまんのや」

案の定、トウジに校舎裏に呼び出された。

「悪いね、この間の騒ぎであいつの妹さん怪我しちゃってさ。ま、そういう事だからさ」

感情が先走るトウジのフォローをケンスケがする。

シンジは、その言葉を聞いてほっとする。

(よかった、怪我はさせてしまったけど無事だったんだ)

前回、トウジの妹は瓦礫の下敷きになって死亡した。

さらに警備上の問題とかで、通夜や葬儀にも参加できなかった事がずっと気になっていたのだ。

「いくで、転校生」

トウジは大きく振りかぶる。明らかにお大ぶりのテレフォンパンチだ。

ガッ!!

シンジは左の頬を押さえて思わずしりもちをつく。

(僕は、どうしてエヴァに乗るのだろう。

乗らなきゃならないのは分かってる。

でも、トウジの妹さんに怪我をさせてまで。僕は……)

「鈴原君……ごめん」

シンジの言葉に、背を向けて立ち去ろうとしていたトウジは振り返って戻ってきた。

「ワシかてなぁ、おまえに当たってもどないもならんことぐらい分かっとんのじゃ!

何で避けへんかったんじゃ。ワシに対するお情けか!

おまえは……おまえは、何様のつもりじゃ!!」

トウジはシンジの襟首をつかむと無理やり立ち上がらせ、もう一発殴る。

「僕は……」

シンジは、大の字に倒れたまま呆然とつぶやいた。

トウジはそれを尻目にずんずんと大股で歩いていく。

ケンスケが一度振り向くと軽く片手拝みで謝った後、慌ててトウジを追いかける。

「非常召集。先、行くから」

無事に退院したレイがいつのまにか直ぐ側に立っていた。

(とにかく、今は戦わなくちゃいけないんだ。じっくり考える時間を作るためにも)



(そう。戦わなきゃいけないんだ)

一瞬シンジの意識が、初号機と対峙している第4使徒『シャムシェル』からそれる。

まるでそのときを待っていたように突然、使徒の光の鞭が初号機を襲う。

「うわぁ!」

シンジはとっさにパレットライフルを絡ませ、切断される前に放り投げる。

そのわずかな隙をついて使徒の懐に入り込みアスカ仕込みの回し蹴りを使徒に見舞う。

使徒は大きく飛ばされて、神社の裏山に激突した。

再び使徒との間合いに気をつけながら使徒と対峙したシンジは、見覚えのある景色を見つけた。

(はて、あの山は確かって……まさか?……ああ!)

「トウジ!ケンスケ!何でそんなところに!!」

二人は山の斜面にたたきつけられた使徒から50メートルほど離れた場所にへたり込んでいた。

前回のようにエヴァの指の間といったことは無いが、使徒の光の鞭が十分に届く距離である。

「くそっ!」

シンジは、具体的な指示が来る前に行動に移す。

「うおおおおおおお!!」

叫び声とともに初号機は使徒に突っ込んでいく。

『シンクロ率上昇100%超えました』

『二人の少年の周囲に非常に強いA.T.フィールド感知』

『アンビリカルケーブル、イジェクト』

シンジの声と冷静なオペレーターの声にミサトは冷静になる。

「シンジ君!むやみに突っ込んじゃダメ」

しかし、すでに十分すぎるほど間合いの詰まった現状では、無意味としかいえない。

使徒の操る光の鞭が、予測できない不規則な動きで初号機に襲い掛かる。

二本の鞭が攻撃してくるところを、それぞれ両手で受け止める。

『初号機の両手にもA.T.フィールドが確認されます』

つぎに、右手に持ったその鞭を自分で無理やり初号機の腹部に刺そうとする。

「シンジ君!!」

ミサトが絶叫する。

『初号機、プログナイフ装備』

鞭の動きさえ封じ込めれば動き自体はそれほど速くは無い。

「ぐあああ!」

シンジは腹部を襲う激痛に呻きながらもコアにナイフを衝き立てる。

「キュシュィィィン」という独特の音をさせながらプログレッシブナイフがコアに突き刺さっていく。

やがて「パキン」という少し間の抜けた音を立ててコアが割れる。

「目標は、完全に沈黙しました」

「早く!神経接続を切って!」

リツコが指示を出す。

『パイロットの生存を確認』

「回収班急いで。パイロットの保護を最優先。早く!!

それとあの二人の少年を保護して、無茶な扱いしちゃダメよ」

ミサトも、矢継ぎ早に指示を出す。

「まったく、無茶すんだから」

ミサトは憮然と腕を組んだ。



「あいつ、俺たちがここにいることを知っていて攻撃したな」

「せやなぁ、並みの覚悟でできることとちゃうわ。

あいつは腹くくっとる。くそっ、せやのにワシは……」

二人の少年は、腹部に光の鞭を突き刺したまま膝をついて動きを止めた初号機を見つめる。

悔恨の情を顔に滲ませながら。



直ぐに病院に収容されたシンジは、リツコと検査入院の打ち合わせをしていた。

そこにミサトが額に青筋をたてて現れる。

「シンジ君、何であんな無茶をしたの。へたすりゃ死んでるわよ」

「すみません。なんていうか、体が反応しちゃった感じで」

事実だった。気が付くと、具体的な作戦を考える前に使徒に向かっていた。

「はぁー。今回は仕方が無いって事で不問に付します。

ただね、シンジ君。これからは、私の指示を待ってもらえるかしら」

ミサトの表情には、もはや怒りよりも心配の色が濃かった。



だてに29歳という若さで、ネルフの作戦部長の職にあるのではない。

ミサトは水準以上の軍人といえる。

その上で、柔軟な発想による、独創的な作戦を立案できる能力が買われたのだ。

ミサトより優秀な軍人なら何人もいる。

だが使徒に対して効果的な作戦を立案できる人物はミサト以外にいないだろう。

とは言え、非常識なミサトの脳をもってしても使徒の存在は非常識だった。



「すみませんでした。事前の作戦には従うつもりです。

トウジやケンスケがあの場にいなければ、指示を待つつもりでしたし」

つまり「これからもこういった状況になれば同じ行動をとる」シンジがそう言っていることに気付いたミサトは溜め息をつく。

「ま、格闘戦に移った場合は、アタシはセコンドにまわるしかないか」

頭を掻きながら苦笑する。

「ミサト、もういいかしら?」

話しがついたのを見計らってリツコがたずねる。

「どぉーぞぉー」

ミサトは軍人の顔からいつもの顔に戻っていた。

「シンジ君、幾つか聞きたい事があるんだけれど」

「何ですか」

「初号機から離れた場所にA.T.フィールドを展開していたけども、あんなことどうして思いついたの?」

シンジを試すような目で見据える。

「いや、トウジ達を助けなきゃと思って、無我夢中だったから。覚えていません」

「そう、まあいいわ。……そうね、たまには単刀直入に訊いてみようかしら。

あなた、何者なの?」

「どういう意味ですか?僕はマルドゥックの報告によるサードチルドレン、碇シンジ。

ネルフ総司令碇ゲンドウと碇ユイの一人息子」

「そのはずなんだけどね。一応、DNAも調べさせてもらったし。

報告書と性格が違うのはどういうことかしら?」

リツコの視線が一段と凍てつくようになる。

「まあ、色々ありましたからね。人間、日々成長です」

「そう?そういう事にしておくわ」

リツコの眼がフッと緩む。

「ちょっと!リツコどういうつもり!!」

「疑問に思ったことを質問しただけよ。たまには報告書ぐらい読みなさいよ」

ミサトの剣幕を、さらっと受け流す。

「どういう意味よ」

「シンジ君を迎えに行くとき、写真しか見なかったでしょ?」

「うっ!」

図星を指されて、額に大汗をかく。

「そういうことよ。たまには仕事しなさい、日向君が泣いていたわよ」

そういうとリツコは、手をひらひらさせて部屋を出ていった。

「まったく、リツコは!……それはそうとシンちゃん」

ミサトがさぐるような眼でシンジを見る。

「はい」

あー、やばいなぁ。と思いつつシンジは返事する。

「あたしも時々感じるんだけど……何か隠してない?」

「エーとですねぇ」

ミサトにはできれば嘘をつきたくないという気持ちがシンジをどもらせる。

「人生14年も生きていれば、一つや二つは秘密があるということです」

自分でも訳の分からないことを言ってるなぁと思う。

「はぁー。まぁ、シンちゃんのことは基本的に信じてるからいいけどさ。

でも、いつか話してくれるわね?」

「はい、時が来れば」

シンジは、自分を信頼してくれるミサトに心から感謝していた。



「はぁ……」

シンジの口から漏れる吐息には苦悩の色が濃い。

年下、年上を問わず女性が見たら思わず後ろから抱きしめたくなる景色だ。

一時的に100%を超える高シンクロで使徒の鞭を腹部に刺した影響は大きかった。

外傷はないのだが、ショックによる胃腸の炎症が激しく、二日前まで点滴だけだったのだ。

今朝になってやっと退院すると、迎えにきてくれたミサトと共に朝食をとった。

その後、ミサトが出勤するとシンジは再び独りっきりになる。

「はぁ……」

再びため息が漏れる。

シンジの頭の中は先日のトウジの言葉が渦巻いていた。

シンジは自分が戦う理由を見つけかけていた。

(自分の周りの人たちを守るために。

綾波を、ミサトさんを、リツコさん、加持さん、父さん、トウジ、ケンスケ、委員長、そしてアスカ。

みんなを守るために。

でも、その考えは傲慢なんだろうか)

もっとも、前回のように精神的に追い詰められている訳ではない。

ミサトの部屋を掃除して見つけた『サードチルドレン監督日誌』のタイトルを、マジックで『シンちゃん観察日記』に書き換えたことからも分るだろう。

「絵日記にした方がよかったかな?」

……ともかく精神的にタフになったことだけは確かなようだ。

その後シンジは手紙を書くと、手早く身支度をすませ家を出た。



「たっだいまぁー。今日は、ひっさしぶりにシンちゃんのご飯が……」

ミサトのお気楽な声が響く。しかし、まったく人の気配がしないことに気付く。

「あれ?シンちゃん、居ないの?もしもーし」

シンジの部屋を覗いてみる。

机の上には『葛城ミサト様へ』と書かれた封筒が置いてある。

手にとってみるとそれはシンジからの置手紙だった。

独りで考えたいことがあるのでしばらく家を出ること、非常時にすぐにネルフに出頭できる範囲にいること、心配は要らないので保安諜報部にそっとしておくように言って欲しいことなどが書かれていた。

「シンジ君」

ミサトは、シンジがエヴァに乗る理由を探していることを知っていた。

そして自分は自身の身勝手な理由――父の復讐のため、そのために彼を戦場に送り込んでいることを自覚していた。

その日のビールは、ひどく苦かった。



ケンスケが放課後の教室でしとしと降る雨空をぼんやり眺めていると、トウジが話しかけてきた。

「今日でもう一週間か」

「俺らがこってりと叱られてからか?」

「あいつが学校に来んようになってからや」

「あいつって?」

「転校生や、転校生。あれから、どないしとんのやろう」

察しの悪い友人に、トウジは憮然とした顔になる。

「心配なの」

「別に、心配ちゅうわけや」

「トウジは不器用なのに強情だからね。

あの後、別れ際にでも謝っておきゃ一週間も悶々としなくてすんだのに。

ほら、転校生の電話番号。心配ならかけてみれば?」

「ワシは、別に……」

「だから強情なんだよ」

ケンスケは再び、止みそうも無い雨空を見上げながらトウジに聞こえないように呟いた。



公園のベンチで小さな子供たちが遊んでいるのを眺めていたシンジは唐突に思い出した。

「そういや、今日はケンスケと山で会った日だよな」

その日初めて、シンジはいつまでたってもループから抜け出せない思考を、無理やり違う方向に持っていく事に成功した。



「あれ?シンジじゃないか」

この辺だったよな?と辺りをうろうろしていたシンジにケンスケから声がかかった。

シンジはケンスケに誘われて、いっしょにキャンプをすることになった。



じゅう。

そんな音がして、焚き火にかかっている飯盒から沸きこぼれる。

二人は焚き火をはさんでその様子を言葉無く見つめていた。

「まだトウジの言ったこと、気にしてるのか」

不意にケンスケが口をひらく。

暗闇の広がる草原では、焚き火の明かりはあまりにも明るく、あまりにも暖かかった。

シンジはこくりと首を縦に振る。

「あいつも、お前のこと気にしてたぞ。

腹くくって戦ってるヤツになんて事を言ってしまったんだって」

「トウジのことじゃないよ。そりゃ、きっかけにはなってるけどさ」

焚き火から目をそらし空を見上げる。曇っているために星はまったく見えない。

「何で、エヴァに乗ってるんだろうって。

ナンカさ、状況に流されて乗ってるだけなんじゃないかって。

そんな気持ちで、怪我させたんなら失礼だろ」

「俺なんか、エヴァンゲリオンを操縦できるだけでうらやましいよ。

あぁ、一度でいいから思いのままにエヴァンゲリオンを操ってみたい」

夢見るような顔になるケンスケに、しかしシンジは俯き加減の暗い顔を横に振る。

「止めといた方がいいよ。ケンスケの思ってるような他の兵器とは根本的に違うから」

「そうなのか?」

「まあ、詳しくは話せないけど」

「そうなんだ。……飯、食うだろ」

「うん」

なんとなく気まずい雰囲気になる。

ケンスケはそれを敏感に感じ取ると、話題を変える。

「そう言えば、こうやって二人でゆっくり話すのは初めてだな」

「そうだね」

「シンジはここに来る前は何処にいたんだ?俺はXXXに居たんだけどな」

「XXXって、あの軍港のある?」

「ああ」

「それで、そんな趣味に?」

シンジは苦笑する。

「そういう訳でもないんだけどな」

「そうなんだ。僕は第二だよ」

「そうか。まぁ、あそこから越してきた奴がやっぱり一番多いけどな」

シンジは第二新東京市にいたころに世話になった先生の事を思い出していた。

(どういう人だったんだろう?)

今のシンジにとっては1年程前の話しである。

それも他に比べることのできないほど濃密な1年間だったのだ。

また昔の自分は、人の一面しか見ていなかった事を自覚していた。

今でも十分とはいえないだろう。

しかし、もう一度先生に会えば違った面がわかるような気がした。



翌朝、朝霧の立ち込める高原。

二人が眠る迷彩模様のテントは数メートル離れると風景に溶け込んでしまう。

そのテントに朝霧にまぎれて近づく人影。

ケンスケは、その気配に気付きテントの入り口に立つと辺りを見回す。

そこで黒ずくめのスーツにサングラスという、早朝の高原にはあまりにも似つかわしくない男たちの姿を見つけて驚く。

シンジも、そのただならぬ雰囲気に目を覚ます。

「碇シンジ君だね。

ネルフ保安諜報部のものだ。保安条例第8項の適用により君を連行する。いいね?」

シンジは突然の展開に慌てる。

「いや、ちょっと待ってください。作戦部長の葛城ミサトさんから何か聞いてませんか?」

黒ずくめは感情を感じさせない口調で言い放つ。

「我々は、君を本部に連行するよう命令されただけだ」

「父さんですね?」

「……」

黒尽くめ達に何の反応も無いのを確認すると、シンジはあきらめたよう肩をすくめた。



シンジが部屋に一人で待っているとミサトがやって来た。

「シンジ君、あなたの気持ちもわかるわ。でもね、他の方法も取れたんじゃない?

まったく。どれだけ心配したと思ってるのよ」

涙ぐむミサトにシンジは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「すみません」

ミサトは、一転して明るい様子でシンジにたずねる。

「それで、結論は出たの?」

「出る前に連れ戻されましたよ」

シンジも笑顔で答えるがすぐに表情を引き締める。

「父さんですね?ミサトさんが連絡したのに無視するような事を指示したのは」

「へ?」

ミサトが場違いに間の抜けた声を出す。

「いや、大丈夫だからしばらくそっとしておいてくれって、保安諜報部に連絡して……」

「無いわよ」

「は?」

今度はシンジが間の抜けた声を出す。

「いや……あのね、昨日はシンちゃんのことが心配で。

その、ナンちゅーかショックも大きかったし……」

ミサトが厳しい顔になる。

「シンジ君が、戦う理由を探して苦しんでるのに、私は……、私は……」

「ミサトさん」

「シンジ君、私はね……」

ミサトは、シンジに全てを伝えた。

幼い頃のこと。父への気持ち。

復讐のためだけに戦ってきたこと。そして、そのためにシンジを道具としてみていたこと。

「最低ね」

ミサトは、やはり自嘲することしかできなかった。

「そんなこと無いです!!」

シンジはミサトのそんな表情見ていられなくなり、気がつくと思わず叫んでいた。

「それは、これまでミサトさんが生きていた人生です。

その人生があったから今のミサトさんがいるんです。

それは、誰にも否定することの出来ない物です……もちろんミサトさんにも。

僕も今まで生きてきました。いろんな事がありました。だから今の僕がいるんです。

そんな僕が、新たに理由を探しています。

ミサトさんだってそうです。ミサトさんだって新たな理由が見つけられるはずです。

僕は、そう信じています」

それはシンジの心からの言葉だった。

あの"赤"の世界から戻ってきてから、自棄にならずにいられるのは、この思いがあったからだ。

「シンジ君、私を許してくれるの?」

「許すも何も、僕たちは家族じゃないですか」

「シンジ君!」

ミサトはシンジが笑いかけてくれるのを嬉しく思いながら、ますます自分が情けなく思えていた。

ただ、思いきりシンジを抱きしめることしかできなかった。

「ミサトさん、お願いがあるんですが」

「何かしら?」

シンジは、ミサトが落ち着いたのを見計らって話しかける。

「明日、第二新東京市に行きたいんです。

えっと先生……前に住んでいたところで世話になった人なんですけど。

その人に、もう一度会いたいと思うんです」

「えっ、それは」

思いもよらぬシンジの言葉にミサトは一瞬言葉に詰まる。

「もちろん無茶な事をお願いしているのは分かっています。

でも、何かが見えるような気がするんです。

使徒がきたときは、ヘリを飛ばしてもらえば30分もかからないと思います。

その、何とかならないでしょうか」

「うーん。パイロットがここを出るのわねぇ……ちょっち、まずいのよ。

護衛のこともあるし……」

ミサトは、何か考えている様子だ。

やがて、いたずらを思いついた子供のような表情になる。

「シンちゃんは先の戦闘での命令違反に入院、それに家出の実績もあるわね」

ミサトは、ニヤニヤとしか表現できない笑みを浮かべる。

「恐怖による著しい戦意の喪失によりパイロットを辞めてもらいましょう。

まぁ、私としても、やる気のないパイロットにいてもらっても迷惑なだけだしね」

「?」

「パイロットじゃなきゃ第二に行っても何の問題も無いわね。

もっとも、エヴァのパイロットは貴重だからね、すぐに復帰できるようにしとくけどね」

そういうとミサトは、シンジにウインクをした。

シンジの記憶では、ラミエルがくるまでまだ数日あるはずだ。

だが万が一のためにミサトに頼んでおく事にする。

「もし使徒がきたときは、まだ再起動実験をしていないレイを出すのは控えて僕が戻るまで何とか持ちこたえてくれませんか?

さっきも言いましたけど、ヘリを飛ばしてもらえればすぐに帰ってきますから」

例え第5使徒が来たとしても、最初の一撃さえなければヤシマ作戦まで時間は十分にあるはずだった。

ミサトはシンジの言葉を考える様子だったがすぐにいつもの顔に戻る。

「大丈夫よ。レイの再起動実験は今日するんだし」

「えっ、今日ですか?」

シンジは、三日間の独房入りは無かったが、それ以上の日数入院していた事をうっかりしていた。

「そうだシンちゃん、レイの再起動実験を見てからにしたら?

シンちゃんがついてたらレイも安心するだろうし。それにシンちゃんも心配でしょ?」

「はい、そうします」

シンジは戦う。

みんなを護るため……そして今度はレイを護るために。

シンジは自分が戦わねばならないと思った。

ただ、どこか疲れていた。

次でまだ三体目の使徒だというのに。

まだまだ先は長いというのに。

シンジはすでに疲れ始めていた。

だからかも知れない、自分が戦うための明確な理由が欲しいのは。





つづく





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