彼が殺してくれと懇願する声が耳について離れない。

今でもまだ耳の奥で反響を繰り返しているような気さえもする。

異形の枷の中に閉じこめられた気高き魂達・・・

アタシにはその存在は悲しみの対象であり、憎しみには到底なりえない。

何がそこまで彼等を融合へと駆り立てるのか。

彼等に何故理性は与えられないのか。

人と使徒が解り合えることが出来れば、この様な悲劇の世界を生み出すことはなかっただろうに。

 

この世界はどの世界よりも過酷で、残酷な運命を抱えた世界。

アダムより生まれし者同士が殺し合う・・・悲しい世界。

 

でも、アタシは・・・

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第壱拾八話 黒い天使〜バル〜 Bパート

 

 

 

 

 

「ユイナァ!!」

 

初号機の腹部を貫いた激痛は、少女の細い体を容赦なく襲った。

咄嗟の行動であったため、ユイナは自分のシンクロ率を下げる(ユイナは自分の意志でもって、ある程度の範囲でシンクロ率を上下できる)ことまで気が回らず、限りなく100%に近い状態でその激痛を身に受けていた。

 

「だ、だいじょうぶ・・・よ・・」

 

(そんなはずないだろう!)

シンジが思わず声をあげたくなるほどに、ユイナの顔にはありありと苦痛の色が浮かんでいた。

 

「ぐああぁ・・・ぁぁぁ」

 

ユイナは一度ニッと口元を吊り上げると、腹部を貫いている腕を強引に引き抜く。

激痛は増すがユイナは歯を食いしばってそれを続けた。

やがて支えを失った初号機は重力に引かれて落下を始める。

 

「フィードバック及び操縦権をエントリーTヘ!!」

 

叫んでいるのか泣いているのか判別しづらい声で宣言すると、初号機をなんとか着地させる。

シンジの腹部にも痛みは走ったが、ユイナの感じたものと比べるとかなり軽減されていると言って良かった。

それでも激痛には変わらないのだが、シンジの中には悔しさが先行して痛みなど二の次になっていた。

(クソッ!!僕は一体何をやってるんだ!?こんなんじゃ・・・こんなんじゃ誰も助けられやしないじゃないか!!)

 

初号機が着地したことを知ると、3号機は緩慢な動作で向き直る。

 

 

「ユイナ・・・ユイナッ!!」

「そんなに・・大き・・な・声出さなくても・・・聞こえるよ」

「ゴメン・・・僕のせいで」

「違うで・・しょう?この痛みは私達のもの。それと・・・3号機の・・中のバルディエルも苦しんでいるわ」

「バルディエル?それが3号機に取りついている使徒の名前なの?」

「ええ。ん・・・・・」

 

ユイナはそっとシンジに悟られぬように自分の腹部に触れてみた。

(まずいわね。フィードバックだっていうのに・・・)

プラグスーツの下に溢れだしている少し粘性のある液体の感触に、思わず顔をしかめる。

人間の体の脆さというものを痛感し、同時に今自分がこの時間を生きているんだな、と漠然に思った。

顔を上げるとシンジの心配で染まった顔があり、ユイナは慌てていつもの笑顔を取り繕う。

 

 

「ほら、ボッとしている間はないわよ。とにかくもう一度押さえ込んで。この調子じゃあまともにやり合りあう方が辛いわ」

「・・・わかったよ。・・・・翼よ!!!」

 

ぼんやりとした感じで変色し始めるシンジの髪と瞳。

そして瞬時に再生を果たす初号機の腹部。

 

「・・・思い出したよ。僕はこうやって第五使徒を倒したんだね」

 

初号機の背に光り輝く翼が現れたとき、シンジはそれを見てポツリと呟いた。

一歩間違えれば使徒どころか、その中にいるトウジさえも抹消してしまいかねない強い力。

使い方を誤れば単なる破壊しか生まない危うい力。

 

「シンジ・・・あまり力を使ってはダメよ」

「何を言ってるんだよ!これしか今の僕らには手がないんだ。仕方ないだろう!?トウジを助けるためにも、使徒と分かり合うためにも、3号機を押さえ込まなければ始まらないじゃないか!」

「・・・・・・・・・」

「いけぇっ!」

 

エヴァサイズに増幅された羽根は、光となって3号機に向かう。

それは最早、いままでシンジが発した力が生温いと言えるほどの、直径が数Mはあろうかというビーム砲のようであった。

3号機は光が放たれると同時・・・、むしろそれよりも早くに地を蹴っていた。

野生の勘と形容するしかない異常なまでの反応速度だった。

基本的に翼から放たれるのは通常の光と同質のものであり、その速度は限りなく光速に近い。

しかし3号機はそれを回避し、あまつさえ攻撃を仕掛けようとしていた。

光速に近い攻撃を回避するためには相手の攻撃の意志を感じ取り、行動に移る直前に回避運動に転じていなければならない。

歴戦の戦士でなければそれは獣の動きだ。

 

3号機は異常に伸びた手足を地面に突っ張らせ、跳躍を繰り返す。

体を覆う装甲が黒だということも手伝ってか、さながら蜘蛛のような外観になりつつある。

さすがに糸を吐くなどという真似はしないだろうが・・・

 

「は、速いッ!!」

 

人型のそれが四つ足で行動しているというのに、何故ここまで高速で移動できるのか。

対峙しているシンジにとって悪夢に近い光景だった。

これでは取り押さえるどころの問題ではない。

現在、碇シンジという人間が感じられる限界速度領域での戦闘は極度の疲労感を伴った。

緊張の糸が一度でも切れてしまえば、シンジに勝ち目はなくなる。

そしてもう一つシンジに不利な点があった。

 

それはリーチである。

ある程度伸縮自在だと思われる3号機の手足に対して、シンジの駆る初号機は変形するわけでも変身するわけでもない。

翼の力も相手を拘束することを念頭に置いているため、あまり派手に使うわけにもいかない。(それ以前にシンジがそれほどの力を発現できるかどうかに疑問がある)

 

バサッ・・・

 

死闘を繰り広げる中、大きな羽音が辺りに響きわたった。

 


 

「そ、そんな・・・あれは飛行ユニット!?」

 

リツコは信じられないといった様子で空に浮かぶ黒き天使を見やった。

光の拘束を逃れ、空に身を踊らせた瞬間、シンジはそれをチャンスだと思った。

ついさっきの自分がそうだったように、一度空中へ出てしまえば自由落下を待つしかない。

完全な無防備の状態である。

シンジが完璧に捉えられると手をかざした。

その時、突然3号機の背からボディカラーと同じ黒に染め上げられた一対の翼が現れたのだ。

 

「あれは五号機以降の量産機に取り付ける予定だったはずよ!?」

 

(やってくれるじゃないのアメリカ支部の連中もっ!)

量産機は完全独立型永久機関<S2機関>搭載し、さらに飛行ユニットを装備することで空をも支配する究極の兵器になる予定だ。

リツコは最終的にそれが敵になるであろうことは予期していたが、まさか3号機にそれが搭載されているとは思いもしなかった。

しかも、使徒と化している3号機にはS2機関を内在している可能性が極めて高い。

高いどころか、3号機はケーブルを繋がず、初号機との戦闘を既に内部電源の限界である五分を超えて繰り広げている。

パイロットが不要だということも含め、皮肉であるが、汎用決戦兵器エヴァンゲリオンの究極の形がそこにあった。

 

「リツコこれはいったい何なのよ!?これじゃ・・・これじゃまるで・・」

 

初号機の光り輝く翼と3号機の漆黒の翼。

この二者の戦いはさながら・・・神の御使いと堕ちた天使の争い。

まさに神魔の争いの構図だった。

 

人の介入できるような戦いでなくなってしまっていることは、誰の目からもわかりすぎるほどわかっている。

宗教画のような非現実性。

だが紛れもなくその戦いは彼女らの目の前で繰り広げられている現実なのだ。

 

「なんなのよ・・・これは・・・」

 

途方に暮れるミサト。

こうなってくると作戦がどうとかいうレベルではなくなってくる。

戦いは完全に彼女の手を離れしまっていた。

 


 

「空まで飛べるのか3号機は・・・」

「ますます不利になったわね・・・。空を飛べることが、こっちにとって唯一の優勢な点だったっていうのに」

 

歯ぎしりをしたい思いに駆られている二人の頭上を、3号機は悠々と旋回している。

 

「せめて・・・何か武器があれば・・・」

 

「あるわ!」

 

その声はスピーカーから響いていた。

 

「リツコ姉さん!?」

「シンジ君、一旦施設の方に退いて。銃火器はないけれど、接近用の武器なら・・・」

「本当ですか?」

「・・・まだ開発中で実戦で何処まで力を発揮するかは未知数だけど、今使える武器はこれしかないわ」

「わかりました!すぐに取りに行きます!」

 

リーチの差を埋められるのであれば何でも良かった。

翼から放たれる羽根だけでは使徒を捉えるのは困難であることは、もう身を持って思い知った。

トウジを助けるにしろ、バルディエルを説得するにしろ、どちらにしても物理的接触を必要とする現状だけに、接近専用の武器はどうしても必要だった。

 

3号機を牽制しつつ、施設に戻るとそこに横たえられていた武器にシンジは驚いた。

 

「これって・・・日本刀!?」

 

そこにはエヴァサイズに合わせたばかでかい日本刀が用意されていた。

優にエヴァの全高の二分の一はある。

下手をすれば切っ先から柄の先までで30M近くあるかもしれない。

 

「マゴロク・エクスターミネート・ソード。まだまだ実験段階を出ていない代物だけど、強度に関しては折り紙付きよ」

「凄い・・・でも僕、こんなもの振ったことありませんよ」

「それはアタシに任せて。刀を振るための機体制御はアタシが行うから、シンジはタイミングを計るのに集中して」

「よし、じゃあ頼むよ」

 

刀を腰に携えて再び戦場に赴く。

 

日本刀といえば折れず曲がらずよく斬れる、というのが代名詞であるが、実際には切れ味などは二の次だと言う。

実用性を重視した刀に求められるのは、一も二もなく強度だ。

どんなに切れる刃でも、人間の骨を断つとなればそう何人も斬らない内に刃がボロボロになってしまう。

だから出来るだけ斬りやすいところ(主に骨に覆われていない腹部)を斬る、もしくは突き殺すことが求められるわけだが、斬り合いの中で斬る場所を選んでいる暇などない。

もし、それをするとなればそれなりの実力差がなければ不可能だ。

そして何より戦場になれば鎧に身を包んでいるのが常識だ。

よって戦場で使うような本当の刀は、切れ味よりもその強度が求められるのである。

実用性が高い刀は折れないことが絶対条件で、切れ味というものは使い手が凄まじいまでの力で叩きつけ、引くときに生じる摩擦がその正体なのだ。

つまり刀とは鈍器であり、力任せにブッたぎると言ってしまえば否定は出来ない。

この場合のエヴァ用の刀はリツコのお墨付きであれば、実用性が十分あるということになる。

もっとも、シンジは峰打ちで倒すつもりであったが。

 

 

「・・・いくよ、ユイナ」

「ええ、いつでもどうぞ。達人も真っ青な剣さばきってのを見せてあげるわ」

 

一瞬目を合わせて微笑みあうと、すぐにキッと表情を引き締めて初号機は3号機の待つ空へと舞い上がった。

 


 

エヴァ同士の空中戦という想像もしなかった光景に、発令所居残りメンバーは再び絶句していた。

伸縮自在の腕とぶつかり合う日本刀。

初号機の立ち回りはまるで時代劇の殺陣を見ているかのように華麗な動きであった。

対する3号機の動きは野獣と言うに相応しく、この二者の争いは闘牛を見ている感覚に近いものがあった。

 

同じく居残り組チルドレンはもうそれがエヴァの戦いとは思えなかった。

別のモノ同士の戦い。

そんな感慨さえあった。

 


 

マゴロク・E・ソードはリツコの言葉通り強度に申し分なく、3号機の強大な力にも十分耐えていた。

しかし衝突の際の衝撃は確実にシンジとユイナの体を蝕んでいった。

制御を分担することでフィードバックを共に受けることになってしまっているからだ。

操縦権を分割したからといって、フィードバックが二分の一になるなんて都合のいい話は何処にもない。

しかも試作型であるエントリープラグは軋みを挙げて、シンクロ作業の中にノイズが混じり始めていた。

 

そしてユイナも出血多量により、意識を繋ぎ止めるのに精一杯になりつつあるという状況だった。

 

「クッ・・手が痺れてきた・・・」

「クッ・・・ハァ・・・こっちも・・ちょっと辛くなってきたわ。シンクロのノイズも・・・あと二、三分かそこらでけりを付けないと、エヴァの動きにかかわるわよ」

「・・・なら、ちょっと荒っぽくなるけどやるしかない」

 

地上に降り、初号機は刀を鞘に納めた。

スッと構えをとると微動だにしなくなる。

 

 

「居合い!?そんなことしたら中の鈴原君まで斬っちゃうかもしれないのよ!」

「黙ってて!アタシ達の邪魔をしないで!!」

 

ミサトはユイナの一喝で黙り込む。

 

居合いとは一度刀を鞘に戻し、高速で抜刀、そのまま斬りかかる技である。

鞘走りさせることによって速度を倍加させてその威力を増すわけで、まさに一撃必殺。

それ故に間合いとタイミングが技の大部分を占め、ミスをしたら完全無防備になるという背水の陣的な要素もあった。

 

「さぁ・・来い」

 

3号機は新しい武器を装備した初号機の出方を窺っているのだろう。

一転して慎重になり、なかなかその場を動こうとはしなかった。

普段は石橋を叩いて渡るほどに慎重に、行動を起こすときは驚くほど大胆に、これは戦士としての理想の姿だ。

 

彼は決断した。

相手の用意した、一瞬の勝負に敢えて乗ると。

 

四肢に力を溜める3号機とそれを迎撃せんとする初号機。

多くの人間の見つめる中、二つの影が交錯する。

 

シュリン・・・

 

鞘を走る小気味よい金属音が僅かに聞こえた。

夕日を反射した刀身はまるで燃えているかのように見えた。

 

完全に体を両断する勢いで白刃が3号機に迫る。

(これをかわせれば勝てる!!)

その白刃をくぐるようにして回避運動と突進を同時に行った。

突進によって生まれた慣性をほとんど無視したような無茶な動きだった。

頭上をそれが通過したするのを目で見ず、肌で感じて歓喜する。

 

 

 

 

 

ズガアァァァンンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「グォォォォォンン・・・・・・・・」

 

しかし、崩れ落ちたのは3号機のほうだった。

黒い装甲板に覆われた胸部には、くっきりと真一文字のくぼみが出来上がっていた。

 

 

緊張の一瞬を乗り越えたシンジは肩を大きく揺らして息をしていた。

実際にはすぐに電化してしまっているのだが、せきを切ったように汗が溢れだしているのを感じていた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・どうにか上手くいったみたいだね」

「うん。でも早くしないと再生しちゃうよ」

「ああ、じゃあ先にトウジを助けてからバルディエルに接触しよう」

「そうね。そのほうがいいわ」

 

初号機は地上で泡を吹いている3号機をうつ伏せにすると、エントリープラグの抜き取りにかかった。

粘着質の蜘蛛の糸のようなもので固定されていたが、エヴァが引き抜く分にはさほど問題はなかった。

トウジの無事を確認して少し離れた場所にプラグを置くと、3号機に馬乗りにのしかかるようして動きを抑えた。

いわいるマウントポジションというヤツである。

 

「それじゃ、ユイナ。後は任せたよ」

「ヘヘッ・・・任された。期待して・・・・待っててよ」

 


 

3号機が崩れ落ちた瞬間、発令所には歓声が上がった。

更に初号機がそのエントリープラグを抜き取って、フォースチルドレンの保護を完了すると狂喜乱舞といった状態だった。

 

初号機が3号機に行った攻撃の正体。

それは二段居合い切りである。

初めからシンジは初撃を外すつもりでわざと甘い太刀筋ではなっていたのだった。

そしてその思惑通り3号機は初撃を回避して懐に飛び込んできた。

これこそがシンジの、そしてユイナの狙いだった。

刀をかわしたことで防御に対する意識をすっかり攻撃に傾けてしてしまった3号機は、その後に迫った鞘に全く反応することが出来なかったのである。

 

居合いを放つときに踏み出し生まれた前方に向かうエネルギーを、その場での円運動に転換して鞘を叩きつける。

これによって鞘は衝撃に絶えきれず粉砕してしまったが、3号機の動きを止めるのに十分すぎるダメージを与えることが出来たというわけだ。

 

「ハラハラさせて・・・帰ってきたらとっちめてやんなきゃダメね」

「まだ終わってないわよアスカ」

「え?だって鈴原は助けたんだから、後は使徒を倒すだけでしょう?」

「いいえ、二人は使徒を説得しようとしているわ」

 

まさか、とアスカはモニターを見たが、確かに初号機は3号機に馬乗りになっているだけで攻撃を加えようとしているような意志は見られない。

 

「使徒を説得なんて出来るの?」

「説得っていうのは正しくないかもしれない。でも、使徒を仲間にしようとしていることは確かよ」

「使徒を仲間に・・・か。そうなったら心強いでしょうけど、信じられるのかしら?」

「それはたぶん・・・鈴原君が知っていると思う」

「なるほど、その通りかもね」

 


 

バルディエル・・・お願いよ

−−−−殺してやる

出来ることならば戦いは避けたい

−−−−殺してやる

あなたと戦いたくはないのよ

−−−−殺してやる

あなたも少しぐらい気付いているんじゃないの!?

−−−−殺して・・・や・・・

いつまでも繰り返していていいの?

−−−−・・・・・・俺は・・

異形の枷にいつまでも捕らわれていていいの?

−−−−・・俺は・・・

逃げないで!

−−−−・・・・・・・・・

死ぬことで逃れようだなんて思わないで!

 


 

「動く!?」

 

3号機は馬乗りになっていた初号機を強引に引き剥がして立ち上がると、一度天に向かって咆吼した。

そして直後には、あれほど獣性を表に出していた3号機が急に大人しくなっていた。

バルディエル(3号機)の瞳からは狂気の色が失せ、理知的な光が浮かんでいた。

 

「もう・・・大丈夫だと思うわ」

「・・・うん、僕にもわかる。彼はもう攻撃してこない」

 

初号機がゆっくりと歩み寄ると3号機は初号機の方に向き直って、自分のコアの辺りに掌を伸ばした。

 

 

ズルッ・・・・

 

 

なにか引きずるような音がして、3号機の胸部を覆っている装甲の隙間から這いずり出てきた物体があった。

まず、白い二本の腕が何かを掴もうとするように伸びたかと思うと、その腕が支えるようにして上半身が現れた。

そして太陽の光の元に姿を現したのは、何処かで見たことのある容姿の青年だった。

シンジらはもうノイズが酷くなってピクリとも動かなくなった初号機をから降りて地上に立った。

3号機の掌に乗った青年はそれを追って地に降り、三人は大地で向き合った。

 

「あなたが・・・バルディエル?」

「ああ、先に礼を言っておくよ。二人とも、ありがとな」

「・・・どうしてトウジに似てるんだ!?」

 

シンジは大きく目を見開いて声をあげた。

そう、バルディエルの姿形は年齢的に青年というカテゴリに入っていたが、極めて鈴原トウジと似通っていた。

髪が銀髪で、瞳が赤い、そして全体を上品に仕上げたという感じだ。

 

「ふむ・・・こいつは前の世界の名残だな」

 

顎をさすりながらバルディエルは自分の体を見下す。

 

「改めて自己紹介をしておくよ。俺の名はバルディエル。まぁ、面倒だったらバルでかまわんよ。しかし・・・俺は確か13番目に現れる予定だったと思うんだが・・・」

「13!?・・・だってまだ五体しか倒していないよ?」

「・・・みたいだな。この調子でいくと、順番はまだ入れ替わるかもな」

 

バルは肩を竦めて言う。

驚いているシンジの横で、ユイナは何故かバルから視線を逸らしていた。

その理由はというと・・・

 

「・・・ともかく、裸でいるのは止めてくれる?目のやり場に困るわ」

「こりゃ失礼。けど、ナビゲーターはそういった感覚は持ち合わせていないと思ったんだが・・・随分とリリンに近くなったようだな」

「ええ・・・色々あったのよ」

「しかも、そっちの碇シンジは・・・」

 

バルは言いかけて途中で言葉を飲み込んだ。

そしてユイナに対してウィンクをすると、瞬間的にネルフの制服に身を包む。

 

「ユイナ・・・だったかな、ナビゲーター。さっき接触したおまえの意識の中から引っぱり出させてもらったが・・・どうだ?」

「いいんじゃないの。似合ってるわよ」

「ありがとよ」

 

照れたようにはにかむバル。

その様子にユイナは少し感心した。

 

「あなたも人のことを言えないくらいに人間くさい顔するわね」

「鈴原トウジと接触したせいだろう。この世界が繰り返される度に、俺は鈴原トウジと接触しているからな。人間くさくもなるさ」

「納得したわ。それであなたは鈴原君を浸食しようとしなかったのね」

「それだけじゃないけど、まあそりゃ後でだな。人も来たみたいだ」

 

向こうで何台か車が止まったらしき音が聞こえてきた。

続いてミサトらしき人物の指示を飛ばす声が届く。

 

「じゃあ・・また後で・・ね」

「・・・それより先に怪我の治療をしろよ。死んじまったら話にならん」

「そう・・・ね・・・・」

 

バルが消えるとユイナはその体をシンジに預けた。

 

「ユイナ?」

 

シンジが体をを揺さぶりながら問い掛けても蒼くなった顔に変化はない。

このときユイナの頬に触れて、初めて彼女の体から体温が奪われつつあることに気がついた。

そのままユイナを抱き上げて回収に来たスタッフの元へ走った。

 

「碇・・・シンジか・・・」

 

その背を見送りながら黒い天使は重い呟きを残す。

 


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後書きみたいなもの。

 

「WING」オリジナルキャラ第二弾、バルディエルこと、バルの登場です。

実は使徒の擬人化(人化?)はかなり好きで、他に書き溜めてある話にもバルは登場してます。

(場合によってはトウジ=バルというときもある)

その他はサキエルがサキっていう女の子だったり(安易だねぇ)、ゼルエルがやたらめったら強い男だったり。

そういやシャムシェルがSの鞭使いだってやつもあったなぁ。(もちろん女)

しかも話ごとに性格、設定が全然異なっているんですわ。

 

バルも大雑把に分けて二種類のバルがいます。

一つはトウジの影響が大きく、関西弁を操るタイプ。

こっちはシンジらと同じ年齢(見た目が)。

もう一つが「WING」に出ている言葉遣いの悪い青年タイプ。

最初は前者を採用しようかと思ったんですが、それじゃユイナと同じだって事で年齢を離しました。

言葉遣いが悪いキャラって言うのもあまりエヴァにはいませんから、これ採用の理由の一つ。

これでもう妙なキャラは出てこないと思いますけど、日に日に変化しつつあるお話ですからわかりません。

 

ついでに二段居合いの元ネタ、わかるでしょうか?

多いんだろうなぁ・・・・わかる人(^ ^;

 

では、また次回お会いしましょう!

 

苦情・感想等お待ちしてますんでこちらか掲示板にお願いします。

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