ズドドドドド・・・

 

銃口から放たれる火線が次々と浮かび上がる標的を打ち倒していく。

インダクションモードという、銃操作を優先するモードの訓練をここ数日の間シンジは黙々とこなしていた。

その様子は人間というより作業をこなすロボットに近い。

 

「目標をセンターに入れてスイッチ・・・目標をセンターに入れて・・・・・」

 

 

 

 

 

WING OF FORTUNE

 第伍話 退けないワケ

 

 

 

 

 

いつもの喧騒が包む教室の中で一人の少年は、ぼんやりと主のいない席を眺めていた。

そこに人影があったのは一週間ほど前のたった一日だ。

今はぽっかりと大きな口を開けているばかり。

 

「あいつ・・・どないしとるんやろな・・・」

 

一人だけ服装が違い、目立ちに目立ちまくっている鈴原トウジは一週間前の出来事を何度も思い返していた。

ギュッと拳を握り込むとその時の感触が蘇ってきそうだった。

人を殴ることに馴れているといえば変な話だが、直情型であるため喧嘩の経験はそこそこあった。

そのかわり竹を割ったようなスッパリとした性格であるため、ネチネチとした恨み言をいうこともない。

だから喧嘩の後は勝ち負けに関係なく、大抵後腐れ無いようになってきた。

 

しかし・・・今回ばかりは後味が悪い。

拳に残った痛みがジワジワと心の方に染み込んできていている。

既に妹にしばかれた彼は、自分の行為がほとんど八つ当たりに近いものだったと自覚するに至っている。

それで不器用ながらも一言ぐらい謝ろうと思っていたのだが、その本人がどうしても現れないのである。

 

「わしのせいか・・・?」

 

彼の自問は続く。

 


 

「碇君・・・少しいい?」

 

シンジが声をかけられたのはエヴァの訓練の直後であった。

ちょうどレストルームでも行って一息つこうかと思っていたところだった。

 

二人は向かい合って席に座ると、まず紅茶を一口飲んだ。

しばらくは紅茶の香りと湯気の漂うゆったりとした空気があたりを包んだ。

カップの中が半分ほどになったところでレイが口火を切った。

 

「彼・・・ずっと悩んでいるわ」

 

レイの極力無駄を排除した言い方では、少々状況を伝えるのには言葉足らずであろう。

だが状況によって選択肢が限定されているため、容易に”彼”が指す対象を想像できる。

 

「ずっと碇君の席を眺めて溜息ばかりついている」

「・・・・・・・・」

「どうして学校に来ないの?」

「どうしてって・・・訓練が忙しいから・・・」

「嘘。あなたは自分から格闘訓練まで受けてる。わざと学校に来る時間を無くしているだけだわ」

 

シンジは気まずそうにレイから視線を逸らす。

どんなときも相手の目を見て話すレイの視線は、シンジにとって拷問に近い。

紅い瞳に見据えられるだけで、心の奥の方まで裸にされてしまいそうな気がしていた。

無論それはシンジの後ろめたさがそうさせるのであって、レイは特に意図した行動ではない。

 

「・・・どんな顔をして会えばいいのか・・わからないんだよ」

「どうして?あなたは被害者だわ」

「違うよ。そういうことじゃないんだ・・・そういうことじゃ・・」

 

シンジ自身、自分の表現のつたなさにイライラしていた。

せっかく意思の伝達手段として言葉があるのにそれを使い切れない苛立ち。

この一週間、彼を訓練に追い立てていたのはこの苛立ちでもあった。

 

体を動かしている間は余計なことを考えないですむ。

目の前の仮題に集中していさえすれば。

 

「ん〜・・・っとね、今のシンジの心を表すとすると」

「え、お、おい!ユイナ」

「なぁによ、せっかく代弁してあげようっていってるのに邪魔するわけ?」

「いいよそんなの!自分で・・・言う」

「よろしい。始めっからそうしてればいいのよ」

 

はめられた気がしないでもない。

けれどシンジは頬を膨らましながらも感謝もしていた。

こうでもしなければ自分の口で語ろうとしない性格の持ち主だからである。

そしてそれを把握しているユイナだからこそ、彼を貶める・・・もとい、促すことが出来たわけだ。

 

シンジは蒼いと赤の瞳が見守る中、四苦八苦しながら言葉を探した。

 

「その・・なんて言えばいいのか・・・怖いんだ」

「怖い?」

「うん・・・信じてもらえないかもしれないけど、僕は彼のことを知っているんだ。けれど、それは彼本人じゃない。・・・それが凄く不安なんだよ」

「・・・でも、歩み寄ろうとしなければ何も始まらないわ。間隔を埋めるにはそれしかないもの」

「歩み寄る・・・か」

「誰だって他人の存在を受け入れようとすれば不安が伴うものよ」

 

ぶつけられた言葉を、ゆっくりと反芻する。

レイがこんな事を言うなんて驚いたのは確かだったが、それ以上に納得させられてもいた。

 

だからシンジは頷いた。

決して軽い気持ちではなく、短い時間の中で必死に考えて。

 

「・・・・・・・・・ん、わかったよ。明日は学校に行く」

「そう、よかったわ」

 

二人は微笑み合う。

目と目を合わせて、視線を合わせて。

 

「・・・いやーんな感じ。じっと見つめ合っちゃったりしてさ。アタシのこと忘れてるでしょ?」

 

「な、なに言ってるんだよ」「・・・なに言うのよ」

「はいはい、仲がよろしいことで。ごちそうさま」

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

一度黙り込み、そして三人は顔を見合わせて三者三様に笑った。

控えめなほうからいくと、レイ・シンジ・ユイナの順である。

 

紅茶がすっかり冷めてしまった頃、彼等は席を立ち、別々の方向へ歩き出した。

レイは怪我の方の定期検査があり、シンジはこれから保安諜報部の指導の元、格闘訓練を受ける予定だった。

どちらもそれまでとは違った、雲の晴れたいい顔付きになりつつあった。

 


 

翌日、シンジとレイ(+ユイナ)は連れだって通学路を歩いていた。

やや緊張気味のシンジをユイナが茶化し、レイが静かな突っ込みを入れるという図式が徐々に出来つつある。

ただユイナが見えないため、一般人にはどうも理解不能な会話に聞こえなくもない。

 

さて、これはシンジにとって実に一週間ぶりの登校である。

噂の人物が久々に登校するとなると一悶着ありそうなものだが、隣にレイがいると不思議と騒ぎは起こらなかった。

同級生たちにとっても彼女には触れがたい何かがあるらしい。

 

遠巻きに二人の仲について揶揄する声もあったが、それは特に問題ではなかった。

シンジはそういった噂に触れる機会が少ないし、レイにいたっては論外。

外聞などを意に介するような育てられ方をしてきてはいないのだ。

そういう意味では究極のゴーイング・マイ・ウェイ娘であるかもしれない。

 

「じゃ、碇君先いくわ」

「う、うん」

 

下駄箱のところで別れると、シンジは一人で教室のドアをくぐった。

シンッと静まり返った空気に一瞬気圧されそうになっても気を引き締めて足を踏み出す。

 

「おはよう!」

 

既に登校していた面々はなんだか肩すかしを喰った気がした。

もう少し思い詰めた感じで来ると思っており、まさか爽やかに挨拶をしてみせるとは思わなかったのである。

中には含み笑いをするものもあったが、皆、笑顔で挨拶を返した。

 

「オッス、転校生」

「よぉ、元気そうだな。そんなに忙しいのかい?」

「次の日から出てこなくなるから、心配したわよ」

 

思った以上に好意的な反応を得て、シンジは照れながら席に着いた。

まだ少ししっくりこない感じはあるがそのうち馴れるだろう。

 

「おはよう、碇君。その・・・傷は大丈夫なの?」

「傷?ああ、全然。休んで他のは別の理由だし。それより洞木さん、鈴原君はまだかな?ちょっと話したいことが・・・」

「今日はまだ・・・・・・妹さんの病院に顔を出してから学校に来るって連絡もあったし・・・」

「そっか・・・じゃあ仕方ない」

 

残念が半分、安心が半分。

それがシンジの心境であった。

 

レイに促されて学校に赴いたものの、未だにどんな言葉をかければいいのか考えついていなかった。

人とのもめ事は出来るだけ避け、巻き込まれたときにはただひたすらに耐える。

そんな性質の持ち主であるが故、余計に苦悩するところだった。

 

「なに辛気くさい面してるんだよ」

 

不意に後頭部を軽く叩かれ振り返ると、カメラを構えた眼鏡少年がいた。

叩かれたシンジが振り返るところを連続で撮り、その後もポカンとした顔を数回にわたってシャッターを切る。

カメラの向こうから覗いた顔は嬉しそうというか楽しそうというか・・・

 

「よっ、碇。やっと出てきたな」

「相田・・・君」

「おいおい、そんな他人行儀な呼び方は止してくれよ。ケンスケでいいぜ」

 

こんな風に向こうでも知り合ったような気がしないでもないシンジ。

瞼の裏が熱くなるのをグッと堪えて微笑んだ。

 

「じゃあ、これからよろしくケンスケ」

「ああ。・・・あのさ、この前のことだけど・・・あいつ、ちょっと頭に血が登りやすくてさ。悪いヤツじゃないんだぜ?」

「うん、わかってるよ。僕の方も変なこと言っちゃったしね」

「そっか、そりゃよかった。それより、だ」

 

眼鏡が怪しく光る。

ケンスケの浮かべた怪しげな笑みに、シンジはいや〜な予感がして席から半身ずらして逃げの体勢をつくった。

この顔をしているときはろくな事で絡んでこない。

彼の経験がそんな答えを弾き出していた。

 

「綾波とはどういう関係なんだ?」

「は・・・?」

「だからさ、今日一緒に登校してきただろう?いやあ、なかなか良い画が撮れたよ。綾波があんな顔をするなんて思いもしなかったけどな」

 

常にカメラを構えている関係で、人の変化に人一倍鋭いのが彼の特長だった。

表情の乏しいレイでさえも、彼にしてみれば変わっているように見えるのである。

これはこれで大した才能だが、少々間違った方向に活用しているように思える。

まぁ、それがケンスケのケンスケたる所以であったりするわけで。

 

「なんていうかさ、楽しそう・・・いや違うな。嬉しそう・・・かな?あれで怪我が完治して、笑顔でも出てくれれば売り上げ倍増は固いんだけどなぁ」

「・・・こっちでもそんなことしてるんだ」

「ん?何か言ったか?」

「アハハハ、なんでもない」

「ふぅん。でもさ、あの包帯がイイッて言うヤツもいるんだからわかんないよな」

 

「包帯フェチ?・・・う〜〜〜〜んアタシにはわかんない」

「僕にもわかんないよ」

 

苦笑を張り付けた二人はいつも通り読書に耽るレイの方を見て、「やっぱりわからない」と肩を竦めた。

このあと、場所をわきまえず熱弁を振るったために、ヒカリに追い回され始めた愚かな少年を見守りながら、久しぶりに穏やかな時間を過ごしていた。

しかし、それはほんの僅かなものでしかなかった。

たった一つの無慈悲な電子音によってその時は終わりを告げた。

 

「碇君・・・非常召集」

 

レイが擦れ違いざまに囁いたのを聞いて、シンジは顔を強ばらせた。

そして小さく頷く。

 

駆け出した二人は廊下で一人の少年とすれ違った。

 

「必ず勝つよ」

 

消え入りそうなその声を少年はたしかに聞いた。

振り返ったその時には二人の背は角を曲がって見えなくなってしまっていた。

 

「転校生・・・」

 


 

新たな使徒は身も蓋もない言い方をすれば、空飛ぶイカだった。

赤紫色の体に巨大な目玉?とお約束のコア。

それが第三新東京市に向けて飛来していた。

 

「見ての通り、使徒は強羅絶対防衛戦を突破、真っ直ぐここに向かっているわ。戦自やUNが税金の無駄遣いをしているところだけど、そのうちお鉢が回ってくるでしょうよ」

 

単純且つ揶揄を込めた台詞である。

モニターに映ったミサトはちゃらんぽらんな普段の様子を全く感じさせない、軍人の顔をしていた。

言葉通り、税金の無駄と称されたこの攻撃は数分後に中止され、指揮権はネルフへ譲渡されることとなる。

 

「さて、いいシンジ君、相手の力は未だ未知数よ。射出後にパレットガンを受け取って牽制して相手の出方を見て」

「了解」

「訓練通りに落ち着いてやれば大丈夫よ」

 

(早速パレットガンを使っての戦闘か・・・)

銃を撃つといってもエヴァを介して行う行為のために、実感が湧かないというのが正直な彼の感想だった。

対象が人の形をしていないのも躊躇を生まない理由だろう。

人でなくとも、何か僕の知っている生き物の形をとっていたらトリガーを引くのを少し躊躇っているはずである。

 

異形の者。

使徒がそういう姿形をしていることは不幸中の幸いだった。

 

「負けられない。負けられないんだ」

「・・・あんまり気負うのはよくないわよ」

「わかってる。でも、ここで負けてしまったら、歩み寄ろうとすることだって出来ない。僕はまだ、何もしてない」

「はぁ・・・ホント気をつけなさいよ」

「ありがと、心配してくれて」

「ば〜か。それは勝ってから言いなさい」

 

射出された初号機は指示通りにパレットガンを受け取り、一旦ビルの影に身を潜めた。

使徒も射程距離外なのか、手を出してくる様子はない。

 

「やるか・・・?」

 

自問し、その感触を確かめるようにレバーを軽く握り込む。

そして使徒を中心に円を描くように、時折変則的な動きを混ぜながら移動を開始した。

 

ビルの合間から相手への視界が開ける度に、トリガーを引き絞って銃弾を叩き込んでいく。

移動しながらであるため、幾分照準がぶれてしまう感は否めなかったが、強引にそれを押さえ込んで走った。

一点にとどまったままだと標的になるのは目に見えている。

何より、真っ正面から向かうとATフィールドが邪魔なのだ。

 

そうこうしているうち、あっという間に弾着の煙が使徒を包み込んで全く見えなくしてしまう。

シンジは手を止めてビルの影で様子を窺った。

 

「どうだ?」

「ダメでしょ?」

「・・・変なところで突っ込まないでくれるかな。緊張が途切れるんだけど」

「張り詰め過ぎも問題有りよ」

 

発令所の人間は、まさかこんな緊張感の薄いやり取りがプラグの中で繰り広げられているなどとは夢にも思うまい。

煙が晴れるのを待っていたのは発令所も同じであったわけだが、それよりも先に動いたのが使徒だった。

空気が切り裂かれるような音を聞いたのが始まりだった。

次の瞬間には初号機と使徒の間にあったビルが音をたてて崩れ去る。

その見事な切れ味は思わず感嘆の息をもらしてしまうほどであった。

 

シンジが不味いと思ったときにはもう遅く、初号機は大きく宙を舞っていた。

 


 

シンジが戦い始めるしばらく前のこと。

廊下ですれ違った少年・鈴原トウジは訳の分からないままに駆け出していた。

既に警報が鳴り、避難を促す放送もかかっていた。

けれども彼の足は止まることはなく、気が付くと街を一望することが出来る丘の上の神社に辿り着いていた。

 

(なんのつもりや・・・)

自らの行動の理由はわかっていないわけではなかった。

見届ける義務がある。

この場に立ったときそのよう感じたのだ。

しかしそれが自己満足もしくは偽善に類する行為であることも同時に理解した。

 

(最低やな・・・ホンマに殴る権利なんぞあらへんやないか)

キュッと唇を噛むトウジの前で、シンジの戦い始まっていた。

機敏に動き回るエヴァの中にシンジがいると思うと、酷く心苦しいものがある。

 

彼に出来たことは勝利を願うこと。

そして再び顔を合わせ、言葉を交わす時間が出来ることを望んだ。

 

不意にその彼の頭上が影で覆われる。

顔を上げたときには、使徒に投げ飛ばされた巨人の姿が目前に迫っていた。

 


 

「うわあぁぁぁぁぁ!!」

 

勢いよく山肌に叩きつけられ、シンジはフィードバック+直接的なGのダブルショックを受けた。

背中からの衝撃のため、呼吸が止まる。

LCLがアブソーバーとしての能力を遺憾なく発揮してくれたおかげで怪我はない。

 

「ゲホッ・・・ゲホゲホ・・・ユ、ユイナ使徒は?」

「どうも休憩をくれそうにないわ」

「チッ!」

 

山肌に寄り掛かった体勢のまま、投げ飛ばされても決して手放さなかった銃を構える。

飛行形態で接近してくる使徒にマークが固定されるのを待って、トリガーをひく。

しかし、シンジはその直前で手を止めた。

 

「なんで・・・こんなところに」

「どうしたのよ使徒は目の前なのよ・・・・・って鈴原君!?」

 

エヴァの手元、パレットガンにほど近いところで呆然と立ち尽くす少年。

まるで自分の置かれている状況を理解していないのか、エヴァを見上げて身じろぎ一つしないでいた。

 

「これじゃ下手に動け無いじゃないか」

「・・・シンジ、アタシに任せてくれる?」

「え・・・でも、いいのかい?」

「目の前で死なれちゃ後味悪いじゃない。アタシもシンジを通して彼のことを知っているわけだしね」

「悪い。トウジのこと、頼むよ」

「任せといて。少しぐらいあなたから離れてもアタシの力には影響ないから」

 

瞬間的にユイナの姿がシンジの目の前から消えると、微妙にエヴァの感覚が重くなった。

横目でトウジの前に立ったことを確認すると使徒を睨む。

 

「やっぱりユイナのおかげでもあったわけだ・・・でも今は!!」

 

触手を振り上げて迫った来た使徒に残された弾丸を全て叩き込む。

フィールドを中和出来る距離であったため、銃弾は次々と使徒の肉を剔っていった。

ジリジリと後退し始める使徒を追うように初号機を立ち上がらせる。

 

カチンッ

 

この弾切れも予想済みだった。

躊躇することなくパレットガンを放棄し、装備をプログナイフへと切り替え突進した。

 


 

「なんやこの光は・・・」

「あなた、見えるの?」

 

ユイナは翼を広げてトウジと戦場の間に入っていた。

戦闘の余波程度の衝撃であれば、何の問題もなくシャットアウト出来ていた。

しかし、そこで思いがけない出来事があった。

 

「これは・・・羽根?」

 

どうやらはっきりと見えているわけではないらしかった。

眉間にしわを寄せて見つめている姿からでもそれは想像に難くない。

 

「おどろいた。この世界でアタシの姿を見ることが出来る人間がいるなんて」

「・・・どわぁ!お、おまえ、誰や?」

「意識を集中すれば見えるってわけね。なら話は早いわ」

「もしかしてわしは死んでもうたんか?せやからお迎えが・・・」

 

ズゲシッ

 

拳による、よーしゃの無い突っ込みが炸裂。

向こうのアスカがよくやることそのままである。

お得意の高圧ポーズをとって人差し指をトウジにつき付けるところも同じく。

 

「落ち着きなさいよ、みっともない」

「お、おう」

「とにかく。あなたはシンジが勝つまで大人しくしていなさい」

「そや、転校生は」

 

初号機は使徒のコアにナイフを突き立てていた。

使徒は触手で初号機の腹部を貫いていた。

 

動きは少ないが、火花の散る凄絶な光景だった。

 

「シンジ君、一旦退きなさい!」

「い・・やです」

 

苦痛に顔を歪めながらも、シンジはキッパリと言い放った。

 

「バカ言ってるンじゃないわよ!活動限界まであと三分なのよ!」

「いやです!僕は退くわけにはいかない。トウジが見ている前で退くわけにはいかないんだ!!」

 

ケーブルが切断されたのは投げ飛ばされたときのことだ。

そのためシンジがプログナイフを装備したときには既に撤退命令が出ていた。

彼はそれを無視し続けているのである。

 

「グッ・・このぉ!」

 

お返しと言わんばかりに更に力を込めてナイフを突き入れる。

発令所では残りいくらもない電源のカウントダウンが始まっていた。

それを耳にしながら、モニターを見つめるミサトの表情はかなり険しい。

 

スタッフ連中は息をのんだ。

これで最後かもしれない。

誰もがこれと同じ思いを心の片隅に抱いていた。

 

しかし彼等は目前の出来事への最大の努力を怠ることはなかった。

彼等はプロなのだ。

それも多少の個人差はあれ、世界を守るという使命感を持ったプロなのだ。

つまり、諦める前に足掻くことを忘れない人間の集まりだった。

 

膠着した事態の中で、使徒の触手が再び初号機の体にまとわりつき始めた。

先に音を上げたのは使徒で、もう一度投げ飛ばそうとしてきたのである。

フッと初号機の片足が浮き上がったそのとき、残り時間はあと十秒。

皆、最悪の事態を覚悟した。

 

しかしシンジは諦めていない。

咄嗟にナイフから両手を離し、使徒の触手を掴んだ

 

「悪あがきはするなぁ!!」

 

そしてその体勢からコアに突き立てたナイフに向かって強烈な横蹴りを見舞ったのである。

腕の数倍の力がある足で思い切り蹴り付けたのだ。

腕で押し込めるよりも遙かに強い力でねじ込まれたナイフは、見事にコアを砕いた。

同時に時間切れを迎えたエヴァは蹴りを放った体勢のまま、奇妙なオブジェとなってその場に立ち尽くした。

 

「すごい・・・」

 

トウジの一言はこの戦いの全てを形容するのに十分であった。

 


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後書きみたいなもの。

 

どうにか第伍話完成です。

ようやっとシャムシェルを撃退。

う〜〜でもまだ先は長い。(と言いながら、いったい何話で終わるのかも見当もついてないんです)

 

次はラミエル。

だんだんと体調も持ち直してきましたし、これからもガンガンいきまっせー(^o^)/

 

 

どうでもいいけど、このままいくとただでさえ出番のないケンスケが、更に出番を削られそうな予感・・・

まっいいか。

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