「先生〜、お土産で〜す」

 

ドサッ、という擬音がぴったりきそうな程の土産物の山が、第壱中学のある教師の机に築かれた。

当の本人、バル=ベルフィールドもさすがにその量に面食らって、頬のはじがややひきつっている。

 

「・・・土産は気をつかわんでいいと言ったんだが・・・」

「あーっ先生ってば、私たちの気持ちが受け取れないって言うんですか?」

「そーは言ってないけどよぉ・・・」

 

チラリと山を見やり溜息を一つ。

その時チャイムが鳴り、朝の職員会議が始まるために生徒達は「まったね〜」とにこやかに手を振って出ていく。

バルもそれに応えて手を振っていたのだが、他の職員らは白い目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

第弐拾四話 土産

 

 

 

 

 

 

「先生・・・ベルフィールド先生」

「ん?なんすか、森里先生」

「なんすか、じゃないですよ。教頭の頭から湯気が上がりそうになってますよ」

 

どれどれと話題の人物を見やる。

なるほど、見事にはげ上がった頭が真っ赤に染まって湯上がりのようになっている。

 

「・・・ありゃ、目玉焼きが焼けそうだなあのハゲ頭」

「もうっ・・・知りませんよ」

 

バルの隣の机に座る女性教師は森里セイカといった。

修学旅行の時に、不幸にもバルのクラスを見るように頼まれた人物である。

まぁ実際には生真面目委員長・洞木ヒカリによってほとんどまとめ上げられていたから、それほど大きな負担にはならなかっただろう。

それからバルは、ぼんやりとしたまま朝の職員会議を右から左の耳へと聞き流していた。

 

「しっかし・・・これどうやって持ち帰るんだよ」

 

ちょうどその頃、教室でも同様の科白を吐いた少年少女らが居た。

 


 

ユイナ、アスカ、レイにはそれぞれのファンの、シンジの元には女子からの土産が積み上げられていた。

因みに一番勢力が大きい派閥がアスカ派で、一番隠れファンが多いのがレイ派だった。

ユイナは見事にその中間なのだが、これには理由があって、幼なじみという要素が引っかかっているために、シンジとの間を勘ぐる者が多かったのである。

 

 

「・・・こんなにもらってもなぁ・・・」

「まぁまぁ、碇君達は頑張っているんだし」

「そうそう。これは私たちの感謝の気持ち。それとも私たちの気持ちは迷惑なの?」

「アハハハ・・・ありがとう。本当に嬉しいよ」

 

 

「はい、お土産よ、鈴原」

「おおきに。これわしの土産や」

「なにこれ・・・温泉饅頭?何で温泉なんか行ったの?」

「ま、そら、後で話すわ」

「でも無事で良かった」

「あったり前やろ。わしらはそう簡単に死なへんわ」

 

 

「・・・これ、私に?」

「そ、そうだけど・・・気に入らなかったか?」

「ううん・・・人に物をもらうの初めてだから。どんな顔をすればいいのかわからないの」

「そ、そっか・・・」

「でも・・・」

「え?」

「でも・・・ありがとう(ニコッ)」

「(ポ〜〜)」

 

 

「ふんっ・・・何でもかんでも金をかけりゃいいってもンじゃないわよ」

「そ、そうだな」

「・・・あれ、これって何?」

「ああ、それは星の砂っていってな。珊瑚の欠片なんだ」

「ホントだ・・・一粒一粒が星の形になってる・・・」

「気に入って・・・もらえたか?」

「ま、貰っといてやるわよ」

「そっか、良かった」

「でも勘違いするんじゃないわよ。これは土産だって言うから貰ってやったんだからね!」

「ハハッ、わかったよ、惣流」

 

 

 

 

土産の中に妙なものが一つあった。

植物の茎としか言いようがないもの。

 

「あのさ、これってなんなの?」

「ああ、サトウキビっていうんだけど・・・でも誰?こんなもの持って帰ってきたの」

「ん?でも美味しいよ、これ」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 

一人、リスのようにサトウキビの茎をかじっているユイナ。

みんな「何も今かじらなくても・・・」という思いで苦笑いをしていた。

 

「ほらシンジ」

「え、いいよ」

「そんなこと言わないで、ね?」

 

笑顔で押し切られてシンジは差し出されたサトウキビをかじる。

 

「・・・ふ〜ん、なかなか・・・どうして・・・。確かこれって砂糖の原料になるんだったよね?」

 

周囲の同意を求めようとシンジが見回すと、みんな同じポーズで固まっていた。

俗に言う「いや〜んな感じ」ってヤツである。

 

「どうしたの?」

 

沈黙。

 

「どうしたのかしら?」

 

沈黙。

 

「「??」」

 

「あ、赤木さんって大胆ね」

「はい?」

「だって・・・今、自分でかじっていたサトウキビ・・・」

 

そこで何を言わんとしているか、ようやく得心がいったシンジは急激に顔を赤く染めて机の天板に視線を落とした。

けれどもその意味を理解しても尚、ユイナの方はまったく気にしていない。

やっぱりサトウキビをかじりながらキョトンとして首を傾げている。

そう、今し方シンジのかじったばかりのサトウキビを。

今度は黄色い声に包まれる教室。

 

「べつにこのくらい気にすることないのに・・・」

 

やっぱりユイナは騒ぐクラスメートを少し冷めた目で見ながらサトウキビをかじっていた。

この後バルが教室に来るまで、教室は騒がしいままであった。

 


 

「さてと、今日のお仕事もこれにて終了ッと。あー疲れた疲れた」

 

定時を迎えたバルは思い切り伸びをして首を骨を何度か鳴らした。

席を立つとロッカーの取っ手にに手をかけて、恐る恐る開けていく。

 

ドザァーーーッ

 

「・・・・・・・・・ハァ・・・」

 

予想通り、雪崩が発生した。

生徒達の厚意であるため嬉しいことは嬉しいのだが、どうしたものだろうと頭を抱えるバル。

しばらく思案。

 

バルは基本的に徒歩で学校に出勤している。

と言っても、正確には学校の近くから徒歩で出勤しているのである。

学校の近くまではワープ(笑)してくるのだ。

人目がなければ学校に直接飛ぶなんていう暴挙に出ることもあるのだが、さすがに帰りはそうもいかない。

今回は荷物があるため、途中で消えるということもできない。

(さて、どうしたものだろうな)

 

「あの〜・・・」

「はい?何ですか森里センセ」

「いえ・・・もしよろしかったら、私の車でベルフィールド先生の家までお送りしましょうか?」

「車・・・あ、そうだその手があったか」

 

バルは古典的に手を叩くと、懐から携帯を取り出して廊下に出ていく。

そんでもって短縮ボタンをぽちっとな。

 

「あー、リツコか?

ああ・・・・・・・今終わったとこだ。

・・・・・・わかってるって・・・・ん、あれは近いうちにトウジにも話して実験するよ。

・・・うん・・・あ、そうそう、何で電話したかっていうとだな、車を一台回して欲しいんだ。

・・・・・・ああ、何でもいいって。

・・・あ?

マヤをよこす?

いや、車だけでいいんだよ。

・・・何?

もう近くを通っているからついでだ?って、おい!

待てよ!

リツコ、おい!」

 

ツーツーツー・・・

 

「ンナロォ・・・切りやがった・・・」

「あの・・・ベルフィールド先生?」

 

さっさと携帯をしまい込むと振り返る。

そこには怪訝そうな顔をしているセイカがいた。

 

「ああ、すみません。車を回してもらえるように頼みましたから。そんなに気を遣わないでいいですよ」

「そう・・・ですか・・・」

 

僅かに沈んだように見える顔。

 

「? どうかしましたか?」

「い、いえ!なんでもないんです!じゃあ荷物を運ぶぐらいはお手伝いしますよ」

「すみませんね」

「あ、あとこれ、頼まれていたものです」

 

そう言ってセイカが差し出したのは何故か徳利であった。

 

「あ、どうも。さすがに生徒に頼むわけにもいきませんし、助かりましたよ」

「そうですよね。子供が泡盛なんて・・・」

 

泡盛とは沖縄の地酒である。

熟成に熟成を重ねることで最高の味になるのだが、前世紀の第二次世界大戦とセカンドインパクトによって、100年以上などのものはほとんど失われてしまっている。

だから十数年ものでも結構なお値段がしたりする。

 

「ありゃ・・・しかもこれ前世紀ものじゃないですか。高かったでしょ?」

「い、いえ。先生が渡してくれたお金で十分足りましたから」

 

そう十分すぎる金を渡されていたのだ。

当然だろう。

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ピッ

 

「加持さんが来てくれるってさ」

 

やっぱり教室でも同じ様なことが為されていた。

シンジが連絡を取り、ちょうど暇をしていた(畑仕事に精を出していた)加持を捕まえることが出来たので、こちらに来てくれるというものだった。

 

「加持さんも暇ねぇ・・・」

「・・・いや、あの人は僕らの知らないところで働いているんだよ、きっと」

「そう信じたいものだわ」

 

実際仕事はしているんだろうが、加持の仕事は表に出ないことの方が遙かに多い。

さすがにそれは子供達に見せられる顔ではない。

 

しばらく時間を潰すと、シンジ達は両手に荷物を抱えて教室を出た。

その先、昇降口を出た辺りで同じように荷物を抱えるバルと鉢合わせとなる。

 

「・・・よぉ、そっちも大変そうだな」

「まぁ・・・そっち程じゃないわ」

「トウジはどうしたんだ?」

「ヒカリと一緒にどっか行っちゃったわよ」

「・・・こんど不純異性交遊でしょっ引いてやろうか?」

 

ぼやくバルはちょっぴりマジだった。

仲良きことは美しきかなとはいうものの、限度を超えると煩わしい以外の何者でもない。

二人でいるとすぐに別世界を創り出すあの二人は、放課後とかならいいのだが、授業中は勘弁して欲しかった。

そのために何本チョークを折ったことか・・・(実際にはほとんど黒板を使うことはないのだが)

 

「ところでどうしてアスカだけ手ぶらなんだ?」

 

ユイナやレイでさえも荷物を抱える中で、アスカだけが妙に身軽である。

 

「もしかして、クラスの連中に相手にされなかったのか?可哀相に・・・ほれ、少しだったら分けてやらんでもないぞ」

 

プルプルと体を小刻みに震わせ始めるアスカ。

顔は赤く染まるわ、髪は逆立つわ、さながら鬼のようである。

 

「バル、アスカはシンジに無理矢理持たせてるのよ」

「ほう。さすがお姫様だな」

「フンッ、無理矢理じゃないわよ。当然のことじゃない。シンジはあたしの下僕だもの」

 

見ればシンジの抱えている荷物は、レイやユイナに比べても倍近い。

もう足下が見えていないのではないだろうか?

 

「・・・可哀相にシンジ。で、おまえ達はその格好で帰るのか?」

「ううん。シンジが電話して、加持さんが荷物を運んでくれるって」

「リョウジか・・・今日は畑仕事をしているとか言ってたからな。そういや、そろそろスイカがいい具合だから、今度かっさらってくるか」

「バル、それは泥棒というものだわ」

 

ボソッと言ったのはレイ。

表情には表れていないが、レイにも少々きつそうである。

これならクラスメート達がいるうちにここまで運んできて貰えば良かったなぁ・・・と思う一行。

 

「わかってるよ。当然断りを入れておく。そうしたらクラスでスイカ割りでもしてみるのもいいだろ?」

「スイカ割り・・・?それは浜辺でやるあれ?」

「浜辺に限定する必要はないけどな」

 

子供とバルの会話が盛り上がる?なかで、少しおいて行かれているセイカはその屈託のないやり取りを羨望の眼差しで見ていた。

彼女もここに赴任して来たのは最近で、簡単に言えば生徒達になめられているようなタイプである。

悪い先生ではないのだが、引っ込み思案というか、生徒に対してあまり強く出られないのだった。

(どうやればあんなに親しくすることが出来るのかしら・・・?)

ここ最近の、最大の関心事だ。

赴任直後から生徒らと打ち解けて笑いあうことの出来る関係を築いているバルは、セイカにとってある一つの理想の形であると言えた。

 

 

「お・・・来たな」

「あれって・・・マヤ?あんたとマヤって仲が悪いんじゃなかったの?」

「ハハッ、そりゃどうだろうな」

 

ミサトに比べれば大人しすぎるくらい(誰でもそう見えるかもしれない)の運転でマヤは駐車場に乗り付けた。

開いた窓から覗いた顔は、かなり上機嫌であるように見える。

 

「よっ、わざわざ悪いな」

「別に構わないわ。少し外に出たついでだから。でも凄いわね・・・その荷物」

「ああ、誰もこんなに買って来いって言ってないって。限度ってもんを考えて欲しいよ」

「でも、あなたのことだから悪い気はしていないんでしょう?」

「そりゃあ・・・な」

 

いつもの笑みを浮かべた顔で言いながら、後部座席に荷物を置く。

それからセイカから残りの荷物を受け取り、それもまた置く。

 

「では、ありがとう御座いました。また明日、森里先生」

「は、はい。また明日」

「んじゃ、お前等も気を付けて帰れよな」

 

スチャッと手を挙げて子供らに別れの挨拶をすると、助手席に身を滑り込ませ、いちおうシートベルトをする。

ふと隣の女性がキッツイ目つきになっていることに気が付き、バルは窓側に身を寄せた。

 

「ど、どうしたんだよ」

「別に・・・」

「何か怖いぞ」

「・・・知らないわ」

 

キュラララララッ

 

タイヤが悲鳴を上げて急発進。

 

「どわぁっ!?おい、もうちょっと安全運転をだな・・・」

 

キキィーーーッ!

 

「んが・・・」

・・・・

・・・

・・

 

「あらら、マヤってば荒れてるわね」

「みたいね。あの二人、何時の間に仲良くなったんだか」

 

荷物を足下に降ろしたユイナと、初めっから身軽なアスカは奇怪な音を残して消えていく自動車のシルエットを見送りながら、しみじみと頷いていた。

 

「どこが仲が良いっていうの?」

「う〜ん、レイにはまだわからないかしら?」

「あの僕も・・・」

「バカシンジはそれだからダメなのよ。きっとあんたみたいなのを朴念仁って言うのね」

「?」

 

シンジとレイは顔を見合わせ、「?」を張り付かせた顔で首を傾げていた。

その様子を見て二人の少女は同じ様な笑い方をした。

 

そこへ加持の車が見えてくる。

 

「あ、加持さんが来たわよ」

「お〜い、こっちこっちっ!」

 

 


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後書きのようなもの。

 

どーも。

今回は嵐の前の・・・・・・・・・ということで、平和です。

ところでみなさんは泡盛って呑んだことあります?

シャンは一度だけ・・・あれはきついっス。

なんつーか喉が焼けます。

沖縄の方はあれを普通に呑めるんでしょうか?

だとしたら凄いです・・・

アルコール激弱人間のシャンにはとてもじゃないですが無理な話ですから。

 

新米教師・森里セイカですが実のところ、ここで出した意味はほとんどありません。

外伝を書く前に顔見せをしておこうかな、と。

バルが主人公の話となれば、同僚の先生が出てきた方がいいかなぁと思ったんで。

(でも外伝が何時になるのかわからない・・・その頃には話の内容が変わってセイカの出番はほとんど無くなっちゃったりするかもしれない危険性がアリ。それが一番怖い・・・)

 

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