「これは通過儀礼なのだ。閉塞した人類が再生する為の」


「滅びの宿命は、新生の喜びでもある」


「神も人もすべての生命が死をもって、やがて一つになるために」


「碇、死は君達に与えよう」














WANDERING CHILD 第弐拾八話














最後の使徒を殲滅してから、戦闘訓練の内容は明らかに変わっていた。

使徒一体だけを想定したものから、多数の敵を想定したものに。

襲来が予想される敵のエヴァは九機。

たとえ個々の性能で優位であるとは言え、数の上では3対9。厳しい戦いが予想される。

ミサトの出した結論はこうだ、各個撃破しかない。

問題はいかにその状況を作るかだ。

また不死身とも思える再生能力については、ダミープラグまたはS2機関を破壊する事で殲滅できるはずだ。

サンプルは第13使徒戦。

サードインパクトを引き起こす可能性のない弐号機が敵を牽制し時間を稼ぐ。

その間に零号機と初号機は確実に敵を一体ずつ殲滅する。

シンジに拠れば、最終的に敗れたとはいえ弐号機のみで量産機の動きを止める事ができたという。

勝算は十分にあるとミサトは考えていた。



そして決戦の日は来た。

日本政府に人類補完委員会から「戦略自衛隊を出動し、ネルフ本部を占拠せよ」との要請があった。

以前から委員会、或いはネルフのドイツ及びアメリカ支部から警告はあった。

曰く、碇ゲンドウがネルフ本部を私物化しサードインパクトを画策していると。

決断を迫る側近たち。

首相は一つため息をつくと30分の猶予を求め、たった一人で自室にこもった。

彼は知っていたのだ、先程決断を迫った最も信頼する側近がゼーレの送り込んだ工作員だという事を。

先日の、ネルフ総司令――碇ゲンドウとの会談を思い出す。

彼が言うには、人類補完委員会――そのバックにある秘密結社ゼーレこそがサードインパクトを画策している真犯人だというのだ。

幾つかの証拠を示したが、それは驚くべき内容だった。

だが、それでも世界を裏から操る秘密結社の存在など、信じられないというのが本音だった。

信じるべきはどちらだ?

人類補完委員会か? それともネルフか?

再び大きなため息をつく。

彼は自問していた。

(過去、これほどの決断を迫られたものがいるだろうか?)

……やがて、苦笑しながら首を横に振る。

居る筈がないことに気付いたのだ。

文字通り、この選択によって世界が滅んでしまう。そんな選択をした人物が居る筈がない。

普段であればどちらが真実であるかなどは関係なかった。

どちらにつけば、自分に有利に働くか? これだけを判断基準にしていればよかった。

だが、今回はそうもいかなかった。

判断を誤ればサードインパクトが起こるのだ。

自分の判断が、人類の滅亡を決めるのだ。

きっかり30分後にドアがノックされるまで、執務机に座って頭を抱えたポーズのまま考え込んでいた。



「私だ。ああ、そうか。それではよろしく頼む」

ゲンドウは、受話器を執務机の上の電話に戻す。

いつものように司令室は、その巨大な空間に異様ともいえる威圧感をたたえていた。

そして何時ものように冬月が、その部屋の主であるゲンドウの側に控えていた。

「今の電話は彼かね?」

「ああ」

冬月の問いに、ゲンドウは机の上で組んだ手で口元を隠すいつものポーズで答えた。

「やれやれ。せっかく身を隠したというのに、彼も忙しいものだな」

「最後の戦いだ。動けるものには働いてもらう」

「ふむ。出し惜しみは無しということか」

そして二人は発令所に向かった。

5分後、MAGIにハッキングが仕掛けられ、第二種警戒態勢が発令された。



「全ての外部端末からデータ侵入!MAGIへのハッキングを目指しています」

あまりの事態に、シゲルが絶叫する。だが、冬月はあくまでも冷静だった。

「侵入者は松代のMAGI2号か?」

「いえ、少なくともMAGIタイプが5。松代と中国、アメリカ。そして、ドイツから2つの侵入が確認できます」

「ゼーレは総力を上げているな。彼我兵力差は1対5……。分が悪いぞ」

発令所のメインモニターに模式的に表示されたMAGIを見て、冬月が眉間に深く皺を刻む。

「マヤ!私は防壁を展開するから、あなた達はその間、できるだけ侵入を防いで」

リツコの指示に即座に反応するスタッフ。だが、戦力差は大きい。

『第4防壁、突破されました!!』

「主データベース、……閉鎖。ダメです!侵攻をカット出来ません」

「更に外殻部に侵入!予備回路も阻止不能です!」

日向とマヤも果敢にキーボードを叩いて抵抗するも、悲観的な報告が飛び交う。

「……まずいな。MAGIの占拠は本部のそれと同義だからな」

眉をひそめて冬月がそう呟いた時、リツコによって防壁の展開がなされた。

「MAGIへのハッキングが停止しました。Bダナン型防壁を展開。以後、62時間は外部侵攻は不能です」

合成された声が、そう告げる。

別命、第666防壁。獣の数字をコードネームに持つその防壁は瞬く間に侵攻を防ぎ、完璧な防護を作り上げた。



その頃、戦略自衛隊にネルフ本部を占拠せよという命令が下っていた。

国連の一特務機関に過ぎないネルフと、国連の中核組織である人類補完委員会。

最終的に首相がどちらを信用するかといえば、言わずもがなであろう。

また、同時にA−801が発令された。

すなわち「特務機関ネルフの特例による法的保護の破棄、および指揮権の日本政府への移譲」である。

通常であれば、それは国連に対する造反と同義であろう。

しかし、今回は違うのだ。A−801の発令は、今回の侵攻が国連のお墨付きである事を内外に示すものなのだ。

だが、その決断が下されたのはゼーレの予想よりも一時間は遅かった。



「先輩!対人防衛システムの一部がキャンセルされてまったく反応しません。

隔壁の一部も、です!」

マヤの報告にミサトは眉をしかめる。

「例のゼーレ指定の業者に任せた防衛設備?

きちんと動かないだけならまだしも、隔壁が閉まらないなんて……」

リツコもため息を漏らす。

「工事の後チェックをして、100カ所以上こちらで工事し直したのだけれどね。

……完璧に、とはいかなかったようね」

発令所を重苦しい空気が包む。

(戦自が突入してきたら、防ぐ術は無いわね)

ミサトは誰にも気付かれないように、そっと口の中で呟く。

もともと、対人戦闘を十分に考慮した施設ではない。まして、相手はプロだ。

戦自に所属していたミサトには、ろくに抵抗も出来ずに惨殺される職員の姿が目に浮かぶようだった。

もちろん、ネルフには警備兵もいるし、職員も射撃練習をする事を義務付けられている。

だが、人を殺すことに慣れた者は誰一人居ないのだ。それに対して戦自の兵士がためらう事は無いだろう。

(加持、上手くやんなさいよ)

ミサトは、きつく唇を噛み締めた。



かねてからなされていた研究通り、戦略自衛隊にネルフの接収及びエヴァンゲリオンの確保が命じられた。

命令を受けた師団司令部は、出撃の準備を整えているあいだに全て射殺された。

戦自内の親ネルフ派によるクーデターであった。

誰にも悟られずに司令部の入れ替わった部隊は何食わぬ顔でネルフを包囲すると、その砲口を反転させた。



天空をゆっくりとすべるように滑空する九機の全翼型の巨大な輸送機。

それらは優秀なステルス性能を有しているのだろう、ネルフのレーダーによって捉えられたのは、わずか数十キロに近づいたところだった。

その黒い怪鳥のような姿は、すでに肉眼で確認することも可能だ。

数分もすれば。白い量産型のエヴァを地上に投下するだろう。

すでに地上に射出され、待機している三体のエヴァ。

零号機と弐号機は、それぞれその手に巨大なライフルのようなものを構えていた。

零号機の構えるそれは、かつて第五使徒戦でそのコアを打ち抜いた戦自のポジトロンライフル。

そして、弐号機が構えるのは、遅ればせながらもネルフが実用化させたポジトロンライフル。

それぞれ、特殊なソケットを経由して初号機につながれていた。

エネルギー源はS2機関。これで、理論上は無限のエネルギーが供給されるはずだ。



ダミープラグには、起動すれば完全に目標を破壊するか逆に破壊されるまで停止しないという技術的な欠点がある。

よって、第3新東京市の直上までエントリーすることはない。

そこをつかない手はない。

つまり驚異的な再生能力もない、A.T.フィールドを展開することもない、ただの丈夫な人形のうちに少しでも数を減らしておくこと。

これがミサトの立てた、量産機分散作戦の第一歩であった。



「やはり、S2機関搭載型エヴァを九機か。向こうも出し惜しみは無しだな」

ついに火蓋が切られた最終決戦の様子を、いつものようにゲンドウの一歩後ろで見ていた冬月がつぶやく。

「逆に言えば、ゼーレも後がないと言うことだ」

顔の前で組んだ手をそのままに、ゲンドウがメインモニターを見たまま答える。

「そうだな。文字通り、これが最後の戦いか」

冬月もまた、モニターのほうを向いたまま顔をあわせることはなかった。



「以後、目標をエヴァンゲリオン五号機から十参号機と呼称します」

「初号機のシンクロ率、152.8%で安定。

S2機関、出力安定。ポジトロンライフル、ともに発射可能です」

マコトに続いてされたマヤの報告に、リツコの顔がわずかにゆがむ。

「計算より15%以上も高いわね」

それは、初号機に搭載されたシンクロ率を下げる装置が、計算どおりに作動してないことへの不安だった。

「大丈夫よ、最後の決戦と言うことでいつも以上にシンジ君のシンクロ率が高いのかもしれないし」

ニハハと、能天気に笑うミサトに、リツコも苦笑を漏らす。

「事前に実験できなかったのがね。

……そうね、どうしようもないことで悩んでも仕方ないわね」

「そうそう。

まあ、最悪シンクロ率が上がりすぎてエヴァに取り込まれることは、これでもう無いんでしょ?

なら、それで良しとすればいいとあたしは思っているわ。」

その言葉に、リツコはまた表情を曇らせる。

「それは違うわ。

そもそもエヴァは人類が簡単に制御できるようなものではないの。

これだって、抑えていられるのは初号機のシンクロ率が高いとは言え安定しているからよ。

もし暴走して急激に上がりだしたら、とても止められないわ」

リツコの言葉に一瞬凍りつくミサトの表情。しかし、すぐに気を取り直して笑みを浮かべる。

「大丈夫よ、そんなことはさせないわ。絶対にね」

その表情をきっと引き締めて、ミサトは発射の命令を出した。



閃光と共に二条の光が白いエヴァを乗せた輸送機に向かって走る。

命中。爆発、そして炎上。二機の輸送機が墜落していく。

二射目の準備をするアスカとレイ。だが、その間に他の七機はぐんぐんと近づいてくる。

『無理はしないで、接近戦の準備をして。一機ずつ確実に殲滅していきましょう』

ミサトの指示が飛ぶ。

取り回しの聞かないポジトロンライフルを置くと、それぞれ得物を構える。



程なくして、ダミープラグによって起動された量産機が自らの白い翼でゆっくりと旋回しながら舞い降りてきた。

三機対七機。

本当の戦いはこれからである。



まず先陣を切ったのはアスカの駆る弐号機だ。

手にはソニックグレイブ。

その気になれば量産機など一刀のもとに両断できるだろう。

再生能力の前に敗れたとは言え、第7使徒『イスラフェル』戦の初戦がそのことが証明している。

だが、多数の敵を相手にする今回、そんな大きな隙のできる動きはできない。

アスカの任務は一機でも多くの敵を引き付けることだ。

そのために必要なのはパワーではなく、正確な技術とスピード、そしてセンスである。

それは、アスカにしか出来ないものだった。

「さあ、来なさい」

そう言って敵の真っ只中に駆け出す。

手にしたソニックグレイブを量産期の持つ、つかの両側に幅の広い刀身のついた武器に思い切りたたきつける。

と、すぐにその力を横に受け流すと、そのまま足を掛けてバランスを崩す。

たららを踏むその機体をそのままに、次の相手に向かう。

二機目が切りかかって来るところを入り身の要領で間合いを詰めると、ショルダータックルでバランスを崩させる。

三機目は、踏み込んできたその膝を踏み台にして、トンボを切る要領でその頭を押すように蹴る。

そのまま半分ひねって着地し、四機目を石突で人間で言う鳩尾のあたりを突く。

そして五機目の武器を叩き落すと、一本背負いで体勢を立て直した一機目に投げつける。

一機に対する時間は数秒。

アスカは最小限の動きで量産期に対峙し、その注意を引き付け続けた。



初号機は、パレットガンを構える零号機のサポートを受けながら、残りの二機の量産機と対峙する。

その手にはプログナイフ。結局、シンジはそれ以外の武器に習熟することはできなかった。

だが、初号機にはその圧倒的なパワーとスピードがあった。

例え、パイロットがもてあまし気味であったとしても。



零号機がその引鉄を引き絞りパレットガンが火を噴く。

そうして零号機が足止めをしているあいだに、初号機は残りの一機との間合いを一気に詰めた。

白いエヴァはその双頭の剣を振り下ろす。

何とかその刃をプログナイフで受け止めると、そのまま動きを止めずに体当たりをするように押し倒した。

剣を持っている右手をそのパワーにものを言わせて引きちぎる。

そして、コアがあるであろう胸部の装甲板の境目に指をねじ込むと力任せに引き剥がした。

だが、そこに姿をあらわしたのはコアではなく、さらに頑丈そうな装甲だった。

その滑らかな表面には突起のような物はまったく無く、いかに強大なパワーを誇る初号機であっても、引き剥がすのは難しそうだった。

仕方なくその表面にプログナイフを突き立てる。

「キュィィィイイィィィィン!」という独特の音を立てながら、ナイフが少しずつ食い込んでゆく。

10秒、20秒……

やがて一度手ごたえが軽くなり、装甲を突き抜けたことを伝える。

そして再び硬い手ごたえ。

ナイフがコアにつきたてられた証拠だ。

だが、第4使徒『シャムシェル』戦が示すように、プログナイフでは一瞬にしてコアを破壊することは出来ない。

再びじれったくなるほどゆっくりと突き進むナイフ。

「パキン」

少しくぐもったような音がして、その白いエヴァはようやくその動きを止めた。

一機目を殲滅するのに予想よりも大幅に時間がかかってしまった。

次の敵を求めて初号機が立ち上がったとき、零号機はその右手を失っていた。



「ちっ」

その光景を発令所で見ていたミサトは忌々しげに舌打ちをした。

このままでは勝てない。その思いがミサとの表情を険しくする。

この戦いには負けるわけには行かないのだ。

フル回転するミサトの頭脳はやがて一つの結論に達した。

「シンジ君、コアの破壊には時間がかかりすぎるわ。何とか背後に回ってダミープラグを引き抜いて。

レイ、プログナイフを装備して初号機のバックアップに専念して。

アスカは申し訳ないけどそのまま頑張って」

「分かりました」

「ハイ」

「了解」

三人のチルドレンは三様の返事を返した。



レイはエントリープラグのなかで痛む右肩を押さえながら荒い息をついていた。

元々ライフルは取り回しの利かない武器であるうえに、威力の小さいパレットガンでは接近戦に対してははあまりに不利だ。

兵装ビル及び戦自の援護が無ければすぐにやられていただろう。

だが、それも折込済みのものだ。

当初の作戦では一分も持ちこたえれば、一機目を殲滅した初号機が駆けつけるはずだったのだ。

事実、レイは一分以上持ちこたえて見せたのだ。

その腕を奪った白いエヴァはいつでも飛びかかれるように腰を低く落として身構えていた。

A.T.フィールドを中和された状態で背後から砲撃を受け、その部分の装甲の一部がはがれていた。

その戦自の自走砲が放った砲弾が、零号機の、レイの命を救ったのだ。

初号機がするするとその白いエヴァの装甲のはがれた背後に移動しているのを見たレイは、右肩から腕を離すとプログナイフを握り締め攻撃を仕掛けた。

白いエヴァも、まるでその時を待っていたかのように双頭の剣を振りかぶって駆け出す。

両者が切り合う寸前、初号機はそのスピードを生かして白いエヴァとの背後についた。

そのまま武器を持つ右手を後ろ手に極めると、足をかけて押し倒す。

腕を極めたまま、もう片方の手で剥がれかけている装甲板を取り去ると、ダミープラグを引き抜き破壊した。



10分後、白い量産型のエヴァは2機にその姿を減らしていた。

戦況はかなり有利になっていたが、こちらも無傷という訳には行かなかった。

零号機は左腕も失い、すでに回収されていた。

初号機、弐号機に関しても重大な損傷こそ無いものの、その機体には無数の傷がついていた。

そして何よりパイロットの疲労。

特にミスの許されないシビアな動きを強いられたアスカの疲労は大きかった。

だが、それも後わずかである。

アスカは荒くなる呼吸を何とか押さえ、すでに破損したソニックグレイブでは無くプログナイフを腰溜めに構えたときそれはおこった。

ダミープラグを抜かれ、その動きを止めていた4機の量産機が、まるで幽鬼のようにゆらりと立ち上がったのだ。



「そんな!」

アスカがそう声を上げると同時に、発令所でミサトが同じように声を上げていた。

「ちょっと、リツコ。どういうことよ!?」

思わず隣に立つリツコに説明を求める。

「どうと言われても、そんなふうにゼーレのほうで改造したのだろうとしか言いようが無いわ。

つまりあのダミープラグはスイッチのようなもので、その大部分はすでにエヴァ本体のほうに組み込まれている可能性が高いわね。

後はデータを送って起動させてやればプラグ自体は必要ないのよ。

この可能性に気付かなかったのは確かに私のミスね」

「今は責任よりも、どう対処するかだわ」

ミサトはそう言ったが、具体的な対策は何も思い付かなかった。



「シンジ、アタシがもう一度こいつらを引きつけるから、アンタは時間がかかってもいいから確実にコアを破壊していきなさい。

いいわね?」

そう伝えるアスカの表情は、無理をしているのがありありと見れた。

しかし、シンジには他に有効な作戦は思い浮かばなかった。

とにかく一秒でも早くすべての白いエヴァを殲滅することだ。

そう思い直したシンジは一機の量産機に体当たりをしてバランスを崩すとそのまま押し倒し、その胸にプログナイフを突き立てた。

手足をめちゃくちゃに振り回して暴れる白いエヴァを、初号機はそのパワーに物を言わせて押さえ込む。

遅々として進まない刃。じりじりとした時間が過ぎていった。

「くっ……」

時折、通信機から聞こえてくるアスカの声には、明らかに押し殺した悲鳴が混じっていた。



「しまった!!」

そのアスカの声が聞こえたのはプログナイフがようやく敵のコアを破壊し、次の目標を求めて立ち上がったときだった。

アスカの声に振り返ったシンジが見たものは、電源コードを切断された弐号機の姿だった。

「アスカーーッ!!」

叫びながらシンジが駆け寄ろうとするも、2体の量産機に阻まれる。

「くそ!放せっ!放せーーっ!!」

もがく初号機。

そのシンジの目の前で、一瞬その動きを止めてしまった弐号機は三機の量産機に組み付かれた。

生物的なフォルムをもつその口の部分をゆがめて、ニヤリとした笑みを浮かべる量産機ども。

その口を大きく開けると、弐号機に噛み付いた。

それは、あまりにも生物的で嫌悪感を催す光景だった。

「イヤァァァーーーーー!!」

搾り出されるようなアスカの悲鳴が初号機のエントリープラグに、発令所に響き渡った。

(そんな、もうダメなの?

……イヤ、死ぬのはイヤ。死ぬのはイヤ、死ぬのはイヤ。死ぬのはイヤァァーーー!!)

生きたまま自らの体をむさぼられるあまりの苦痛にアスカの意識は自らの心のうちに落ちていった。



「アスカーーッ!

放せっ!!くそっ!放せぇぇぇぇええぇぇぇ――――!!!

うおおぉぉぉぉオオォォォォーーーーー!!」

何とかアスカのもとに行こうと叫びながらもがいていた。

やがて、その叫びは初号機のものと重なる。



「初号機のシンクロ率が上昇して行きます!」

マヤの声に真っ先に反応したのはリツコだった。

誰よりもその可能性を恐れていたのだから。

「シンクロを強制カット急いで!」

「駄目です。信号を受け付けません。

250%突破!300、350!シンクロ率の上昇、止まりません!!

シンクロ率、400%を突破しました!」

そう報告するマヤの声は、初号機の叫び声にかき消された。



「ウオオオォォォォォォォォオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーー!!!!」



量産機達は、まるでその咆哮に恐れるかのようにジリっと後退ったように見えた。





つづく





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