その日のうちに三人はドグマへと侵入した。

無論、不法侵入であり見つかったら厳重処罰ものだが、子供達にとっては危険を犯してでも進む必要があった。

だた妙なことに、ドグマの外には厳重なセキュリティがあるのにもかかわらず、内部に一旦入ってしまうと拍子抜けするほど何もなかった。

ここに入られたのはレイのおかげであり、レイが居なかったらドアの前で立ち往生するだけだっただろう。

 

「凄いわね。ジオフロントってまだこんなに深いところまであったんだ」

「本部があるところなんてほんの一部だって聞いたけど・・・全部掘り出すとどのくらいになるのかな?」

 

 

ジオフロントの全体像は巨大な球体である。

現在のように階層で分けて、その面積で考えればちょっとした大陸並になるかもしれない。

あまりに広大すぎて手に余っているのが現状だったりする。

 

廊下を行くこと十数分。

ようやく目的地に到着した。

 

「ここよ.。ここから向こうはあなた達にとって、とても不快感のある光景だと思うわ」

「それはあんた自身が一番そうでしょ。自分と同じ顔が幾つも並んでるんだから」

「クス・・馴れればなんともないわ」

「はぁ・・・そういうものかしら?」

「なってみないとわからないわよ。ドア・・・・開けるわ」

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第壱拾壱話 世界

 

 

 

 

部屋の中はたしかにレイの言うとおり、少々気分が悪くなるような光景だった。

LCLの満たされた水槽の中に、無数の綾波レイが浮かんでいるのだ。

どれも同じ顔。

どれも同じ体。

 

「・・・さ、碇君こっちに来て」

「あ、うん」

 

レイに手を引かれて水槽の上に向かうシンジ。

 

 

スルッ・・・・

 

「あ、綾波!?」

 

突然、レイが服を脱ぎ始めシンジは驚いて背を向けた。

スカートを脱ぎ捨てた姿まで見たシンジは、耳まで真っ赤になっていた。

しかしレイは平然としており、羞恥心は未だ皆無といった状態のようだった。

 

「どうしたの?」

「だ、だって・・・なんで裸になるのさ」

「シンクロしやすくするため・・・碇君も脱いで」

「え!?ぼ、僕も?」

「脱ぎたくないなら脱がせてあげるわ」

「い、いい!自分で脱ぐよ!」

 

背後に歩み寄ってくる裸足の足音から、どうしてもレイの裸を想像してしまう。

覚悟を決めて学生服を脱ぎだしたシンジは自分に向けられる視線を感じて動きを止めた。

下からは指の隙間より覗く蒼い瞳。

背後からは何故だか少し紅潮した紅い瞳。

冷や汗を流し、下着に手をかけた状態のまま、銅像のように固まっていた。

 

「見ないでよ!」

 

そう叫んで勢いよくバッと・・・

それで一気にLCLの水槽へドボン。

 

水槽の中でシンジはレイ達に観察されているようなそんな感じを受けた。

 

「傲慢だよな・・・人間って」

 

この光景はそのまま人の犯した罪の形であるような気がした。

寂しげな気分になっていたところ、いきなり背中に柔らかな感触を押しつけられ、一時的にパニック状態になった。

それがレイであるとわかると今度は硬直して動けなくなった。

いやはやお忙しいことで。

 

「あの・・・なにしてるの?」

「・・・心を静かにして。今からあなたの意識からユイナを連れ出してくるわ」

「・・わかった。頼むよ・・・ユイナのこと」

 

レイはシンジの体を抱き締めている腕に力を込めて、頭を背中に押しつけた。

二人の接触面が同化していく。

 

「入ってくる・・・綾波の意識が・・・」

「暖かい・・・これが碇君の心・・・」

 


 

「・・・ここはまだ表層意識ね。ユイナは何処かしら?」

 

シンジの意識に潜り込んだレイはすぐにユイナの姿を探した。

意識空間は物理世界とは違い、時間や広さといった概念が通用しない。

酷く広大なときもあれば、猫の額ほどの広さしか持たないときもある。

そんな空間で捜し物ならぬ、人捜しをするとなるとかなり骨の折れる作業であった。

 

だがそこはそれ、ユイナは大きな力を持っているため、それを探知できるレイにならばその苦労もかなり減る。

慎重且つ大胆に深層意識の方にまで足を踏み入れていくと、急に明るい場所に出た。

 

「これは・・・」

「シンジの希望よ・・・ここは陽の感情の部屋」

「ユイナ・・・ここにいたのね」

 

部屋の隅の方に、そのために用意されたかのような一脚の揺り椅子があり、そこにユイナは腰をかけていた。

レイは駆け寄って一瞬声を失った。

椅子に腰をかけていたユイナは、腰から下の形がほとんど失われ、翼も肩翼しか残っていない状態だった。

見る影もないとはこの事だ。

 

ただ、痛みがあるわけではないらしい。

むしろユイナには苦痛よりも悲痛の色が浮かんでいた。

 

「驚いたでしょ?もう、半分はシンジの意識の中に溶けてしまったのよ。ホント迂闊だったわ。ATフィールドの直撃をくうなんて」

「・・・ここを出るわよ。このままではあなたの存在が消えてしまう」

「出たところで同じよ。今のアタシは外に出て形を保つほどの力がないもの・・・。それよりあなたも無茶するわね。他人の精神に潜り込むなんて、いくらあなたでも精神汚染を受けるかもしれないわよ」

「かといってこのまま碇君の中に消えさせるわけにはいかないの。それはあなたのためでもあるし、碇君のためでもある。大丈夫、器は用意してあるわ」

「器って・・・まさかレイ、あなた話したの!?」

 

今度はユイナが驚く番だった。

身を起こそうにも起こせない状態がどうにも歯痒い。

 

「でなければ迎えになど来られないわ。安心して、私は後悔していない。アスカも碇君も私を仲間だと言ってくれる。それだけで十分」

 

清々しささえも感じられるほどの微笑みを浮かべるレイはユイナにも眩しく思えた。

 

「さぁ、行きましょう」

 

少し逡巡しつつもユイナは差しのべられた手に自分の手を重ねた。

 


 

「終わったわ」

 

ハッとシンジは我に返った。

溶けているときの感覚はとても甘美で、ずっとそのままでいたいと思ってしまいそうな誘惑に満ちていた。

一つになる喜びってヤツを身をもって経験したのだ。

まったく・・・レイよりもこっちの精神汚染の方が心配である。

 

大変なときに快楽に酔いしれてしまいそうになった自分を恥じながら、キョロキョロと見回すとたくさんのレイの中で、たった一人だけシンジと目があった瞬間に微笑んだ者があった。

瞬間的に涙が溢れそうになり言葉に詰まった。

 

「へへへ・・心配かけたね」

 

照れくさそうに笑うとシンジに抱きつく。

シンジはそれをしっかりと抱き留めた。

存在を確かめるようにきつく、きつく。

 

「ん・・・痛いよシンジ」

「ゴ、ゴメン・・・でも・・・よかった」

 

コンコン・・・

 

「「「ん?」」」

 

ガラス隔てた向こうで顔をむくれさせて不機嫌を露わにしているお嬢さんが一人。

すっかりその存在を失念してしまっていた三人は、揃って苦笑いを浮かべて水槽をあがった。

 

 

 

シンジとレイが服を着ている間、ユイナは一人ボーっと突っ立っていた。

何をしてるんだろうと思ったとき、これまた忘れ物をしていたことに気付いた。

 

「そうだよ・・・ユイナの服、用意してないよ」

「これを使いなさい」

 

「「「「え!?」」」」

 

四人が揃って振り返ると、そこにはネルフの職員用に支給されている制服を手にした白衣の女性がいた。

一番近い距離にいたアスカは後ずさろうにも水槽がそれを邪魔をしており、逃げ場はない。

緊張する一同とは対照的に、白衣の女性・赤木リツコはアスカに制服を手渡すと目で促した。

アスカは拍子抜けしながらもそれを持ってユイナの元へ行き、それを渡した。

 

「どういうつもりかしら・・・?」

「さぁ?」

「もしもの時は私が全ての責任を負うわ」

「ダメよ。あたしたちは運命共同体なんだから」

 

こそこそと小声で言葉を交わす少年少女。

訝りながらも素早く服を着ると、最初に口を開いたのはユイナだった。

 

「どういう風の吹き回しですか?赤木博士」

「・・・さぁね。それよりもあなたの正体の方が気になるわ。レイの体をに入り、尚かつその構成を変更できるなんて・・・あなた何者?」

「なるほど。科学者としての好奇心が勝ったということですか。あなたらしいですね」

 

クスクスとユイナは心底意地悪そうに笑った。

まるで小悪魔の嘲笑だ。

人の精神を逆撫でするような(無論わざとだ)その笑い声にも、リツコはいつもの調子を崩さないでいた。

それを見てユイナも笑うのを止め、引き締まった神妙な顔つきとなった。

 

その彼女の髪は本来の蒼からほんの少し赤みがかった茶色に、赤い瞳は鳶色に変色していた。

 

「あなたは使徒なの?それとも人?」

「私はユイナ。それ以上でもそれ以下でもありません」

「・・・フフフ・・いいわね。そう言い切れるのって羨ましいわ」

 

今度はリツコが笑う。

しかしそれは挑発などの意味を含んだものではなく、警戒を解く系統のものだった。

 

「赤木博士・・・私は・・・」

「いいのよレイ。何となく・・・あなたが自分の意志で動くことを望んでいた気がするから」

「何だか含みのある言い方ですね」

「なぜかしら?ここままじゃいけない。このままでは取り返しのつかないことになる。そういう強迫観念があるのよ」

「あ・・リツコもそうなの?」

 

少し気の抜けた声をあげたのはアスカだった。

それまで後ろで様子を窺っていたのだが、一歩前に出てリツコと向き合った。

 

「あたし、ここに来る前に変なものを見たのよ。それがなんなのかよくわからなかったんだけど、凄く辛かった。このままじゃダメだって、言っているような気がした」

「変なもの・・・?よかったら話してくれる?」

「ええっと・・・エヴァによく似た白い巨人と・・赤黒い槍、それと・・なんだっけ・・・ごめん、これ以上は思い出せない」

 

アスカは頭を振る。

無理に思い出そうとすると、あのときのような激しい頭痛に襲われた。

とてもではないがそんな状態になってしまっては、ものを考えるような余裕はなかった。

 

「エヴァによく似た巨人ってなんだろう?」

「ふぅむ・・・それは赤木博士がよく知っているみたいよ」

 

ユイナの視線の先にいたリツコを見ると、それまでに比べて明らかに感情が表に現れていた。

 

「・・・アスカ、その白い巨人のこともうちょっと話してくれないかしら」

「いいけど・・・ええっと、体はほとんどエヴァと同じだったわ・・そう、頭に目がついていなかった。そのかわり爬虫類みたいに大きく裂けた口が付いていた。あと・・・羽が生えていたかな?」

「画に描ける?」

「うん・・・自信ないけど」

 

紙と鉛筆を手渡され、アスカは記憶を頼りにその姿を書き起こしていく。

時折考え込むような仕草を見せる割には、鉛筆の動きはシャープだった。

 

醜悪な天使は徐々にその姿を白い紙の上に表していく。

 

白い翼。

蛇のような頭。

エヴァと同じ体。

その手に持った巨大なブレード。

 

だいたいの形が浮かび上がると手を止めて、リツコに鉛筆と紙を手渡した。

 

「ま、こんな感じかしら?それでこいつ笑うのよ。すっごくいやらしく」

「・・・驚いたわ。本当にそうなのね」

 

アスカの描き出したそれを食い入るように見つめるリツコ。

もう驚きは呆れへと変化していた。

 

「これってなんなの?」

「これはエヴァンゲリオン伍号機からなる量産型。羽に見えたのはエヴァ専用の飛行ユニットね。どれもいま開発中の代物よ。現在、量産型は八号機まで完成していると聞いているわ」

「そんなものがどうしてあたしのイメージの中に・・・」

 

 

「なるほどなるほど・・・だいたいわかったわ。どうりでアタシの行動に制約がかからないわけよね」

 

困惑する面々を余所に、一人納得するユイナは何度も何度も頷いていた。

その仕草は見る者にとってはヤキモキすることこの上ない。

 

「何がわかったっていうのよ。一人で納得してないであたし達にもわかるように話しなさいよ」

「これはまだ推測の域を出ない話よ。それは心に置いといて」

 

リツコを含めた全員がコクンと同じ動きをする。

それからユイナは少し演技がかった口調で語りだした。

大袈裟な身振り手振りをつけて、四人の観客を前にして演技を披露するかのように。

 

 

 

 

「まず、この世界は大きく分けて三つの結末を用意されているわ。

無論、これは大きな分類であって本来は様々な細かい分岐があるけど、それはこの際考えから外しておいて。

ここで重要なのはシンジの存在。

赤木博士にはまだ話していないけど、アタシもシンジもこの世界の存在ではないのはわかっていることよね?

じゃあ、本来ここにいるべき碇シンジはどうなったのかしら?」

 

「そういえば・・・今まで考えたこともなかったな」

眉をひそめながらシンジは小首を傾げた。

 

「・・・話を続けるわね。

ここにいるシンジは元の体に戻り、生き返る・・もとい、元の運命に乗るために一つの試練として送り込まれたわ。

今となってはそれが本当にそのために送り込まれてきたのかは怪しくなってきたけどね。

そのことも含めて、こう考えるとある程度の説明が付くわ。

この世界は最低でも一回、サードインパクトに見舞われ、結果として世界は滅んだってこと」

 

これに異論をあげたのはアスカ。

「ちょっと待って、じゃあ今この場にいるあたし達は何なのよ」

 

「シンジがこの世界に来たときのあの時間まで巻き戻されたのよ。そう、ちょうど聞き終えたテープのように」

ユイナはサラッと言い返す。

 

「つまり、この世界は何度か同じことを繰り返していると?」

「おそらく。ただ、完璧に元に戻してしまうと同じことの繰り返しになってしまうから、役者の交代があった」

「それが僕・・・」

「物語の中核を担う碇シンジを、平行世界の碇シンジと入れ替えることによって、その結果を変えていこうと思ったんじゃないかしら?今のシンジが都合何人目かはわからないけどね」

「・・・あたし達に妙な記憶があったり既視感を覚えたりするのは?」

「世界自体が擦り切れてきてるんだと思う。何度も聴いたテープってデジタル製のものと違ってけっこう劣化するでしょう?ようするに不都合が出てきたってことよ」

「誰がそんなことを・・・」

「きまってるじゃない」

 

レイのその呟きにユイナはニッと笑みを浮かべて

「神様よ」

と言った。

 


 

だいたい話し終えたときの四人の感想はそれぞれ、

 

「・・・面白い推論ね。私は賛成するわ。科学者としてではなく人間として、ね。そうでもなければこの既視感の多さは説明できないもの」

 

「あたしも・・・あんな生々しい感覚が夢だとは思えない。それに他の世界から魂を連れて来ちゃうくらいなんだから、神様って世界を何度も繰り替えさせることぐらい出来そうだものね」

 

「私は繰り返しているとかそんなことは関係ない。今、ここにいることが大事だから」

 

「僕は・・・そうだな。たとえ神様の掌の上で暴れるだけの存在でも、この世界を変えることが出来るのならやってみたい。みんなを守りたいよ」

 

というものであった。

 

「ん。それぞれに納得できたところで、この話は終わりにしましょう。この世界が本当に繰り返されているかどうかは確認できないわけだし、アタシ達は迫ってくる使徒を倒して、そしてサードインパクトを阻止する。これでいいわね」

 

 

そして最後をユイナが締め括り、四人の顔を見渡してこの場の会話は打ち切りとなった。

 


 

「赤木ユイナ・・・?」

 

リツコがマギを使って戸籍捏造を行い、ユイナは「赤木ユイナ」として第三新東京市の戸籍に登録された。

ユイナにしてみれば、この際名字などどうでもよかったのだが、流石に「綾波」「碇」はまずいだろうとのことで、リツコが法的な保護者となったのだった。

 

「なに?気に入らないの?」

 

リツコの冷たい笑みの前では、さすがのユイナもひきつってアハハと乾いた笑いを漏らすだけだ。

 

「じゃあアタシはなんて呼べばいいんですか?」

「好きなようにしなさい。保護者と言っても書類上の関係だから」

「それじゃあ・・・」

 

早速ユイナはリツコのことを「お姉さん」と呼んで、リツコをからかった。

しかしこれは逆効果であった。

「お姉さん」の響きは三十路突入のリツコにとって涙ものの嬉しさだったらしい。

からかったはずのユイナが抱き締められて目を白黒さえるなど、他の三人の笑いを誘った。

両者の間にはある程度交渉はあったが、最終的にリツコを呼ぶ時は「リツコ姉さん」で決定した。

苦笑しながらも、実はユイナも擬似的ながら姉妹という関係に結構喜んでいる様子だった。

 

「それじゃ改めて、リツコ姉さん。アタシは何処に住めばいいの?」

「何処がいい?ネルフの所有している物件なら何処でも用意できるわよ」

「なら・・・シンジと一緒がいいな」

 

「「○☆▽×★!!」」

 

背後で声にならない声をあげる人物が二人。

顔を真っ赤にしているシンジ。

これまでそれこそ四六時中一緒だったくせに何を今更って、感じがしないでもない。

 

そうしてもう一人はレイ。

意識体ならともかく、体を持った今、シンジと一緒というのはのめない条件だった。

 

発信元であるユイナは二人の反応を楽しむように眺めてから、アスカの側に歩み寄った。

そうして耳元に囁く。

 

「あなたはいいの?」

「どうしてあたしがシンジの住む場所に拘らなきゃいけないのよ」

「ふ〜ん・・・」

 

猫のように目を細めながら、ジッとアスカを見やる。

睨み合うこと約十秒。

その視線に耐えきれず、アスカは声をあげた。

 

「ああもうっ、言うわよ!言えばいいんでしょう!」

「うんうん。リリンは素直なのが一番よ」

「何だかわからないけど気になるのよ。シンジのことが気になって仕方ないの!」

 

「ア、アスカ・・・」

 

シンジは更に真っ赤っか。

アスカも負けず劣らず赤くなっている。

 

「か、勘違いするじゃないわよ!あたしはただ気になるっていうだけで別にその・・・す、すすす好きとか・・そういうことを・・・言ってる訳じゃなくて・・」

 

自爆気味なアスカ嬢。

そしてその横でクスクスと笑うユイナ。

 

「ま、その気になるっていう点ではレイも同じだったんでしょうね。前の世界では少なからずあなた達がシンジに対して好意、もしくは憎悪を抱いていたからだと思うわ」

「好意はうれしいけど、憎悪は勘弁してもらいたいなぁ・・・」

「どうして?どちらも同じ感情よ?」

「あれ、正反対じゃないの?」

「チッチッチ。甘いわね。好意の正反対は無関心なの。憎悪はむしろ好意が大きくなりすぎた場合に発生したりするものよ。好きだから許せなかったり、好きなのに気付いてくれなかったりね。どちらにしろ、純粋な憎悪ってのはなかなか無いものよ」

 

自身の心がそれまで無かったくせによう語るものである。

まあ医者の不養生ともいうわけで、自分のことは割とわからないってことが多いと。

 

「・・・で、どうするの?」

「う〜ん・・・本当に冗談じゃなくて、アタシはシンジの側がいいんだけど」

「でもアスカとレイが納得しないわけね。だったらこういうのはどうかしら。シンジ君は今のままで、あなた達三人はその隣の部屋に住むっていうのは」

 

リツコの提案に少女三人は顔を見合わせる。

 

「どう?」

「・・・ギリギリの妥協ラインね」

「私は碇君の側に行けるなら」

 

目配せをしてリツコに向かって頷く。

 

「ならそういうことで手配をしておくわ。悪いけど、引っ越しは明日ってことで、ユイナは今日本部に泊まってくれる?」

「身体の検査でもするの?覚悟はしてたけど」

「それだけじゃないけどね。いいわね?」

「いいよ。アタシもリツコ姉さんに頼みたいことがあったし」

 

 

かくして今回のユイナ絡みの出来事は一段落した。

余談ではあるが、この日少女らのうちレイだけは自宅に帰ることが出来たため、嬉々としてシンジと並んで帰っていったそうである。

それは、背中から幸せという名のオーラが発せられているのを感じられたくらいだったらしい。

おかげで蒼い瞳の少女は寝るまで文句をたれていたとか。

当然ながらそれは独り言として処理されていて、相変わらず素直ではなかったようである。

 


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後書きみたいなもの。

 

ここのところ、この先の展開を考えてはまた組み直すってことばかりを繰り返しています。

ついでにスパロボばかりやっているからそのスピードも更に減退。

おかげでエピローグも当初考えていたものから、徐々に変化しつつあります。

書き直す前のものを残しておいて、その違いを見比べるのも結構楽しい作業ではありますけどね。

(しっかし今回もまた会話文ばかりになりつつありますなぁ・・・)

 

次回も少し時間がかかるかもしれませんけど、これからもどうぞよろしく。

苦情・感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板に(マジで)お願いします。

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