「ユニゾンはわかったけどぉ〜・・・」

 

戦闘の翌日には、チルドレンたちは三人娘自宅で作戦のための特訓にはいっていた。

レイとアスカはお揃いのレオタード姿。

テレビの前で飛んだり、跳ねたり、回ったり・・・

足下には何やら矢印の描かれたマットが敷いてある。

 

「どうしてゲームをやらなきゃいけないわけ?」

「ぼやかないの。ただのゲームじゃないんだから。ほら、ステップが乱れてるわよ」

「わ、わかったわよ!」

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第壱拾伍話 ユニゾン

 

 

 

 

少し時間は遡って、戦闘数時間後。

−ネルフ−

 

ドサッ

 

書類による垣根が葛城ミサトの目の前に築かれた。

囲まれたミサトはげんなりとして、その山を見ては溜息をもらしている。

 

「関係各省からの抗議文と被害報告書はこれで全部よ」

 

それを運んできたのであろうリツコは楽しそうに顔を綻ばせていた。

どうもミサトがいや〜な顔をしているのが楽しいらしい。

 

「あ、あとこれはUNからの請求書」

 

トドメとして一通の封筒を手渡し終了。

請求書というくらいなのだから、N2の代金を払えということなのだろう。

(ったく・・・人類最後の砦がけちくさいこと言うんじゃないわよ)

と、ミサトは封筒を照明の光に透かしながらしながら心の中で悪態をついた。

普段、自分たち(戦自も含む)が使徒に対して税金の無駄遣いをしているというのに、こういうときだけは態度が大きくなるのだから質が悪い。

中身を見る気もないので封筒をそこらへ投げ捨てると、ミサトはぶっきらぼうにリツコに問うた。

 

「エヴァの修復どれくらいかかるの?」

「装甲の換装を済ませればいいだけだから・・・まあフルピッチでやれば一機あたり五時間で・・・十時間ってとこかしら。そんなに急ぐ必要はないけどね」

「使徒は?」

「現在自己修復中。第二波は五日後とMAGIは予測しているわ」

「準備期間は取り敢えず用意されたってわけか」

「頑張ってね。あなたの首がかかっていると思うから」

 

ネルフのロゴ入りマグカップにコーヒーを注ぎながら、サラッと毒を吐くリツコ。(しかも天使のごとき笑顔)

こういう辺りは依然とさほど変わっていないようである。

 

「私の首もそうだけど、それ以上に世界が、じゃないの?」

「そうとも言えるわね」

「はぁ・・・何かいい手はないかしらねぇ・・・」

 

椅子にもたれ掛かって天井を見やるミサト。

その視界に一枚のディスクが飛び込んできた。

 

「はい、あなたの首と世界の運命が繋がるアイディア入りよ」

 

途端に目を輝かせてそのディスクをひったくる。

 

「さすが赤木博士!持つべきものは親切な旧友よねぇ〜」

「残念。私はデータを提供しただけ。それは私のアイディアじゃないわ」

「え?じゃあ誰が・・・・」

 

よくよく見るとディスクにはラベルが一枚貼られている。

そこに書かれている文字を認識すると、ミサトの顔がややひきつった。

<マイ・ハニーへ(はぁと)>

これだけでアイディアの出所が知れようものである。

 

「・・・やっぱいらね」

「首、飛ばされちゃっていいの?」

 


 

(アスカったら今日も学校来ない・・・どうしたのかしら?)

 

委員長こと洞木ヒカリ嬢は主のいない机を見やり溜息をもらした。

主のいない机は他にも多々ある。

この街が戦場になってから学友達が矢継ぎ早に疎開を始めているのだ。

 

そういう状況にあって敢えて転校してきた二人の少女・・・と一人の少年。

彼等はその小さな体に世界の運命を背負わされて、戦いの日々の中にいる。

同じ空間に生きながら、違う世界に生きる友人。

ヒカリには彼等が普通の、自分と同じ中学生であるようにしか思えなかった。

しかし戦闘が行われたと思われる翌日から、アスカの姿は見られなくなっている。

レイも顔を出さなくなっていたのだが、可哀相なことにヒカリを含めたクラスメート全員がレイの欠席になれてしまっていたので特に気に止めていない。

全くもって不幸なことである。

まあヒカリは他の生徒達に比べればレイのことを心配していたが、やはりアスカに対する方が大きかった。

 

五日目にもなると不安は最大限に膨れ上がり、自宅を訪れる決心をした。

都合のいいことに教師達にもたまったプリントを届けるようにと伝えられていたので、ヒカリはその役を買って出た。

放課後になると幾つかの仕事を片付けて、プリントを鞄の中に詰め込むと足早に教室を立ち去った。

 

 

道を歩いている間も不安はどんどん大きくなっていく。

(もし、前の戦いでアスカにもしものことがあったら・・・)

そういった考えばかりが浮かんでは消え、消えては浮かんできていた。

 

ただ、何故自分がそこまで<惣流・アスカ・ラングレー>という少女に惹かれているのかわからなかった。

初めて会ったはずなのに初めてじゃない。

言葉を交わしたときの既視感はとても暖かいものを胸に運んできてくれた。

もしかしたらその温もりをもう一度感じたいからなのかもしれない。

 

 

(あっ!!)

イヤな考えを振り切ろうと顔を上げたヒカリは、その先に思いがけないものを見つけて声をあげそうになった。

それが振り返りそうな感じを受けて、慌てて側の物陰に身を寄せる。

(な、なんで私は隠れてるのよ)

後ろめたさがあったわけでもないのに隠れてしまった辺りに、ヒカリの動揺が垣間見える。

そっと物陰から様子を窺うと、見間違いでないことを証明するかのように、そこにはジャージを着た少年と第壱の制服を着た少女が肩を並べて歩いていた。

この少年の手には大きな荷物がぶら下がっている。

どうやら買い物の帰りらしく、少女の方は半分持とうとでも言っているのだろうが、それに対する少年はカラカラと笑っていた。

(なんで・・・なんで鈴原と赤木さんが・・・)

直視するのには少し辛い光景だった。

距離が離れているため、会話を聞き取ることは出来ない。

だが空気を感じ取ることは出来る。

(私の前じゃ、あんな顔して笑わないわよね。そりゃああんな風に怒鳴ってばっかりいたら当然か・・・)

何となく悲しい気分になりながらも、足はしっかりとその後を追っていた。

そして着いた先は・・・

 

「ここって・・・アスカの・・・?」

 

ヒカリは二人の姿がエレベーターに消えたのを確認した後、急いでで階段を上った。

ここまで焦っている自分を何処か滑稽に感じながら。

エレベーターが止まった階を見るとそこもやはり自分が行こうとしている部屋と一致した。

その中に繋がりを見出せず、困惑しているとちょうど二人が部屋の中に消えるところだった。

まさかという思いを抱きつつ、部屋のナンバーを確認するとそこはやはり目標の部屋だった。

 

緊張しながらインターホンに手を伸ばす。

ボタンを押すと数秒の沈黙の後、ドタドタという大きな足音がしてドアが開いた。

 

「あら、洞木さんじゃない」

 

顔を出したユイナは声は意外そうに声をあげた。

あまりにさっぱりとしたその態度に、ヒカリは一瞬戸惑いを覚えた。

(なに考えてるのよ。赤木さんは私が後をつけてたなんて知ってるわけないじゃない)

 

「あの・・・ここってアスカの家じゃ・・」

「ああ、ここはアタシとアスカとレイの3人で生活してるの。ほら、プレートもそうなってるでしょう?」

 

示した表札には惣流・赤木・綾波の順で三つの名字が刻まれていた。

本当ならば五十音順で書くのが自然なのだろうが、妙なこだわりを見せた約一名のおかげでこうなっていたりする。

 

「ええっと、アスカに会いに来たのよね?今は大人もいないし、気にせず上がってちょうだい」

「は、はあ・・・」

 

アスカがまさか同じクラスの生徒達と一緒に暮らしているとは知らなかったヒカリは、その事実の整理に精一杯で、ユイナの声にもやや気後れ気味だった。

 

「アスカ〜、洞木さんが来たわよー!」

「えー!ヒカリが?ちょっと待ってすぐ行く!」

 

再びドタドタという足音が響いた。

現れたアスカの格好にヒカリは目が点になった。

エアロビをするようなレオタード姿で、見事な脚線美が強調されている。

同性のヒカリもドキッとするような、思春期の子供には結構刺激的な格好である。

 

「ヒカリ〜、嬉しいなぁ、来てくれたのね」

「あ、うん。で、でもその格好は?」

「これ?ミサトが日本人は形からはいるものだってうるさくってさ」

 

アスカが無邪気に笑っていると背後から音もなく、それこそ気配もなくレイが歩み寄っていた。

 

「アスカ、時間がないわ」

「わかってるけどせっかく買い出し部隊が帰ってきたんだし、ちょっと休憩入れましょう。根を詰めすぎたって仕方ないわよ」

「・・・了解したわ」

 

アスカとお揃いのレオタード姿のレイ。

こちらも負けず劣らず美しいボディラインを披露していた。

ヒカリは更に頭に?を張り付けて困惑した。

買い出し部隊というのがトウジとユイナを指していることだけは何となくわかったが。

 

 

「あーっ!!バカ鈴原、あんたなに一人でそんなにとってるのよ!」

 

鈴原という単語に敏感に反応してヒカリはアスカの後を追った。

リビングではちょっとしたパーティ並のお菓子が広げられていたのだが・・・

 

「ちゃんと惣流の分とユイナの分は残しとるやろ」

「あんたバカァ?もうすぐシンジも帰ってくるのよ?それを残しとかないでどーすんのよ!」

「ほぉ・・・惣流はやっぱシンジのことを考えとるんやな」

「あ、あんたには関係ないわよ!」

「そうやな。けど・・・ほれ、綾波はどうなんや?」

 

グリグリ・・・

首をゆっくりとレイの座っている方向に向ける。

刹那、アスカの形相が鬼と形容するに相応しいものになった。

 

「レイィィィィィ、あんたまでがっついてるんじゃないわよ!」

「・・・これは私のもの。ユニゾンで一つとなったあなたのものは私のもの。でも私のものは私のもの」

 

どうもここ数日のアスカとの生活で、俗に言うジャイ○ニズムを身に付けたようである。

このあとアスカがキレて大暴れ。

ヒカリが必死に止めに入りやっとのことで事態は収拾した。

物は飛ぶは、怪獣のような叫び声は轟くはで、そりゃあもう酷い状況だったそうだ。

けれどもレイはうっすらと張ったATフィールドの中で、一人ケーキをぱくついていたようで。

 


 

二つのコアに対して二点同時加重攻撃。

それがネルフの打ち出した今回の使徒・イスラフェルに対する対抗策であった。

これには水際作戦で使徒と交戦したアスカとレイが当たることになった。

理由はシンジの初号機の修理が完了するかどうかあやしかったというところが大きい。

初号機の損傷はこれまでとは全く質の異なるものであったので、修理に要する時間がどのくらいになるか予想がつかなかったのだ。

シンジは弐号機とのシンクロも、ガギエル戦で見せた力から問題ないであろう事はわかっていた。

しかし、それはアスカのシンクロ率を上回るものではない。

零号機にしても同様である。

そして、なにより本人達が再戦を強く望んだ為だった。

 

 

ユニゾンの特訓には前世紀末に流行ったダンスゲームをリツコが改造したものを使用していた。

画面に表示された矢印道理に踏んでいくというものだが、オリジナルと違い上半身の動きを感知するセンサーが取り付けられているため、足の動きだけではユニゾンのハイスコアを出すことは出来ない。

横で見ているだけでは完全に遊んでいるようにしか見えない。

この装置の原型がゲームであるため、当たり前といえば当たり前だが、やっている本人達は真剣そのものなのである。

 

さて、肝心のアスカとレイのユニゾンはどうかというと、まあ悪くはなかった。

だがあと一歩のところで揃わないという感じで、最終日であるこの日も行き詰まっていたところにトウジとユイナが買い出しから帰ってきたという次第である。

現状のままでは成功と失敗の確率は五分五分。

どうにかこの一日でその確率を少しでも引き上げたいところであった。

 

 

 

「どう?特訓ははかどってる?」

 

シンジが久々のシンクロテストを終えてミサトと共に様子を見に来たところ、二人はまだ悪戦苦闘しているところだった。

目があったユイナはお手上げというジェスチャーをした。

その向こうのテレビの前では、二人の少女が華麗に舞っている。

 

「なにが悪いんだろう?揃っているように見えるんだけどなぁ」

「心の問題よ、要するに」

 

あまり興味なさそうに言うと、ユイナは立ち上がってパンパンと手を叩いた。

その音で二人のダンスは中断され、二人は同じ動作で汗を拭った。

ヒカリからジュースを受け取るとこれもまた同じ動作で、同じスピードで飲み干していく。

 

「これで揃っていないっていうのも変な話ね。ねぇ、スコアはどのくらいなの?」

「ええっと、個人的なスコアを見ればほぼ完璧だけど、ユニゾンのポイントとなると50%にのるかなってとこかな」

 

不思議そうに問い掛けるミサトに、ユイナは少し首を傾けながら答える。

 

「ますます謎ね。なにがいけないのかしら」

「・・・まあ、少し休憩を入れて考えてみましょう」

「そうね。シンジ君、悪いけどお茶の用意してくれる?」

「あ、はい」

 

こういうことをするのはシンジの役目。

それが葛城家の鉄則。

シンジもそうすることに何の抵抗も抱かないでいるのだからおかしな話である。

実質的に、ここの三人の少女と一人の三十路直前女の食事を作っているのは彼一人なのだ。

それでも誰かのためにという点で、シンジの心に充足感を与えてくれていたことは確かだ。

 


 

それぞれ紅茶とコーヒーに口を付けて一息ついた。

ここのところ皆忙しかったので、ついつい「ハァ・・・」という溜息が出てしまう。

シンジは格闘訓練と本日の初号機とのシンクロテスト。

アスカとレイは缶詰でユニゾン特訓。

ユイナとトウジはシンジに付き合ったり、アスカとレイに付き合ったり、3号機の起動テストのための下準備をしたりと、色々と忙しく立ち回っていた。

ちなみに、トウジは3号機の事は伏せながら、シンジに付き合っていたということでヒカリへの誤解は解くことが出来ていた。(意図的に誤解を解こうとしたわけではない)

 

 

「・・・で、具体的にはどうしましょうか」

 

全員がリラックスしたところで、口を開いたのはミサト。

 

「機械が壊れてるんじゃないの?」

 

反論したのはアスカ。

自分は出来る限りの事をしている。

そう思っている。

レイも同じ思いで、自分は最大限の努力をしていると考えていた。

 

「・・・シンジ、あなた譜面と振り付け覚えてる?」

 

重い雰囲気の中で、不意に口を開いたユイナの言葉に戸惑いながらシンジは頷く。

五日間にわたってずっと同じことを繰り返していたのだから、横で見守っていたシンジにも意識するしない関係なく刷り込まれていた。

頷いたのを見ると、ユイナはすくっと立ち上がりシンジと共にマットの上に並んだ。

アスカ達が訝しげに見やる中、スピーカーからここ数日の間、耳にタコができるほど聴いている音楽が流れ出した。

 

 

アスカとレイはその結果を信じられなかった。

個人スコアこそ遠く及ばないものの、ユニゾンの程度を表す結果はほぼパーペキ。

この五日間でどんなに二人が苦労しても弾き出すことの出来なかった数値を、たった一回のチャレンジで乗り越えてしまったのだった。

 

「どうする?アタシとシンジで出撃しようか?初号機も直ったし、アタシはどのエヴァでも構わないしね」

 

120%確実に挑発しているとわかるユイナの態度は、横で見ているシンジもヒヤヒヤものだった。

二人の少女は屈辱に耐えるように唇を噛んで俯いていた。

何故かユイナの前に正座をして。

 

「アタシ達とあなた達、違いはわかる?」

「知らないわよ、そんなこと!」

「ハァ・・・レイは?」

「私にもわからない。ステップは私達の方が上手いのにどうして?」

 

(なるほどね。だからアスカとレイはユニゾンが上手くいかなったってわけね)

一人ミサトはユイナの真意を悟り、感嘆の息をもらした。

 

「わからないならちょっと頭を冷やす事ね。シンジ行きましょう」

「でも・・・このままじゃ・・・」

「いいのよ。こっから先はこの子達の問題。もしダメならアタシ達が出ればいいことだわ」

 

渋るシンジを引きずってユイナは部屋から出ていってしまう。

ミサトもそれに続き、トウジとヒカリも居心地が悪くなったためにこそこそと撤退した。

残された二人は床に正座したままずっと床を見つめていた。

 


 

隣の葛城家に移った一同は、こっちのリビングで顔を付き合わせていた。

同じマンションの一室なので構造が同じで、しかも調度品の配置が似ているため軽い錯覚を覚えてしまう。

やや向こうの部屋の方が年頃の少女らしい華やかさがあり、こちらには生活感が満ちあふれているというのが違いと言えば違いである。

 

「・・・さっきのあれはつまり、アスカとレイは個人個人の完璧さを追い求めるあまりに、相手のことに気が回っていなかったってわけでしょう?」

「そのとおり。だから元々ユニゾンは上手くいっているのに、いざそれをしようとなると、変に意識しちゃってたのよ。さすがは年の功ね☆」

「何か言った?」

「いいえ、なんでもありません」

「・・・でもまあ、実際にあなたとシンジ君を出撃させた方が確率が高いのは確かなのよねぇ」

 

缶ビールのプルトップに指をかけてぼやくミサトの姿は、とても作戦本部長などという職務を負っている人間には見えない。

それどころか切羽詰まっている状況をどう考えているのだろうか?

・・・まあミサトの言うとおり、シンジとユイナのコンビでいけば少なくともアスカとレイよりも確率は高いだろうけど、それではアスカ達の立場がないというものだ。

横でミサトに冷ややかな視線を送るシンジは、しっかりと「今日は二缶までですからね」と釘を刺していたりする。

 

「大丈夫。あの二人はきっとやってくれるわ」

「でも、明日なのよ?」

「う〜ん、じゃあもっと確実な手を取りましょうか♪」

 

立ち上がったユイナの顔は、部屋の照明の逆光で影が出来て誰にも見えなかった。

見えなかった方が幸運であったのだろう。

 

それからユイナはまたもシンジの腕を引っ張って、スタスタと外に出ていってしまう。

ミサト達もその後に続いて行くが、何をしようとしているのか皆目見当もつかない。

ドアの前で深呼吸を一つ。

 

 

「アスカ〜、レイ〜、アタシ邪魔だろうからさ。シンジデートでもしてくるからゆっくりやってて!」

 

 

マンション中に聞こえるんじゃないかと思えるほどの大きな声で叫んだユイナ。

反響する声が何度も耳に飛び込んでくる。

その声が消えると部屋の中から、何やら床を思い切り叩いたような大きな物音が外にいるユイナ達にも届いた。

 

「ん、よし。シンジ、逃げるわよ!」

「へ?」

 

いきなりのデート発言にショートしていたシンジは、声をかけられてもボケッとしていた。

 

スパパパッン

 

有無を言わさず一往復半の平手打ちが炸裂。

背後ではトウジが可哀相にセンセ・・・と冥福を(って死んでない)を祈っていた。

 

「ボケッとしてんじゃないの!」

 

そう叫ぶとズルズルとシンジを引きずって疾走を開始。

エレベーターに乗る気も見せずに、スピードの乗った状態で階段に突っ込んでいく。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ・・ぁぁ・・・ぁぁ・・ぁ・・・」

 

シンジの悲鳴がだんだん遠くなる。

しばらくすると階段を下りきって、街の中に消えていく二人の姿をほんの少し見ることが出来た。

その時にはどうやらシンジも自分の足で走っているように見えた。

でもやっぱりユイナに引きずられているという印象は否めなかった。

 

一方、残されたミサト、トウジ、ヒカリの3人は呆気にとられてその場を動けないでいた。

ミサトとトウジは割と早く戻ってきたが、ヒカリは妄想街道を突っ走ってしまったらしく、なかなか戻ってこない。

 

「・・・スマン委員長」

 

スパパパッン

 

今度はトウジの軽めの(あくまで軽めの)平手打ちがヒカリの頬を叩いた。

ぼんやりと焦点の合わなかった瞳に光が戻る。

瞬間、

 

「なにすんのよバカ鈴原!!」

 

ズパーーッン

ドサッ

 

「き、きいたで、ほんま・・・(ガクッ)」

 

倒れ込んだトウジを見てハッとしたヒカリであったが、もう笑うしかなかった。

冷や汗をかいて一歩引いているミサトの視線が痛い。

(アハハハ・・・何やってるのかしら、私)

答える者は当然ながら誰もいない。

 


 

「アスカ〜、レイ〜、アタシ邪魔だろうからさ。シンジデートでもしてくるからゆっくりやってて!」

 

この声は正座をしたまま固まっていたアスカとレイの耳にも届いていた。

マンション中に届くような声なのだから聞こえて当然である。

 

俯いていた顔を上げて、ドアに向かって走り出そうとした二人は、いきなりつんのめって床と盛大にキスをしていた。

起きあがろうにも起きあがれない。

悶える二人の姿がそこにあった。

 

「「あ、足が痺れて・・・」」

 

間抜けにも二人はフローリングの床に正座なんぞしていたため、足が痺れて動けなくなってしまっていたのだ。

どうにか立とうとするのだが、地に足を着けようとすると余計に痺れが増す。

このとき誰かに足を触られようものならば、悶絶間違い無しである。

 

「「ううっ・・・待ちなさいユイナァ〜」」

 

声も上手く出ない様子の二人。

でもしっかり悶えながらもユニゾンしているのだから、やっぱり相性は悪くないようだ。

 

リビングで悶えること数分。

ようやく足の痺れが治った二人はともかくユイナを追おうと玄関へ走った。

しかしそこには何やら複雑な表情をしたミサトが、腕を組んで立ちはだかっていた。

その脇をすり抜けようとしても、ヒカリとトウジがきっちりガードしていて不可能であった。

トウジの頬に紅葉のような、真っ赤なあとがついていたのは余談である。

 

「どきなさいよ!」

「・・アスカ、あなた達はやることがあるでしょう。まだユニゾンは完璧じゃないのよ?」

「けど・・」

「レイも。あなた達のユニゾンが完璧になるまで、この部屋から出すわけにはいかないわ」

 

ミサトの厳しい発言に、少女らは顔を見合わせてお互いに頷く。

目が、いつになくマジになっていた。

 


 

「・・・たしかに、一番手っ取り早い方法だわ」

 

二人がリビングで特訓を再開するのを見送ってから、ミサトは大袈裟に肩を落とした。

 

一番手間が少なく且つ、確実な方法。

強制的に二人の少女の目標を統一させてしまおう、というのがユイナのとった手段であった。

ミサトもその効果のほどを今、身を持って知ったところで、ここ五日の苦労は何だったのだろうかと頭を抱えていた。

初めからこの事に気付いていたのならばユイナは確信犯ということになる。

いや、間違いなく確信犯なのだろう。

(あの二人を手玉に取るとはやるわねあの娘・・・)

感心しているんだかいないんだか。

 


 

それから五分と経たないうちに二人はまた玄関へ突っ走ってきた。

 

「あなた達まだわからない・・・・」

 

ミサトが言葉を言いきる前に、今度は突っ掛かることなく疾風の如く間をすり抜けていってしまう。

止めようと思ったときにはドアを開けて階段を駆け下りていた。

ちなみに靴は神速で履いているので問題なし。

 

「・・・・レオタードのまま出てってどうするのよ」

「確かにあの格好は恥ずかしいですね・・・」

 

ヒカリの言葉にうんうんと頷くトウジ。

 

「鈴原君、洞木さん。悪いんだけどこんな状況だから、今日はもう帰ってくれる?」

 

本人はにこやかにいったつもりだったが、内に押し込めた感情が滲み出ていて少々ひきつっていた。

これに二人は頷くとそそくさと部屋を出て、マンションを後にした。

見送った後、一応保安部に連絡を入れておく。

(もうあとは野となれ山となれね。・・・やっぱり、ユイナとシンジ君のコンビも考えないといけないかしら)

ぼやきながらリビングに向かうと、またもミサトは呆れて物も言えなくなった。

 

「初めからやりなさいよ、あんた達・・・」

 

ミサトが目にした画面には、100%の文字が誇らしげに点滅を繰り返していた。

今日は飲まなきゃやってられそうにないな、とミサトは思った。

 


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後書きみたいなもの。

 

馴れないことしたので何だか長くなっちゃいました。

シンジはあくまで中間をとり続けるつもりなので、特に「誰かと」ということはない・・・と思います。(かなり弱気)

 

何度も見直しているけど、やっぱり言葉足らずだなぁ・・

書きたいシーンはまだあるのに上手く繋げられずにやむなくカット。

何とか後の話に組み込んでいくつもりですけど、どうなる事やら。

 

それでは次回、また会いましょう。

 

苦情・感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板にお願いします。

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